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レストランってただ食事をするだけにあるんじゃないと思う。そこは今まで食べたことのないような新しい食材を知ることができたり、生産者と出会えるような場所であってもいい。
そして、その方がお腹も心も満たされて、何度でも行きたくなると思う。

訪れたお客さんに食を通して、つくり手のことや日本の文化を知ってもらうことを目的にしているから、いわゆる一般的に思い浮かべるようなレストランの仕事とは違うものになると思う。
詳しく話を伺うために、六本木農園を訪ねた。
六本木農園は、六本木駅から徒歩1分。六本木ヒルズもすぐそばに見える場所にある。
白茄子やミニトマトが実る庭を横目にエントランスを入っていくと、このレストランを立ち上げた古田秘馬(ひま)さんが迎えてくれた。
「我々のレストランは、ただ食事してもらうのではなくて、その先にいる生産者の方がどんな気持ちでこれをつくったのか、とかそういうストーリーを含めて表現しているんです。ここは、生産者と消費者を繋ぐためのレストランなんですよ。」

地域を元気にするアイデアマンであり実行者でもある秘馬さんは、日本中を飛び回っていてとても忙しそう。
秘馬さんが六本木農園を立ち上げたのは、2009年のことだった。
きっかけは、色々な地域を見るなかで、地域のキーマンはその土地の持つ力を価値にかえている「生産者」なのではないか、と思ったこと。
「生産者の方の話を聞いてみると、『消費者と会う機会がないんだよ』って言うんです。今でこそ、マルシェだったり、生産者と消費者が繋がる場は増えてきているけれど、たしかに当時は全然なかったんですよね。じゃあ、農家のライブハウスがあってもいいんじゃない?という話になりました。」

月に2~3回ほど行なわれているのは、「農家Live」というイベント。この間はそうめんの生産者の方が来て、お客さんと一緒に庭で流しそうめんを楽しんだそうだ。
他にも、地域の人が自分たちのつくったもの自慢する「東京晩餐会」や、シェフが生産者のもとへ行きその土地の食材をつかって料理を振る舞う「にっぽんトラベルレストラン」など、さまざまなイベントを行なっている。
「生産者の方が想いを伝えるときに、実際つくったものを食べてもらいながら話すのがベストだと思うんですよ。ちゃんと味にも納得してもらえるしね。」

横浜に新しくできた「むかしみらいごはん」は、どんなテーマのレストランなんですか?
「『むかしみらいごはん』は、親・子・孫の3世代が学べるレストランということでスタートしました。色々な地域をまわるなかで、地域に受け継がれている文化を継承していく人がいないということに気付いたんです。地産地消というよりも、『地産継承』が必要だよね、というところからはじまりました。」

六本木農園は、土地柄、ビジネスマンや外国の方向けのイベントをすることが多かったけれど、むかしみらいごはんでは、家族向けの3世代で楽しめるイベントをしていきたいと思っている。
「たとえば、地域には必ず名物おばあちゃんがいるものですよね。そういう方を呼んで『おばあちゃんライブ』をしたり、昔の遊びや祭りの儀式などを伝える場をつくっていきたいと思っています。」

「僕らがやりたいことって料理を出すだけではなくて、料理を通して世の中に新しい関係をつくることなんですよ。神社に行ったとき、すこし気持ちが引き締まってふだん考えないところに思いを馳せたりしますよね。場ってそういうものだと思うんです。ぼくたちは、伝えるべきものを伝えためにレストランをやっているんです。」
「これから、本当に楽しみだよね。可能性がありすぎちゃって、やりたいことがいっぱいある。」と秘馬さん。

続いて、料理長の比嘉(ひが)さんにも話を聞いてみた。
比嘉さんは、今年で3年目になる。もともとマクロビオティックのフレンチレストランでシェフとして働いていた。

本当に心から楽しそうに、仕事の話をしてくれたのが印象的だった。
「ここには、全国の肉、野菜、こだわりの調味料が集まってきます。『俺の野菜食べてみてくれ』って、生産者さんがやってくる。話を聞くと、本当に色々な想いを持ってみなさんつくっているんです。そういうつくり手の想いを料理で表現するのが、僕たちの仕事です。」
生産者が来るだけではなく、比嘉さんの方から生産者の方を訪ねることもある。
「面白いことに、農家さんの性格は、畑や野菜の味にそのまま出るんですよ。几帳面な人の畑からできた野菜は繊細な味がするし、『畑は自然のままにしとくのが一番だ!』という豪快な人の畑からできたものは野性的な味になる。生産者さんと付き合っていくと、こういう人がつくったからこういう味になるんだ、というのがよく分かります。」

