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写真はとても身近なメディアだと思う。
発表の場も、facebookやブログといったウェブ上のものから、カフェやギャラリーを借りて展示をする人もいる。
けれども、思った通りの写真を撮ることはなかなかむずかしい。
一つには絞りやシャッタースピードといった技術的なことがある。相手の内面を引き出せる関わり方も大切だ。
その両方をもってイメージを写真という形にする。そして人に驚き、喜んでもらうのが、写真のプロであるフォトグラファー。

デコルテは、ブライダル関連の事業を行っている会社。現在フォトスタジオ事業では東京、名古屋、大阪、福岡と10のスタジオを運営する。
4月にオープンしたばかりの浅草スタジオで、事業を立ち上げた水間さんに話を聞いた。
スタジオで行われるのは、「前撮り」と呼ばれる写真撮影。
「結婚は二人にとっての大事な出来事ですよね。その姿をきちんと写真に残しておきたい。ですが、式の当日は忙しくてゆっくりと写真を撮る時間もなかなかもてません。そこで、式の前に日をもうけて撮影することを、前撮りと言います。僕らは日本に前撮り文化を根づかせていきたいんです。」

「僕はもともと広告の撮影をしていました。当時ブライダルには興味がなかったんですが、デコルテの社長に誘われてはじめてみると楽しくて。最初は、結婚式当日のスナップを撮影していました。」
ブライダルへの先入観もなかったので、式の前に時間をとり、新郎新婦の撮影をしたところ、とても喜ばれた。その経験がいまの事業のもとになっていく。
広告の仕事では、求められる絵がすでにクライアント側で決めていて、その通りに写真を撮影することが求められた。
一方ブライダルでは、フォトグラファーからの提案が求められる。
「フォトグラファーは、同時にデザイナーでもあり、撮影小物の提案をするスタイリストでもある。すべてを自分でプロデュースしていけるんですよ。」

「お客さんの立場からすると、どんなスタジオがあるかがわかりにくいと思います。ドレスは真剣に選んでも、写真にはあまり期待していないように感じるんです。でも撮影後には『お願いしてよかった!』と、友達に紹介してもらうことも多いです。僕らはブライダル写真をもっと身近に、楽しんでほしいんですよ。」
「一方、仕事として見ると、海外ではブライダル写真がほんとうにカッコよくて、フォトグラファーのなかでも憧れなんですよ。作家性が強いですしね。いいスタジオが増えて競い合うことで、日本のブライダル写真を盛り上げていきたいんです。」
現在は海外向けのサイトも立ち上げたところ。
前撮りが文化として確立されている海外では、撮影のために国を越えて旅行することも珍しくない。
桜や紅葉といった四季に、社寺を活かしたロケーション撮影を望んでデコルテにやってくる人も増えつつあるという。
「今後は国内外の方を問わず、ロケーション撮影にも力を入れていきたいです。手間はかかりますが、お客さんにはよりいい思い出になります。僕らも撮っていて楽しいんですよ。」
そうして話をうかがう隣では、スタッフがお客さんと写真を見合ったり、衣装合わせをしている。

「みなさん幸せな顔をして見えますよね。だから僕らも自然と笑顔になる。いい流れがあると思います。」
そのなかでどんな風に働くのだろう。
はじめはアシスタントとして、フォトグラファーに同行をする。スタジオのセッティングや、撮影の準備をしながら仕事を覚えていく。
数ヶ月でフォトグラファーとして独り立ちをすると、お客さんとの打ち合わせから撮影、アルバムづくりまでを手がけるようになる。
ここで水間さん。
「撮影の技術は、入社してからでも覚えていけます。デコルテでは、実際に初心者で入る人が多いんです。月に一度の講習会も設けており、ライティングやレンズの特性といった基礎から学ぶことができます。僕らがやりたいのは、お客さんの大事な“いま”を写真というかたちにすること。その思いが持てれば、技術は身についていきますよ。」

「将来的にはロケもありますが、しばらくはスタジオでの撮影です。場所は基本的に同じなので、撮影をこなすようになってしまうと面白くないですよね。でも、お客さんにとっては一生に一度のこと。二人をよく見て、自然な姿を引き出すことが大事だと思うんです。」
「僕は二人がお付き合いしている年数をほぼ当てられます(笑)。長いカップルは、二人でひとつという感じがします。付き合って日が浅いと『新郎さん、新婦さんのことが大好きだな』とか思いが見えてくるんですよ。」
技術については、撮影ごとに小さなことを心がけてみる。「今日は新婦さんを特別きれいに撮りたい」「二人の身長差を活かして撮影してみよう」とか。そうすることで、写真の仕上がりが変わり、自分の技術の引き出しも増えてくるという。
相手を見ることと、技術の引き出しを増やすこと。その両輪を磨くことでお客さんへの提案力も増して、次のステップが見えるようになる。
スタジオでの撮影経験を重ねると、ロケーション撮影も行うようになる。
「僕は大阪のスタジオにいるんですけどね。まちに出ると、すごい声かけられますよ。知らないおばちゃんの集団と一緒に新郎新婦さんを撮影することもあります。あるときはイグアナを散歩させている人がいて。ちょっとお借りして、イグアナ越しに二人を撮影しました。あとから、このカットはなくてよかったと思いましたけど(笑)。」

