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小田原の一軒家

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

小田原市へは、東京駅から新幹線で30分ほど。神奈川県の西部に位置している。

丘陵に囲まれるとともに、相模湾にも面したまち。戦国時代に北条氏が拠点を置いた小田原城も、この地にある。

駅にはお土産屋さんも沢山あり、外国人の観光客もいる。旅行というわけではないのだけれど、だんだん、なんだか旅気分になってくる。

東口と比べると少し閑静な西口を出て、大通りを歩いていく。すると、ログハウスのような三角屋根が見えてくる。大きな個人のお宅かと思ったら、「和木工房(やわらぎこうぼう)」と書いてある。

「和木工房」は、小田原市を含む西湘南の地域に根ざし、木と土でつくる自然素材の住宅を提案している会社。

ここで設計と施工に携わりながら、お客さんと一緒に家を建てていく人を募集します。

設計だけを請け負う設計事務所ではないし、建て売りの住宅を売るだけのメーカーでもない。まずはお客さんの希望を伺うところから、すべてがはじまる仕事になる。

それはきっと、オーダーメードの鞄屋さんや靴屋さんにも近い感覚があると思う。「工房」というのが、ほんとうにしっくりくる。

人を無視することのできない家づくり。だから、スキルや経験だけではなくて、想いのある人がほしい。本当に和木工房の考え方に共感してくれる人。

そんなことを、事前にお伺いしていた。

どんな仕事なんだろう?どんな風に家をつくっていくんだろう?

それをこれから聞いてみようと思います。

靴を脱いでオフィスに入ると、打ち合わせスペースに通された。木のテーブル、木の椅子、木のつい立て、本棚。すべてが木でできている。

この建物は、和木工房がプランから建てた物件だそうだ。「自然素材の家」と聞いて思い浮かぶような、理想が詰まった建物だと思った。

そう伝えると、代表取締の遠藤さんが、にこにことした笑顔でこんな話をしてくれた。

「でもね、自然って面倒くさいものなんですよ。」

「人間の子どもと同じなんですよ。割れたりねじれたりするの。」

無垢の素材は、乾燥すると割れ目が開いたり、湿気で閉じたりするそうだ。それに、塗装をしないものはささくれができたり、蜜が出てしまうこともあるそうだ。

「自然素材」と聞くと、無条件に「なんだかいいよね!」と思ってしまうけれど、生きているものを扱うということ。素材が呼吸しているし変化するのだから、どうしても暮らしのなかで問題は起こる。

「でも、それは個性なんだよね。自然素材の家を建てるってことは、それを受け入れるってことなんだよ。それに、その反面、自然はたくさんお返しをくれるじゃないですか。たくさんね。」

確かに。こうして取材をしていても、ほのかに木の香りが漂ってくるし、床につけている足の裏にも、とがった感覚がなくて気持ちがよい。自然と、肩の力が抜けてくる。

遠藤さんは、この会社の二代目になる。不動産の仕事をしていたけれど、先代の社長と2人で会社を立ち上げることになった。

小田原という場所を選んだのは、土地の豊かさから。

「昭和50年前後まで、ここは小田原経済圏って呼ばれていたの。オイルショックで日本中が打撃を受けたときにも、ここにはその風が吹き荒れなかった。なんでかっていったら、豊かだからなんだよね。海からは魚も獲れるし、気候が温暖だから柑橘類などの果物もよく実る。」

自然素材を家づくりのテーマにしたのは、どうしてですか?

「まずは、自分たちが自信を持って勧められることを軸にしたいと思ったから。それから、建築って、時代の風をもろに受ける業界なの。だけど、そういうものにあまり影響を受けない家づくりをしていきたいな、と思って。注文住宅しかやらないというところから、さらに自然素材をテーマにしてお客さんを絞り込んだ。」

うちは自然素材を使った家づくりしかやりません。そう断言しているから、お客さんもある程度、和木工房のコンセプトを理解していてくれる。

ただやっぱり、素材の特性などはしっかりとした説明が必要。こちらの考え方をすべてお話しして、納得していただいた上で、はじめてプランをつくりはじめる。

「家づくりって、人生そのものなんよ。住宅ローンは、命を担保にするものでしょ。30年のローンだったら、30歳で家を建てたら完済する頃には60歳だもん。だから、家づくりって人生そのものだよ。」

人生をかけて家をつくろうとするお客さんに対して、素材とプランで応えていく。

「けっこう大変だと思いますよ。全人格的な要素が求められる。設計経験とか現場に明るいというのももちろん大事だけれど、いちばんは、お客さんと向き合うこと。だから、人が好きな人がいいね。」

実際にお客さんと一緒に家づくりを進めている、設計プランナーの室伏さんにも話をきいてみる。

「自分は年収がいくらで貯蓄がいくらで…なんていう話、親戚の方にも話したりしませんよね。わたしたちは家をつくる過程で、そういう話まで聞いてしまうんですよ。血の繋がりのある方よりも濃い関わりを持つことになるので、責任があるんです。」

