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メガネの向こうに

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自分がいいと思うメガネを用意する。似合うか似合わないか、お客さんに正直に話す。つくり手である、海外のデザイナーからも信頼されている。

これは青山と表参道にあるメガネのセレクトショップblinc(ブリンク)のこと。二人の兄弟がはじめた小さなお店だ。日本ではここにしかない、という品揃えで、僕もメガネが欲しいときに訪れている。
でも単にデザインのいいメガネが置いてあるから利用しているのではないように思う。ここにしかないものが「何か」あるような気がするんです。

こんなメガネ屋さんで働く人を募集します。

青山のベルコモンズの交差点から、西麻布のほうに数十歩。1階路面にブリンク青山本店がある。もう一つのお店、ブリンク・ベースは表参道駅から数分。青山通り沿いのこれまた1階路面。こちらはもっと小さなお店。

どちらも僕にとってとても大切なお店だ。今のところ、メガネを買うならココと決めている。

お兄さんの荒岡俊行さんに開店前のお店で話を伺った。まず、なぜメガネ屋をはじめたのかという質問を投げかけてみる。

「実家がメガネ屋だったんです。お爺さんの代から。1940年から始まってるんですね。もちろん、父親も後を継いでメガネ屋。叔父もメガネ屋。ちなみに母方のお爺さんもメガネ屋。それが縁でウチの両親が結婚したんですよね。」

メガネ一家だったんですね。

「この店も僕と弟で始めたんですけども、家業をそのまんま継いだ、という感じです。自分は大学卒業して、2年間、まったく違う業種にいたんですけども、いずれは家業を継ごうかな、というのが頭にあって。弟も同じような感じで、やるからには一緒にやろうということになった。」

お父さんのメガネ屋さんは下町にあるお店。ご近所さんをお客さんにするようなところだった。

「父のお店は地元密着型ですね。そういう姿を見てたので、一応デザイン性のあるインポートを中心にやったりはしてるんですけど、ブリンクも意外と地域密着型かもしれない。下町っぽい良さというか。お客さんといろんな世間話をしながらです。それはなんとなく、スタッフにも広がっているように感じます。」

お店をはじめる前に、ニューヨークのセリマ・オプティークでインターンを経験した。ニューヨークのお店ではあるけれど、社長がフランスから来ているので、なんとなく「ヨーロッパのメガネ屋さん」という雰囲気だった。

「ブリンクがオープンしたときのキャッチフレーズが、ヨーロッパの小さいメガネ屋さん、というようなものでした。それじゃ日本のメガネ屋さんとどこか違うのかと言えば、日本はわりと『好きなのを自分で選んでください』というスタイル。でも向こうだとホントに対面販売。1対1で、あなたに素敵なメガネを一緒に選んであげますよ、というもの。」

だからメガネがすべて目の届く店頭に並んでいるわけではない。引き出しから、とっておきの一本をどんどん出してあげるようなもの。ときにはお客さんが希望するメガネではなく「こちらはどうですか」と提案もする。

とはいえ、はじめは大変だったそうだ。

「まぁでも、振り返ってみると楽しいですよ。大変と言えば、大変ですけど。スタッフも感じているんじゃないかと思うんですよね。大変ですよね(笑)?」

そうやって、話はスタッフの矢澤さんへ。

矢澤さんは、荒岡さんの話に笑顔でうなずきながら、このお店で働きはじめた経緯を話してくれました。

「もともと映画とか音楽とか、いろいろなものが好きで。大学のときは芸術系の大学に入ったんです。それではじめはテレビ番組のプロダクションで働きはじめたのですが、帰れない、寝れない、お風呂にも入れない、みたいなところがあって。恥ずかしながら辞めてしまいました。」

「何にもやることがない、でも働かなければいけない、というときに、ふとメガネも好きだなあ、と思ったんです。」

はじめはスリープライスで販売するようなメガネ店で働き、そのあともう少しセレクトショップよりなお店に転職した。

「メガネが好きなのでいろいろなお店もまわってみたんです。そのなかで、ブリンクにも一回来て。そのときはたまたまお休みだったんですね。弟さんのほうがたまたま店にいて。僕が店の前で見ていると中に招いてくれた。そこで話をしているうちに、スタッフを募集していることを知って入社したんです。」

数あるメガネ屋さんの中で、どうしてこのお店だったのだろう?

「さっき荒岡も言っていたのですけど、販売スタイルの違いというのはある。前のお店だと、自分がほんとうにお客さんを満足させられてるか、喜ばせられてるか、あんまり自信なかった。」

Copyright © 2010 Nacasa & Partners Inc.

