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心をつくす

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目黒にある葬儀場。たくさんの季節の山野草に囲まれた遺影のそばで、遺族の方が柔らかな笑顔で、しきりに葬儀への感謝の言葉を口にしていた。

花心の代表である松本さんも、微笑みながら応えている。まずは話をする前に自分たちの葬儀を見てもらいたい、という思いがなんとなく分かるような気がした。

今回は葬儀社「花心」のスタッフ募集です。

花心に出会うまでの葬儀屋さんのイメージは、それほどいいものではなかった。いつかお願いする日がやってきて、いつの間にか高額の請求をされてしまうような。卑しい仕事とまでは思わなかったけれど。

葬儀から数日経って、目黒の柿の木坂にあるオフィスに伺った。住宅のような建物の2階にあがると松本さんが迎えてくれた。

松本さんが採用の面談で必ず聞く質問があるという。それは「霊的な存在、信じますか?」というもの。

「宗教や思想のことだから自由なのだけれど、どういう考え方を持ってるのか知りたくて聞くんです。なぜ聞くのかと言えば、そういう存在が『いる』と仮定して、まず聞いてもらいたい話があるからです。」

「もし自分が交通事故で突然死んでしまったとします。気がついたら、もう病院の霊安室で、妻と子供たちが『お父さーん!』って泣いてる姿を見てるわけです。天井のほうから。『あれっ?オレ死んだんだ?いやいや、まいっちゃったな』と思う。だけど、そこへ葬儀屋さんが来る。『この度はご愁傷様でした』って近づいてくる姿を見る。本音は、葬儀はやらなくていいから、一銭でも多く女房と子供に遺してあげたい、というものだと思う。」

「でも、残された側には残された側の都合があるんですね。どういう都合かというと、嫁という立場で粗末な葬儀はできない。仲の良い親友とかに知らせずに、お骨にするわけにもいかない。ちゃんと来てもらって、お焼香してもらうなり、お別れをしてもらわなければならない。やらざるを得ない中で、葬儀屋は大切なお金を預かるわけです。」

「でもね、はじめの質問のとおり霊的な存在を信じているのだったら、自分が霊になったら葬儀屋が何を考えてるかなんて見透かせるわけです。卑しい考えをした葬儀屋さんだったら、すごく許せなくないですか?でも、預かるお金の重みをしっかり考えてくれて、大切に使ってくれている葬儀屋さんだったら、どうですかね。『ありがとう』って気持ちになると思う。」

なるほど。預かるお金の重みや遺族のことを考えることができる人、それが葬儀屋さんに向いている人。さらに言えば、亡くなった方の気持ちを大切にできる人。つまり、その人から見られている意識がある、と言えるのかもしれない。

松本さんは昔から、こんな考え方だったかと言えば、そうではなかった。高校を出てから予備校生になり、新聞奨学生として働きながら勉強していた。けれど大学進学はあきらめて働きはじめることになる。

「色んな仕事をやってて、とくに目的というのが、正直なところ、なかったんです。バブルがはじけた直後くらいの時期でしたね。お金さえ儲かればよかった。」

わりの良い、効率のいい、給料のいい仕事を探していた。ところが景気が徐々に悪くなって、仕事を選ぶことができなくなっていった。そんなときに葬儀屋のアルバイトを紹介してもらう。

「面接のあとに、はじめは自分から断ったんですね。信じてるんで、霊の存在を。怖かったんです。そういう存在が身近になりますんでね。けれど、背に腹は代えられないから、はじめることにしたんです。」

ところが仕事覚えるにつれて、考え方が変わってきた。

「いちばん最初にすごくショッキングだったのが、もうホントにいまでも覚えてます。警察署に連れて行かれて、焼身自殺だったんですね。行った瞬間にシートが地面にあって。開いたら真っ黒焦げの人が倒れてる。」

圧倒されている前で、先輩は冷静に指示を出していく。

「うわ、この人すごいなって、尊敬しちゃいましたね。ただ先輩だけど僕と同い年なんですよ。その彼がやってる姿を見たときに、悔しさもあるわけですよね。立ちすくんじゃってる自分、ビビってる自分。でもそれを、仕事とはいえ、テキパキとやれてる先輩の姿があった。」

その後、転職をするものの、葬儀の仕事を続けていくことになる。

ただやっぱり過酷な仕事ではあった。一番大変なのは、「何か」あったときに夜中でも駆けつけないといけないこと。もちろん休みはあるけれど、すぐに出る準備をしていなければいけない日もある。何もなければ、そのまま家にいればいいのだけれど、精神的には落ち着かない。

オンオフのない、自分の人生と連続したような仕事は素晴らしいと思っている。仕事というよりも、自分ごと、というか。

けれどそれはオンオフがある程度自分でコントロールできる状態なんだと思う。自分の手元にオンオフのスイッチがなければ、いくらやりがいを感じる仕事でも生活と仕事に境界がないことは大変だ。

