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ここに決めた

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雇われるのではなく、自分の手でなにか商売をしながら暮らしたい。
土地に根ざし、素材の魅力を発掘して繋げていく仕事がしたい。

そんな将来を思い描いたことのある人に、知ってほしいまちがあります。

農林水産省が進めている「田舎で働き隊!」は、地域に住み込んで仕事を体験する研修プログラム。

グリーンツーリズムや農業に関するものなど、さまざまな事業があるけれど、今回はそのなかから、北海道の浦河町を拠点に活動する『うらかわ「食」で地域をつなぐ協議会』を紹介します。

6ヶ月間まちに暮らしながら、「地域の場づくり」や「地域商品開発」に一緒に取り組んでくれる研修生の募集です。

浦河町は、北海道の南端にあるえりも岬から50kmほどのところにある。

新千歳空港からバスか電車で約4時間かかるけれど、ゴールデンウィークかお盆でもない限り渋滞もないだろうし、レンタカーを借りれば2時間半で着くそうだ。

ただ、今回は時間もあったので、ゆっくり電車で行くことにした。苫小牧まで行き、そこから海沿いに路線が続くJR日高本線に乗りこむと、各駅停車の旅のはじまり。

4人乗りの椅子に贅沢に一人で腰をおろし、本を読んだり窓の外を眺めたりしているうちに、浦河駅に到着した。

浦河は昔からサラブレッドのまちとして有名で、町内には300ほどの牧場があり4,000頭以上の馬がいる。海洋性気候の影響で、夏は涼しく冬は温暖なので、高原野菜のような水々しい野菜も育つ。

太平洋からはサケやマス、真イカなどが獲れる。お店などでよく見かける「日高昆布」も、この町の名産だ。

丘と海、両方の幸があり、一年中過ごしやすい気候のため、体験移住者や移住者が多いのも、このまちの特徴。町役場では、体験移住用の住宅を家具、家電付きで安く貸し出している。

一度でいいから行ってみたい!と憧れるような華やかさはないけれど、一度来たらまた来たくなる。そんなまちかもしれない。

まちのこと、今回の募集のことなど、詳しい話を聞くために、『うらかわ「食」で地域をつなぐ協議会』の代表、マルセイ協同燃料の小山さんを訪ねた。

「このまちには女性の起業家が多いんですよ。」と最初に案内してもらったのは、オフィスからほど近くにある一軒のカフェ『アッシュ』。

三角屋根の手作り感溢れるお店のなかには、お昼のランチにやってきた子供連れの主婦や、夏休みの学生などで賑わっていた。友達の家にきたような、くつろげる雰囲気。

キッチンには、せっせと立ち回る女性がいた。みんなに「ひろみちゃん」と呼ばれているこの方が、店のオーナーの馬道さん。

馬道さんは、27歳のときに勤めていた会社を辞め、手書きで文字や看板を描くポップライターとして起業した。4年前にはカフェをオープンし、週の半分はチラシ、POP、看板などのデザイン。もう半分はカフェで人をもてなすという生活をしている。

カフェをオープンした理由を尋ねてみる。

「カフェをはじめたのは、もともと料理が得意だったとかそういうわけではないんだけど、人をもてなすのが大好きだから。なんとかなる!好きなことしてみよう!って。」

ちょうどその日は、夜まで営業している水曜日。お誘いいただき日が暮れてからまた伺うと、まちの中から外から、『アッシュ』を訪ねてきた人たちで賑わっていた。

馬道さんは、いつもニコニコ笑っていて、みんなその笑顔が見たくてこの店に足を運ぶのかな。なんだかまちの灯りみたいな人だなぁ、と思った。

「女性起業家というのは、まさに馬道さんのような人のことなんです。なんていうか、女の勢いがあるでしょう。このまちには、他にもそういう元気のある女性がやっているお店がいくつかあるんですよ。」

