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シブヤを化学する

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

渋谷という街は面白い。

ぱっと思い浮かぶのは、ハチ公の像のある辺り。駅前のスクランブル交差点のあたりの光景。

だけど、原宿、表参道や、ガーデンプレイスのある恵比寿も実は渋谷区。高級住宅街の代官山もあるし、一方で笹塚のような下町もある。

それぞれの独立した地域が集まる、合衆国のような街。こんなに多様性のあるエリアは、他にないと思います。

そんな渋谷の街全体をキャンパスにする学校があります。それがシブヤ大学。通称「シブ大」です。

特定の教室施設を持たず、渋谷中の地域資源を活かして、さまざまな場所でさまざまな先生を招いて授業を行っています。

今回は、シブヤ大学の授業をつくる「授業コーディネーター」を募集します。

原宿・表参道と千駄ヶ谷の間にあるシブヤ大学の事務局で、事務局長の榎本さんに話を伺いました。

「シブヤ大学は、街のインフラになれたらいいなと思っています。お小遣い300円の小学生でも、月300万稼いでいるような人でも、誰もが学びたいときに気軽に学べる場所にしたいんです。」

シブヤ大学には入試がない。ウェブで無料登録すれば、誰でも授業が受けられる。

サイトに行くと、これから開催される授業が一覧で見られます。

衣装や舞台芸術の観点からバレエを学ぶ授業や、櫛をつくるワークショップ式の授業、サッカーの観戦のポイントを解説してもらえる授業なんてものもある。

材料代がかかることはあるけれど、これらは基本的に全て無料です。

そして、この授業をつくっているのは、事務局ではなく「授業コーディネーター」と呼ばれる人たち。

「こんな授業をつくりたい!」という企画から、先生をお願いしたい方にアポイントをとり、打ち合わせをして一緒に授業をつくっていく。生徒を募集するための授業情報も書くし、授業にももちろん立ち会う。

授業を生み出し実現するところまで、全て授業コーディネーターの役割です。

シブヤ大学の授業コーディネーターは、現在20人ほど。毎月授業をつくる人もいれば、2年に1度しか授業をつくらない人もいる。フリーランスの人もいれば、会社勤めの人もいる。過去には学生がやっていたこともある。

授業1コマにつき対価が支払われる報酬制のため、関わり方は自由に決めることができるんです。

今回、新たに授業コーディネーターを募集するのには、理由がある。

「授業の開催数を増やしたいんです。授業には定員があるので、毎回希望者に対して抽選を行っています。去年のデータを集計してみたら、応募してくれた生徒さんの半分も抽選に通っていないことが分かったんです。」

それでは、「学びたいときに学べる」という状態とはほど遠い。希望した全員が授業を受けられるように、授業をもっと増やしたい。そんなことから、授業コーディネーターを探している。

でも、授業ってどうやってつくるものなんですか?先生との交渉とか、生徒を集めたりとか、色々不安です。

「授業コーディネーターの役割は1つです。自分が受けたいと思う授業をつくること。」

「僕、敏腕プランナーのやっつけアイデアより、素人の『自分ごと』の方が面白いと思うんですよ。当事者がいないものはつまらない。敏腕じゃなくても、本気でこれをやりたい!ということをやっている人の周りには、それを一緒にやりたい人が集まってくるものだと思います。」

シブヤ大学の授業をつくるルールとして、『自分自身が”ひとりめの生徒”になる』というのがある。

「シブヤ大学の授業は、授業の教え手である先生と一緒に二人三脚でつくりますが、はじまりは授業コーディネーターの『こんな授業が受けたい!』という学び手の視点からなんです。知りたいこと、やってみたいことに正直になれば、ウケそうな授業をつくろうとしなくても自然と企画は生まれてくると思います。」

自分が受けたいと思う授業をつくるのだから、企業相手でも個人相手でも、先生や協力者を探すのは自分。事務局は代わりに交渉してくれないし、企画会議もない。

「個別に相談を受けることはありますが、事務局の方でゴール設計をすることはありません。僕、アイデアそのものにはそんなに価値を感じていないんです。アイデアよりも、自分のやりたいことを持っている人、さらにそれを実現できる人の方がすごいと思います。やりたいことを形にするところまで楽しめる人が来てくれたらいいです。」

お話のあと、榎本さんが3人の授業コーディネーターを紹介してくれたので、日を改めて会いにいきました。

左から、舩元さん、オヤビンさん、新谷さん。

「楽しめる人」だから紹介していただけたのだろうな。3人がお話しているのを聞いていると、雑学と好奇心の合戦のような感じ。なかなか会話が途切れない。

紅一点の新谷さんは、恵比寿生まれ、恵比寿育ち。ふだんは、クリエイターの活動と社会を結ぶマネージメント会社の経営している。「人と人をつなげるのが好き」という新谷さんは、シブヤ大学を通じて恵比寿のまちを元気にしていきたいと思っている。

