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尾鷲全国化計画

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日常的にいろいろな仕事やプロジェクトに接していると、たまになぜこんなうまくいっているのか、よくわからないものに出会うことがある。

夢古道おわせの取組みもその一つ。ビュッフェスタイルで地域の美味しい家庭料理を食べることができるレストラン、特産品を丁寧に紹介して販売しているお店、そして海洋深層水を使用した眺めのいい温浴施設。

もちろん素敵な施設だけれども、ここまでうまくいくものか!と驚いてしまうほど、多くの人が訪れている。

今回はそんな夢古道おわせの新しい取組みを一緒にやってくれる人の募集です。地域の仕事のひとつのモデルとしても面白いので、ぜひ読んでみてください。なぜ尾鷲がうまくいっているのか、その理由がわかると思います。とてもシンプルなものなのだけれど、もし共感するならばぜひ一緒に働いてほしいです。

東京から新幹線で名古屋に向かい、そこから特急に乗り換えて紀伊半島を南へ進んでいく。津や松坂を過ぎてしばらくすると、山深い単線の線路になって列車は進んでいく。早朝に東京を出発して、到着するのはお昼過ぎ。海が見えたきたらもうすぐだ。

夏休みに帰省したくなるような、なんだか懐かしい駅舎を抜けると、夢古道おわせのアドバイザーである伊東さんが迎えに来てくれていた。

熊野古道が続く深いヒノキの森。そしてどこまでも深く青い太平洋の間に、細い路地の伸びる街が広がっていく。まずは夢古道おわせのビュッフェを食べてから、市内を車でまわることになった。それにしても、平日だというのにお客さんが多い。

「夢古道おわせって、どのくらい利用者がいるかわかります?年間20万人です。一日700人ほど。ただ、これは平均なので休日になると人がもっとたくさん来るわけです。多いときは平日の7倍にもなる。」

「波があるのは悪いことではないんですよ。ありがたいことなんです。ただ、これがさらに2倍、3倍に増えてもキャパの問題がある。たとえばここに100万人集めるのは難しい。もう週末なんかはお断りしている状況で、ランチもパンクしている。だったら次に何ができるか、ということなんです。」

なんでしょうね。

「それが全国の温浴施設に広めていくことなんです。100のありがとう風呂であり、おっぱいリレーなわけです。」

100のありがとう風呂は、ひのきの産地として有名な尾鷲で、間伐材を使用するアイデアとして生まれたもの。湯船に輪切りにした間伐材を浮かべる。しかもそこには誰かの誰かに対する感謝のメッセージが書かれている。お風呂に入れば香りもいいし、メッセージを眺めるのも楽しい。

おっぱいリレーは人工乳房をリレーするというもの。せっかく人工乳房をつくっても、それが温泉成分などで変色するかもしれない、と心配になって、お風呂に入ることができない方もいるそうだ。そこで人工乳房をたくさんの温浴施設をリレーして、実際にお風呂に入れてみて変色しないことを確認するというもの。

こういったイベントは夢古道からはじまり、口コミで広がって、今では全国の400もの温浴施設に広がった。

「尾鷲に100万人集めることはできないけども、100万人を携わらせるイベントを主催していくことはできると気づいたんです。だから、これをもう一つの事業の軸にしようと思ったんです。」

イベントを広めていくのが仕事なんですか?

「それもありますが、今は夢古道発で尾鷲を売り込む全国展開プロジェクトも考えています。尾鷲の商品を日本中の温浴施設で売る、というものです。」

そんなに簡単にできるものなんですか?尾鷲に縁のない地域の温浴施設に、尾鷲の商品を置いても買ってもらえるのでしょうか。

「すでに全国の温浴施設でいろいろなイベントに参画してもらっています。それはつまり、夢古道の商品を販売してもらっている関係なんです。そこにお声かけしていくのは、比較的そんなに難しいことじゃないなって気づいたんです。すでにテストマーケティングとして5店舗でスタートしています。」

それはすごいですね。

「あと多くの温浴施設はお風呂と飲食しかないことが多い。物販はわからないからやっていないとか。僕らはノウハウも含めて、売店をそのままあげます、みたいにして。商品だけ卸すのではないんです。」

「あとやっぱり大きなことは、夢古道が仕掛けるものだから、というところで信頼いただけるところが多いです。」

その信頼みたいなものは、一体どこから生まれているんでしょう?

