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暮らしを提案する

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

色々な仕事や暮らしに触れるなかで、働き、生活する場の大切さを感じることが増えてきました。

28年間生まれ育ってきた東京は好きだけれど、ときどき窮屈に思うこともある。

僕は、月に一度は東京を離れて、山を見ながら書きものをする時間を持つようにしています。

季節によって変わりゆく山や田んぼといった風景。夜は川のせせらぎに、虫の鳴き声を聞きながら過ごす。大切な時間だと思っています。

今回は埼玉県比企郡・ときがわ町を訪ねました。

1 東京から一時間ほどで、こんな静かな時間の流れるところがあるとは知りませんでした。

ここには、日帰り温泉を通じて地域活性化に取り組む、株式会社温泉道場があります。

温泉道場では、ときがわ町の魅力を冊子にして、地域の暮らしを提案するライター・デザイナーを募集します。

池袋から東武東上線に乗り、一時間もせずに電車は武蔵嵐山駅に到着した。

迎えてくれた温泉道場代表の山崎さんの車に乗り、運営している日帰り温泉「玉川温泉」へと向かう。

駅前の商店街を抜けて少し進むと、里山のある風景が広がり、ところどころに玉川温泉の看板が見える。

そして温泉に到着。思っていたよりもこじんまりとした建物に、入り口では三丁目の夕日で見覚えのあるオート三輪が迎えてくれた。

2 施設奥の休憩室で山崎さんに話をうかがう。

2011年の3月に温泉道場を起業した山崎さんは、現在30歳。どうしてこの事業をはじめたのだろう。

「実家が会社経営ということもあり、独立は自然と頭にあったんです。起業に必要なことを考えてコンサルティング会社に入社。5年で独立しようと思っていました。」

そこで出会ったのが、日帰り温泉のコンサルティングを担当する部署だった。

「もともとの温泉好きもありましたが、施設の設計や改修も含め、幅広く経営を学べることに魅力を感じたんです。」

温浴ビジネスチームでは全国を飛び回り、多いときは1日に17ヶ所の温泉に入る毎日を過ごしたという。

3 「気持ちいいのは最初のせいぜい3ヶ所なんですけどね(笑)。何をしていたかというと、クライアント周辺の温泉に入り、規模、泉質、風呂の種類… リストを作成します。そうすることで他の施設にはないものを見つけ出し、独自性を打ち出していくんです。」

接客といったソフト面の提案をすることもあれば、風呂の増築改修といったハード面の提案も経験してきた。

そして2011年3月。クライアントの運営する玉川温泉と白寿の湯を業績改善するため株式会社温泉道場を立ち上げ、2店舗を事業買収した。

まず取り組んだのが、集客のための広報活動。

当時温泉に来ていたのは、地元の農家をはじめ高齢者が多かった。新しい層にも温泉を利用してほしい。そう思い、お風呂屋さんで働く48歳までの女性スタッフで構成するアイドルグループ「OFR48」のプロデュースなどを行ってきた。

「おかげで、それまで見えなかった20代のカップルも見えるようになったんです。」

そして集客も安定してきた今年は、施設のブランディングに力を入れはじめているところ。

「周辺の温泉と比べて、施設が古いことを逆に強みに、昭和レトロをコンセプトとして打ち出しているんです。他の温泉でも活用できるような仕組みを構築しているところですよ。」

4 現在、そうしたブランディングに取り組んでいるのが、新入社員の水品(みずしな)さん。

駄菓子にブリキのおもちゃなどを充実させて売店に並べたり、全国から取り寄せた地サイダーのコーナーを設けた。発注からポップづくりまで全般を担当している。

「玉川温泉は、この地域では一番いい泉質です。ただ設備面では、2つの風呂のみでサウナもなく、決して恵まれているわけではないんです。」

「今後は昭和レトロを業態化して他の店舗でも活かせるように、色々なノウハウを蓄積しているところです。」

水品さんはどうして温泉道場で働きはじめたのだろう。

「温泉が好きなんです。わたしはほんものの温泉を伝えていきたくて。将来は自分で湯治宿をやりたいです。」

5 学生時代に温泉関係の求人を探すなかで、山崎さんと出会う。住み込みでのインターンを経て入社したという。

現在は、経理をはじめ温泉の経営も学んでいるところ。また、温泉ライターとしてwebなどで4本のコラムも持っている。

水品さんの夢を応援しているという山崎さんに、ふたたび話を聞いてみる。

「求人をすると、温泉大好きですっていう人がけっこう来るんですよ。それではうちで働くことがゴールになってしまいます。温泉好きに加えて、何か自分の好きなこと、やりたいことのある人と働きたいです。」

