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「プロボノ」という言葉が、ボランティアと隣に並べられるほど一般的になってきたように思う。プロボノは、仕事や経験を生かすスキルボランティアのこと。そして、日本にプロボノを広めた立役者ともいえるのが、サービスグラントというNPO法人。2010年にはグッドデザイン賞も受賞している。
サービスグラントは、自分のスキルを社会に生かせないかと考える社会人と、人手や資金不足により支援を必要としているNPO法人をマッチングし、つなげています。
ここで、プロボノとNPOの間に立って、プロジェクト全体を見守るスタッフを募集します。
渋谷駅と表参道駅をつなぐ大通りを一歩入ったところにある、サービスグラントのオフィスへ伺うと、代表の嵯峨さんが迎えてくれた。
スリッパに履き替え、2階のミーティングルームへと案内していただく。友人の家にお邪魔したようなアットホームな雰囲気がある。
まずは、嵯峨さんがサービスグラントを立ち上げることになった経緯から伺っていく。
「僕は2004年まで、シンクタンクのコンサルの仕事をしていました。2001年には、個人でアースデイマネーというNPOを立ち上げて活動していたんですね。そのなかで、NPOの運営がいかに難しいか、というところを、肌身で感じることが出来たんです。」
有名なNPOならば、資金や人手は集めやすい。ただ小さいところは、たとえ活動の内容が良くても支援が集まりにくい。それをなんとかできないか、という気持ちがあった。
そんなとき、仕事で海外のNPOの事例調査をするために、アメリカに渡った。そこで出会ったのが、NPOに対して助成金(グラント)で支援するのではなく、スキルやノウハウを提供して支援するしくみ「サービスグラント」だった。
「訪問したNPOで、サイトを新しくするためにプロボノにつくってもらっているんだ、という話を聞いて、なんだこれは!こんなボランティアがあるのか!と衝撃を受けました。」
帰国後、当時雑誌「ソトコト」に連載を持っていた縁で、ソトコトが運営していたカフェでNPOに関するイベントをやらないか、という声がかかる。
そこで嵯峨さんは、サービスグラントのしくみを実践するイベントを企画する。集まった人たちでチームを組み、実際にNPO団体を支援するプロジェクトを立ち上げた。
「当時はプロボノという言葉を使わず、自分のスキルを使ってボランティアできる、と説明していました。greenz.jp編集長の兼松さんも、実はこの会の参加者の1人だったんですよ。いち早く反応していただき、SNSを使って広めてくれました。20人ほどの規模ですが、アンテナが高い人からちょっとボランティアに関心がある人まで、色々な人が来てくれました。」
実際に支援を進めるなかで、上手くいくこともあれば、いかないこともあった。いい仕組みだという確信も生まれたし、それぞれに仕事を持つ人が限られた時間を使って活動する難しさも分かった。
それでも徐々に手応えを感じた嵯峨さんは、NPO法人サービスグラントを立ち上げる。
はじめは細々とやっていたけれど、プロボノという言葉の広がりとともに、活動もだんだん加速していった。
プロボノワーカーの登録者も、以前は年間20~30人のペースだったけれど、今では月に30人以上増えている。今の時点での登録者は、1,700人もいるそうだ。
「登録者は、社会貢献したい!という方ばかりではありません。ごく普通の社会人、という人も多いです。ボランティア活動にはなかなか参加できないから、と参加を決められた方はけっこう多いですね。」
「なぜなら、仕事を始めると、ボランティアに気持ちを切り替えるのはギャップが大きいんですよ。プロボノは、スキルを提供するということでボランティアよりも敷居が高いと思われがちなのですが、参加する社会人の立場からすると、かえってプロボノの方が敷居が低いんですね。普段やっている仕事の延長線上でお手伝いができるので。」
たしかに、普段デスクワークをしている人からしてみれば、ボランティアの方が日常から少し遠いのかもしれない。そんなとき、自分の仕事を生かせるプロボノなら、より手を挙げやすいような気がする。
そういう人たちが実際にプロボノワーカーとして活動してみると、今まで考えたことがなかった社会の課題が見えてくる。支援先のNPOには、そういった可能性や潜在性が高いところが多いそうだ。
「例えば、ドメスティック・バイオレンスの問題について啓蒙活動をしている団体のサイトを制作したことがありました。DVという言葉は知っていても、深い理解はできていなかったり、誤った解釈をしていたりすることもありますよね。サイトをつくる過程で、そうだったんだ!という驚きがあったとか、社会勉強になったとか、そんな感想をもらいました。NPOだけではなく、参加したプロボノワーカーにとってもメリットがあると思います。」
支援メニューも、最初はウェブとパンフレットの制作しかなかったけれど、今は8つに増えた。事業計画の作成や、会計・経理など。組織の中にもう一歩踏み込むことができるメニューが増えてきている。
結果、デザインやDTPなどの専門技術を持っている人だけではなく、コンサルタントやディレクターなど、コーディネートを得意とする人も活躍できるようになってきた。
「NPO法人の制度が日本にできてもうすぐ15年になりますが、NPOも成熟してきているんですよね。日本のNPOは弱いと言われているけれど、数年前と比べたら成長している。」