改めて、マルセイ協同燃料のオフィスで小山さんのお話をうかがった。

「地域づくりがどうだとか、そういうことを論理立てて話せって言われたらおじさんの方が上手いかもしれないけれど、女性ならではの感覚的なやり方や行動力は、おじさんたちには真似できない。だから僕は、浦河はもっと女性が起業しやすいまちになっていけば良いな、と思っています。」

これからのまちに必要なのは『若者』や『女性』の力。だから、そういう人が何かはじめようとしたときには、年配の者は耳を傾けて応援するべきだと思う。そして、そんな雰囲気をまち全体でつくりたい。

浦河で生まれ育った小山さんは、まちが人口流出と高齢化によってだんだん元気をなくしていく様子をずっと見てきた。そして、まちに元気を取り戻したいと、『うらかわ「食」で地域をつなぐ協議会』を発足した。

でも、ガスを扱う燃料屋である小山さんが、なぜ食をテーマにした事業をはじめることになったのだろう。

「うち、燃料屋なんですけど、この3月からおかずの宅配もやっているんです。」

ガスの仕事をしていると、お客さんの家の庭先まで入ることが多い。そうすると、お年寄りが日々の食事に困っているなど、地域の人たちの生活が見える。

だったらお年寄り向けに、揚げ物ではなく煮物中心のおかずを届けるしくみがあったらいいのではないか、と思ったことからはじまったのが「おかんのおかず弁当」というサービス。

5食からスタートしたこの事業は、今では口コミで広がり、1日に40食ほど注文が入る。週1〜2日の営業なのだが、好評なので、これから時間をかけて育てていきたいと思っている。

さらに、まちに増えてきている空家を利用して、お茶を飲んだりお弁当を食べたりできる、お年寄りのための場をつくりたいという目標もある。良い物件が見つかったら、そこに事務所も移すそうだ。

小山さんは、わたしが行く前にイメージしていた「協議会の人」とはちょっと違った。とても気さくで、話すときには色々な本や情報を例に出しながら、目をきらきらさせて語ってくれる。

ミシマ社(独自の営業スタイルでベストセラーを生み出している面白い出版社。仕事百貨ともお付き合いがあります。)のことを知っていて、大好きですと言っていたのも意外だった。

新しいことをどんどん知って、いいものは取り入れて行こうという気持ちが感じられるような人だから、6ヶ月間一緒のプロジェクトをやるとなっても、「そんなの無理」と頭から否定されるようことはないのだろうな。むしろ、一緒に面白がってくれる気がする。

そんな小山さんが注目する「若者」のひとり。今は『うらかわ「食」で地域をつなぐ協議会』のアドバイザーとして活動する村下さんにも話を伺った。

村下さんは、昨年はアミタ持続可能経済研究所で「田舎で働き隊!」事業に携わり、色々な地域に入ったあと、今年Uターンで浦河に帰ってきた。

高校まで浦河だった村下さんは、早くまちを出たいと思っていたし、地元への愛着も全然なかった。

それなのに、帰ることを決めたきっかけはなんだろう。

「東京の大学を卒業してから、友達と地域ビジネスの会社を立ち上げ、アミタでは様々な地域に入って事業をサポートしてきました。そんななかで、自分には何ができるか考えだしたんです。そのとき思い浮かんだのが、18年間暮らしてきた浦河のことでした。」

同時に、もともと面識があった小山さんと小山さんの奥さんのことも頭に浮かんだ。浦河に対して想いのある人たちがいるならば、一緒になにかできるかもしれない。そう思って帰ってきた。

今は、これまで地域に関わってきた経験を、『うらかわ「食」で地域をつなぐ協議会』で生かしている。「田舎で働き隊!」を小山さんに紹介し、書類の作成や手続きなどを中心になって進めたのも村下さんだった。

