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都市と農家をつなげる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

農家さんから届いた新鮮な野菜を店頭に並べていく。ここで働くまでは見たことも聞いたこともないものも多い。自然と野菜に詳しくなった。

開店すると、近所の方が早速来てくれた。いつもここの野菜はおいしいと言ってくれる。有名レストランの料理長も常連さんだ。築地では買えないものがあると喜んでくれる。

これは赤坂にできたマルシェで働く人の一日を想像して書いたもの。元麻布農園など、都市と地方をつなげ、農家さんと交流することができるシェアハウスを手がけるスローライフ。半年前から街の中でマルシェをはじめています。これを運営していく人の募集です。

赤坂にある「Wakiya一笑 美茶樓」。最近、復活した料理の鉄人こと「アイアンシェフ」にも出演している脇屋さんのレストラン。その敷地内にマルシェはある。

ただ、単に間借りさせてもらっているだけではなく、どうやらきっかけがあるそうだ。

スローライフの片岡さんに、なぜこの場所でマルシェをはじめることになったのか聞いてみる。

「農家は農家で販売などがんばってるんだけど、結局いそがしいんです。毎日畑仕事だし、営業するにも時間の制約がある。そんな話を農家から聞いて、なんとかできないかな〜と会話していくなかで、シェフと農家を繋げる仕組みがつくれたら、お互いにとっていいんじゃないかと思ったんです。」

「農家さんと交流するシェアハウス」というコンセプトの元麻布農園も、もともと縁から生まれたもの。自分が畑いじりをしたいと場所を探していたら、空き地を見つけることになり、隣の外国人向けの賃貸物件の運営も依頼されたことからはじめることになった。

今回も農家さんの話、そして知り合いのシェフたちの話を聞いていたらひらめいたそうだ。

「ある仲のいいシェフから『最近、農園とかやって、農家と仲いいんだ』と話をしたら、『じゃあ紹介してよ』ということになったんです。『シェフ、いろいろ知ってるでしょ?』って聞いたら、意外にシェフもいそがしくて知らないんです。」

オーナーシェフであれば、休みは週1日くらいしかない。毎晩、ずっと料理しているし、休みの日も体を休めたり、料理の研究をしたり。たまに産地に行ったとしても、知り合いのところに限られてしまう。

そんなときに「都内に全国の変わった野菜とか、旬のものが集まって見れるところがあったらすごい俺らも助かるんだよね」というように言われた。

「おもしろかったのが、基本的に流通しているものって、正規の形なんですよ。たとえばカブって、こういうせいぜい握りこぶしぐらいの大きさとか、規格が決まってるじゃないですか。でも、こだわりのシェフとなると、何が欲しいって、2センチくらいのカブが欲しかったりするんです。それって農家が間引きして棄てているサイズなんですよね。それがお金になる。」

ほかにも10センチくらいの水菜がかわいいから、と重宝されることもあるそうだ。

あと果樹農家さんによっては、ちょっと傷があれば棄ててしまう。みかんやぶどうなど、1つの農家で1ヶ月で何百キロ廃棄されてしまうこともある。

「ジュース屋さんに持っていったりしても大したお金にならないんです。でもミシュランの星のあるようなシェフが料理してしまえばすごい値段になるし、シェフもいい素材を安く購入することができる。」

「農家にも、シェフにとってもいい事。だからこういうやり方ならお互い良くなることだなーと思った。これがこのマルシェをはじめたきっかけです。」

あとは単に商品を販売するだけではなく、新しいことも考えているそうだ。

「たとえば、生産地で野菜を加工したものがあるじゃないですか。でもあまり魅力的じゃないものが多いように思うんです。」

たしかにそれはあるかもしれませんね。素材はいいから、もっとうまくできるように思います。

「そうですよね。でもそれって当たり前のことで、農家は野菜を作るプロなんだけど、料理を作るプロじゃないんです。料理を作るプロじゃないから、加工品をつくったとしても、そんなにすごいものができるわけじゃない。でも素材はやっぱいいわけですよ。日本がこれだけの食文化大国になっているのも、料理人もすごいんだけど、それを支えてる農家も世界レベルだからだと思います。」

「世界に通用するシェフがいっぱいいるので、そういうシェフ達が農家と一緒に加工品つくったら、絶対世界的に売れるものになるなって思ってるんですよね。ゆくゆくはそこまで考えています。」

『シェフのおすすめマルシェ』というコンセプトではじめ、発起人には場所を提供している脇屋さんと、世界的な料理人であるTAKAZAWAの高澤さん。そして、京都の老舗料亭の菊乃井、旬を極めた日本料理の龍吟、ミシュラン1つ星のフレンチRyuzuなど、都内の名だたる料理店のシェフたちが賛同してくれた。いろいろなものが、このプロジェクトから生まれてくる予感がする。

それにしても、もともとはシェアハウスを運営するなど不動産の仕事をしている片岡さん。畑違いのことだと思うのだけれど、何か問題や疑問を見つけると、これってこうしたらいいよね!とアイデアがわくのだろうな。

