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植物みたいな仕事

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代謝しながら強い芯をつくり、繋がりながら循環している。

5×緑(ゴバイミドリ)は植物のように仕事をしているから、無理がないのだと思う。

今回の募集は、都市に緑を増やす環境デザインを手がける5×緑で、見積もりを担当できる人の募集です。

話を聞くため、恵比寿ガーデンプレイスにほど近い、一軒家のようなオフィスへと向かった。

二階の入口に続く階段には、5×緑という名前の由来になった〈緑のキューブ〉が置かれていた。

〈緑のキューブ〉は、金網のカゴの上面と側面にぐるりと緑を植えた植生基盤システム。同じ面積でも緑の面積は5倍になる。だから5×緑。

このシステムは、コンクリートやアスファルトの上でも植物を育てることができるように、開発を重ねたもの。5×緑はこのシステムを使って、都会に緑を増やす施工をいくつも手がけている。

緑を「増やす」だけではなく、「守る」というミッションもある。

実は、5×緑で扱う植物は、里山にある植物を使った在来種が中心。里山は、人の住む「里」と、大自然の「山」の中間にあり、人が手入れをしてきた森林のことです。

今、その里山が荒れ、野の花が次々と姿を消し、絶滅危惧種になっている。

「里山の緑を守るためには、管理してくれる人の生活を成り立たせなければいけません。そのために都市文化と連携させて、里山の緑を都市に根付かせる活動をしています。」

と、代表の宮田さん。

「先日、わたしたちが提携を結んでいる栃木の『馬頭の森』という里山に、1泊2日で行ったんです。里山のご縁で仲良くなったオオタカ保護基金というNPOが自然観察会をやるというので、参加させてもらいました。鷹は生態系の頂点だから、鷹を守ることがその他の生物や植物を守ることに繋がるんですよ。」

宮田さんは、年に1度は里山に行って、管理してくれている方やその周辺地域の方と話をするそうだ。

「彼らの山は、草刈りなどをしてもその費用が出ないんですよ。林業は経済的には厳しい状況にあります。でも、放っておくと根笹が蔓延して色々な里山の植物がいなくなってしまう。やがて草一本生えない真っ暗な森になってしまうんです。それを防ぐには、やっぱり人が手入れしてあげないと。だから、わたしたちが里山に対して一定の管理費を出しているんです。」

里山で植物が蘇れば、都市緑化のために提供してもらえる。すると、里山にお金が入り、彼らが管理できる場所を増やせる。街にも緑が増える。その循環をつくるのが、5×緑の役割だ。

循環がプラスにプラスに働いていけば、増やせる緑は5倍どころではない。沢山の緑が、都市にも里山にも蘇る。

ただ、それを実現することは生半可なことではない。いかに早く、いかに安く、が重視される建設の世界においては、理解されないことも多いそうです。

「わたしたちがやっていることを現場で理解してもらうのはとても難しいです。安いなら九州からでも持ってこい!というのが建設の現場なので。それに抵抗して、あるいは黙って、自主的に苦労しているに過ぎないんですね。」

「でも、5×緑に限らず、今はどの現場も大変そうです。ゼネコン下の建設現場はお金も時間も厳しくて、すごく乱暴な見積もりの頼まれ方をすることも多いんですよね。」

5×緑の場合、見積もりを出すだけではなく、金網メーカーや造園会社にも見積もりをとらなくてはいけない。だから、ときにはゼネコンとメーカーの板挟みにあうことも。それでも、両方の事情を聞いて折衷案を出しながら、プロジェクトを円滑に進めていかなくてはならない。

コミュニケーション能力が必要だし、設計であれ、施工であれ、現場を経験していることはこの仕事をする上で強みになると思う。

どんな人がこの仕事に向いているのか、宮田さんに聞いてみた。

「自分の役割を『自分のこと』として覚悟をもって仕事に臨める人。自分の仕事を自分で作れる人。素養としては、大学時代に造園、林学、土木建築を勉強してきた方。あと、環境学や、山の植物に強い農学部などで学んだ人。大学を卒業後に、設計業務、造園施工、積算などの経験をしてきた人が希望です。」

「あと、もっと植物に触れたいという想いのある、植物が好きな人。生物多様性というとちょっと言葉が固いけど、環境問題に意識のある人。いくら技術があっても、そこに興味がないと難しいです。理想のためにできる努力をしたい、という根っこがあると、見積の仕事にも別の意識を見出せると思うんです。」

緑や環境問題に対して意識がある人ほど、『わたしたちの会社に来た方がいいかも!』と宮田さんは笑う。

そこに、この会社でしか実現できないことが詰まっている気がする。もっと詳しく聞かせてください!