長い眼で見れば、仕事にはさらなる広がりも生まれてきそうだ。
「デコルテではドレスショップも経営しています。外部の仕事を受けることもあります。だからこそ商品撮影にモデル撮影、料理写真まで撮ることもできるんですよ。自分で枠をもうけたくないんですね。ブライダルのフォトグラファーもそこまでいけるんだ、ということを示していきたいです。」

この日はスタジオ撮影と、人力車に乗ってのロケコース。
スタジオでは女性フォトグラファーの中村さんが、新郎新婦さんと打ち解けた雰囲気で話していた。

「ちょっとお互いの顔を見合いましょう。」「うーん、いいですね。」「新婦さますてき。」「大丈夫よ、新郎さまも負けていません(笑)。」
会話があることで、新郎新婦は和んで撮影にのぞんでいる様子。シチュエーションは非日常だけれど、二人の表情はごく自然なものに感じられる。
続いてロケ撮影にうつる。
人力車に乗った新郎新婦を見て、まち行く人たちもみんなにこやかな表情。「おめでとう!」と声をかけてくれる人もいる。

外での撮影は、とにかく予想できないことが起こる。
通りがかった車の陰に、新郎新婦が隠れてしまう場面もあった。かと思えば、修学旅行の中学生たちは「ヒューヒュー」なんて盛り上げてくれた。
イメージをきっちり決めて写真を撮るというよりは、目の前に起こる偶然をうまく取り込んで撮影をしていく感じだ。
ライブ感のある仕事だと思う。息を切らしながら僕も、楽しくなってくる。
撮影を終えたフォトグラファーの中村さんに話を聞いてみる。
トークがとても上手だった中村さん。さぞ話好きなのかと思ったら…
「人としゃべるのは好きです。でも、最初は全然でしたよ。仕事だと思うと、初対面でどこまで相手に入っていいのかわからない。『笑ってください』『ちゃんとまっすぐ立ってください』それぐらいしか言えなくて。」
「先輩の撮影を見て、壁を越えた感じですね。『二人はどうして出会ったんですか?』とか、けっこう突っ込んだ話をしていたんです。それでいいんだ、と思ったんですよ。大事なのは、目の前にいる二人に興味を持つことだと気づきました。」

「スナップはすでにあるなかから切り取る、黒子のような関わり方でした。いまは、こちらから提案できることが魅力です。新郎新婦がいて、そこに私が関わるからこそ撮れる一枚なんですね。自分の撮りたい写真を撮って、お客さんに喜んでもらえるんですよ。」
「デコルテでは、ブライダルはこうあるべきと決めていなくて。自分の写真と仕事の写真がつながってくると思います。フォトグラファーとしてのびのび、自分でいられる場だと思うんですよ。」
中村さんのアシスタントをしている田代さんにも話を聞いてみる。
田代さんはスタジオマン(スタジオをセッティングする人)を経て、4月から働きはじめた。
「ブライダルいいな、と思ったんですよ。人の幸せな瞬間に立ち会いたくて。色々スタジオを回ったなかで、スタッフの雰囲気も幸せな方がいいと思いました。」

「あらゆることに驚いている毎日です。とくに撮影と会話の両立がすごいと思います。お客さんと自分がお互いに楽しみながら、撮影をしています。一緒に作品をつくっている感じがするんですね。」
「だから、ちょっとでもやりたいと思えたら、きっと得るものがあると思うんです。飛び込んでみたら、ほんとうに楽しいですよ。」
もちろん大変なこともあるけれど、スタジオの雰囲気を見ていると頑張っていけそうな予感がしてくる。
最後に水間さんはこう話してくれた。
「前撮りをした方から『子どもが生まれたから、水間さんにまた撮ってほしい』『おじいちゃんから孫まで一家全員で写真を撮りたい』と言ってもらうことが増えています。スタジオで撮影する時間は、家族の絆を改めて認識させてくれるんですね。」

フォトグラファーは写真を通して、人生の大事な場面に関わらせてもらう仕事だと思います。
こうして話を聞いている間にも、スタジオからはまた新たな笑い声が聞こえてきました。(2013/5/21 はじめup)