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しごと付き移住体験のススメ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

移住するときに大切にするものってなんだろう。

衣食住?ご近所さん?

どれも大切だけれども、ぼくは仕事も大切だと思うんです。仕事があれば生活していくこともできるだろうし、地域と関わる大切なコミュニケーションでもある。

福岡県の南、筑後地域では、移住希望者に対して、数ヶ月の仕事体験プログラムを提供しています。その名も「ちくご移住計画2013」。

日本一家具をつくっている街で働く木工職人。新しい芸術文化交流施設「九州芸文館」に滞在してアートをつくる。地域のかくれた魅力を発信するクリエイターなど。そんなしごと付き移住の募集です。

今、田舎のない人が増えていると思います。そして都市を離れたくても縁がないから困っている。このプログラムなら地域と縁も生まれて、仕事まで見つかるかもしれません。

福岡空港を降りると、このプログラムの実施主体「筑後田園都市推進評議会」の協力企業である福岡R不動産の坂田さんが待っていた。今回のプログラムの担当者。早速、車に乗り込んで高速道路を南に進んでいく。すぐに車窓に緑が増えていった。

車の中で坂田さんに今回のプログラムについて聞いてみた。

「どの地域も人口が減っていますが、筑後地域への移住者を増やしたいんですね。でも地域によっては不動産の市場があまり整備されていないんです。」

たしかに都市に比べれば家賃も安いでしょうから、内見の案内や契約などの手間に比べて手数料収入も少ないですからね。

「そうなんですよ。あとはオーナーさんが人に貸すのが嫌だったり。荷物が置きっぱなしだったり、仏壇があるからとか、いろんな理由があるんですけど。空き家はあっても賃貸に出ていないんですね。売買はまだありますけど、知らない地域であればいきなり大金出して購入するのはハードルが高いわけです。」

だからこそ移住する前に地域を体験する必要がある。そうすれば地域の人から賃貸物件を直接紹介してくれるかもしれないし、売買を決断できるかもしれない。

そこで過去2年間は2、3週間、筑後に滞在するプログラムを実施してきた。そして48組の体験者を迎え、その3組はすでに移住をはじめている。検討中の人も20組に上るそうだ。

そして2年間やってきて気づいたことがある。それは仕事について。

「移住へのハードルって、最初は物件のことが大きいと思っていたんですけど、実際には仕事がかなり大きなものだったんです。」

「今回はただ体験居住をするだけではなくて、その仕事のきっかけみたいなものを提供することができたら、よりハードルが下がるんじゃないかと思っていて。ある種の実験みたいな取り組みなんです。」

会話をしていたらあっという間に久留米の街に到着した。福岡市内からは高速道路に加えて、JRと西鉄でつながっている。

街の中にある古いアパートの2階へ。扉を開けるとコーヒーのいい香りがしてきた。3po cafeという素敵なカフェだった。ここで実際に移住した3組のうちの1組である和田純子さんの話を聞くことになった。
彼女はミュージシャン。ライブやCDをつくったり、ナレーションやコマーシャルの仕事もしているそうだ。

なぜ移住したのか聞いてみた。

「まあ音楽をやっていていると、いろんなところへ旅をする機会があるんです。その中の1つが九州で、福岡はもちろん、佐賀とか久留米もあったんですけど。そうしているとお友達もできて。ごはんもおいしいし、九州はすごくいいところだなって思って。引越しちゃえば?なーんて言われたりして。東京に住んだことしかなかったし、現実的じゃない気がしたけれども、家賃も安いし、ちょっと考えたこともあったんです。」

そして震災が起きた。水や食料が満足に買えなかったり、子どもが生まれたばかりの純子さんにとっては放射能汚染の恐怖もあった。

インターネットを見ているときに発見したのが移住プログラムだった。

「体験してみると、もうちょっと長くいたいな、って思ったんです。田主丸っていうところがあるんですけど。ここから30分くらい行った、自然がもっとあるところ。」

「絵本の中みたいな森に、お花屋さんをやってた方が上手に住んでいらっしゃるんです。すごい気持ちいいガラス張りのカフェみたいなスペースとか、ギャラリーとかいろいろあるんですけど。そんな場所に滞在していました。毎日、窓から緑が見えて。」

近くには素敵なフレンチやワインセラーのあるレストランもあるし、とにかく景色がよくて気持ちがよかったそうだ。

そのまま移り住むことを決意した。

今は街のほうにある住宅街に住んでいる。田主丸もいいけれども、やはり近くに病院や小児科があるのが安心だった。

住んでみてどうですか?

「とにかく山が毎日見える。こっちの人に言うと、家を借りるときに窓から山が見えることは当たり前すぎてポイントになんないよって言われたんですけど。車で行けばすぐに自然が広がります。すごい癒されて、いいところだなって思います。」

地域の人たちはどうですか。

「私は霞を食べて生きてるような人間なので(笑)。そういうことをすごいおおらかに認めてくれる感じがする。」

それぞれ一人ひとりを見てくれているような。

「みんなあったかいからかな。」

よそ者みたいなことはないですか?