「接客方法も全然違ったんですよね。それまではホントに『これもカッコイイっすね。それもカッコイイっすね』みたいな感じで、ただ『良い』って言ってればいいのかなというか…。一方で自分はあんまり格好良くないなぁと思うことも正直あって。」

「でもブリンクにはすごい格好良いメガネが沢山あるなと思った。いまでも思うんですけど、ウチの店はセレクトに関してはホントに日本でもトップクラス。自分がそういうメガネをお客さんに勧めて届けられているのが、すごくやりがいを感じます。」

メガネに対する価値観も変わった。

「ブリンクに入るまでは、単にメガネ単体で格好良いかどうか考えていたんです。でもホント全身で見たときに、自分のイメージをガラリと変えるような、すごいファッション的な要素が強いものもあって。こんなのってあるんだ!と思ったんです。」

単にメガネ単体で考えていたのが、広がりを持って見るようになっていく。

「ほかにもすごい歴史を感じさせるようなものだったり。メガネだけじゃなくて、そのメガネを通して、昔のイギリスの俳優が掛けていたことに、思いを馳せるとか。そういうことって、それまで全然なくて。あとはもちろん、本人は分からないけれど、掛けてみるとよく似合うものも提案しますよ。」

なかなか言葉にできないことがある。理由はわからないけれど、その人にかけてもらいたいメガネがある。

そういうときに単にメガネを並べて、選んでもらって提供する、というスタイルでは、見逃されてしまうこともあるかもしれない。けれどゆっくり話をしながら一緒にメガネを探していく時間を通して、とても大切なものと出会えるような気がする。

こういうメガネを通した人と人の関わりは、デザイナーとの間にも存在する。

「掘り下げていくと、それぞれのブランドにそれぞれのストーリーがあると思うんですよね。それを誰が伝えるのかといったときに、僕らくらいしかいないんじゃないかなと思いますよね。」

「ウチの荒岡が、デザイナーの人たちに親身になるんですね。日本に来たら、いろいろアテンドしてあげたり。そうするとアドバイスを求められたり。一つひとつに対して、荒岡は真摯に応えてきたから、強い関係性があるのかな。」

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こんな話がある。

とあるブランドの発表会がパリであった。もともとは小さなブランドで、日本に進出したときからサポートしていたけれど、今では大きな会社になった。

社長やデザイナーはもはや近寄りがたい雰囲気があったけれど、「おう!」と気軽に声をかけてもらって、「一緒に飲もうぜ!」ということになった。

「そんなときに、がんばって良かったな、ってなりますよね。その当時と全然変わらない付き合いでした。日本に来たときも、深夜2時くらいまで居酒屋で飲んだりして(笑)。メガネについて語ったりとか。そういう関係がいつまでも続くのはいい。」

こういうことも、日々の積み重ねの賜物だと思う。

今度は普段の仕事ついて聞いてみる。

「そうですね。普通、販売員というとなんとなく、洋服だったら服を売るだけですよね。丈詰めとかもしないですよね。でも僕らは販売もやるし、検眼もやるし、修理もやるし、加工もやる。結局、販売職と技術職が両方合わさったような感じです。」

「僕、最初の面接のときに、いままでやったことがなかったんで、ノーズパッドを付けたいって言ったんですよ。パッドの加工をしたいって言ったんですね。半年後くらいに後悔するんですけど(笑)。もうホントに、ずーっと削って、付けて、磨いて、削って、付けて、磨いて… というのを延々とやるんですね(笑)」

なぜやりたい、と言ったのか、後悔するほどだった。今ではもっと慣れてスムーズにできるそうだけれど。

あとは普通に、「どうぞ買ってください」という接客ではない。お客さんとはいろいろな話をするけれど、話術が得意ならいいわけじゃない。普通に販売する以上に話をすることが多いので、人に興味がないと難しいとのこと。

それに企画やプロモーションの仕事も加わる。

「こうやったら、面白い」とか。「じゃあ、デザイナーを呼ぶだけじゃなくて、カルフォルニアのブランドだったら、カルフォルニアのワインを出してみたらどうだ?」というように、みんなで考えて実行する。

サッカーのトータルフットボールみたいな感じかもしれない。みんなで守備、みんなで攻撃。

「ずっとゴール前にいたほうがいいんだ」という人には合わない。

荒岡さんは、こんなことを話してくれた。

「いま働いてる会社で『働くことって何だろう?』というように、生きがいが得られないという人には、ウチの会社、すごくいいと思うんですよ。ただ、その代わり、会社に『何とかしてください』と求められても困るんです。」

非常にいい環境があるけど、だからといってそれに乗っかれば、誰でも素敵なところに連れていってもらえるわけじゃない。最終的には自分次第。

だから柔軟で、自分の頭で考えられる人がいい。基本的なルールは守ってほしいのだけれど、そのルールもまた、みんなでつくっていくものだそうだ。

自立した人たちが集まっているお店だと思う。だからスタッフに会いに来てくれるお客さんもいる。

どんなにインターネットでモノが売り買いされるようになっても、手にとってみたり、話を伺ってみたり。そうやって目と目を合わせて買ったほうがうれしいことがある。(2012/12/28up ケンタ)