「いかに効率よく人と材料を調達するか、という考え方の会社に入ると、生きた植物がただの建築材料になってしまうんですよ。だから、緑に対して理想を持って造園会社に入ったとしても、植物に一切触れずに、ただ見積もりの書類作成に追われることになるかもしれない。植物も、良い悪いではなく、どこが安いかで選ぶようになってしまう。」

5×緑では、見積もり担当でも緑に触れることができる。見積もりといえば部屋の中で書類に向き合うイメージだったから、意外だった。

「見積もり担当でも、施工現場も見に行くし、里山にも行くんですよ。リアルにこういうものができていくってイメージできないと、見積もりなんてできないですから。」

この人がつくったこの植物を扱う、となれば、値段の意味も分かる。カタログで1番安いものを買うのとは全然違う。

「たとえば、どんどん価格競争が進めば、まず植木の生産者から傷んでいく。目先の利益だけ追っていては将来的には『造園』という業の足腰を弱くしてしまうことになります。もちろんコストの努力も必要です。広い視野と現実とを見極めながら適正な価格を出していくことが今、求められているんです。」

すべての値段に理由があるから、書類のひとつひとつの数字にも納得できる。

次に、宮田さんはある写真を見せてくれた。

「これは調布市にある武蔵野の森総合スポーツ施設を手がけたときのものです。陸上競技場のトラックの周りを緑で囲みました。このような緩やかな円をつくるためには、金網だけで考えてもダメなんです。ここにこうやって植物が植わる、こうやって土が入る、という全体像を分かっていないと設計できないんですよ。」

「だから、金網、土、植物、それぞれ過去に一緒に仕事をしてきた顔なじみの人たちと『チーム5×緑』を組んでいます。話し合いながら、施工からメンテナンスまで全部リアルにイメージできるように。みんなで雑草をとることだってありますよ。」

雑草まで!

「だって、繋がらないとつまらないじゃないですか。」と宮田さん。チームだから顔が見える。書類だけの受発注関係ではなく、全て繋がっている。

1年前に入社し、チーム5×緑の一員となった山内さんを紹介してもらった。

山内さんは、東京仕事百貨の前回の応募をみて入った方。もともと建築事務所でデザイナーとして働いていたが、5×緑では現場に出てプロジェクトを進める役割をしている。

なんでデザイナーからこの仕事を選んだのだろう?

「いっぱい仕事があるところに行きたいと思ったんです。ひたすら事務所にこもって図面を書くようなごく一般的な設計事務所の環境にいたときは、社会と繋がっている実感がなかったんです。」

そう思った山内さんにとって、5×緑はうってつけの場所だった。

「ここに来てから、仕事の成り立ちを少しづつ実感できるようになりました。植物を育てる人、金網をつくる人、色々な人が身近にいて、チームで仕事をしている。デザインが現場で実物になっていく様々なプロセスをよりリアルに感じます。」

設計者だったときと比べて、いいギャップはそこだった。でも、よくないギャップもあった。

「設計のときは現場に入るととても大切にされて『設計さんが来た』という感じだけど、いちメーカーとして入るとなると、下請けだから扱いが全然違う。『おたくやらないならほかで頼むよ』という脅し文句も使われるし、なにかあれば怒鳴りつけられることもあります。」

現場の人とのやりとりは前の仕事でもあったけれど、今は職人さんの視点で一緒に中に入ってやっていかなければならない。同じ目線で意思疎通を図りながら、少しずつやり方を模索している。

「プロジェクトの全体を動かさなきゃいけないのはこちらなので。現場では敬意を表しながらもうまく動いていただくための工夫を散々考えさせられます。辛かったこともあったけど、かなり鍛えられました。こういうやりとりを辛抱強く出来るようになればどんなプロジェクトも動かせるようになるから頑張れ、と励まされています。まぁ、まだまだですけど。」

隣で聞いていた宮田さんが、話しはじめた。

「でも、ある地点から山内さんは変わったんですね。ほんとうに覚悟が決まったんだな、この人は、という取り組み方になってきたんです。そこが大事な転換期だと思います。あるとき、山内さんの口から、『こんなことがしたいんです』って提案が出たんですよ。」

えっ。それはどんな提案ですか?

「詳細はまだ秘密ですが、里山が関係していることです。それで先日、下見のために里山に行ってきました。」と山内さん。

山内さんが本気でこのプロジェクトに乗りだしたのは、宮田さんの一言がきっかけだった。

「宮田さんが、『やりたいですねって言ってやらなかったら、またお茶しようね〜っていう女子の口約束と一緒ですよね。』って言ったんです。それはつまらない!じゃあやっちゃおう!って。その一言に、実は5×緑の本質がある気がしています。」

もちろん、日々こなさなければいけない仕事は沢山ある。でも、それに流されていたらあっという間に1日が終わってしまう。

「それじゃもったいない。『言ったからには実行しましょう』って言ってくれる会社なんて、そこらじゅうにあるわけではありません。素晴らしい機会に恵まれたと思います。仕事に支障が出ない程度にやってみようと思っています。」

ここにいるのにやらないなんてつまらない。それが、山内さんの原動力になっている。秘密のプロジェクト、どんなものになるのか楽しみです。

最後に宮田さん。

「自分の責任範囲をいかに最小化するかが仕事になっている人がいるけど、それはつまらないと思うんです。自立した人たちが集まって5×緑をつくっていきたいと思っています。参加してくれた人のそれぞれの働きかけで組織はいかようにも変わると思います。わたしもそれを望んでいるし。」

隣り合わせで、それぞれの葉を伸ばしていける環境がある。体力的には辛いこともあると思うけれど、ここで働いている人たちには、精神的な無理はないようにみえる。

この環境を活かせる人に来てほしい。ご応募お待ちしています。(2012/7/9 up ナナコ)