コラム

しごとバーってなんですか?

素材
「しごとバー」をご存知ですか?

「職人」「NPO」「デザイン」など、さまざまな分野で働いたり活動したりしている方をバーテンダーとしてお招きして、お酒を飲みながらお話できるイベントです。虎ノ門・リトルトーキョー内のBAR「ジャノメ」で開催されています。

しごとバーはどんな方にもご参加いただけますが、「参加方法がわからない」「ひとりではちょっと入りづらい」という声を聞きます。

そんな人に向けて、しごとバーの様子をお伝えする「しごとバーってどんなとこ?」を日本仕事百貨のインターン生で企画しました。

全4回でお届けします。

*虎ノ門のリトルトーキョーは9月末クローズしましたが、移転先の清澄白河でも同じような場をつくり、しごとバーも続けていきます。今後も、ぜひご参加ください。

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第4夜

今夜のしごとバーは「ゴムふうせんナイト」

「ゴムふうせん」というフレーズから、にぎやかな空間が広がっているのかと思い中に入ると、予想とは裏腹にみなさんゴムふうせんについて真剣に語り合っていました。

ゲストはマルサ斉藤ゴムの三代目社長、斉藤靖之さんです。

マルサ斉藤ゴムは、日本で唯一てづくりゴムふうせんをつくっている会社です。以前、日本仕事百貨ではゴムふうせん職人の求人をお手伝いしました。

はじまってまもなく、斉藤さんの声掛けで自己紹介がはじまりました。

この日集まったお客さんは、5センチくらいの小さなふうせんをつくりたいという方やバルーンアートをやっている方など。ふうせんといえば、子どものころによく遊んだ記憶が残っているけど、大人になった今でも、ふうせんに関心がある方々が集まっていました。

自己紹介のあとは斉藤さんも交えてカウンターに座り、みんなで「どうやってつくっているのか」とか「どんなふうせんをつくっているのか」といった、ゴムふうせんに関する疑問を投げかけます。

一つひとつの質問に答えながら、ちょっと変わった形のふうせんを手にする斉藤さん。

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空気いっぱいではなく、少しだけ膨らませるとブタの形になるふうせん。

このふうせんをつくった経緯をこう話していました。

「てづくりなので、どうしてもコスト競争で戦えない。でも、てづくりのふうせん工場をこれからも続けていきたいんです。じゃあ、どうするかって考えたときに、普通のふうせんではなく、てづくりでしかできないふうせんをつくろうと思ったんです」

ブタの形をしたふうせん以外にも、おもしろい形をしたふうせんや膨らませると色が変わるふうせん、指人形として使えるふうせんなど。てづくりだからこそゴムの厚さや色の微妙な調整ができて、ほかにはない商品がつくれるそうです。

カウンターに並べられたふうせんをキラキラした眼差しで眺める参加者の方々。

「実は大人やお年寄りでも、ふうせんに触れてもらうと笑顔になったり、暖かい気持ちになる。大人の方でも欲しいって思ってもらえるような商品をつくって、子供だけでなく大人の方にも楽しんでもらいたいんです」

特別感のあるマルサ斉藤ゴムのふうせんは、もちろん子どもも楽しめるし、大人の遊び心も引き出してしまう。わたしもひさしぶりに触れて、はじめてみる斉藤さんのふうせんにワクワクしました。

 

この日、日本仕事百貨を通じてマルサ斉藤ゴムに転職した伊藤さんも来られていました。

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伊藤さんは今年、働いていた会社を辞め、千葉県の銚子にあるふうせん工場のほうで働くことになっています。

どうして前職を辞めて、ふうせんづくりをしようと思ったのでしょう。

「自分のできることって、普通の会社にいて事務仕事しているだけじゃないなって思っていて。いまの仕事をずっと続けようという考えもなくって、チャンスがあったら違う仕事に移ろうと思っていたんです」

そんなタイミングでマルサ斉藤ゴムの求人を見つけて応募したそう。

でも、仕事をがらりと変えることに不安はなかったのでしょうか。

「ありますよ。正直なところ今でも不安はあります。今までやってきたことをポイって投げ捨てて大丈夫かなって。ただ、全部捨てるんじゃなくて、今までやってきたことをふうせんづくりにも使えることがあると思うので」

伊藤さんはマルサ斉藤ゴムでやりたいことを話してくれました。

「大量生産じゃない手づくりのふうせん工場を海外の途上国に増やしていきたい。現地の人を安い人件費で雇うというような形ではなくて、本当にパートナーのような関係性を築いていきたいです」

フィリピンで青年海外協力隊の経験があるという伊藤さん。そのときの経験が役立つ日も近いかもしれません。

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伊藤さんの話を聞いて、斉藤さんは海外でも工場をやってもらおうということになったそうです。

「大人でも楽しめるふうせんをつくっているけど、やっぱり一番の需要は子供。ただ日本は子供が減っているから、東南アジアとかの子供が増えている市場に注目しています」

「それは東南アジアに限らず、世界中でうちのふうせんを使って楽しんでくれる人たちが増えてくれることが、これ以上ない幸せだよね。」

そう話しながら、斉藤さんの表情がいきいきとしていたのが印象的でした。

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また、日本にあるてづくりのふうせん工場は、マルサ斉藤ゴムの工場ただひとつ。斉藤さんは、てづくりふうせんを残された日本のものづくりとしても捉えているそうです。

日本のものづくりの現状は、需要の減少や後継者不足などの厳しい問題がありますが、斉藤さんは楽しみながらものづくりに向き合っているように感じました。

今夜のしごとバーはその名の通り働き方・仕事だけでなく、日本のものづくりや海外の雇用問題についても考えさせられる回でした。

虎の門のリトルトーキョーは9月でクローズしましたが、移転先の清澄白河でも同じような場を開き、しごとバーを続けていきます。

働き方に悩んでいる方や、そうでない方も、ぜひ清澄白河のしごとバーに足を運んでみてください。

(2015/11/5 廣川穂奈美)