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セタガヤ耕してみる

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

地域に根ざして働きたい、人とつながって暮らしたい。

そう思ってまず頭に浮かぶのはいなかに住むことかもしれない。けれど、実は東京にもあります。

地域の人と話すなかで仕事をする。仕事帰りには顔の知れた商店街で買い物をして帰る。夏が近づいてきたらお祭りの準備を手伝う。

きっとそんな日々を過ごすことになるのだと思います。

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「いまは世田谷区でLPガスを供給する仕事をしています。実は、この仕事は数年後になくなると思っているんです。ただ、僕らが大事にしてきたのは地域に伴走していくこと。関わり方は変わっても、世田谷に寄り添っていきたいんですよ。」

そう話すのは松陰会館の佐藤芳秋さん。

佐藤さんは、このまちに生まれ育ってきた。就職を経て、家業である株式会社松陰会館に入社して7年が経つ。

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松陰会館は、LPガスの供給と不動産事業を行っている会社です。LPガスの需要が縮小していくなかで、いま、新しい業態へと変化しつつある。

今回は、ガスの検針にはじまり、新しい事業の立上げに向かう人を募集します。

世田谷線を松陰神社前で降りる。

松陰神社は、松下村塾で知られる吉田松陰が眠る場所。駅前から神社へ向かう参道には、個人商店が立ち並ぶ。そこから一本奥に入ると、住宅街が広がる。

そんなまちです。

線路沿いのオフィスで、ときおり聞こえる電車のガタゴト音をBGMに、話をうかがいました。

常務の佐藤芳秋さんは会社の歴史をこう話してくれた。

「創業はいまから約70年前のことです。新潟から上京した私の祖父が、石炭事業を興したのが会社のはじまりです。時代の流れもあり、さまざまな事業展開をして会社が成長していきました。そうしたなかで、ゆかりの深い松陰神社前に『地域の人が集まれる場をつくりたい』という思いから生まれたのが松陰会館です。」

名前を言うと結婚式場か葬儀屋さんか、公民館か?ってよく突っ込まれます、と笑いながら佐藤さんは話を続けた。

「最初は、いまでいうコミュニティスペースをつくろうと思っていたんですが、その土地が使用できなくなりました。ただ、地域に根ざした会社にしたいという思いはあって。生活に必要なインフラを提供しようと、LPガス供給と不動産事業をはじめました。」

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今回募集しているのは、LPガスの部門で働く人だ。

僕もよく知らなかったので、はじめに説明しておくと、ガスにはLPガスと都市ガスがある。

松陰会館の供給先は大きくわけて家庭と飲食店。世田谷区で約3,000件の供給を行っている。

家庭では、都市ガスの供給ラインが整備されていないエリア。また飲食店では、都市ガスに比べ初期投資が安いため利用するところも少なくない。

けれど、LPガス事業は、斜陽産業になりつつあるという。

「日本全体の流れとして、特に都心部ではそう遠くない将来、LPガスは都市ガスにどんどん切り替わっていくと思います。お客さんがガスに求める価値って、火やお湯が使えることですよね。都市ガスに変わってもお客さんとしては何も困らないんですよ。」

…仕事がなくなるということですか?

「でも、僕らがずっとやってきたのは、この地域に伴走することです。LPガスがなくなっても、新しい価値を生み出すことで関わっていけると思っていて。いまはその下地づくりをしている段階です。」

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具体的に言えば、キッチン回りで困っている人にガスコンロ交換の相談に乗ったり、給湯器を交換したり。

最近では、こんな相談を受けることもあるという。

「検針で訪ねると、電球が切れたから、交換してほしいと言われるんです。あとは、高齢の方から掃除機を買ってきてほしいって。その後で、『紙パックのサインが出てるんだけどどうしたらいいかしら』『じゃあいま行きますね』。」」

「効率を考えると、おばあちゃん一人にそんなに時間をかけて、お金を生まないじゃない、となるんですが。いまはお金は生まなくてもつながりを生む時期だと思っています。」

会社の設立当初に目指していた「地域の人が集う場」づくりにも取り組みはじめている。

2011年にはコミュニティスペース“shoinstyle”を立上げた。

保育園の歓送迎会や謝恩会を開くことも、ヨガ教室となることもある。

併設したキッチンでは、地域に住むママさんが、鳥取の実家で採れた野菜をつかった料理教室を開催している。

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そうした企画を通じて、地域のママさんたちが集いおしゃべりをする場でもある。

「実はいま、うちのスタッフがその野菜を届けているんですよ(笑)。ママさんたちは子どもに安心な野菜を食べてほしい。一方、主催者の方も野菜の販路開拓をしたいけれど、配達までは手が回らなくて。少しずつだけれど、地域の方が求めることに寄り添って、松陰会館は変わりつつあると思います。」

さまざまなニーズがあると思いつつも、同時に、利益につながりにくい事業だとも思う。

佐藤さんは、どんなビジネスモデルを描いているのだろう。

「たしかに、今日はじめてすぐに利益の出る仕事ではありません。ただ僕らには、いままで地域と積み重ねてきた関係があります。」

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「長い目で見れば仕事につながってきます。うちでは不動産も手がけているので、日ごろガス検針にうかがっているお宅で、『不動産を処分をしたい』という相談を受けることもありえます。それって、ごく自然な流れだと思うんですよ。」

