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もういちど暮らす

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朝起きたら、リビングにはみんながいる。「朝食は何を食べようか?」食べ終わったあとは、天気が良かったら散歩をする。一日中テレビを見て過ごすような日もある。そうして夕方になると、みんなで近くの商店街まで夕食の買い出しに行く。

新しくできるグループホームの一日は、こんな感じかもしれない。

わたしもお伺いするまで知らなかったのだけれど、グループホームは、認知症の方専門の介護福祉施設のこと。記憶が途切れてしまったり、巻き戻ってしまうといった症状を抱えた方たちが、お互いに助け合いながら暮らしている。

世の中には、まだあまり知られていない部分に関わっていく仕事になると思います。

今回は、大起エンゼルヘルプが運営するグループホームで暮らす認知症の方たちの生活をサポートする、ケアスタッフの募集です。

東京・杉並区、松ノ木にある「グループホームなごみ松ノ木」にお伺いする。

新築で、壁も床もピカピカ。ただ、オープン直前のタイミングだったので、スタッフの方たちは準備でとても忙しそうだった。

3階建ての施設は、それぞれフロアごとに玄関があり、3つの住宅に分かれている。フロアごとに「ユニットリーダー」という役割があり、そのフロアで暮らす利用者さんや、スタッフたちをまとめている。

3人のユニットリーダーのうちのひとりである、水上さんに話を聞いてみる。

「入居される利用者さんは、ここで生活を送っていくことになります。そして、1日のうちの8時間ほど、わたしたちがその方たちの生活に入って、一緒に暮らしていく感じになります。利用者さんの生活をサポートするのが仕事です。」

『介護』といってイメージするのは、おむつを変えたり、入浴を手伝ったりすること。サポートってそういうことなのかな?と思ったのだけれど、ここのスタッフの仕事は少し違うのだそうだ。

「できないことを補助するのではなく、できることを手伝っていく感じです。認知症の方にも残された能力があるので、そこに目を向けて、今までと変わらない暮らしができるようにするのが目標です。」

好きなときに外に出て、好きなときにご飯を食べて、好きなように過ごせるように。「今までと変わらない暮らし」を送れるように。

例えば、象徴的なのは、この施設はドアに「鍵」をかけないのだそうだ。

「普通は、こういう施設には、何か問題が起こるのを防止するために施錠されているんです。でもここは、利用者の方が自由に出入りできるようにしているんですよ。」

突然外に出ていってしまったらどうするんですか?

「『いってらっしゃい』と見送るんです。基本的には引き止めないようにしています。でも、戻って来れなくなってしまうと困るので、わたしたちがこっそり後をついていくんですよ。気づかれないように。」

なんだか「はじめてのおつかい」みたいですね。

「そうなんです(笑)。後ろの電柱の影から覗いていたりするんです。そして、本人が道に迷っていたり、なにか困った様子を見せたときに、『あれ、〇〇さん、こんなところで何してるんですか?』と、偶然を装って声をかけるんです。それで、一緒に施設まで帰ってくるんですよ。」

こうして後をついていくことを、「後方見守り」というそうだ。施錠しない代わりに、こんな仕組みがある。福祉施設といって想像していたよりも、とても自由な印象を受けた。

水上さんはもともと、ここに来る前はオフィスビルのなかで働く会社員だったそうだ。たまたま何か資格を取りたいな、というところから、介護に興味を持った。

資格を取得するため、ある老人保健施設へ研修に入った。そのとき、こういう介護は絶対にやりたくない!と強く思うことがあった。

「ご高齢の利用者さんたちが沢山いらして、それに対して職員さんの数がすごく少なかったんです。だから、職員さんの時間軸に利用者さんが合わされていたし、そこにいらっしゃる方たちの表情も、牢屋の中に閉じ込められているような感じだったんです。自由がなくて、人生を捨ててしまっているというか。こういうのは絶対に嫌だな、と感じました。」

強く疑問を感じた水上さんは、資格は取得したものの、一度福祉の道に進むことを辞めてしまった。そんなとき、知り合いから「ここでならやりたい福祉ができるんじゃないの?」と紹介されたのが、大起エンゼルヘルプだった。

確かに、ここが実践している介護は、利用者の方を牢屋に閉じ込めるようなものではないと思う。ただ、スタッフの立場からしてみたら、ものすごく大変だと思う。

「たしかに、かなり頭を使いますね。ひとりひとりを知っていかないといけないので、時間もかかります。その人を知らないと、その人がどんなことをどこまでできるのか分からないんですよ。分からないと、声をかけることもできないんです。」

例えば、喉が渇いたとき、お茶を淹れて飲むまでの一連の流れを全てひとりでできる人もいれば、急須を見せることで「お茶を淹れる」という行為を思い出す人もいる。思い出しても、お湯を沸かすことができない人もいる。人それぞれ、出来ることと出来ないことが違うのだそうだ。

「この人はどこまで手助けしてあげたらお茶を飲むことが出来るのかな?と見て、考えるんです。本当に色々な方がいらっしゃいます。自尊心を傷つけないように、言葉の遣い方にも慎重になりながらやっています。」

