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共生する島

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長崎の西の海。どこにでもあるようでここにしかない、世界中から人が訪れる豊かな島があります。今回の募集は、そんな旅人を迎える仕事。

佐世保から高速船で2時間、もしくは博多から客船で5時間ほど。対馬海流が流れる海に浮かぶのが小値賀島。その昔、遣唐使の時代から多くの船が行き交い、様々な文化が交差した場所だ。

島に降り立つとその豊かさがよく感じられる。かつて捕鯨や海運商人の交流中継地として栄えたためか、立派な民家が並ぶ町並みが美しい。小さな商店はいくつかあるけれど、コンビニや大きな看板などは見当たらない。唯一の大きな看板は島に一軒だけある古いパチンコ店のもの。素朴な漁港から路地に迷いこむと、昭和から時が止まっているようだ。

この島では高齢化が進み、仕事を求めて島をあとにする若い人も多い。結果として20代、30代が減り、少子化が進む悪循環。この10年間で1000人近い人口が減ってしまった。根本的な解決には働く場所をつくること。2004年の平成の大合併で「一町独立」の答えを出したこの町は、07年より町の観光協会をNPO法人として独立させ、旅行者が島内の漁師や農家の民家にホームステイできる「民泊」や、世界遺産候補にもなった隣にあるほぼ無人の島「野崎島」体験ガイドなどのプロジェクトがはじまった。

今回、募集する仕事もそんな新しいプロジェクトの一つ。3年前、島内に点在する築100年以上になる古民家を改装して、大人も楽しめる貸切宿泊施設とレストランをスタートさせた。プロデュースは京都の町屋再生事業をしたアレックス・カーさんによるもの。

さて、今回募集するのは宿泊施設の担当。島のパートスタッフさんたちをマネジメントして客室を運営したり、宿泊施設の庭の手入れや清掃、港でお客さまを迎えるフロント業務などがある。

すでに多くの若者が働いている。そのリーダーであるのが高砂さんだ。

「共生っていう言葉が一番ぴったりくる島だと思います。」

高砂さんはこの島に来る前、劇団わらび座に所属して全国各地で公演をしていた。そんな中で自給自足な生活がしたくなって、いくつかの場所に移り住む。最後に行き着いたのが小値賀だった。

「僕自身も、ちょうど6年前に家族連れて、まったく縁もゆかりもなかったんですけど移住してきて。ほんとに「ど」が三つぐらいつく田舎にこだわっていて(笑)。たとえば、生活圏内にコンビニがないとか。日曜になったら商店がみんな閉まるとかね。うん、そういう人間として当たり前のリズムっていうか、そういうことが地域の良さだという風に思って。人間らしい地域っていうか、そういうようなところで自分の子どもを育てたかった。ほんとになんか、ここに出会ったときは「みつけたぁ!」っていう感じ、でしたね。」

「うちでいま働いてるメンバーなんか、みんな多かれ少なかれ、この島のよさにやっぱり惹かれてきてるし。大前提としてこの島を愛せるかどうか。この島のなにもなさが、なんていうかね、閉塞感として感じるか、それか魅力だと感じるか、そのへんのところがやっぱりすごくおっきいなあっていうふうに思ってはいるんですけどね。」

たとえばスタバやコンビニが恋しくなったり、週末に佐世保に行くような人は長続きしないそうだ。正月やお盆でも里帰りしないで、この島で、この島の人と正月を迎えたい!そんな人がいいかもしれない。

ちなみに男性スタッフはみな島の消防団に所属しているそうだ。月二回は集まって訓練するし、サイレンがなれば現場に駆けつける。

「以前、テレビ番組の取材を受けているときに、サイレンが鳴ったんですよ。それで、すいません、ちょっとカメラ止めてもらえますか、って言って、だーって走っていって。結局、この島を愛せるかどうか。たぶん好きになるっていうレベルじゃないんですよね、やっぱり。愛するっていうレベルっていうか。」

スタッフたちが愛す小値賀の特徴。それは人と人のつながりが濃いところ。

たとえば高砂さんの奥さんがカレー粉を買うと、次の日には全然関係ない人から「昨日、カレーやった?」と聞かれる。娘さんがにわか雨に打たれていたら、どこの誰かが車に乗せて帰ってくれる。でも「誰に乗せてもらったの?」と聞いても、「知らんおじさん」と答えて分からない。島が大きな家族のようだ。

あとは島の暮らしに自然が深く入り込んでいるところ。たとえば多くの人は月の満ち欠けで暮らしている。船を出すにしても、磯場で何かを採集するにしても、潮の満ち引きを考えなくてはならない。

人との共生。自然との共生。

都会とは違って、いろいろなものと一緒に生きていかなければいけない。

今回募集している宿泊施設の管理運営もまた、「人との共生」の場であるという。

「古民家ステイ」の管理運営の責任者である柴田さんに、今回募集する仕事内容について話を聞いた。

「ホームページとか見て、なんだかキラキラ輝いたおしゃれな仕事だなって思ってくださる方も多いんですけど(笑)。それを支える僕たちの仕事は決してそうではなくて。たんたんと日々の作業に汗を流し、沢山の人々と接して人間関係をつくっていく、むしろ泥臭い人間らしい仕事です。それを誠実に楽しんで出来る人がいいですね。」