「100のありがとう風呂が1番象徴的なものでして。それまでは、とりあえず浴槽に入れとけみたいなイベントばかりだったんですよ。湯船にバラ浮かべたり、ラベンダーを入れてみたり。入浴剤入れて、それで今日イベントですとか。そういうのが多かった。僕はそれにすごく違和感を感じて。本当のことやろう、みたいなのを仕掛けてきたのがすべてなんです。」

「すると利用者に感動してもらえる。利用者も増えるし、メディアにも取り上げられるわけです。普通の温浴施設だったら、なかなかそんなことありません。あるとき『夢古道から出てくる企画は断る理由を探すのが難しい』と言われました。」

どういうことなんでしょう。

「こちらが頼んでいるわけでもないんですよ。まずどんな温浴施設でもできる内容だし、やらない理由もない。ぼくらが信頼されていることもあるし、結果も出るからどんどん口コミで広がっているんです。」

最近は尾鷲ひのきでつくられた身長計を脱衣所などに置く「銭湯家族」というプロジェクトもはじまっている。昔の銭湯にもあった身長計のある風景を復活させようというもの。これも全国300カ所にダイレクトメールを送ったら、すぐに60ほどの返信があったそうだ。

今回募集する人は、こんなイベントを企画運営したり、温浴施設に尾鷲の商品を販売するお店を広めていくことが仕事になる。ゼロから営業するというよりも、すでにあるつながりを大切にしながら広げていくものになると思う。

それにしても面白い会社だ。こんなにうまくいくものなのかな、と思っていたら、伊東さんが会社設立の話をしてくれた。それによれば、必ずしも順風満帆であったわけではないことがわかる。

「10年以上前に、世界遺産候補のリストに載ることがあったんです。街の人たちもリストに載ったくらいだと全然関心がなかったのだけれど、急に今まで訪れないような人たちがリュック担いでどこからともなく集まってきたんです。でも尾鷲には人を迎えいれるようなおもてなしの文化がなかったんです。」

「さらに高速道路も通ることになった。それなのに尾鷲には外から来た方を連れて行く場所がなかったんです。それでいろいろな予算をつかって熊野古道センターをつくることになりました。ただ、予算の制約上、営利目的で使用してはいけなかったんです。我々としては道の駅のような、ご飯も食べてくつろげてお土産も売ってる、っていうところを想像してたんですよ。それで初めて経済効果って換算できるんじゃないかと。」

そこで考えたのが、隣接する場所に新しく施設をつくればいい、というものだった。そうして生まれたのが夢古道おわせだった。

ところが当時は第3セクターというやり方が問題視されて、違う形を考えていた。そのときに出たのが指定管理者というものだった。

「指定管理者というものは、まだ当時珍しかったんですね。だから手を挙げてくれる人がいなかった。だったら自分たちで会社をつくろうということになったんです。戦後の尾鷲を復興させた世代を中心に、55人の株主から2,865万円が集まったんです。」

出資者はすべて民間から集まった。市役所も商工会議所もお金は出していない。しかも、まだ入札を経ていないので指定管理者になれる保証もなかった。情熱から生まれた会社だった。

その後は2年で3000万円を使ってしまい、経営が傾いたけれども、次第に事業は安定していった。なんとなくうまくいっているように感じるようになった。メディアにも出て、自分たちはすごいんだ!とも思うようにもなっていた。

「そんなときに学生のインターンシップのコーディネートをお願いしているG-netの秋元さんに会ったんです。そして衝撃的なことを言われました。」

衝撃的なこと。

「『学生が尾鷲で半年間インターンシップをして満足できますか』って聞かれたんです。」

「はっとしたんです。そのとき街の声は批判的なものも多かったんです。夢古道ばかりうまくいって、という具合にね。出る杭は打たれる、という話ありますけど、もっと出てやろうと思っていたくらいです。文句が出ないくらい突き抜ければ解消されるだろうと。でもうちの親まで言っていたくらいですから。」

たしかに数字はよかった。でも売上とか、来場者数が増えているとか、それはひとつの現象であって目的ではない。

主たる目的がないまま、勢いだけでプロジェクトは進んでいた。そんな中身のない状況を見て、お金以外の対価を求めるインターンが満足できるのか、という秋元さんの問いは、組織のあり方を根本から考えさせるものだった。

「町の人たちが作ったものを一生懸命ここで売る、それを全国に広げていって町に貢献していくことを事業の柱にしないといけないんです。ぼくは多くの株主に出資してもらったのに最初の2年間が赤字だったこともあって、目に見える結果を出そうと焦っていたんでしょうね。でも夢古道っていうのは、いろんな人の思いがいっぱい詰まっている。応援してくれる人がいっぱいいる中でやっているわけです。」

自分たちの目的がはっきりすれば、事業はよりうまくいく。街の人も共感してくれるだろうし、ここで働くインターンもきっと満足して帰ってくれるだろう。

もちろん、思いがあれば世の中うまくいくものでもない。ちゃんと工夫や努力、それに戦略だって必要だ。どちらもあるからこそ、夢古道は全国に広がっているように思う。

「僕らは、利他的なことをやっていきたいなと思っていて。積み上げてきたノウハウはすべて提供したい、というのが基本です。」

囲い込むよりはオープンに。まずは自分たちが贈り物をするようにすれば、ちゃんと次につながっていくのだろうな。

地域に根ざしながら、面白いことに日本中に広げていくことにチャレンジしたい、そんなことを喜びだと思えるなら、ぜひ応募してみてください。熊野は人も自然も素敵な場所です。(2013/4/3 up ケンタ)