※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
夜明けとともに起き、ゆっくり家族と食事をしたら仕事に出かける。今にも飛び込んでしまいたくなる美しい四万十川にかかる沈下橋を渡って車を走らせると、栗の木の山がある。今の時期は下草を刈るのが主な仕事。汗はかくけれどもいやな感じではない。もうすぐ秋になれば収穫もできる。夕方に仕事を終えてお世話になっている農家のところに行ったら、たくさんの野菜をいただいた。それを持ち帰ってお風呂につかり夕飯を食べる。しばらく本でも読んでいたら眠くなったので寝ることにした。

それに四万十の栗再生プロジェクトが面白いのは、素敵な田舎生活ができるだけではない。とても先進的なプロジェクトでもある。自分次第で、どんどん面白いことにも挑戦できると思う。
四国の端っこで、みんなの栗の木の下で、一緒に働いてくれる人を募集しています。

今回、この募集を担当しているのが一般社団法人いなかパイプ。何度も日本仕事百貨で募集しているところです。今回は新しくできる農業法人の募集となる。
それにしてもいなかパイプの佐々倉さんと話していると、四万十は単に自然にあふれる地域ではない。まず人が面白い。
たとえば、四万十ドラマが運営している道の駅四万十とおわには魅力的な商品が並ぶ。自然発酵した香りのいい「しまんと紅茶」。新聞とのりだけでつくった「新聞バック」、しょうがの味が楽しめる「ジンジャーシロップ」など。
そのほかにもこだわりの農家がつくる野菜や、川漁師さんのウナギは美味しいし、川遊びや農業などいろいろな体験をすることもできる。
いなかパイプもまた、「いなか」と「とかい」をつなぐパイプの役割があって、インターンシップを通して田舎体験ができるようにしたり、イベントなどの企画・運営をしたりしている。
なぜこんなにも個性豊かな人がいるのか、佐々倉さんに聞いてみた。
「土佐人の気質な気がしますよ。どこかの真似をするというよりも、自分たちでつくってしまいたい。」

四万十は、自分たちのあり方についてじっくりと考えることができる場所なのかもしれない。なんというか独立した地域のようにも思える。住んでいる人たちも自立した上で共生している。
佐々倉さんもまた、自分の仕事を考え抜いた結果、今の仕事をしている人だ。
「小学生のころに作文にも書いているんですけど、お医者さんになって地域を良くしていきたかったんです。住んでいる地域にお医者さんがいなくて。それから大学受験のときにセンター試験を受けたら、頭が真っ白になってしまって。」
「失敗してどうしようと考えていたときに、高校の先生から医者じゃなくてもいいんじゃないかって言われて。そう思ったら、すごい楽になって。でもやっぱり人が生きていくのになくてはならないことをやろうと思って、試行錯誤しながら地域づくりなどに自然と興味が向かいました。」

今回のプロジェクトも、自分たちが住んでいる地域の理想形をじっくり考えた結果、生まれたものだった。
四万十はもともと500トン以上も生産する栗の産地だった。現在は50トンほどになって、耕作放棄園が増えている。
「四万十は土地が少ないので栗園は急斜面にあり、高齢化で管理が難しいんです。台風の被害や安い中国産の影響もあって、栗の値段も下がっている。農家さんもやっていられない。けれど四万十の栗は糖度も高く人気があり、あれば売れる状況です。でもつくる人が減ってしまっているんです。」
そのために農業法人を立ち上げることになった。耕作放棄園の管理を請負したり、新たに開墾していくことで生産量を増やしていく。さらに質を高めてブランド化していくことも目指している。
そのほかにもいろいろなアイデアが議論されて、形になろうとしている。

