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自分はなにを伝えればいいか、なんのためにデザインをしているのか。ここで働いていると、そういうことで迷うことがないのだろうな、と思った。
注文を受けてデザインを納品するような、制作会社のデザイナーとはちょっと違う。ひとつのブランドのなかで働くデザイナーだから、土屋鞄製造所のことが好きで、会社のつくるものや、想いに共感できる人がいい。
だからまずは、土屋鞄製造所のことを知ってほしいと思います。

下町を走るモノレール、舎人ライナー沿いにある工房には、店舗と事務所が併設されている。お昼時に訪ねると、ランドセルを買いに来た家族連れのお客さまや、休憩中の工房のスタッフたちで賑わっていた。
工房の上にある事務所で、販売促進部の部長として、デザインをはじめとする制作の仕事をとりまとめている佐藤さんに話を伺った。
「デザイナーにも、デザインをするだけではなくて、鞄を売るという使命があります。デザインする人も鞄をつくる人も売る人も、みんな役割は違うけれど、ひとりひとりが鞄屋なんです。」
デザイナーも鞄屋で、売り子のひとり。佐藤さんは、デザイナーの仕事をそう説明する。
というのも、ウェブサイトで商品を売るときは、店舗とは違い、お客さまが直接商品を手に取れないという状況がある。そこで、商品の見せ方や伝え方のデザインが重要になってくる。
「僕たちの商品は、安売りは絶対にできないんです。お買い得!なんてやり方は絶対にしません。なぜなら、職人さんの技術や価値を下げて伝えることになってしまうから。適正な価値で職人さんがつくったものを買ってもらいたいんです。だから、手仕事のかっこよさを伝えるデザインをしなければいけない。」
例えば、サイトの商品ページで、職人さんがこんな工夫でつくっている、と説明したり、こんな風に使うと素敵かもしれない、という用途を紹介したり。製作のこだわりを、デザインで代弁するのもひとつの使命。
写真を一枚差し替えるだけで、売り上げに変化が出ることもある。それだけでも、鞄を売る上でデザインが大きな柱になっていることが伝わってくる。

自分のデザインに最後まで向き合わなければいけないから、とてもストイックな環境だと思う。
「デザインって、ここで終わりという線がないので、こだわろうと思えば朝までこだわれるし、1日で終わるものを一週間かけてつくることもできるんです。だから、時間のある限りよくしよう、と思ってここまでやってきました。」
佐藤さんはもともと、デザイナーではなく短期アルバイトとして土屋鞄製造所に入った。
「秋口から春先までのランドセルシーズンを乗り切るためのアルバイトでした。両腕を広げたほどもないようなプレハブのオフィスのなかで、お客さまからの注文や宛名を入力する仕事をしていたんですよ。」
それは、遡ること10年前。土屋鞄製造所が、まだ一般の鞄の販売はしていない、まちのランドセル屋さんだった頃のこと。
当時は、職人さんは沢山いたけれど、売る事を考える事務所のスタッフは少なく、今のように自社サイトで鞄を売るということもしていなかった。

「僕が宛名を書いている横で、社員さんが、Photoshopで画像を加工しているのをみて、なんだろうと興味を持ちました。それで『僕も写真を撮ってみたいです!』と言ったのが始まりです。僕、それまでカメラといえば『写ルンです』くらいしか触ったことがなかったんですけど (笑)」
写真を撮るようになり、ソフトを使って加工したりしながら、デザインにも関わるようになる。短期アルバイトが、長期アルバイトになり正社員になり、もうすぐ10年。
10年の間に、辞めようと思ったことはありますか?
「見事に一回もないんですよ。」
「ページをつくってその商品が売れたときも楽しいし、チームで企画を考えるのも楽しいし、革のアイテムが好きなのでそれを扱えるのも楽しいし、新しく入ってきた子に色々教えるのも楽しいし、その子たちが成長するのも楽しいし…」
多分、デザインは形をつくって届ける仕事だから、きっと作業に追われたり、責任をとらなければいけなかったり、大変なことも沢山あると思う。それでも、佐藤さんの口からは、「楽しい」がいっぱい出てくる。
それは、「デザインのソフトを触っているだけでも楽しい」という、デザインをこよなく愛する佐藤さんだからこそなのかもしれないけれど、なんだかそれだけではないように感じる。
「会社が好き、仕事が楽しい、と言い切れる人なんてそんなに多くはいないと思いますけど、それが言える環境がここにはあると思います。」
3ヶ月前に入社したばかりの上野さんも、そう断言する。
上野さんは、佐藤さんと同じ販売促進部で、マーケティングを専門に仕事をしている。3ヶ月を1日に感じるくらい忙しい毎日だそうだ。
「でも、何かを一生懸命にやっていると、みんなが協力してくれるんです。まっすぐで素直な人が多いというか、人がいいというか、働いていて嫌だと思うことがないんですよね。」