「まさか自分が八百屋やるなんて思ってもいなかったです。マルシェって、要は八百屋ですからね。でも、なんでもそうだと思うんですけど、何か問題があったら、それにきちんと向き合って考える。すると何かが生まれてくるのかな。原点は仲間のことを大切にする、ということだと思うんです。ともにアイデアを出し合って、変えていく。」

「アイアンシェフでも脇屋さんは、うちの野菜を指定してくれる。それって、いいものだからということもあるけれど、僕らの想いや汗かいてるのも見てくれてるし。全然当初はもう大赤字で儲からなかったし。それでも応援してくれて、みんなで頑張ろうよ、というのがベースにあると思う。」

周りの人たちと共生していくという考え方は、片岡さんの商売の基本でもある。野菜を売るとしても、すでにあるパイを奪い合うようなものにはしたくなかったそうだ。

「僕らが全部普通の野菜を置いて売れたら、どっかのスーパーが売れなくなるわけですよね。」

そうですね。

「これは仕方ないことでもあるけれど。でもそれはなんか違うなって思っていて。だから今まで棄ててたものとか、違う形でみんながよくなっていくことを目指している。世界にも売っていきたいから、そうなると加工品もつくりたい。農家もうれしいし、世界に日本のいいものを届けられる。とにかく自分達でシェアをとって独占していく、っていうことは考えていなくって。後発なだけにね。みんなが丸く収まるような仕組みを考えています。」

本当にすごいことだと思うのは、単にマルシェをやるだけなら、持続可能なプロジェクトにするのはとても難しいこと。いろいろ工夫して商売としても成立するようにしているのがすごい。

「ほんと普通にやれば成り立たないですよ。マルシェだけだったら難しい。」

軸があって、それに派生するところの相乗効果もあって、ちゃんと商売として成立する、という感じでしょうか。

「えーっとね、そうではなくて。もう信念ですね。」

信念?

「もうねえ、何回も心折れましたよ… もう辞めようかなと。やり始めてもうじき半年ですけど、10回は辞めようと思ってます。」

「なぜかと言えば、農家にもシェフにも、自分の商売がある。少なからず利害はあるわけです。」

たしかに客観的に見て、協力すればうまくいくことがあったとしても、新しいものを生み出していくことは難しかったりする。まさに囚人のジレンマ。

シェフだって、値段やクオリティに毎回納得できるわけではないだろうし、農家にだってプライドはある。

「お互いやっぱり自分たちの言いたい事を僕らに言って、僕らが板挟みになってしまう。本当に苦しい、しんどかった。辞めるよって何度も言いかけた。でもそれは違うと。究極的には日本の農業のために俺はがんばってるんだから、個人の感情や欲望を超えなきゃいけない。その辛抱の1点でずっとやってきた。」

「自己犠牲ですよ。地域活性化といえば、聞こえがいいけれども甘いものではない。人が困ってたら自分が犠牲になって助けるしかないんです。それなのに、なんかかっこいいとか思っちゃう人が多いから、違和感を感じたりもします。」

それは売上とかではなく、あくまで人間関係に?

「そうです。あとは精神的なプレッシャー。シェフが、こういうのを探してくれとか。それに応えないと、結局農家に迷惑をかけるので。」

「だから農家のためにとか、地域のためにとかそういう気持ちがどこまで本気かって言うことが、1番大事かなってことですよね。楽しそうじゃなくて。」

実は前回の元麻布農園の募集では、仕事百貨を見て数人入社したそうなのだけれど、辞めてしまった方もいるそうだ。

これは僕自身の感想だけれども、やはり仕事は素敵なことばかりじゃないし、片岡さんのやっていることはとても大切なことだけれど、それ以上に大変でもある。

マルシェで素敵な野菜を販売する、ということだけではなくて、根っこにある思いに共感して、それを実現するためだったらどんなことでもやりたい、という人がいいと思う。

「もちろん、それだけしんどいから、超えた時の喜びは大きいですけどね」

辛抱して続けてきたからこそ、少しずつ良くなってきている。

農家とシェフの間にも、支え合うコミュニティが生まれているそうだ。農家がたくさんの在庫を抱えてしまったらシェフが協力して引き取ったり、不作のときも農家さんはいつもの値段で卸してくれたり。

ほかにもいろいろな芽が出はじめている。少なくともはじめから関わるよりは、環境は整ってきている。

マルシェを訪れていた菊乃井の料理長はこんなことを話していた。

「僕ら知らない野菜もあって、こんなんあんねや、とか思いますね。あとは農家さんの一生懸命やってはる想いっていうのが見てると、伝わってきますよね。だから情熱持ったあつい人に来て欲しいです。もううっとおしいくらい、あつい人。片岡さんみたいなね。」

最後にどういう人がいいのか、片岡さんに聞いてみた。

「まずは覚悟のある人。それに野菜が好きな人がいい。料理が好きだったり、産地をまわったりしている人もいい。元バイヤーさんであれば最高だけれど、若くてポテンシャルを感じたら、経験者じゃなくてもいいですよ。」(2013/2/23up ケンタ)