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きものを知り、受け継ぐ

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きものにふれるのが好き。これまでの人生経験を活かしたい。そんな思いに適う求人です。日本仕事百貨のサイトは、幅広い年代の方に読まれています。ちょうど個人的に、少し上の世代に向けた求人記事をもっと増やしたいな、と思っていたところでした。

訪れたのはリユースショップ「くらしのくら」。有名な洋菓子店や人気のカフェがある深沢の一画にある。バス通りからも目立つ位置にあり、以前から気になって覗いていた店だった。デザイン愛好家には見逃せない家具が、店の表に陳列されていたりする。

店内に入ると、衣類やバッグ類、宝飾類、陶器類のコーナーがあり、その合間には、楽器やアートオブジェなどが並ぶ。店内は開放的で明るい雰囲気。品揃えのジャンルは雑多ながら、楽しげでホッとする印象がある。

リユースショップという仕事の魅力は、どんなところにあるのだろう。店を構えて12年、代表取締役の野坂治雄さんに聞いた。

「個人のお客様から品物をお買い取りし、個人のお客様に売るというのがリユースショップの基本です。買取で査定をして価格を提示すると、9割のお客様は『えっ、そんな安いの』と思われる。それだけ、思いや記憶がモノに込められているからでしょうね。最後はニコッと笑って売っていただくのが仕事ですから、そう簡単ではないですよ。」

仕事の大変さを口にしているものの、野坂さんの口調は明るい。

スタッフの人数は8人。それぞれのメンバーが得意なジャンルを持ちつつ、買取の仕事は全員がする。売ってくれる方の気持ちを推し量りながら、その場でモノの価値を判断する。

「高く買っても、安く買ってもダメ。高く買ったら利益を、安く買ったら相手との信頼関係を失います。利益を取ることが難しい仕事とも言えますね。スタッフが高価で買い取ってしまった場合、そのワケを探っていきます。うちは教育部門がないわけだから、失敗することが勉強なんです。」

「高価買取」と「不要品買取」は謳わない、くらしのくら。そのモットーは、いいモノを「適正価格で買い、適正価格で売る」というものだ。

くらしのくらの特徴は、売場の最も奥に位置する「きもの」コーナーにある。実はショップの柱とも言える、きもの販売。店全体の3〜4割の売り上げを占めるという。

今回の求人は、この「きもの担当スタッフ」。

「きものを着たことがあって、綺麗に畳める方がいいです。きものが好きでないと無理でしょうね。きものにいつも触れていたい、という方なら向いてます」と野坂さん。

現在、コーナーを切り盛りするのは大石真規子さん。店で扱う量が多くなり、一人では捌ききれなくなったのが求人の理由だ。

「買取は毎回、緊張します。いきなり一人で買取というのはありませんから安心してください。きものの基礎知識は必須ですが、未経験者でも構いません。知識が育つ土壌があれば、2年でひと通りのことはできるようになります。」

例えば、お店のブログにはこんな文章が載っていた。

数日前、箪笥二棹分の着物のお買い取りがあった。依頼主は七十代半ばで、孫二人と暮らしている。お迎えが来ても孫たちが処分に困らないように、自分できれいにしておきたいとのこと。「孫に聞いたら、いいよって言われたの、空になった帯ダンスはワイシャツを入れておくのにちょうどいいんだって」
柄行(がらゆき)のいい着物が多かったが、箪笥にしまったままで、何年も経過しているためヤケやシミが多く、半分以上がお買い取りできない状態だった。残った着物の山を前に、おばあさんの来し方行く末の話をお聞きした。離婚した息子さんを交通事故で亡くしてから、孫二人を親がわりで育ててきたこと、今は立派な社会人になって自分をとても大事にしてくれていること、夜明け前に起きて朝食の準備をしていること、夜遅く帰ってくる孫は疲れも見せず、おばあさんの体をもんでくれること・・・・・・・・その具体的な日常をお聞きするごとに、何の縁(ゆかり)もない自分がおばあさんの知り合いに染まっていく。 (後略)


知識にも増して、お客さんとコミュニケーションがうまく取れる方だと、なお良いようだ。

「その方がどういうつもりで売りに出されたか、値付けと同じくらい相手の気持ちを汲むことが大事なんです。このきものはあのときに着て、これはどこそこで買って、という1枚ずつの思い出を理解して聴くことが必要ですから。」

こうした買取をひと月10軒以上行うというのは、なかなかハード。確かに「憧れだけでは続かない仕事」と大石さんが言うのもわかる。

一方、野坂さんは「やったらその面白さにハマりますよ」と請け合う。

「相手の話を聞いて、その人生に向き合わないと、きものは買い取れないですよ。経験よりも、人生経験や人柄が大事です。でも、最低限『訪問着』や『付け下げ』といった、きものの種類がわかることは必須。ある程度は『大島紬』や『結城紬』など、地域ごとの織り方の種類を知っている方に来てほしい」と野坂さん。

ただ、きものを着て仕事をすることは、ほとんどないので、着付が得意でなくても大丈夫とのこと。

実際の仕事の流れはどうなんだろう。

「販売するまでの作業が大変なんですよ。お買い取りした品物は、身丈(みたけ)、裄(ゆき)など、すべてのサイズを測って、売場に出せるものかを検品します。仕分け、検品、値付けの作業を経て売場へ。自分が仕入れたきものを販売することで、きもの自体の知識、お客様のニーズなど、総合的な経験が蓄積されていきます」と大石さん。

とは言っても、残業はほとんどないそうだからご安心を。ちなみに大石さん、どんなお客さんが多いですか?

