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北海道が好き。心からそう思える人に、このお店を知ってほしいです。
東京・学芸大学駅に店を構えるHIGUMA Doughnuts(ヒグマドーナツ)。1日300個を販売する人気ドーナツ店です。
北海道出身のオーナーが、北海道の良さを伝えたいとはじめたこのお店。
お店も大きくなり、今後は北海道をテーマにドーナツ以外の領域にも広がっていきそう。
今回はこちらで、一緒に北海道の魅力を伝える仲間を募集します。
道産子はもちろん、いつか北海道で活躍したい人ならば面白く働けると思います。
渋谷駅から電車で10分、学芸大学駅に到着した。
改札を抜けるとにぎやかな商店街が目に飛び込んでくる。
いろんなお店や人が混在して、あちこちで元気な声が響いているのが面白い。
ここから右に曲がって3分ほど歩いた先の住宅街に、お客さんでにぎわうお店を見つけた。
ここが、ヒグマドーナツだ。
店先に並ぶ何種類ものドーナツを見ていると「こんにちは!」と声をかけてくれたのが、オーナーの春日井さん。
タフで情に厚い体育会系の雰囲気をまとった、室蘭出身の道産子だ。
「まずはうちのドーナツを食べてください。すぐに食べるなら、一番人気のハニーマスカルポーネがおすすめかな」
さっそく一ついただいてかぶりつくと、脂っこくなくしっとりと柔らかい。きつね色のドーナツは甘さ控えめで、クリームにもよく合う。
一言で表すと、すごくおいしい。
「うれしいなあ。僕もこれはうまいって自信を持って出してるんですよ」
落ち着いたところで、カウンター席に座って話を聞くことに。
「大学進学を機に東京に出て。そのときはじめて、北海道ってすごくいいところだったんだなって痛感したんです」
お金や車がなくても身近だったアウトドア。食べものも、いつも新鮮なものが手に入った。
「でも同時に、東京には北海道にない面白いものがたくさんあって。北海道は好きだけど、戻りたいとまでは思わなかった」
大学卒業後、カナダで2年半過ごしたのち友人とデザイン会社を設立。
経営者として忙しく日々を過ごすなか、ふと故郷で毎日のように流れるネガティブなニュースが気になりはじめる。
「景気は悪いし高齢化も進んでいる。社会全体に閉塞感があるなって。でも北海道は、食や魅力度ランキングではいつもトップで高い人気を誇っている」
「そのギャップがすごくもどかしくて。ほんの少しでもいいから、自分の仕事と北海道をつなげて何かを生み出せたらって思いはじめた」
そこで浮かんだのが、食を切り口に北海道の魅力を伝えるということだった。
「切り口はなんでもよかったんです。だから自分が好きな食にしようって」
「とりあえずここに北海道のことを考えているやつがいるって分かるように、ひとつの旗を立てようと。1品だけ北海道の素材を使った超おいしいものをつくろうって、ドーナツに決めたんです」
意外にも、特別スイーツが好きなわけでも、つくったことがあるわけでもなかったそう。
どうしてドーナツを選んだのだろう。
「以前カナダにいたころ、ドーナツ屋には近所の人や仕事終わりの人が集まって、コミュニケーションが生まれていたんですよね。そんな風景がいいなって」
「それにドーナツは北海道にある素材でつくれる。おじいちゃんおばあちゃんから子どもまで、広く愛されるだろうなと思ったんです」
さっそく道具と材料を買い揃え、料理サイトを見ながらドーナツづくりを開始。
ところが、出来上がったのはお世辞にもドーナツとは言えないものだった。
「ドーナツって、材料が1グラムでも違うと全く違うものになっちゃうんですよ。何度も失敗して、パン屋さんにつくりかたを教わって、再度トライして。その繰り返しでしたね」
1年ほど経ったある日、心からおいしいと思えるドーナツが出来上がった。それが、今のヒグマドーナツだ。
もちろん小麦粉、バター、牛乳に砂糖と材料はほぼすべて道産。
このドーナツを携え、フェスやマーケットなど、イベントに出店しはじめることに。
「そのとき、北海道を一言で表せる名前ってなんだろうと考えて。ああ、ヒグマがいいなって」
「食物連鎖のトップのヒグマが生活できる自然環境があれば、僕らも自然の恩恵を受けられる。そんな思いもあってヒグマドーナツとしました」
月に一度のペースで出店を重ねるうちに評判は大きくなる。「おいしい」という声も増えはじめた。
「一方で、これで満足していたらだめだよなって思いもあって。北海道の食で何かしたいと思ってはじめたんだから、もう腰を据えてやらなきゃいけないよなと」
そうしてイベントに出店しはじめて約2年、会社の事業としてお店を構えることに決める。
店内はたった5坪。本当においしいと思える品だけを置いた。
何もかも未知数だったものの、蓋を開けてみると初日から大行列。オープンから数週間は、徹夜して仕込んでも数時間で完売してしまう日が続いた。1日800個ほど売れる日もあったそう。
「すごい大変だったけどすごい楽しくて。今はだいぶ落ち着いてきたけど、ありがたいことに1日300個は売れますね」
6月中旬には、商店街の一角に移転することが決まっている。
イートインやベーカリー機能も兼ね備え、サンドイッチやハンバーガーなど、メニューの幅も広げるそう。
「ほかにも北海道の産直野菜も売りたい。北海道のシェフや生産者を招いたワークショップ、イベントもしたいなって思っています」
でも、と春日井さん。
「お店はもっと大きくしていきたいんだけど、ドーナツ屋だけでいいとは思っていなくて」
どういうことでしょう。
「僕は、北海道の良さや面白いものを伝えたくてこのお店をはじめたから。これからは、たとえば違う種類の食に広げたり、北海道の現地ガイドと組んだツーリズム、北海道の技術を使った商品づくりもしてみたいんですよね」
そのため今回の募集では、北海道在住の道産子を歓迎したい。
というのも、その人の経験や人脈をヒグマドーナツに掛け合わせれば、新たなメニューやツアーなどもできるかもしれないから。
「たとえば北海道にいる農家の親戚を紹介してもらったり、ガイドブックには載っていない場所やお店も巡るツアーを企画したり。もちろん道外在住の道産子でも、道外出身者でも思いがあれば大歓迎」
「新しく入る人も、将来はドーナツ屋ではなく北海道を駆け回っているかもしれない。だからドーナツ屋になるというよりは、北海道の魅力を伝えようと思って来てほしいんですよね」
ドーナツを起点に、いろんな可能性が芽吹く気がする。
とはいえ、最初はドーナツ屋で働く日々。いきなり華やかな展開が待っているわけではない。
「そう、基本は飲食店の仕事です。朝、店に来て、職人が仕込んだドーナツを揚げて、ホットドッグ用の肉を仕込んで、販売と掃除。これが8時間」
「でも、それだけでいいかと言われると全然そうじゃなくて。お客さんに『今日ここに寄ってよかった』って思えるように働くことが大事なんですよね」
というと?
