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日々、のれんを守る

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

*この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

仕事百貨では過去に幾度かスタッフの募集をしている、中目黒の青家(あおや)。今回の求人は、ホールスタッフに加え、キッチンメインスタッフの「店長候補」もあるので、我こそは!という方に絶好の機会ですよ。

目黒区青葉台にある家、だから「青家」。木造の古民家を改修した野菜料理の人気店だ。落ち着いた雰囲気の空間で楽しめるのは、京都の「おばんざい」料理。現地から直送されるこだわりの京野菜を使っている。

例えば、僕が取材で訪れた日のランチメニュー「薬膳京おばんざいセット」はこんな感じだ。

冬瓜とエビのあんかけ、お豆のたいたん、京きゅうりの酢のもの、人参のナムル、京のだし巻卵、京のお刺身湯葉、厚揚げ網焼き、ポテトサラダなど。これにスープが付く。ご飯は玄米か五穀米から選べて、平日ならお代わりも自由だ。

「おばんざい」は関東の言葉で言うと、普段の食卓に並ぶ「お惣菜」になるかな。全然気取りがなく、毎日でも食べたい安心できる食事。青家では、おばんざい料理を中心としながら、韓国料理のエッセンスが入っているのもユニークだ。

食に対する探求心は、季節に合わせて厳選した素材と、洗練された調理法から見てとれる。毎日仕込む1品1品のおばんざいに理由や必然性がある。それを知ると、料理や食材についてさらに知りたくなる。

「冬瓜は、この季節に食べると身体の毒出しにいいんですよ」とサーブするスタッフが教えてくれた。

彼は、安齋敦郎(あんさい・あつろう)さん。29歳。前回の仕事百貨を見てスタッフに採用された。働き始めて4カ月、日々のお仕事は?

「シフトは週に5、6回。僕はホールとキッチンの両方を担当させてもらっています。実は青家に来るまでホールの仕事をしており、キッチンの仕事は未経験でした。自分から“やらせてください!”とお願いして、今は仕込みの調整や基本的なところを先輩の皆さんに教えていただいています。毎日が勉強です。」

1日の仕事はどんな感じでしょう?

「朝10時に始業です。僕は15分前には店へ入ります。社員たちは、開店の2時間前くらいから仕込みの準備を始めていますね。11時すぎに朝礼、11時半にオープンして、いよいよランチ営業です。」

オフィス街と違い、自由業の人が多い中目黒という土地柄、昼の営業時間は11時半から17時までと長い。ランチをとるお客、ティータイムを楽しむお客、入れ替わり立ち代わり訪れる。

ちなみに青家ではホール担当のスタッフもデザートの盛り付けを行う。誰もが食を生み出していく作業に携わるようになっているのだ。

「昼と夜の両方にシフトが入った場合は、休憩は1時間半を2回に分けて取ります。僕はすぐお腹が空くので、2回ともしっかり、まかない料理をいただきますよ(笑)。18時半からはすぐにディナータイムの営業。テーブルセッティングも変えますし、営業形態もがらりと変わりますね。」

ディナーの特徴は、会員制で営業していることだ。一人一人のお客様にゆったりとした気分で料理と飲み物を楽しんでいただくため、開業当初から守られてきたおもてなしのスタイルだ。当然、スタッフにも相応の技量が求められる。

ラストオーダーは23時(日曜のみ22時)。24時の終業後、満員電車に揺られて帰るスタッフたちは、体力に自信があっても大変だと思う。家が職場に近い方が仕事に打ち込めるだろう。人気店の青家は、週末になると遠方から多勢のお客さんが押し寄せる。

「平日はお客様もご近所の方が中心ですので比較的ゆったりしていますが、土日は本当に忙しいです! これを嫌がってシフトを避けるようでは、根本的にメンバーには向かないでしょう。長時間キッチンのような狭い場所で一緒にいるんですから、コミュニケーションがうまく取れる人でないと。」

4カ月の僕では説得力はないですが……という前置きを入れつつも「ネガティブな状況を楽しんでやれるたくましさがないと、とてもじゃないけど続かない職業」と言う安齋さん。実は、彼は飲食業からは1度、離れている。

お酒とスイーツを深夜に楽しめる恵比寿の「Bon Sweets & Smile」で、かつて2年間働いていた。その後いったんは仕事を辞めていた彼が、再び飲食業への復帰を考えるきっかけとなったのは、震災だった。
「僕は仙台出身で、実家は半壊。親戚や知人の多くも被災しました。震災直後は、ガタガタの高速道路を走る臨時バスに揺られて、仲間と東京からガスボンベを運んだり。そのときにあの混乱した被災地で、食や農という仕事に携わる人たちが活躍するのを目の当たりにしたんです。いざというとき、誰かに食べ物を供することができるのはすごいと改めて気づきました。」

その後の1年間、野菜の配達業をしながら将来の理想像が固まりつつあった頃、仕事百貨での求人に出会った。前の店での仕事も決してやり甲斐を感じていないわけではなかった。

「お客さんとも触れ合えて楽しい職場でした。ただ、ひたすら懸命な最初のうちはいいんだけど、掃除や皿洗いなどのルーチンワークが続いてそこに慣れてしまったとき、学ぶ意識というか、働く目的意識が明確でないとモチベーションが保てないと思うんですよね。ふと、自分のイメージに合う職場が他にあるんじゃないかって、思いたくなる瞬間が来ちゃう。」

飲食業はお客の側で接する華やかなイメージとは裏腹に、身体的にも精神的にもキツい職種であることは確かだ。しかし「厳しいことも言われますけど、それが当たり前なんですよ」と安齋さんはへこたれる様子はない。

休憩時間もお気に入りのテラスで料理書を眺めるなど、青家での彼は、張り切っているように見えた。将来の夢、見つかったんだろうか?