「最近、NPOでの求人募集が増えてきていませんか?」
たしかに多いです。わたしもこの1年で、いくつかNPO団体を取材してきました。
「それって、NPOで働いて生活している人が増えてきているということですよね。ちょっとずつ、組織や活動が大きくなっているから人を雇えるんですよ。1人が2人になれば力は2倍ですから。NPOの進化にあわせて、ニーズも変わってきます。わたしたちはそれに応えていきたいんです。」
プロボノワーカーにとってのやりがいももちろん大事だけれど、サービスグラントが一番重視しているのは、支援を求めているNPOに対してしっかりお役に立つこと。
「僕らはNPOを無償でお手伝いしているけれど、人が足りませんでした、という言い訳はしたくない。プロとして仕事をしたいんです。」
プロジェクトの前には契約書を結び、ちゃんとした成果を提供するという約束をする。プロボノワーカーはみんなボランティアだし、それぞれ仕事の事情もある。それでも、成果物の質には徹底してこだわりたい。
そのために、プロジェクトに必要な文書やテンプレートを充実させたり、プロボノワーカーの何人かを「アカウントディレクター」として任命し、チームをまとめる役割を担ってもらったり。仮に誰かが何らかの事情で離脱する場合は、別の人に声をかけてピンチヒッターとして入ってもらうことにしている。
試行錯誤しながら、プロジェクトがうまくいくノウハウをつくってきた。
今は、1年で30〜40件のプロジェクトが立ち上がり、安定して成果を出せるようになったそうだ。
「別々に仕事を持つ人が集まって一緒にプロジェクトをする。そしてそれを成功させるのには、それなりのノウハウが必要なんです。数あるボランティアのプロジェクトの中では奇跡的とも言える水準に達してきているのではないかと、自分では思っているのですけど。」
それでも、NPOからはお金をいただいていないんですね。てっきり仲介料という形かなにかで、費用をいただいているのかと思っていました。
「NPOからお金をもらった瞬間に、このプロジェクトは成功しないんです。NPOと企業とでは、お金に対する考え方や感じ方が違います。NPOは、お金があれば、困っている人をサポートすることになるべく多く使いたいと考えます。そのNPOを応援するプロボノワーカーも、同じ気持ちです。」
企業に勤める人が5、6人集まって半年かけて事業に取り組むのだから、その価値はきっと、値段をつけるとすれば数十万円ではとうてい収まらない。そんな金額をNPOに請求するのは、非現実的なこと。それは、NPOを経営している嵯峨さん自身が一番よく分かっている。
それでは、運営資金は一体どこから得ているんですか?
「サービスグラントの収益は、7割が企業で3割が行政からになります。今までの9年間で培ってきたプロボノのノウハウを求められることが増えてきて、ビジネスとして収益を得られるしくみができてきたんです。」
ホームページには、よく街中やCMで見かけるような名だたる企業のロゴが並んでいる。そんな日本の大手企業に対してCSR活動に事務局としてコミットしたり、大阪市との協同事業「大阪ホームタウンプロボノ」を立ち上げるなど、色々な取り組みが生まれている。
ビジネスモデルができてきて、サービスグラントもNPOとして進化のときを迎えているのかもしれない。そこで、一緒に頑張っていく仲間を募集したい。
「プログラム担当の仕事は、チームとNPOの間に入って、お互いの関係を円滑にするために必要なことをしていきます。プロジェクトを見守り、コミュニケーションを誘導する。基本的には参加するプロボノワーカーたちの自主性を大事にしたいので、そんなにしゃしゃり出てしまってもだめなんですね。」
おせっかいすぎても、様子を伺いすぎてもだめ。見守るって難しいですね。
「この役割を、アメリカでは2つの言葉で表現していました。1つは”パーティーのホスト”です。パーティーに集まる人々のなかには、みんなで盛り上がっている人もいれば、ぽつんと1人でいる人もいますよね。その中で、みんなが気持ちよく楽しめるように配慮すること。」
「もう1つは、少々現実的ですが、”トラブルシューティング”です。色々なところに出てくる問題やリスクを早めに摘み取り、トラブルが起こらないように努める役割です。全く違う表現ですが、いずれも全体を見渡してこまめにケアをすることが求められると思います。」
全体を見渡し、円滑に進むようにトラブルを摘み取っていくこと。どんな人がこの仕事に向いていると思いますか?
「NPOとプロボノワーカー、そして企業。異なる三者とコミュニケーションしていくことになるので、人材派遣だったり制作会社のディレクターだったり、マルチステークホルダーの中で働いてきた人であれば、ある程度経験を活かしてもらえると思います。」
「あとは、タフな人がいい。我々がやっているのは単発ではなく持続的な活動なので、瞬発力というより持久力的な力が必要なんですね。気付いたことを日々改善していく主体性と、コツコツ粘り強く取り組む気持ち。これが求められると思います。」
つなげるって、すごく柔らかい言葉だけれど、実はすごくハードなこと。それに、いくらいいことをしていても、資金がないとその活動を維持することはできない。その意味では、NPOではあるけれど「自分でお金を稼ぐ!」というくらいの気持ちがあった方がいいかもしれない。
NPOという立場からNPOを支援する、という難しさ。でも、もしもそれを乗り越えることができたら、サービスグラントの目指す先にはきっといい未来があると思う。(2013/5/30up ナナコ)