仕事は、庭木の手入れや室内の掃除から、パートさんたちのマネジメント、窓口でのお客様対応、メールや電話の対応と幅広い。オールマイティな働きが必要な中で、柴田さんが特に大切にしている事はなんだろう。

「古民家ステイの管理運営の仕事で最も必要なものは『コミュニケーション力』です。接客は勿論、共に働く島のパートのお母さんたちが誇りを持って働くことの出来る環境づくりを大切にしています。体力や花を生けるセンスなんかも必要になりますが、なによりも大切なのはやはり人間関係を構築できる力です。」

パートさんたちのシフトを作成したり、仕事の指導をしたり、立場的にはパートさんたちの上に立つ仕事だが、柴田さんは率先して現場に共に入り、汗を流してこられたという。

「パートのみなさんへの感謝の気持ちを忘れたら、絶対にこの仕事は成り立ちません。たとえば施設のお掃除のパートさんはほとんどが島のお母さんです。家でも田んぼや畑を持って忙しく働いておられます。掃除の仕事って体力的にもしんどいし、家の用事とかもあるなか急な仕事を無理いってお願いすることもあるんです。」

「それでも『よかよ~』って笑顔で引き受けてくださる。それは、お金と同じくらい、ここで働くという事に誇りを持ってくださっているからだ感じています。自分たちが磨き上げたこの古民家に全国から来られるお客様が泊まって下さるという事の誇りです。それって本当にありがたい、嬉しいことですよね。だからその気持ちに僕も答えたいんです。」

柴田さんのいう「コミニュケーション力」とは、表面上の会話などよりもっと奥にあるもの事なのだと感じた。共に汗を流すスタッフの心を感じ取ることが出来る、お母さんたちが「この人の為なら頑張ろう」と思えるくらいの努力ができること。敬意を持って互いに仕事が出来ている職場って素敵だ。それを作っていくのが、今回の仕事なのだろう。

小高さんも島で働く移住者の一人。大阪で生まれ育つ。以前は保険会社などのシステム開発をしていた。けれどリーマンショックのあとに、景気が悪くなってどんどん同僚たちが辞めていった。

それまではある程度お金を貯めたら、早期退職して島に移り住んでみたい、というような思いは漠然とあったものの、不景気がきっかけとなって仕事への考え方も変わっていった。お金のため、組織のため、というよりも、人の役に立ち、喜んでもらっている事を感じれる仕事がしたい。そんなときに出会ったのが小値賀だった。

「そのタイミングですね。お金が最低限しかなくて食べていくだけしかできなくても不幸なのかって考えたときに、そうじゃないんじゃないかなあって思ってきたんですね。とはいえ田舎って人間関係が結構めんどくさいのかなって予想してたんですけど、そこもまた価値観がぽろっと変わったタイミングで、それも面白いんじゃないかなあって。せっかく生きてるんだったら、いろんな人と会ったほうが面白い人生なんじゃないかなあって思ったんですね。そんときにたまたま、ほんとたまたまなんですけど、インターネットでここの求人を見つけて。」

その週末には小値賀で面接を受け、島に来るか、仕事を続けるかの2択になっていた。そして引っ張られるように移り住むことになる。

実際に住んでみると人付き合いもめんどうなものとは感じなかった。むしろとてもよいものだったそうだ。

「島にもとから住んでいる人は受け入れるのがすごく上手なんですよ。いろいろな人が混ざり合っている土地なので、人間関係の心配で躊躇している人はいいのかな、って思います。自分から入っていこうという気持ちがあれば、地域の人は受け入れてくれる感じがするところ。」

そんな小高さんとともに島に移住した奥さんのお話も面白い。

「楽しみにしていた以上に面白いです。たとえば町内の清掃とか、田舎って地区会とかそういうのいっぱいあるでしょ?そういうのだらけなんですけど、別に頑張らなくても楽しい。たとえばこのへんは海藻をみんなで取りに行って、それを漁協に売って、地区会費にあてているんですよ(笑) すごいでしょ。そうやってみんなでやってきたんでしょうけど。磯で金具でガリガリって。今では何でもかんでも教えてくれるんですよ。たとえば今度、檀家の集いでお菓子つくるけどあんた来るって(笑) 無料カルチャースクールですね。コミュニティーから逃れるというか、仙人のような暮らし方を探しているのなら、ちょっと小値賀は難しいと思う。人とのつながりは濃くなると思いますよ。引越してきた瞬間から町民全員に知られるんです。居酒屋行っても全員知り合いだから愚痴なんて言えないですよ。それにストレスを感じる人もいるでしょうね。」

ほかにも若い移住者が多い。彼らもまた新しい人を快く受け入れてくれるだろう。

この募集に応募するということは、古民家ステイの仕事をする、ということだけじゃないと思う。この島に住みたいかどうか。島の人と一緒に生きていきたいかどうか。そのためには、まず島を訪れることをおすすめします。小高さんのように今週末訪れて、気がついたら移住しているかもしれません!(2012/12/30up ケンタ)