「生産者さんは、必要なときに必要なものだけ仕入れる受発注だけの関係ではなく、仲間って感じですね。それは、このレストランが、野菜と付き合うのではなく農家さんと付き合っているからだと思います。しっかり人と人が結びついているんです。」
「日々、見たこともないような野菜が届くんですよ。」
比嘉さんが、生産者の方から今日届いたという大きな段ボールいっぱいの野菜を見せてくれた。
「この紫キャベツのようなものは、トレビスという名前の葉野菜ですね。それから、こんなちっちゃい冬瓜が入っていたり。こっちは沖縄でとれるハンダマという野菜で、加熱するとヌメリが出ます。生でも食べられますよ。食べてみますか?」

シェフの仕事は、これらの野菜をどう料理したら一番美味しく味わうことができるのかを考えること。
新しく入る人は、比嘉さんのもとで働くことになる。具体的にどんな仕事をすることになりますか?
「基本的には、その人の経験に応じて役割をつくっていくつもりです。シェフとして経験を積んできた方だったら即戦力として一緒に料理をつくっていきたいですし、まったく経験のない人だったら、まずは洗い物など下仕事からはじまると思います。目の前でいい野菜や農家さんに会うチャンスがあるというのは、すごいことだと思いますよ。若いうちに色々な食材を知っておくと、ゆくゆくは何がきても大丈夫なようになりますから。僕も、どんなものが届いても驚かなくなりました(笑)」
比嘉さんに話を聞いたあと、もともと3年前にホールスタッフとして働きはじめ、今は六本木農園のイベントマネージャーを務めている村田さんにも話を伺った。

「編集の仕事をするなかで、もっと自分がつくったものの先にいる人の直接的な反応を得られる場所にいきたいなと思ったんです。だったら接客業かな?と漠然と考えていたときに六本木農園のことを知って、面白そうだなと思って働きはじめました。」
ホールスタッフとして働きはじめて、どうでしたか?
「ホールの経験は学生時代のアルバイトくらいしかなかったのですが、だんだんと慣れていきました。接客のスキルはあとからでも身に付くと思うんです。それよりも、コミュニケーションの気持ちがある方が大事だと思います。レストランとして一番大切なのは、美味しい料理をお客さんに提供すること。お客さんとの直接的な関係になるので、まずはそこを楽しむことですね。」

ほかのレストランと違って面白いのは、料理についていくらでも話すことができてしまうということ。それは、産地や調理法のことだけにとどまらない。
「『これはすごくお酒が好きな農家さんがいて、自分の酒のアテにつくってる野菜だからお酒と合うんですよ』そんな風に、話しだすと止まらないんですよね。お客さんがいつまでも食事に箸をつけられないほど(笑)。それも、生産者の方を知っているからこそですよね。」
逆に、大変だと思うことも聞いてみた。
「混んでいるときは料理の提供が遅くなってお客さんに怒られることだってありますし、店内のつくりがワンフロアではなく地下にも部屋があるので、足が疲れてしまったりもします。お店が取材で取り上げられたりなどもしているので、憧れの気持ちでいらっしゃる方もいますが、もちろん飲食業なので、それなりに大変なこともありますよ。」
どんな人なら、ここでの仕事を楽しめると思いますか?

最後に、秘馬さんがこんなことを言っていました。
「僕らが目指しているのは世界一のレストランじゃなくて、世界を変えるレシトランなんです。世の中のあり方を変え、新しい関係をつくること。だから、決まったルールの下ではなく、ルールをつくるところから一緒にできる人に来てほしいと思います。」
人が集まり新しい関係が生まれる。そんな場づくりを、レストランからはじめてみませんか?
(2013/8/2 笠原ナナコup)