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神保町に美空あり

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「僕は、美空の雰囲気、お客さんとの関わり方、地域のなかでのあり方… そうしたものにひかれて働きはじめたんです。味はもちろんだけど、ここにはそれだけではない魅力があると思って。」

そう話すのは、麺処美空(めんやびくう)で働く梅本さん。

今回はラーメン屋さんの求人です。

東京・神保町駅から歩くこと数分、“生姜”と書かれた大きな提灯を提げた店が現れました。

昼営業を終えて、夜営業までの休憩時間に話をうかがった。

店長の小島さんは28歳。大学を出て、2つの人気店で働いたのちに25歳で独立。美空をはじめて今年で3年目となる。

「大学3年になって就活をはじめたんですけど、どうもピンと来なかった。ラーメンは高校生ぐらいから食べ歩いてて、もともと好きだったんです。多分将来はラーメン屋になるんだろうと思って。卒論で『池袋にはどうしてたくさんラーメン屋があるのか』を研究しました。」

「調査票をつくって、オープン前や休憩時間のラーメン屋さんにお願いして。後日ラーメンを食べて撮影して、調査票を回収して本にまとめたんです。」

調査方法を聞くと、まさにマーケティングそのものだった。

「人気店向かいの喫茶店に朝から晩までいて、1時間おきに行列の人数を調べました。駅周辺のビジネス街、学校、百貨店、本屋、カラオケ屋、パチンコ店の地道な立地調査… 駅周辺の道路の人の流れとその人通りの多さなんかも見ましたよ。」

卒論の経験をもとに、美空の立地も決めたんですか?

「そうです。あとは、よさそうな物件を見つけては、以前働いていたラーメン屋の店長と内装屋さんにプレゼンしてアドバイスをもらって。この場所は穴場だったんです。」

どうしてですか?

「駅から少し離れていて家賃が手ごろな一方、サラリーマンを中心に結構人通りがあるんですよ。くわえて裏には明治と日大、2つの大学があります。実は女性のお客さんも結構来てくれます。」

そんな美空のウリは生姜ラーメンだ。

「最初はそのまま、途中から生姜をまぜて。そうした味の変化を楽しみにお客さんが来てくれます。こってりしていないので、体調が悪いときでもするするいけると思います。」

たしかに夜の営業を見ると、年齢に関係なく、スープを飲み干すお客さんが多かった。

生姜を用いた商品は冷え性対策として様々出ているけれど、女性受けを狙ったわけではないそう。むしろお客さんからそうした指摘を受けて気づいたという。

夜営業の前に印象的だったのは、つけ麺の試食をしていた点。一日のなかでも昼と夜では、味が微妙に変化するので整えるそうだ。

味のほかに心がけているのは、安くてお腹いっぱいになってもらうこと。かといってボリュームのある店にありがちな、ごちゃごちゃした盛りつけではない。

ラーメンが運ばれてきて最初に感じたのは、見た目が美しいこと。目で楽しめる感覚は、和食に通じるかもしれない。

目の前のどんぶりからは、下ごしらえから盛りつけまで、丁寧につくられていることが伝わってきました。

味や食材に対するこだわりは色々あるようですが、ぜひ一度店を訪れて小島さんに聞いてみてほしいです。

というのも、おいしいラーメン屋さんは星の数ほどあるけれど、美空の魅力は味だけに留まらないからです。

そうした魅力を感じて、働きはじめたのが梅本さん。もともと料理の仕事をしていた梅本さんは、常連客であるお兄さんにすすめられて、はじめは客としてやってきた。

実際に働きはじめてどうですか?

「最初はめちゃくちゃ大変で(笑)。というのは、お客さんに『ああこの店は他と違うわ、来てよかった』という気持ちで帰ってもらうために、スタッフがこんなに心配りをしているとは思わなくて。でも、その心配りが特別なことではなく、小さいことの積み重ねなんだと気づいてからはほんとうに面白いです。」

丁寧にテーブルを拭き、洗った食器を元の位置に戻すことで店をいつも綺麗に。接客は笑顔で相手を見て。お客さんが帰るときには、なるべくお客さんの方を向いて『ありがとうございました』とおじぎをする。そして姿が見えなくなってからどんぶりをさげる。

「うちで働くってそういうことかな、と思うんですよ。場のつくり方を学ぶというか。いくらおいしくても、接客や雰囲気が悪かったら、お客さんも来てくれないと思うんですよ。夜に常連さんが見えてラーメンを食べ一息ついて『もうひと頑張りしよう』と思ってもらう。そういう場にしていきたいです。」

お客さんは週1、2で来てくれる常連さんが中心という。実際に夜の営業を見ると、多くの人が安らぎに来ているような印象を受けた。

その様子は、仕事の合間になじみのカフェで一息ついたり、仕事終わりにバーで一杯飲んで帰る姿と重なるものがあった。

「よく話す人もいれば、『お待たせしました』とラーメンを出して、何も喋らず『ありがとうございました』という人もいます。美空に求めるものは人それぞれ違う。そのお客さんにとって一番いい関わり方ができればと思います。」

常連が多いからこそ、こんなやりとりもある。

「お客さんによって好みがあるんですね。スープ熱めがいい人には、小鍋で温めてから出したり。それから、お客さんがいつもの注文をしないときには、逆にこちらから聞いちゃいますね。『あれ、今日は麺固めじゃなくていいんですか』『ありがと、忘れてた』とか(笑)。」