何かトラブルが起きたときにだけ、お客さんと業者という関係のもと、お金をやりとりするビジネスは少なくない。

一方、佐藤さんが描いている事業は、日々積み重ねている関係がもととなり、ある日仕事につながる。

世田谷というまちを日々耕し、収穫をする。スポットで大きな利益を生むというよりは、着実に輪を広げていく、農耕型の事業と言える。

「続いていくことが大事だと思うんですよ。一人のひとと、世田谷と長くお付き合いしていきたいです。」

「これから一緒に働く人にも、すぐに結果を出してくれというよりは、じっくりとした関わりのなかでお客さんや地域が好きになってもらえたらいいですね。」

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実際の主な仕事は、世田谷区内でLPガスを利用しているお客さんを回り、メーター検針を行っていくというもの。

「検針を通して、お客さんと関係をつくっていくことが最初の仕事ですね。ほとんどのガス屋さんでは、パートさんに任せることが多いです。でも、実はものすごくチャンスのある仕事だと思っているんですよ。」

チャンスですか?

「家にあがらせてもらうので、給湯器が大分傷んでいるな、とわかるんですね。そのことが営業につながります。それから話しているなかで、息子さんが近所に住んでいることがわかって、うかがってみたり。そうして仕事は広がると思うんですね。」

「うちの広告には『猫の名前も知っています』とあるんですけど、事実なんですよ(笑)。それぐらいにお客さんを知っていこうと思っています。」

これから働く人は、はじめはガス屋としての仕事をしつつ、じょじょに何でも屋さんのようになっていくのだと思う。

「こうして私が話しているのはまだまだ先のこと。現状とはギャップがあると思います。現場で働くスタッフにも話を聞いてほしいです。」

そうして、話を聞いたのが坂巻さんと菅原さん。

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菅原さんは、昨年からガス部門で働きはじめた。

「入社して2ヶ月ほどは、先輩の社員について検針を行いました。その間に地域やお客さんの顔をなんとなく覚えていくんですね。僕自身経験はなかったんですが、基礎的な部分はその2ヶ月で覚えられました。」

お客さんとはどんな風に関わるのだろう?入社8年目の坂巻さんはこう話してくれた。

「最近では暮らし全般の頼まれごとも増えてきました。『ドアを直してほしい』とか、『引き戸がうまく閉まらないから見てほしい』とか。8年の間にも随分変わってきましたね。困ったらまずは松陰会館に相談してみよう。そういう感じの方が増えてきましたね。」

坂巻さんはドア修理もはじめからできたんですか?

「いや、できないできない(笑)。お客さんの家でやりながら覚えていきました。集合住宅の場合には、一戸直すとよそでも頼んでくれたりするんですね。」

仕事をしながらお客さんと話すこともある。

「なかにはいつも長時間話す人もいます。ただ、こちらも回らないといけない先もあるので、もうちょっと話したいなと思いつつ、途中で切り上げてしまうこともありますね。新しい人が入ることで、もっと一人一人のお客さんと話せるようにはなるのかな。」

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この話をあとで佐藤さんにも聞いてみた。

「そこは私もいま考えているところです。営業目標はある一方で、それに縛られすぎるのも違うと思います。そのバランスも一緒に考えていけたらと思うんです。」

佐藤さんが展開している取組みには、坂巻さん、菅原さんとも「何をするのかな?」という期待感を抱いていた。けれど、これから松陰会館が進む方向を共有するのは、まだまだこれからという印象を受けた。

これから一緒に働く人に一番大事なことは、佐藤さんの話にわくわくできるかどうかだと思う。

「もし面白いと思ったら、話をするだけでも来てもらえたらと思うんですよ。」

そうして実績が生まれることで、いま以上に会社を巻き込んで活動していけるように思う。

佐藤さんはこれから働く人に伝えたいことがあるそうだ。

「もちろん希望があれば、の話ですが。もし世田谷に住んだら、もっと楽しめると思います。」

「このまちのことが好きになると、仕事と生活をわけるのがかえって違和感があると思います。検針がきっかけで知り合った地域の人と、祭りでは一緒に神輿を担いだりね。そういう生活はもともと世田谷にあったんですよ。」

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ときにはお客さんと仕事の外で会うことだってある。

「最近はお客さんに誘われて飲みに行くことも出てきたんですよ。これまでよりも松陰会館が地域になじんできた。ようやくやりたかったことが進みはじめたような気がします。」

仕事をしながら、暮らしながら世田谷を少しずつ耕していく。その積み重ねがある日仕事に結びつく。そんな日々になるんだろうな。

働きはじめるきっかけは色々あると思う。

もちろん世田谷が好きな人もいい。それから、ゆくゆくは自分の地元で起業したい人だっていい。地域に根ざした仕事をゼロから立ち上げることは大変だけれど、松陰会館での経験はかならず活きてくると思う。

働くうちにこの地域のことが好きになる人もいるんだろうな。

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僕も世田谷にはあまり縁がなかったけれど、時間の流れがゆっくりしていて落ち着けるまちでした。取材を終えてしばらく散歩をしたり、公園で書きものをしていました。

まずは一度佐藤さんを訪ねてみてはどうでしょう。あわせてまち歩きもおすすめです。(2013/7/2 大越はじめup)