もう一つ、松本さんが大変だったのは、「やりたくない」っていう自分がいながらも、でも「ちゃんとやってあげたい」っていう気持ちがあることだった。それなのに、会社は利益を追求するから、その狭間にいることにある。

「打ち合わせにじっくり時間をかけてやると、上司から『何やってるんだ』みたいなことを言われたり。一件一件のお客さまから見れば、お客さんは1対1です。でも会社は違うんですね。10対1なり、100対1になってしまう。だんだん、やるせなくなりますよね。」

あるとき、とある方に相談したら、独立を勧められる。

実は、そんなにお金を用意しなくても葬儀屋さんはできるそうだ。なんでもアウトソーシングすれば、電話一本ではじめることはできる。けれど仕事を取ってくるのがとても難しい。そういう意味では既得権が大きく参入障壁は高い。

ところが病院に縁もできて、独立することを決意する。

「どうせ葬儀屋さんをやるんだったら、いままでにない葬儀屋さんをやりたい、と思いました。いままでにない、っていう言い方が、ちょっと合わないのかな。奇抜とか、新しい発想とか、そういうことではなくって。いままでとにかく、葬儀社のスタンスとしては、『取れるだけ取ってしまえ』っていう前提があったので、それを変えたかった。当たり前に、当たり前のことを、ただやりたかった。」

サービスを受けて、納得をして、対価としてお金を払う。そして「ありがとう」と思ってもらえるようなことを。

「つねに新鮮な状態でいなきゃいけないんです、我々はね。自分の身内を亡くしたくらいの感覚でいなければ、丁寧な対応は『できない』ですね。」

たしかに結婚と同じで、人生に一度しかないもの。

「ただね、結婚式は、極端な言い方すれば、2度3度できる。葬儀は絶対に1度しかできない。それに結婚式は、準備する期間が数ヶ月あって、葬儀っていうのはホントにまぁ、2〜3日から1週間しかない。もしミスをやった場合は、そこの一族郎党から末代までずっと言われるんですね。『あの葬儀屋が』って。たぶん、法事で集まる度に言われますよ。」

なるほど。その逆もあるんでしょうね。末代まで褒められる。

「そうですね。本当に当たり前のこと当たり前にやってるだけなんですよ。特別なことやってるつもりってあまりない。周りからよく言われるんです、『こだわってるよね』とか。でも、僕の感覚のなかでは、べつに何にもこだわってない。ただ、追求していっただけ。」

山野草に溢れた葬儀。照明にもこだわって、季節の花がもっとも映えるような準備をする。返礼の品には、自分たちで選んだお茶を自分たちで一つひとつ包む。心のこもった司会。お線香も選び抜いたものを使用する。利益がでなくても、できる限りいい食事を選んでもらう。

たしかに「こだわり」のようなものが感じられる。でも実際に葬儀に立ち会ってみると、それは具体的に表れない部分にこそ、宿っているように感じる。

相手のためにどうしたらいいか自分なりに試行錯誤して追求していっただけなんだろうな。より高いお金を取るために、営業のために、こだわっているのではない。

なるべくゆったりと、亡き人との時間を大切にして、充分なことをしてあげたい、送りたいという気持ちに寄り添うこと。できるかぎり時間をとって、できるかぎりのことをやる。

「企業として、お金も大切です。ただ、近代に入ってから、効率良く生産性を上げて、なるべく利回り良く、お金を稼ごうっていう時代に入ったがゆえに、いまみたいな世の中になってしまったから。その反面、すごく便利な生活を我々はね、享受できてるんですよ。だけども、そこで失ってるものも、かなり多くあると思っているんです。」

どういう人が合っているのだろう?

「正義に飢えてる人ですよね。何か自分がアクションを起こすことで喜んでもらえる。それって誰でも求めてることだと思うんですけど、それがとても分かりやすい仕事。あとはクリエイティブで、頭の回転が早い人。でもあんまりせっかちなのもいけないのだけれど。事務的にやっていると感じられるから(笑)。ホントに難しいです。」

「これからの時代って、葬儀社に限らず、どんな職種でもそうなんですけど、社会に対して、自分のところで、自分たちが何をできるかをよく考えたうえで、そのサービスを提供することになっていくと思う。その上で対価としてお金をもらえる。そういうことを真剣に考えないから、うまくいかないんですよね。ただ単純に、社会から必要とされればいい。正直に生きられる環境は広がってきている。」

これはまったく同感。営業の量で維持するような仕事だったり、既得権に守られているだけのものは、だんだん先細りしていくと思う。

高い意識が必要なのかもしれないけれど、自分の思いに合った仕事だったら、大変さよりもやりがいや生きがいを感じることができると思う。まずは話をしてみるだけでもいい。(2012/11/14up ケンタ)