「いいものがわかるお客さんですね。きものの世界にも、ブランドがあります。例えば、帯の代表格である『龍村』や『川島織物』はないの?とお客さんに言われて、それを見せることができるといい店だと認知されますね。ただしリユースでは、ブランドがわからないケースが8割くらい。織りや糸の色がいいものですよ、と言えるようになるには数年はかかります。」

野坂さんは「ものを売るのは結局、人なんですよ」と強調した。

「きものや骨董は、誰が売っても売れるというものではありません。ある程度の専門知識がないと買ってもらえませんから。大石にはTPOに合わせてコーディネートする力があるので、安心して来るお客さんがいます。今度入った方には、また新しいお客さんがつくのだと思いますよ。」

ここで野坂さんのiPhoneが鳴る。横浜の市場にトラックで競りに出かけたスタッフからの写真付きメールだ。「いい桐ダンスが出ている」という内容だった。

くらしのくらでは、オークション市場で仕入れることはほとんどないが、例外は顧客からリクエストがある品物。台帳を見ると、詳細なリクエストが並んでいる。開店から12年の積み重ねで、どのお客さんがどんなものを欲しているか二人の頭にすっかり入っているようだ。

大石さんは6年目の社員とのこと。もともとはOLをしていたが、徐々に和裁などの和の伝統に興味を持つようになり、悉皆屋(=しっかいや。きもの手入れ全般を行うほか、リフォームなども行う)での経験を経て、くらしのくらへ入店した。

「このお店の何が良かったかというと、きもの以外もやっているところが気に入って。私はあらゆるものに興味があったから」と言うからユニーク。

いま、この仕事の面白さをどんなところに感じていますか?

「きものには似ているものはあるけど、同じものは本当にないんです。毎回の買取で違うものに出会えるのが楽しいですね。明治や大正のきものもあります。いいものだけど、現役のきものとしては使えないという場合は、端切れや生地として取っておいたりする。きものとしての寿命が終わっても、いろんな使い道があるんですよ。」

嬉しそうに話してくれた大石さん。逆に仕事でキツいところも伺っておきたいです。

「軽自動車を運転しての買取や、倉庫での力仕事などもありますよ。ホコリやカビなどが、凄いきものも一部に入ってきますね。重い風呂敷包みを運んだり、古いダンボールの中を仕分けたり、フットワークの良さも大事です。そういった裏の作業にも思いが及んでいる人でないと、潔癖性の方には辛いかもしれません。」

華やかなだけではない、リユースショップの裏側。大石さんはその醍醐味をこんな言葉で表した。

「これまで私は、好奇心のかたまりで仕事してきたようなものです。どうしてそうなっているんだろうという謎が、仕事でちょっとずつ解けるのが楽しいんです。買い取ったきものを調べていくうちに、これは何織りだとわかったり。ちっちゃな喜びが日々あるんですよね。」

深沢という落ち着いたエリアで、毎日の小さな発見をお客さんに届ける仕事。なんだか、とってもいい。

最後に再びお店のブログから、読み手のこちらにも興奮が伝わってくる大石さんの文章を紹介したい。

「辻が花」をご存知でしょうか?
「あぁ、絞りと染めのアレね」
「デコラティブで、豪華絢爛なキモノでしょう?」
実を言いますと私もそう思っていたのです。本物の「一竹辻が花」を見るまでは・・・。


ある日、その幻ともいえる「辻が花」を買って欲しい、との話が舞い込みました。それが「初代久保田一竹、一竹辻が花」の訪問着、袋帯、道中着です。
スタッフ一同、きものコーナーの畳に集合し、「きさらぎ」という銘が箱書きされた桐箱を開けます。うこんの風呂敷をめくり、「一竹辻が花」と書かれた上等な畳紙(たとうし)を開けます。

重みのある紋織りの綸子(りんず)の生地で、淡い水色の地色が裾に向かって濃い青にぼかしています。そして、辻が花の代表的なモチーフである、八重の花、葉、葵の葉が眼に飛び込んできました。スタッフの感嘆のため息が漏れてきます。恐る恐る広げると、肩、胸、袖、裾に惜しみなく辻が花の模様が施されている贅沢な柄行です。
以前に、きもの雑誌に載っている一竹作品を見ましたが、比べ物になりません。絞りの立体感、ぼかし部分の色の変化、染めの差し色、全体の流れるような柄付けの構成、どれをとっても技と天性のセンスが感じられ、上品な中にも迫力となって訴えかけてくるものがあります。(後略)

ちなみにこの辻が花、仕入れて3日で買われていったというから、まさに幻のきものとなったそうだ。

きものに昔から抱いていた興味を、仕事につなげたかった方。子育てなどで仕事をお休みしていて、これからじっくり一生のキャリアを探していた方。応募を検討されてはいかがでしょうか。(2012/12/29 カンキup)