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過剰に説明された世界になってきていると思う。インターネットを開けば、いかにして集客するか、よく練られた情報が氾濫している。レストランに行っても「うちの食材はとってもこだわりのものなんですよ」という言葉で埋め尽くされている。「いいね」の数など、評価が点数化されランキングされている。あとはクリックするだけでいい。
NEWLANDを運営するdessenceの山本さんは、そんな状況を「日本人の主観が揺らいでいる」と話す。もはや人はだれかの狙い通りに行動してしまうのかもしれない。

東京から新幹線で1時間弱。熊谷駅に降り立つ。やっぱり暑かった。そこからバスかタクシーに乗って20分ほどでNEWLANDに到着する。
まずは大きな倉庫のような建物が飛び込んでくる。かつて大型クレーンの教習所として使われた場所で、今でもクレーンのある大きな空間、かつて事務所や教室があった建物、それに元合宿所など、広大な敷地全体がリノベーションされて、複合商業施設になっている。

敷地の中央にはドッグランがあり、事務所だった建物には様々なデザインプロダクトを扱うお店やギャラリーもある。元合宿所はワークショップなどを開催する教室となった。NOZY COFFEEのコーヒー教室から、フルタヨウコさんのジャムづくり、そしてdessenceの山本さんは自ら「おとなからはじめるスケートボード」なんて教室をやっているみたいだ。いい感じ。
しばらくうろうろしていると山本さんがやってきた。ギャラリーの横にあるテーブルで話を伺った。
まずはどうしてNEWLANDをつくったのか。
「dessenceのときに感じたことが今NEWLANDに繋がっているんです。」
dessenceは建築やインテリア、家具、プロダクトまで手がける会社。
「今から6、7年前位に、インテリアが非常に売れなくなってきた。まだまだ東京では発進力があってトレードされて、しっかり商売になってはいたけども、地方で陰りを見せ始めていた。」

横着ですか。
「昔であれば何か得たいときは自分で率先して時間、体力、お金を払って何かを手に入れることに価値があった。それが今はすごく便利な世の中になって情報もコントロールされているので、良いものも悪いものも同じ一線上に並べられている。」
「日本人特有の主観がしっかりあれば『私はこの商品がいい』としっかり選択をしていくことが出来ます。でも的確にものを判断して編集して手に入れていくことが出来ない。主観を育てる場所をつくらないと、僕らが売っているインテリアとか建築が売れないし、良いものが残っていく事がないだろうと。」
山本さんはそんな危機感を持ちながら、自分の思いが体現できる場所を探し続けた。そして出会ったのが元クレーン教習所だった。
駅から近いわけではないし、この場所の決め手はなんだったのだろうか。
「ここは何もないところが良かったんです。」

「普通は何かインセンティブがある場所を探すものです。とくに商業施設なんかは。でも何もない場所でも、クリエーションだけで人を呼ぶことができるのかというのが、すごくこれからの日本に対しての判断材料になると思って。」
挑戦しますね。
「挑戦でしょうね。ある人は無謀と言うかもしれない。ある人は5年続いたら伝説になるとか。そもそもオープンできない、なんてことも言われました。」

掘り下げて考える力。それに主観。
今回、求人するオーシティーでも、こういう力が求められていると思う。どういうお店になるのか、山本さんに聞いてみる。
「施設としてやっている事の中で、『食』の部分を体現できる場所になれば良い。」