そんな美空の周りには、地域のコミュニティも生まれつつあるようだ。

小島さんはこんな話をしてくれた。

「昼休みのちょっとした菓子パンやコーヒーは、はす向かいのタバコ屋さんで買っています。僕はタバコを吸わないし、コンビニもあるんですけど、こっちのほうがおばちゃんの利益になるじゃないですか。そのときに、『あそこに飲み屋が出来るわね』『向かいのビルが建て替えで、あの人引っ越しちゃったわね』とか色々教えてもらいます。病気したときには、おばちゃんのとこに行って、近くのいい病院を教えてもらったり。入っていくと、意外にそういう人の関係があるところなんですね。」

タバコ屋さんへの買い物についていった帰り道、小島さんはすれ違いざまに「こんにちは」と挨拶をしていた。

「常連さんです。向こうは気づいてくれるかわからないけれど、していこうと思って。」

その他にも、店の看板を靖国通りに置きにいくと、常連さんから「昼に行くよ」なんて声をかけられたり、道行く人に「あれ、店どこにあるの?」と聞かれたり。そうした話は日常的にあるという。

「普通すぎて、改めて考えると出てこないぐらい(笑)。コミュニティとの関わりを楽しむことは、どんな場所で何をしていても大事だと思うんです。」

話を聞くうちに、「地域の人から見て、美空はどんな存在なんだろう?」という疑問がわいてくる。

そこで、小島さんが日頃お世話になっているというケーキ屋「STYLE’S CAKES & CO.」の岩崎さんにも話をうかがうことにした。
「最初は若いからバイトかなと思っていたら、実は店長だったんだよね。小島くんを見ていてすごいと思うのは、料理に対するこだわりと味覚、センス。『スープが決まらないんですよ』なんて言いながらふらーっと来ますよ。スープのことで頭が一杯で、周りは目に入らない感じ。傍から見ると大丈夫か?って思う(笑)。」

「でも、彼はラーメンバカじゃないんですよ。他のことにもちゃんと興味があって色々取り入れているのが魅力だと思う。そういうバランス感覚ってなかなかないんじゃないかな。そのことがよく表れているのが、たまに出る限定創作麺。“ラーメン”よりも“料理”という言葉がしっくりくると思う。びっくりする。おいしいよ。」

美空に戻り限定メニューを見せてもらう。

幻のあさりと味噌の和えそば、秋の味噌 三種の根菜と舞茸、ふわとろ冷しめんたいそば…

ここはラーメン屋?と思うようなメニューの数々。味の想像がつかない上に、見た目にも楽しめる。

これから働く人はどんな一日を過ごすことになるのだろう。

「大きな流れとしては、仕込み、オープン準備、そして営業中は接客に調理補助、洗いものをして店じまいです。所帯が小さい分、調理からお客さんとの関わり方、仕入れ、経営的なところまで早く身につくと思います。」

「ただ基本的に、美空でのラーメンづくりは僕がやろうと思うんです。もちろん好きと言うこともあるけれど、一番は信用です。お客さんからすると、つくる人がいつも違ったら大丈夫か?と不安になる。個人店だから、やっぱり店のオヤジがつくってこそ、食べに行く甲斐があると思うんですよ。」

小島さんは、日本料理でいえば板前、フレンチでいえばシェフのような存在なのだろう。その人だから出せる味があるし、それ以上に安心感があるのだと思う。

「将来的に独立して飲食をやりたい人にも来てほしいです。僕はこれからも美空でラーメンをつくっていきますが、会社としては他にも色々な展開ができたらと思うんです。ラーメン屋がやりたければ、ラーメンづくりも教えていきます。あるいはイタリアンだっていいと思う。ただ、フランチャイズというよりは、その人がその店の味に責任を持てる形にしたい。経営から味まで、もちろん応援はしていきます。」

もちろん、お客さんとの関わり方を身につけたい、地域に根ざして長く働きたいという人にも来てほしいという。

「今はまだ店をはじめて日も浅いし、人も大勢いるわけではないから、大変なこともあると思う。学生街なので、忙しさには波があって。落ち着いているときにはみんなアイデアを出しあって、店のこと、メニューのこと、接客の仕方を考えていきたい。こっちの方がいいなと思ったら言ってくれると面白くなるんじゃないかな。」

僕は、美空の接客を見て、ディズニーランドのキャストや旅館の女将さんがふと頭に浮かんできました。そこにはおいしい食事にくわえて、「お客さんに気持ちよい場・体験を届けたい」という思いが共通していると思います。

最後に、今回応募する人に伝えたいことがあるという。

「きちんと仕事をすることは楽しいと思う。悪いことがあったら反省しなきゃいけないし、いいことがあったらみんなで気持ちよく帰れる。そういう仲間がほしいです。ラーメン好きに越したことはないけれど、まずは気持ちいい仕事をして明るく働く。そういう人と仕事がしたいし、僕は美空をそういう職場にしていきたいです。」

ひとしきり話を聞いたのちに、生姜ラーメンをいただくとこれまでの話がすとん、と腑に落ちました。

冗談を言い合いながらの仕込みと、営業時間の気持ちよい緊張感。体力をつかうけれど、きっと楽しくて気持ちのよい仕事があります。まずは一度、お客さんとして訪れてみてください。美空のラーメンはほんとうにおいしいです。(2013/3/23 はじめup)