生まれ育ったまちだけれど、地域おこしの視点で関わってみると、新鮮な驚きがあった。

「まず、小山さんをはじめ、協議会のメンバーがすごく面白いんですよ。平飼いでこだわりの卵をつくっている養鶏家さんとか、見た目はいかついのに美味しいチーズケーキをつくる酪農家さんとか。あと、社会福祉協議会の方や町役場の方も、みなさんものすごく熱心なんです。仕事で疲れていても会議には必ず参加してくれるし、先日は夜遅くまで意見交換をしていました。」

他の地域に入ってサポートをしていたときは、自治体の人に協議会に入ってもらうのは大変だった。コミュニティカフェの企画を出した時には、昔からの地域の住民には警戒されてしまったこともある。だけどここだと、呼びかけに応じてあっという間に人が集まり、力が集結した。

それは、村下さんが地元の人だからということ以外にも、何か理由があるように感じる。ひとつ石を投げるとどんどん波紋が広がっていくような、そんな良い連鎖がある、と村下さん。

隣で聞いていた小山さんが、こんな話をしてくれた。

「浦河には、日高支庁(現在は日高振興局)という道庁の出先機関があって、銀行や税務署など、主要なものが全部集まる『官庁のまち』だったんです。いまは随分と働く人が減ってしまいましたが。だから、僕が子供の頃なんかは、毎年親の転勤の時期になると、転校生がどっと去り、またどっと来るような、人の出入りが多いまちだったんですよ。」

だから浦河の人は、受け入れるのも見送るのも慣れているし、新しいものにあまり偏見がない。風通しが良いことがひとつの特徴だそうだ。

「もちろん浦河には、競走馬や日高昆布という名産もあります。だけど、人がいい、と移住者の方や訪れた人が口々に言ってくれるのは、わたしが一番うれしく自慢したく思うところです。」

まちの規模のわりに立派な図書館や、音響設備の整った大ホール、ミニシアターのような映画館「大黒座」があるのも、偶然ではなくまちの気質なのかもしれない。劇団やミュージシャンがまちに来ることも多く、そういうときは人口の割にチケットがよく売れる。

「東京に出てから気付いたのですが、浦河にはいわゆる”田舎らしさ”以外にも東京で探そうとしても見つからないようなものがあるんです。それは、住んでいる人たちが新しい刺激を求めるからだと思います。他のところだったらこうはならないんじゃないでしょうか。」と村下さんも言う。

このまちで一緒に6ヶ月過ごす人は、どんな人がいいだろう。

「どんな趣味や関心でも良いから、コミュニケーション能力があって、インターネットで情報発信もできるような人。あとは、このまちの人と話すことにわくわくしてくれる人がいいです。わくわく楽しんでやってくれれば、何をやってもいいと思っています。」

この研修の特徴は、決められたミッションがあるわけではなく、来る人によって内容が決まってくるということ。

研修は、まずは、地域をまわってみて、「食」というテーマを通じてこの地域でできそうなことを、自分の興味関心に合わせて決めていってもらうところからはじまる。

普通はその先からはじまるけれど、ここでは、内容を決めるまでも研修のうち。

例えば、料理が得意で食べることが好きな人ならば、「おかんのおかず弁当」に使用する地元食材を活用した新メニューを、地域の農家や漁師を訪ねながら開発するのもいいかもしれない。

企画や広報に興味がある人ならば、体験酪農を行う牧場のオーナーがつくる絶品チーズケーキや乳製品を、一般の人に向けて販売するためにはどうしたらいいのか考えるのもひとつ。

カフェ『アッシュ』の馬道さんのように、自分も将来お店を開きたいという人ならば、地域のコミュニティカフェを企画するのもいいかもしれない。

妄想がとまらなくなりそうなので、このあたりでやめておきます。

とにかく、丘からも海からも新鮮な食材がとれる。あっちにもこっちにも地域に想いをもって元気に働いている人がいる。素晴らしい素材が点としてあるから、あとはそれを繋げてかたちにすること。

それを考えてくれるならば、何をするのも自由だそうです。

まずはわくわくしてみてください。そこから浦河での6ヶ月ははじまります。(2012/8/24up ナナコ)