「特別なことはやろうとは思っていない。日常の延長上というようにこの場所は考えているので、普段の日常の質をどうやって上げていこうかというところ。カフェに対しても、例えば特別なフレンチやイタリアンをやるとか、そういう場所は限りなくあるから、わざわざやる必要はない。普段ちょっと夕飯を食べるという行為に対して、そこに質が高いものが置いてある。」
ご近所にはナンシー八須さんが住んでいるそうだ。スローフードのリーダー的な存在の方。
彼女からは、何か特別な調理方法をするのではなく、素材にこだわって、シンプルに焼く・煮る・蒸すことで本当においしいものはつくれる、ということを勉強したそうだ。
何かにカテゴライズされたものではなく、和洋折衷でもなく、素材に向き合って、それを引き出すような。
自由でニュートラルなようでいて、実に芯のある働き方だと思う。
それは簡単じゃないし、誰でもできるものじゃないかもしれない。でもだからこそ、働く楽しさもあると思う。
日本中からたくさんの素材も集まってくるそうだ。
奄美大島のもずくや、パッションフルーツ。秋田のジビエからお肉も届くし、NEWLANDにはいろいろな果樹を植えていて、今年はヤマモモが大豊作だった。突然、いい素材に巡り会ったり、NEWLANDに届くこともあるそうだ。

「自主性を持ったシェフやホールスタッフの方でないと、かなり厳しい。ぼく自身、食はクリエイティブだと思っている。シェフの方がああいうこと・こういうことをやりたいというのを、それをやっちゃ駄目とはあまりしていない。それがどういう考え方によるものなのかは尋ねますけど。」
答えはない。決まりはない。一皿一皿に向き合って働く姿勢が大切なんですね。
「ぼくが大切にしているのは、技術というよりも、ハートと思考なんです。チャレンジするときは、チャレンジしたほうがいい。自由にやってもらって、本当においしいものを一緒に提供できるようにしていきたいです。」
とはいえ、この場所もオープンしてから1年経ちました。今までの時間を無視することはできないと思うんですよね。
「それはみんなでディスカッションしながらつくればいいと思うんです。楽しいですよ。素材があったら、みんなでどう食べたいか考える。焼いて食べたい、とか煮込んで食べたい、とか。お客さんが食べたいものって、スタッフも食べたいと思わなきゃいけないので、スタッフの食べたいものをシェフが理解して、ディスカッションするわけです。」
「でも公開裁判のようにはならないですよ。思う存分シェフのクリエーションを発揮してもらいたいです。」
そういう思いから生まれた料理って、どういう味なのだろう?
ワクワクしながら食べてみたら驚いてしまった。グリルした野菜がみずみずしい。味付けもやさしくてほどよくて、とてもおいしかった。素材を活かすということはこういうことなのか!とひとり感嘆していた。

佐藤さんは埼玉県生まれの埼玉育ち。アパレルのデザイン、企画、営業をしたのち、カフェで働いた方。
まずはどうしてこの場所で働くようになったのか聞いてみる。
「両親とも一緒に暮らしたい。あと住む事に関わる仕事がしたいと思ったときに、たまたまNEWLANDという施設に出会って。最初1年間はお客さんとして週に1回コーヒー飲むくらい来ていた。募集があって入ってみたいと思って、思い切りました。」

働きはじめてから職場の印象はどう変化したのか聞いてみる。
「面接のときに『すごく厳しいし大変だよ。できるの?』という感じでした。自分も出来るかな、と思いながら、でもえいっと入ったので。」

どんな人がいいと思いますか。
「おいしいご飯をつくったり、料理好きというのは勿論、ここは1年中がお祭りで、いつも大なり小なりイベントがあります。だからお祭りごとが大好きな人に来て欲しい。お料理だけ、という方だと辛いというか、イベントに関わっていく楽しさがわかる方のほうが助かる。」

仕事に戻った佐藤さんは、カウンター席に座った人と何やら談笑している。
「どうしたの?」「取材で話をしていたんですよ。」「すごいじゃない。」みたいな感じなのかな。

NEWLANDは商業施設だけれども、ここを訪れた人を誘導して消費させるような場所ではない。訪れて、触れて、考えた結果、それぞれに自由に行動できる余地がある。
働く人も明確なゴールがない分、簡単じゃないけれども、人間らしく働くってこういうことじゃないかな、と思いました。東京からも近いですよ。
オーシティー以外の募集もしているそうです。NEWLANDに関わってみたい、という方はまずは問い合わせしてみたり、一度遊びに行くのもいいですよ。(2013/9/11 ナカムラケンタup)