「私は感じないですね。元々音楽やってるっていう時点で、東京でもけっこう。」

マイノリティー?

「そう。すごいニュートラルに受け入れてもらってる気がします。」

「こちらは自営の人も多いし。皆さんそれぞれライフスタイルがあって、生き方っていうのをすごい真剣に考えて生きてらっしゃる方が多いですよね。」

和田さんに別れを告げて、もう少し南へ車を走らせる。耳納山地の山々を眺めながら、筑後平野を流れる筑後川沿いに、家具生産日本一の大川へ向かった。

街に入ると、工場やお店、そして倉庫など、家具に関する建物ばかりが目に飛び込んでくる。筑後川の水運を活かして木材を運び、船大工からはじまった家具の街。

今回の研修の受け入れ先である前田建具製作所に到着した。大きな木の扉を開けて工場の中に入る。事務室で前田さんに話を伺った。

「一応名刺には建具製造業と書いておりますけれども、実際には建具だけにとどまらず、家具だったり、仕上げ材だったり、建材までつくっているような状況です。まずは設計者様からの依頼で製作して、現場で取り付けるっていうのが今のうちの事業形態です。」

量産はやっておらず、基本的に設計事務所から依頼されたものを一つひとつ製作していく。図面ありきというよりも、まずはラフなイメージを共有しながら前田さんたちが詳細なデザインをつくっていくことも多い。お願いしたらなんでもつくっていただけるような会社なんだと思う。

面白かったのが、とある専門学校のプロジェクト。

「約200平米くらいの天井に、格子を組んだものです。組子っていう技法が昔からあるんですけれども。木を切って、デザインさせていくっていう。それを天井全面に広げたような仕事をやって。それはやっぱり、見る方はみんな驚いてくださりますね。」

photo:Bunsei Matsuura

伝統的な技術を受け継ぎつつ、インターネットなども活用しながら情報収集して新しいものをつくっているそうだ。

ここで仕事を体験する人は、まずは簡単な作業からはじめてもらう。とはいえ、ずっと単純作業というわけではなくて、現場にも行くそうだから飽きることはないんじゃないかな。

将来、職人になりたいという人はもちろん、設計をやっている人がものづくりを経験することでデザインに活かすということもできると思う。もちろん、お互いに両思いなら、そのまま働くこともできるかも。

どういう人に来てもらいたいですか?

「ものづくりが好きな人がいいですね。プラモデルつくるのが好きだったとか。そんな感じでいいと思うんですよね。」

どんなところが大変なんでしょう。

「やっぱり納期があるところですね。しかも、全体の計画の中では最終工程を担当することになるから、しわ寄せが来るんです笑。でも1番見栄えのするところでもあるんですよね。あと大川は田舎ですけど、自然がたくさんある場所じゃないですからね。」

のんびりした街だけれども、森が広がっているわけではないですね。川でも泳げないでしょうし。

「泳いだらダメですね。流されてしまいますね、一番河口付近ですから。」

住んでいる人はどういう方たちなのでしょう。

「のんびりしていると思いますよ。でも口が悪いのが多いかもしれません。横のつながりはしっかりしているんですよ。同級生もまだ地元にたくさんいるし、仕事はたくさんある。みんな大体、家具に関する仕事をしています。」

大きな会社もあるんですか。

「そういうわけじゃなくて、小さな会社がたくさんあるんですよ。今日は市役所の前の建物で新作展をしています。全国からバイヤーが買い付けに集まっていますよ。」

話を終えてから新作展に行ってみると、たしかに多くの人が集まっていた。そしてたくさんのブース。自分たちで仕事をつくっている街だと思った。

そのあとはさらに南のみやま市に向かった。ここでは地域の隠れた魅力を発見して、地域情報誌をつくるような仕事を体験できる。

どんな魅力があるのか、実際に市役所の方に案内いただきながら、地域を巡ってみた。

クスノキから天然樟脳をつくっている内野樟脳。昔ながらの製法の作業所には樟脳特有の清涼感のある香りがする。クスノキをチップにして水蒸気で蒸留するなどして精製していく。

そのすぐ近くには炭酸含有量が日本一の長田鉱泉がある。蛇口から出てくるのは天然のソーダ水。近くのお店では鉱泉水を使用したコガコーラという商品が販売されている。ここでしか飲めないその味は… 実際に試してみてください笑。コカコーラと飲み比べることもできます。

そのあとは清水寺へ。ちょうど新緑の季節だったこともあって、借景となった山と一体になったお庭がとにかくすばらしかった。ずっとそこにいたくなる。

寺の奥にある清水山へ行くと、筑後平野が見渡せた。これが「ちくご」なんだな。背後の山に守られたような広い平野、それを悠々と流れる筑後川、そしてキラキラ光る有明海。

いいところです。もしどこかに移住したいけれども決め手がなければどうですか?事前に体験できる機会なんてあまりないですよ。(2013/5/16up ケンタ)