新谷さんの活動は、驚くほどパワフル。先月はパリに行ってきた。

「パリに、一番日の長い夏至の日に、その日だけは誰でも路上で音楽を奏でてもいいという『音楽の日』があるんです。その日は、夜10時になっても昼間のように明るくて、町中で色々な人や民族が楽器を演奏したり歌ったりしている。そんな素敵な日が恵比寿にもあったらいいな、と思って、シブ大の仲間とSing!恵比寿という歌のプロジェクトを立ち上げたんです。」

パリには、「音楽の日」の視察を兼ねて、まずは実際に歌ってみよう!ということで、有志20人ほどで行ってきた。そして、ノートルダム寺院の横にある公園で「翼をください」や「見上げてごらん夜空の星を」などを披露した。

「思っていたよりも沢山の人が見てくれました。嬉しかったのが、そのとき見ていた人が『ぼくが見たなかで最も素晴らしいパフォーマンスだった』とメールをくれたんです。わたしたちは、歌うのは小学生以来という人もいるくらいだから、決して上手いわけではないのですが、会場の人と一緒に楽しんで歌うことにかけては、情熱があるんです。」

授業をきっかけに80人ほどのメンバーが集まり、今は月2回サークルのような形で練習をしている。もちろん、目標は恵比寿に「音楽の日」をつくること。イベントに呼ばれて歌を披露することも多い。

人と人をつなげるのが好きな新谷さんだから、ここまで沢山の人が集まってきたのかもしれない。

「カルチャースクールだったら、授業コーディネーターなんていらないんじゃないかな。事務局と先生がいれば済んでしまう。シブ大のコーディネーターの役目は、先生と生徒、そこに集まる人をどうつなげるか考えること。この人とこの人が一緒になれば何かできるかも!と考えられるお世話好きな人が向いていると思います。」

と、オヤビンさん。

フリーカメラマンのオヤビンさんが今までつくってきた授業は数えきれない。シブ大で最も授業をつくってきた授業コーディネーターです。「オヤビン」という名前もだてじゃありません。

「例えば、折り紙作家に先生をお願いしに行くとします。『お願いします』『はい、分かりました』では、シブ大らしい授業はつくれないんです。まずは、講師料も出ないけど『それでもやってみたい!』と先生に思っていただけるような授業をつくりたい。例えば、ただ折り紙の折り方を教えるのではなくて、みんなが一緒になって巨大な折り紙をつくるというのもいいかもしれない。それは先生にとってもチャレンジングだし、一緒に折るという作業を通して、人をつなげることもできる。」

ただ学べて役に立てる授業ではなく、そこにさらに人が仲良くなる仕掛けをつくるのが、授業コーディネーターの役割かもしれない。

最後にご紹介するのは、舩元さん。

新谷さんは会社の経営者だし、オヤビンさんはフリーランスだけれど、舩元さんは月〜金曜日まで決まった時間に働く会社員。仕事と両立できますか?

「先生と打ち合わせするときは、『会社員なので、夜や土日の打ち合わせは可能ですか』と事情を正直に伝えると、だいたい分かっていただけます。夜や土日、有給休暇を使いながら、2ヶ月にひとつくらいマイペースに授業をつくってます。最近やっと、リズムが掴めてきました。」

ときには有給休暇まで使ってつくる舩元さんの授業は、一風変わっている。

「ちょっと前にやったのは、みんなでサウナに入る授業です。タナカカツキさんというサウナの本を出すほどまでにサウナ好きな漫画家さんがいるんです。その方はサウナについての講演は既にされていました。同じような企画だと面白がってもらえないと思い、『生徒さんとサウナに入る』という企画を持っていったんです。普通にホームページの問い合わせフォームから送ったんですけど、『そんなのはじめて聞きました(笑)』と快諾していただけました。」

めでたく交渉成立。みんなでサウナに入ったりサウナの新しい呼び名を考えたりと、サウナづくしの授業が行われた。

先生や参加者が喜んでくれたのも嬉しかったけれど、授業後にさらに嬉しいことがあった。

「みんな、授業が終わったあとでもtwitterで誘い合って一緒にサウナに行ったりしているんですよ。それは本当に理想型ですよね。」

自分がひとりめの生徒。だけど、自分の満足の次は、来てくれた他の人にも喜んでもらえるものがつくりたい。自分のつくった授業がきっかけで人の輪が広がったらもっと嬉しいと思う。

最後にオヤビンさんが、こんな話をしてくれました。

「僕らのやっていることは、化学者が混ぜている感じに近いと思います。先生、生徒、それから場所。その掛け合わせで新しいエネルギーが生まれるじゃないですか。面白い授業ができたり、人と人がつながったり。それを生み出せるのが楽しいです。」

渋谷という面白い街に、人が集まってもっと面白くなる。そんな化学反応を起こす楽しみがある。

特別な交渉術はなくても、こことここがつながったら面白い!という発想のできる”お世話好きな化学者”のような人なら、素敵な授業がつくれると思います。(2012/8/20up ナナコ)