じっとその人のことを知ろうと見ていると、あ、この人こんなこともできるんだ、という発見があるのだそうだ。

「それが、嬉しくて。その力を伸ばしたり、維持できるようにしていきたいな、と思うんですよね。普通にOLをやっていたときは、つまんないとか辞めたいとかよく思っていたりしたのですが、今はそういうことはないです。」

事故や事件などの責任問題もある。夜勤も交代制であり、24時間態勢で見守っているそうだ。それは、仕事としてみてみると、厳しい条件のように思う。

だけど水上さんは、あまり辛いと感じたりはしないそうだ。

ひとりひとりの持っている生活の力に目を向けて、気付くこと。それを伸ばすためにはどうしたらいいか考えること。水上さんは日々の小さな発見を積み重ねて、楽しんでいるように思う。「一緒に暮らす」という感覚を持っているから、辛くないのかもしれない。

この「グループホームなごみ松ノ木」の施設長を務めることになる、福井さんにも話を聞いてみる。

「僕たちの仕事は、認知症の方々の生活を元に戻すことだと思います。認知症という病気自体は治せないし止められないけど、僕らが隣にいることで、生活を取り戻すことはできると思うんですよね。」

生活を取り戻す?

「認知症になると、自分が今までやれていたことができなくなったり、さっきまでしていたことを思い出せなくなってしまう。そうすると、迷子になるから、と買物に行かせてもらえなくなったり、火事になると大変だから、と火を使わせてもらえなくなってしまったりするんですよ。元々やっていた生活が、どんどん奪われていってしまうわけです。」

そんなとき、福井さんたちが一緒にいれば、買物に行くことも、火を使うこともできる。何もさせてもらえないところから、自分で何かできるという環境をつくりだす。それが、「生活を取り戻す」ということ。

一般的に思い浮かべる介護や福祉とは少し違うのは、この部分かもしれない。できないことをしてあげるのではなく、できることを取り戻していく感じ。

福井さん自身はどうしてこの仕事についたのだろう?

「福祉の道に進もうと思ったのは、人と違うことがしたかったからですね。みんなと同じなのは嫌だなと考えたときに、社会福祉って変わっていていいなと思ったんですよ。当時は、まだ介護をしている男性は少なかったんですよね。福祉に行くなんて変わってるね、と言われたかっただけなんです。」

今は時代も変わって、そんなに珍しいことではなくなったような気もします。

「確かに、男性も増えていますしね。珍しくも、変わってもいないと思います。それでも、この仕事を続けているのは、普通の仕事では味わえない魅力があるからですね。」

福井さんたちがやっていることは、認知度は上がってきたけれど、まだまだ一般的には知られていないような仕事。

「例えば、お金を貯めて買ったマイホームの隣に、認知症の施設ができると聞いたらどう思いますか?少し、嫌じゃないですか?」

そうですね。嫌、とは違いますが、何か想像してしまうかもしれません。

「どうして嫌だったり怖かったりするかといったら、相手が分からないからなんですね。突然飛び出したり、叫んだりするんじゃないかとか、そういうイメージで怖くなってしまう。認知症って、やっぱりまだまだ正しく理解されていないんですよ。」

「そういった意味で、世間一般の人たちにあまり知られてないことに関われているというのが楽しいかな。社会的にはまだ敬遠されていますね。そこにどんどん、挑戦していく感じなんです。」

挑戦していく。

「そうです。どうでもいいことするんですよね、わざと。コーヒーなんて喫茶店に行かなくても、家で淹れて飲めばいいですよね。でも、わざと喫茶店に行ってコーヒーを飲んでみたりするんです。アイス食べたいねって、わざわざアイス屋さんに行ったりするんです。」

一緒に映画を観に行くこともある。短期記憶といって、ついさっきの記憶を忘れてしまう人は、グループホームに戻るころには、観た内容を忘れてしまうそうだ。まぁ、そんなのも楽しいよな、それでいいよな。そんな風に、福井さんは思っている。

どこかにでかけても、その思い出はすぐに忘れてしまうのかもしれない。けれど、好きなときにでかける、という生活を取り戻すためだけにでも、外に出る価値はあるのだと思う。

「好意的に『また来てくれたんですか』と言ってくれる商店さんもあります。1人で歩いているの見て、電話で知らせてくれたり、保護してくれたりする方もいました。それは、地域と関係が成熟してきた段階なんだよね。ここの場合は、地域との関係をこれからつくっていくことになります。成熟するまでには、まだまだ時間がかかると思います。そこが、やりがいかもしれません。」

地域との関係は、時間をかけて積み重ねながらできていくもの。

「ちょっとずつ、ちょっとずつ、今までと変わらない生活を取り戻していきたいと思います。これが面白いんだよね。こんな面白いこと、普通の職場で働いていたら絶対味わえないと思います。」

介護の資格がない方でも、ここは介護という枠のなかで人を見ているわけではないと思うから、大丈夫です。知らない世界は躊躇してしまうけれど、知ってみたらそこには、喜びも面白さもあるかもしれません。(2013/2/25 up ナナコ)