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花を届けたくて

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

日本仕事百貨の新しいオフィスの路地裏には、季節ごとに鉢植えの花が咲いています。

隣に住むおばあちゃんが育てているその花を通りがかりに見ては、心が和んで。花にはそうした魅力があると思います。

所変わって、岡山県・総社市。

1 このまちにイチゴ狩りから花の販売、レストラン、農産物直売所までが集まる観光農園「吉備路農園」があります。

花を見ながらお茶を飲んで安らぎ、地の食材をもちいた昼食を味わい、直売所で農産物を買って帰る。

そんな穏やかな時間を提供しようとしているところです。まだまだ発展途上の部分も多いけれど、たくさんの可能性があるように思います。

今回は、ここで働く人を募集します。

岡山から特急に乗り、青く生い茂った田んぼに高梁川を眺めるうちに総社駅に着いた。

駅の階段を降りると、坂井さんが車で迎えてくれた。

三重出身の坂井さんは、岡山にやってきて今年で3年。口数は多くないけれど、内に秘めた芯のある人。そんな印象だ。

2 「もともと花が好きで、学校にも通ったんです。花に関わる仕事をしたいと思って来て。」

そうこう話しているうちに吉備路農園に到着した。

園内のカフェに移り、坂井さんと専務の西濱さんに話をうかがう。

はじめに西濱さんは、吉備路農園の成り立ちについて話してくれた。

「2004年にイチゴ狩りと花の生産からはじまったんです。ただ、収入のある時期が限られてしまうんです。そこで、安定した収入を得たいという狙いもあり、農産物の直売所を立ち上げました。」

次にオープンしたのは総菜コーナーとレストランということ。どうしてだろう。

「直売所の産品のすばらしさを知ってもらいたい。野菜の調理方法の提案をしようと考えたんです。おいしかったら、直売所に素材があるのでのