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わたしのハンカチ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

システマチックに高度に分業する、というのが当たり前な世の中だけれども。自分の目が届くところでつくりあげ、それを目の前の人に説明して販売する。

こういうのっていい仕事だなって思うんです。

そして、そんな働き方をしていると、自然と自分の暮らしにも仕事が溶け込んでいく。

H TOKYO(エイチ トーキョー)で働くということはそういうことのような気がします。自分たちでファブリックから考えて、職人さんたちの手仕事で縫製したハンカチを売るお店です。

東京中央郵便局のある建物にKITTE(キッテ)という商業施設がこの春に開業します。そこに新しくできるお店で働くスタッフを募集します。

三軒茶屋と池尻大橋の間。246号線の三宿の交差点を曲がって、学芸大学のほうに少し歩くと、H TOKYOの路面店がある。日本仕事百貨でも何度も掲載しているお店で、ぼくも個人的に通うお店。持っているハンカチの大半がここのものだ。

ハンカチ専門店なんてあまりない。たぶんハンカチというもの自体がそれほど世の中で重要に思われていないのかもしれない。でもお店に入ると、本当にいろいろなハンカチがあるものだな、といつも関心してしまう。

代表の間中さんと店内のテーブルに座って世間話をしたあとに、今回の募集について聞くことにした。

「ここのお店ができて4年目です。新しく卸しをするところも増えてきて、お客さんが手に取る機会も増えてきたのかなとは思うんですけど、そうはいってもたくさんの商品を見ることはできない。この三宿のお店もすごい好きなんだけれども、アクセスはあまり良くないんですよね。」

「僕らの名前もH TOKYOだし、東京駅の前にあるところからお声がけしてもらったので、直営店を出店しようと思いました。もっともっとハンカチをたくさんの人に見てもらいたいと思っていたんです。そして自分たちの言葉で伝えていきたい。」

ハンカチって、ただの布、って言ってしまえばそうなのかもしれないけれど。

H TOKYOのハンカチって、いいハンカチをつくるためにはどうしたらいいか、とことん考えて、ものづくりされているように思います。

「そうですね。僕たちはハンカチ専門の縫製屋さんにお願いしているから、きれいさが違いますね。職人のおばあちゃんたちも、どうやったらきれいに縫えるかすごい気を使っているんです。」

たまに縫うのが難しい生地をお願いすると、もう縫えません、というお手紙を頂くそうだ。それでも話をして、なんとか時間のあるときにお願いする。そうするとしぶしぶ縫ってくれる。

でもやっぱり手縫いっていいんですよね。中にはミシンで縫っているものもあるけれども、職人さんたちの手縫いのものは一目でそれとわかる。なんだか柔らかくて、さわり心地もいい。

職人さんは家の1階を作業場にして、4、5人あつまって働いているそうだ。そのとなりでおじいちゃんが蒸気を当ててしわを伸ばしている。できあがったものは新聞紙に包まれて送ってくれる。

生地も個性的なものばかり。すでにあるものを使うこともあるけれども、一から生地をつくることも多いそうだ。

間中さんが一つのハンカチを見せてくれた。

「これは抜染プリントですね。」

抜染?

「普通は白の生地に色を乗せるんですけど、抜染っていうのは色を染めた後に抜くってことをしなくちゃいけなくて。そうすると裏表がないようなハンカチになるんです。」

「裏にも色が抜けてるっていうのがいいプリント、という文化があるんですよ。たとえば、こっちのハンカチのように裏が真っ白じゃなくて、裏も表も同じように色が入っているのがいいって考え方があって。これはけっこうやってるところが少なくて、試行錯誤しながら何度もやり直しました。プリントも結構できるようになりましたよ。」

ほかにも新しい取り組みが増えている。

たとえば「アウトドアハンカチ」という商品は、タオルをハンカチの形にして、ぶら下げることができるようにしたもの。夏場のフェスとか、ハイキングなどにも良さそうだ。

自分たちのできることも増えているし、川上から川下まで、多くの工程に関わることができるようになったそうだ。普通は規模が大きくなるにつれて、丸ごとアウトソースすることも多いような気もするけれども。

間中さんは次のように話す。

「やっぱりものを知りたければ、自分たちでものづくりしていかないといけないですし、そうすればお客さまにも自分の言葉で伝えることができます。」

「今の世の中って不思議なんですけど、工業製品化してしまって、一般の人には製造加工とかも理解できなくなってしまった。すると壊れたら自分で直すこともできない。修理に出すのも割高だから、新しいものを買うっていう、そんな世の中になっている気がするんです。」

H TOKYOのハンカチはほどけたりしたら無償で直してくれるそうだ。

「4年前の商品が届いたことがありましたけど、大事に使ってくれて嬉しかったですね。そういうことをやっていきたいです。」

お願いすれば刺繍をしてくれるし、販売する前に一つひとつ丁寧にアイロンをかけてくれる。店頭にある商品はどれもシワがなくきれいだけれど、そういうことってやっぱりうれしい。アイロン掛けをしたハンカチを手に取って、「たいやきをもらったみたい」と言うお客さまもいるそうだ。

毎日ハンカチを持つことも、とても気持ちのいいもの。ここでハンカチを買うまでは、平気で忘れてしまっていたけれども、毎朝どれを持っていくか楽しむようになった。

「小さい頃ってハンカチってもたされるもの。これは日本人のしつけとしてよいですよね。これが社会人になってくると、もらうものになってきた。それで、うちのハンカチに出会うと、自分でもちたい、買いたいってなるそうなんです。そういう変化っていいですよね。」

お店で働いている大津さんにも話を聞いてみる。彼女は仕事百貨を通して、ここで働くことになった一人だ。

もうどれくらい働いていますか?

「もうすぐ丸4年経ちます。」

4年間、どうでしたか。

「あっという間でした。もうめまぐるしく毎日が過ぎていく感じです。やっぱり卸が多くなってきているので、新規の話の打ち合わせとかいろいろあるんですよ。」

なんだか失礼ですけど、ハンカチ屋さんってなんとなく暇そうなイメージがあるんですけど。

「あー、そうですね。でも思ったよりも時間はあっという間に過ぎていきます。魔女の宅急便のキキが働いてるパン屋さんみたいなイメージがあるかもしれませんけど(笑)」

そうそう、そういうイメージです(笑)

「でもいろいろやることがあるんですよ。たとえば、去年の今頃なんですけど、かせきさいだぁさんのハンカチを作ったんです。」

「発売したとき、かせきさいだぁさん、13年間音楽活動を休止してたんです。ずっと絵を描いていたりしていて。それで復帰することもあって、一緒に企画して音楽のフェスをやったんです。音楽とワークショップと飲食、それにトークもして。」

そんなこともやるんですね。

「あとはクッキーボーイさんにお店全体をクッキーで飾ってもらって、1ヶ月間クッキーの香りがお店の中を漂ってる、といような展示をしたり。」

そういうものって、どうやって生まれるんですか?

「せっかくハンカチを作ったので、デザイナーの世界観も見てほしいんです。かせきさんの場合は、音楽をしていらっしゃるので、音楽にいきついたんです。本当に素敵だなって思うので、いっぱい引き出したかったんですよ。」

H TOKYOには、こういったコミュニティがあるように思う。乱暴に言ってしまえば、有名人に頼んで売上げをあげるようなことも世の中にはあるのかもしれないけれども、ここではコミュニティの中から自然にハンカチが生まれて、そこから広がっていくように感じる。

個人的にもこのお店を訪れて知り合った人も多い。まるで地域のサロンのような場所になっている。それくらい居心地がいいのかもしれない。

ハンカチしかない空間だから、客の立場で言えば店員さんから逃げられないような感じもする。それでも居心地がいいのは、働いている人の良さなのかな。

作り手である職人さんたちとも家族のように触れ合うし、H TOKYOにはいいつながりにあふれている。仕事は仕事、というように割り切ることをしなくていいというか。

日々の仕事はどういうものか、大津さんに聞いてみる。

「そうですね。アイロンかけて、刺繍をいれたり、掃除したり。」

発送業務などはないですか?

「基本的に丸の内店はないですね。卸しなどは三宿でやるので。」

いきなり一人でお店に立つこともないそうだ。基本的には二人で働くことになる。大津さんも新しい丸の内店でも働くことになるそうだし、新しいスタッフが三宿店に行くこともある。

だから先輩達がいろんなことを教えてくれると思う。三宿店にあったコミュニティみたいなものも、新しいお店へ引き継がれていくだろうし。

間中さんがこんな話をしてくれた。

「これ以上自分の店を増やそうって気はないんですよ。基本的な仕事はありますけれども、一緒に働いてくれてる仲間と同じ空気感で働きたいと思っています。東京駅は売ることが中心になるかもしれないけれども、三宿にも来てもらいたいし、東京駅でも展示を企画してもらったり、いろんなデザイナーさんとか、物づくりする人たちと触れ合ってもらいたいです。」

どういう人がいいか聞いてみると、間中さんは「コミュニケーションができる人」、そして大津さんは「笑顔がいい人」とのこと。

そしてもう一つ言われたのが「自分の武器を持っている人」。

たとえば、大津さんは自分で帽子をつくるし、あるスタッフはデザインが得意で、布切れをつかって蝶ネクタイを開発したそうだ。

身近でものづくりが行われているから、いい影響があるのかもしれない。それに間中さんも「新しいことは大歓迎だし、機会もつくっていきたい」とのこと。いい環境だと思う。

ただ、まずは基本的な仕事をすることが大切だとは思います。それなしに、新しいものを生み出すことはできない。

でも働いているうちにいろいろな機会が生まれてくるはず。

たとえば、お店に訪れる人と休みの日も会うようになったり。今度はそこから新しい企画が生まれたり。自分が新しい商品をつくることもあるかもしれない。

あらゆるものが自分のこととしてつながっていくように思います。まさに生きるように働く人の職場です。(2013/2/13 up ケンタ)