「自信を持って売れるものがある、というのが大きいんじゃないですか?ここは、職人さんが鞄をつくっているところを傍で見られますから。」
上野さんがこんな答えをくれた。
隣で聞いていた佐藤さんも、「職人さんがいるっていうのは肝ですよね。」と頷く。
土屋鞄製造所のオフィスは、工房と繋がっているから、職人さんとすぐにコンタクトがとれるし、仕事のやり方も近くで見ることができる。
それに、見るだけではなく鞄をつくる機会もある。土屋鞄製造所では、入社すると誰でも、まずは1週間工房に研修に入ることになっている。そこで、職人さんに教えてもらいながら、鞄をつくる工程を体験する。

さらに、同じ建物内にショップも併設されているので、鞄を販売する機会もある。
秋から冬にかけてのランドセルシーズンは、土日も家族連れのお客さまが大勢来る。だから、土日は事務所のスタッフが交代で店頭に立つこともあるのだそうだ。
これは、普段はパソコンの画面に向かって仕事をしている人にとっては、直にお客さまと話せる貴重な機会になる。
新しく入る人も、お店に立つこともあるかもしれない。小学校に入学する前の小さなお客さまが沢山来るため、子供好きだとさらに楽しめるかもしれない。
つくる過程でも売る過程でも、一度現場に入ると、その商品がどのようにつくられ、どのようにお客さまの手に渡っていくのか、繋がりが全て見えるようになると思う。

実際、サイトやキャンペーンを見ているだけで、スタッフが楽しんでいる様子が伝わってくる。
例えば、佐藤さんは今年の4月1日に、制作部のメンバーと一緒にあるキャンペーンを手がけた。
それは、「ケーキ屋さんをオープンしました」というニュースとともに、美味しそうな6つのケーキの写真を公開し、ケーキセットとして販売することを発表した特設サイト。
えっ?鞄屋さんがケーキ屋さん?と、サイトを訪れた人はみんなびっくり。でも実はこのケーキは、職人さんたちが革でつくった偽のケーキ。本物そっくりだからみんな騙されたけれど、エイプリルフールのために準備したキャンペーンだった。
「エイプリルフールに何をやろうか、とみんなで話していて、うちは工房があるから職人の技を生かした面白いことがしたい、ということでこの企画が生まれました。実際につくってみたらすごくリアルにできたので、せっかくだからと、エイプリルフールでひとつの嘘をつくためだけにドメインをとり、サイトを立ち上げてしまいました(笑)」佐藤さんは、そう振り返る。
キャンペーンも工夫があって面白いけれど、日々のFacebookページの更新も素敵だと思う。
天気の話だったり、差し入れのおやつの話だったり、そんな日常の様子が写真とコメントつきで投稿されると、商品に関係のないトピックスにも関わらず、7000とか8000とか、ものすごい数の「いいね!」がつく。
投稿のひとつひとつに小さなアートディレクションがあり、読む人への気配りがある。そして、そこにどんどんファンがついていく感じ。

最後に上野さんが、こんなことを言っていました。
「絶対に揺るがないと決めているのは、『楽しくやろう』ということだけですね。追いつめられたり、ギスギスした中でいいものは生まれませんから。」
納期やタスクばかり気にして、お客さまや職人さんの気持ちを汲めなくなってしまっては本末転倒。そうなりそうな時は、付加を下げて「楽しさ」を優先する。
使命だけでがんじがらめに苦しくなるような環境では決してないと思う。自分の好きなものを、その作り手と受け手の顔もはっきり見えるところで繋げていくことができる。大変なことも多いとは思うけれど、きっとストレスは少ないのだろうな。
そんな働き方をしたい人にきっと向いている。