「僕らは、この街にこの店があってよかったって思ってもらえる存在になりたくて。そんな店になれるかどうかは、僕らのコミュニケーション次第なんです」
そういえば取材の合間も、春日井さんはお店の前を通りかかる人たちに「こんにちは!」と挨拶を続けていたし、お客さんにも「ありがとうございます」と目を見て伝えていた。
「もちろん返してくれる人も、無視する人もいる。でも仕事だからやるっていうんじゃなくて、Do good、いいことしようって気持ちで働きたいんだよね」
そんな雰囲気なので、自然と話しかけてくれる人や、「北海道に関係してるの?」と尋ねる人も多いのだそう。
「ドーナツ一個気持ちよく食べさせられない人が、北海道の素晴らしさを伝えるなんて絶対にできないよね」
「そうして経験を積んだあと、一緒に北海道にお店を出したいんです。もちろん、君が店長候補だよって。だからまずは店の顔を目指してほしいな」
まさにそんな働き方をしているのが、もう一人の社員の増田さん。あだ名はDK。
アメリカに住んでいたからか「日本語が苦手」と笑いながら、たどたどしくも、言葉を選んで答えてくれた。
「もともとコピー機の営業をしていて。相手にされない仕事がいやでサボっていました。でも20代って大切な時期なのに、このままだと俺は置いてけぼりだとも思っていて」
そんなとき、ヒグマドーナツのお店ができることを知る。
「以前から春日井さんを知っていたので、働かせてくださいと直接連絡しました。夢があるドーナツ屋でこれからが楽しみだったし、自分次第で可能性が無限大にもなるなって」
一度は断られてしまったものの、運よく入社が決まったそう。
「ドーナツづくりで覚えることがあったのは大変でした。でも、それ以上にドーナツがこんなに売れることに驚いたかな」
日々の仕事は、ドーナツの揚げに接客、掃除。社員の春日井さんと増田さん、それにアルバイトの人たちでシフトを組んでいる。
増田さんは、仕事で気をつけていることはありますか。
「お客さんには、ここがどんなお店かわからない人も多い。こういうお店で、こんな種類があると教えてあげて、どんな種類が食べたいかを導いてあげます」
導く。
「そう。相手がどんな人かを確認しながら。この人は陽気なことを言っても面白いと思ってくれそうだな、と思ったときはそんな雰囲気を出したり。その繰り返しですね」
この日も、「その頭、いいですね」というお客さんに「そうでしょう。似合っていますか?」と笑いながらドーナツを渡していた増田さんの姿が印象的だった。
「いちばんは、お客さんが来てくれるから僕らは食べていけるという気持ちを忘れないこと。また来たいって思ってもらえる会話や雰囲気をつくろうって」
「最近では、僕と子どもだけが知っている内緒の合図でバイバイしたり、商店街の帰り道に『あっちあっち!』ってママを連れて来てくれるようになったり。うれしいですね」
お店が、街のハブになっているんだな。
裏を返すと、ただお金をもらってドーナツを手渡すだけでは務まらない仕事。
ときにはクレームなどの小さなハプニングもあるし、最低限の距離感も守らないといけない。
増田さんも慣れるまではフランクに接しすぎてしまい、春日井さんから叱られることもあったそう。
「でも僕も生半可な気持ちで入ったんじゃないから頑張ろうって。今は、仕事をやらされている感覚がないのがうれしいです」
「まずは自分たちが楽しく働かないとね。こいつといると楽しいなって思える人と働きたいです」
それを受けて、春日井さん。
「最初は不安だろうから、家も探すし、バックアップもする。こっちの美味しいところ、面白いところにも連れて行って、世界を広げる手伝いもしたい」
「何より俺たち道産子は、開拓の民の子孫なんだから。縮こまってないで外に出て、面白いこと一緒にしようぜって伝えたいです」
(2018/04/13 取材 遠藤真利奈)