生産された栗は地元の加工場で加工される。手作業によって安全で美味しい商品をつくる。できた商品をそのまま食べることができるカフェをつくることも考えている。四万十茶葉100%のお茶と、四万十栗100%のお菓子が楽しめるそうだ。
農業法人の事務所は、雰囲気のある旧校舎を活用する。さらに無農薬農園をつくったり、もともと四万十にあった固定種を再生していく取り組みなども考えている。
結果として、地域には新しい考え方や人が循環して、農業は再生し、四万十の栗にブランドができる。このようなビジョンが共有されることで、地域は盛り上がってきているそうだ。
大きなプロジェクトのイメージは伝わってきたけれども、実際にはどのような毎日になるのだろう?
佐々倉さんは次のように答えてくれた。
「下草刈りをしたり、収穫したり、手伝いながら学んでいきます。収穫時期はアルバイトを雇いますよ。あと冬には枝を剪定します。」

ちょっと手をいれることで、大粒で安定した栗を収穫することができるのだ。
収穫した栗の実はモノレールが設置してある場所であれば、それに乗せて運んでいく。新しく開墾していくような場所では、車が出入りしやすいような道をつくることで、作業の効率化をはかっていく。地域によってはネットを張って、栗が転がっていくような仕組みにしているところもあるそうだ。
栗を収穫したら、取った実を選別して出荷する。それが9、10月くらい。冬から春までは枝を剪定したり肥料をやる。そして6、7月は下草を刈り、また収穫前にも草刈り。あとは1年を通して時間のあるときは、新しく開墾することもある。
「あと栗がメインではあるのですが、椎茸やお茶、お米のことも学んでもらうと思います。はじめは栗を取るだけでは成立しないので、他の農産物も収穫していこうと考えています。あと夏は観光シーズンでもあるので、栗拾いなどの体験プログラムを企画したいですね。単に農作業をするというよりも、いろいろなことに取り組んで、全体として成立していくような仕組みを模索していきたいです。」

事業として継続させていく見込みはありますか?
「ありますよ。栗自体はあれば売れるんです。ただ、試算としては10年経ったらしっかりとした事業になる予定です。10年後にはさらに50トン以上、生産量が増えている予定なんです。あと現在は栗の単価はキロ400円ほどです。でも品質を上げて特選栗を増やすことができれば、農業法人として売上は3000万円以上になります。」

「四万十には耕作放棄園が増えているので、自分でどんどん動いてしまうような人がいいです。あとは淡々と育てていけるような、真面目な人がいいのかな。ぼくは生き物を育てられないタイプで、ちゃんと面倒を見てあげられないんですよ。でもそれをうまくやっている人たちは、植物には毎日変化があることがわかるようなんです。そうすると葉っぱや枝の状態によって、こうしたらいい、というものが自然と身に付いていく。」
「生き物とコミュニケーションしていくことが好きな人がいいでしょうね。探究心をもってやれる人なのかもしれない。全部教えてくれ!ではなくて、切り方によってどう育つのか、自分で試して分析できるような人。農業経験はなくてもいいのですが、こういう姿勢の人がいいと思います。」
農業指導をしてくれる岐阜の農業法人、恵那栗の伊藤さんも、元カメラマンだそうだ。転身して農業をはじめているのだけれど、やはり研究熱心だったりする。今では四万十の栗栽培を指導していただく立場だ。

生活環境も大丈夫。まずは研修生が宿泊している旧校舎にある宿舎に泊まりながら、町営住宅や空き家を探してもらう。家賃は町営住宅だと月5000円くらい。いい物件でも2万円ほど。でも5000円の家でも、庭付き、駐車場付きの一戸建てだそうだ。
食事は基本的に自炊になるけれど、食材は豊富だしご近所さんからいただくことも多い。暮らしと仕事が、とても密接だと思う。
最後に佐々倉さんのこんな言葉が印象的だったので紹介します。
「仕事の時間も人生じゃないですか。仕事とプライベートに境目はないだろうし、なくありたいです。生きていくことって心配なことばかりですけど、しっかりやればちゃんと生きていける。なんとかなると思えば、なんとかなる。自分次第です。」

まずは四万十を訪れて、みんなの栗の木の下で、自分の本音と向き合ってみるのはどうですか。(2012/8/21up ケンタ)