「だから、人間としてお客さんに認められるかどうか。それで仕事が決まる部分があります。」

さっき遠藤さんが言っていた「全人格的」って、こういうことなのかもしれない。

確かに、もし自分が家を建てることを想像してみると、信頼できる人じゃないと相談できない。

年収や、一緒に暮らすことになる家族の生活のクセなんかも、話さなければいけないわけだから。

それに、信頼していないと、アドバイスに聞く耳を持つことも難しいと思う。担当の方との相性ってかなり重大なポイントだ。

「ご提案はしますが、ご家族が住むための家をつくるわけなので、こちらの我を通すようなことはしません。お客さまのご要望をこちらで編集していく。そこに、+αの価値を付加する。それが、わたしたちの立ち位置だと思います。」

室伏さんは、どうしてこの会社に入ったんですか?

「建築の勉強をしてきたのですが、就職活動のときに、大きい会社に勤めるよりも、設計や現場管理など色々なことができるところへ行きたかったんです。地元が小田原なので、どうせなら地元で就職したいと思い、この会社を選びました。」

働いてみて、どうでしたか?

「うちの会社は、設計事務所でも住宅メーカーでもありません。いわゆる地域ビルダーと呼ばれる仕事になります。だから、こちらの事情でものごとが進んでいくのではなく、お客さま本意で仕事ができるんです。お客さまの想いとこちらの想いを繋げていくような、そんな仕事のやり方ができること。それが、楽しくもあり大変な部分でもあります。」

大変なことも多いけれど、家が完成して何年かしてから「やっぱりいい家ね。」
と言っていただけると、とても嬉しい。

「家の居心地が良いので、あまり旅行に行かなくなりました。」そんな感想をいただいたこともあるそうだ。

それから、家を建ててからも、屋根の修理だったり改築だったり、そういったちょっとしたタイミングで声をかけてくれるお客さんもいる。こういうことは珍しくないそうだ。

お客さんとのお付き合いは、家を建てたあとも続いていく。これも、地域に根ざして仕事をしているからこそかもしれない。

逆に、大変なことも聞いてみた。

「人として、思っていることが伝わっていないと分かったときは辛いですね。」

人として、ですか。

「はい。こちらの思っていることを伝えようとしても、どうしても伝わらないことがあるんです。それは、そもそもそういう関係になってしまうような仕事をはじめるべきではなかったんです。そんなときは悩んでしまいますね。」

お客さんとのやりとりのなかで、「あれ?」と思うことがある。あれ、もしかして伝わってないかな。思っていることがズレているかもしれないな。

その「あれ?」という違和感をそのまま放っておくと、大きなズレになってしまうことがある。

「お客さまとうちの家づくりへの考え方が違っているのに、それを追いかけていくのは、お互いに不幸じゃないですか。仕事だから成約をとりたいのは山々なのですが、もし向いている方向が違うと感じたら、その時点で、本当にうちでいいんですか、としっかり話をしています。」

それでも理解を得られないときには、契約を白紙にする覚悟をもって仕事をしている。幸い、今までにそういう例はまだないけれど。

「大事なのは、自分をプレゼンできるかどうか、ですね。こちらがさらけだすことで、向こうもさらけだしてくれる。今は社会が秘密裏で、個人社会のようになっているけれど、この仕事をするならば、自分を出さないと無理だと思います。」

自分をさらけ出す。これはすごく難しいことだと思う。でも、逆に言えば、マニュアル化されたものがないということ。人対人の仕事がしたい人にとっては、魅力的な仕事だと思う。

「ただスキルや経験だけを求めているわけではないんです。ここからここまで、という仕事ではない。全部がつながっているんです。だから、わたしたちの会社の想いに共感してくれる人に来てほしいと思います。」

話を聞いたあと、2階のオフィスを見学させていただいた。

階段をあがっていくと、天井には大きなファンがくるくるまわっている。床の木目は、窓の外の光に反射してとても明るい。

すごく晴れているから、ほとんど電気はいらない。日中は、外の光を借りて仕事をすることが多いそうだ。

真ん中の階段を挟んで、右が営業、左が設計、とデスクは分かれている。プランを立てる室伏さんが作業するデスクは、ちょうどその真ん中にある。隣には、社長である遠藤さんのデスクも。

壁はどこにもない。おーい!と呼べば、すぐに応えられる距離。色々な意味で、ほんとうに風通しの良さそうなオフィスだなと感じた。

小田原にある一軒家のような会社。ここには、親戚のように関係を築いていけるお客さんと、ひとつ屋根の下で一緒に仕事をする仲間がいます。

ピンときたら、まずは小田原に行ってみてください。都心からも近いけれど、駅に降りた瞬間に、空気が全然違いますよ。海風なのか山風なのか、そこにはゆったりした空気が流れています。(2013/6/16 ナナコup)