「水品であれば、将来は湯治宿をやりたい。そういう思いがあるから日々の仕事も目的意識を持って取り組めていて。吸収することも多いんですよ。」

水品さんを見ていて感じたのは、やりたいことを任せてくれる環境があること。

働く人がやりたいことができて、会社としての新たな展開にもつながってくる。そうしたよい循環があるように思う。

逆に言えば、受け身の姿勢では大変かもしれない。

今回募集するのは、玉川温泉の位置するときがわ町の魅力を冊子にして発信する人。紙面の企画構成から取材、ライティングにデザインをしていくことになる。

どんな冊子を制作しようと考えているのだろう。

「地域には、食材、自然、そして人。さまざまな魅力があります。それらを、人に焦点をあてて紹介することで、ときがわの暮らしを伝えていける媒体にしたいんです。」

「手にとることで、今度の週末はときがわ町に行ってみようかなと思うきっかけになったり。あるいは温泉で冊子を手にした人が、ときがわ町を回ってみる。そうなればと思います。」

6 今回はときがわ町からの委託を受けての事業になる。

観光地を訪れて案内所で受け取ったマップに、地図と飲食店の住所・電話番号しか載っていないことも少なくない。お腹は満たされるかもしれないけれど、もっと大事な何かが忘れられているようにも感じる。

まちへの入り口として、冊子の存在はとても大きいと思う。

ときがわ町にはどんな魅力があるんでしょう。

「一つには自然豊かな場所であること。嵐山渓谷があり、今の時期にはホタルも見えるんですよ。もちろんそうした場所って全国にあります。でも、東京から一時間で里山の風景が見られるのはなかなかないと思うんですよね。東京にもいつでも出られて、バランスがいいんじゃないかな。」

「カヌー遊びのできる川に、キャンプ場、天文台。もちろんおいしい食材もありますよ。静かな時間を過ごせるコンテンツが揃っているので、うまくつなげて伝えてほしいんです。」

7 たとえば女性が週末にときがわ町を訪れてのまち歩きを想定したツアーを企画してみる。そして実際にモデルを立てて、森林浴をしたり、ご飯を食べたり、温泉めぐりを撮影をしていく。

「それから、人ですね。色々な場所に面白い人がいるんですよ。」

午後からは山崎さんに同行してみた。

この日は、地域の商工会議所に所属するメンバーたちが、町役場に活動報告を行っていた。

「みんなそれぞれ直売所の店長、コンビニの店長、温泉の経営といった仕事を持ちながら、地域の活性化に向けた取組みをしているんですよ。」

8 12,000人強というまちの規模もあり、役場の方との関係もフランクなものに感じられる。

その他にも、古民家をリノベーションしたカフェのご夫婦に、川でカヌー遊びを体験させてくれるご主人などとも話をさせていただく。

印象的だったのは、行く先々で山崎さんの立ち話がつきない姿。

まちにいる魅力的な人に注目して取材、記事を書いてみることも考えられると思う。

9 ところで、温泉道場にとって冊子づくりはどういう位置づけなのだろう。

「ときがわ町により多くの人に来てもらって、活性化していけばと思うんです。」

地域に利益が出ると、雇用が生まれて地域経済が循環する。そして人の交流が増えることでさまざまなアイデアもあがり、まちににぎわいが生まれてくる。

「温泉という切り口だけではやってくる人も限られてきますよね。私たちは、静かな時間があるときがわのライフスタイルを提案しようと思ったんですよ。温泉もそのなかの一つのコンテンツなんですね。」

「そうした暮らしを提案するツールとして、情報誌を位置づけています。なので、将来的には農業やカフェもやっていけたらと思っています。」

10 山崎さんは、これからやってくる人に自分のつながりを伝えつつ、冊子づくりはコンセプトから任せていきたいと考えている。

どんな人がいいだろう?

「これまで雑誌をはじめ制作に携わってきた人に来てもらえたら理想ですね。同時に伝えたい、雑誌をつくりたい、書きたい。そういう気持ちも大事にしたいです。」

制作の仕事に携わる人からは、好きだからこそ生活がないがしろになってしまうという話もたびたび聞く。

制作の仕事は好きだけれど、生活の場を変えてみたい。そう思う人もよいかもしれない。

「私も以前は夜遅くまで働いていたんですよ。ここに来てからは寝るのも起きるのも2時間早くなりましたね(笑)。自然と正常なサイクルをからだが刻むようになったと思います。」

もちろん、忙しいときだってあると思う。

けれど自分の暮らしが変わり、人にも暮らしを届けていける。そういう仕事だと思う。

それから、温泉の仕事もお願いしたいという。

たとえば販促物や、webでのコピーライティングを考え直すことで、新しい客層を呼び込むことにつながっていく。

まちという地域に加えて、温泉道場という会社のブランディングに携わることもできます。

事務所も温泉のなかにあるので、訪れた人の生の声を聞く機会も持てると思う。

11 取材を終えるとせっかくだから、と温泉に入らせていただいた。

美人の湯と言われる強アルカリ性のお湯に入ると、全身すべすべになるのが感じられる。皮膚の老廃物がとれていくのだそう。気持ちがよい。

温泉につかっていると、おじさんから「どこから来たの?」と声をかけられる。

取材だと話すと「僕らも撮ってよ(笑)。」と風呂上がりにパシャリ。ときがわ町は、そんな土地柄なのだろうな。

これから働く人は、一日の終わりをこの湯で過ごすのかな。仕事も生活も、ここにはいい循環がありそうです。(2013/7/3 大越はじめup)