「東京ではない場所にゲストハウスをつくりたいんです。美味しい食事ができて、宿泊もできて、ライブもできて、多目的に使えるような。そのためにもまずは、おもてなしの基本になる“食”を追求したいです。僕にとって、青家はそれを学べる場所。」

自分のいる「場」として、職場をとらえられるスタッフに育ちつつある。

もう一人、仕事百貨を見て昨秋に採用された、山内朋実(ともみ)さんにも話を伺った。日報とシフト表を書き入れる忙しい時間の合間に対応いただく。そもそも応募のきっかけは?

「前に見かけた青家の看板と佇まいが、穏やかだけど、落ち着いた確信さを感じて印象に残っていました。私はここ数年、東京から名古屋に住まいを移していたのですが、東京へ戻るタイミングで仕事を探していたときに仕事百貨を見て、写真ですぐ『あの店だ』とわかりました。記事から伝わってくる感じも、お店の佇まいに通じるものがあって、この職場は自分に合いそうだと共感できたんです。」

飲食店での勤務は初めてという山内さん。食べ物を扱う仕事に就いて慎重になりすぎたせいか、始めは戸惑いも多かったという。その彼女を支えたのはスタッフ全員のチームワーク、それと自らの具体的な夢だ。

「将来は雑貨屋を開きたいです。前の職場でも調理道具を扱っていたんですが、今度は道具を使い込んで特性を十分に知ってから、お客さんに売れるようになりたい。そのためにも、青家でもっと食や道具への感覚を磨きたいですね。」

最後にオーナーである青山有紀(ゆき)さんの声もお伝えしたい。求人の背景はなんでしょう。

「青家という会社はさまざまに事業を展開しているのですが、今回募集するのは、おばんざいを出す『青家』店長候補のスタッフです。青家は新しく入った人たちの特性でどんどん変化して、成長していきたいと思っていますから。」

青家の目と鼻の先にある「青家のとなり」はその一例。クッキーやマフィンなどの「粉もの」をつくるのが好きなスタッフがいたこと、青山さんがレシピを溜めていたことが重なり、この菓子店が生まれた。

女性が子ども連れで気軽に寛げるような座敷もある。「下町の団子屋さんのような、ゆるい雰囲気をつくりたかったんです」と青山さんは言う。

古いマンションの一室を借りて、アトリエをつくる計画も進んでいる。

「女の子は結婚もするし、子どもも産むでしょう。そのことで、それまでのキャリアが振り出しに戻るような職場は嫌なんですよ。私自身もそうしようと思いますが、アトリエで子育てしながら働けるといいな、と考えました。」

雑貨や食器の撮影用レンタルも始める予定だ。そのほか、撮影スタジオや料理教室などの計画も現在のスタッフの能力を使って考えられている。

このように事業が広がる中、今回の募集は「青家の店長候補」という真の屋台骨。同時募集のホールスタッフも同様に、最低でも2年は飲食店での経験を持ちつつ、一緒に長く歩める堅実で若い感覚を持つ人を求めている。

スタッフのことを「家族のように感じる」と語る青山さんは、一人一人の特徴と長所をよく把握している。「みんな可愛いし、みんな大事。彼らがいてくれるから自分の発想ができるし、次の行動につながる」と嬉しそうに語る。

彼らの持ち味を引き出しながら、青家は着実に歩んできた。

だが、自らの店という「のれん」を創ったプレッシャーは相当なものだったろう。笑顔で店に立っても、心ばかり焦って空回りする日々も味わった。

彼女や青家が数々のメディアに登場するようになった今も、7年前に店をオープンした当初と店のスタイルや自分の考えは、全く変わらないと言う。

「京都出身の私は、たまたま京都の野菜を使っていますが、ちゃんとした食材で手づくりすることが大切。本当に当たり前のことですが、家族、大事な友達やその子供たちに安心して薦められる料理でないとつくりたくないですよね。」

オーナーである自分の世界だけで青家をつくりたくない、と青山さんは語る。今は言うなれば、青家というチームが大きく羽ばたこうとしている新しいステージ。「本当に当たり前のこと」を日々実践し続ける人が、次の青家という店をリードするのだろう。

今回の「キッチンを任されながら、店の仕切りができる店長候補」という求人は、そこまでの力が問われると思う。単に「オーナーのファンだから近くで働きたい」という人や、目的もなく「この店で自分を変えられる」といった人は求められていない。

「毎日、自分の中を見つめながら、料理を通じてちょっとずつ人様に見せていく。それが飲食店での働き方ではないでしょうか。物質としての食べ物を身体に入れるだけじゃなくて、つくった人のエネルギーや思いを身体に入れると消えません。私たちの人生は、この積み重ねでつくられていると思うんです。」(2012/7/11 up カンキ)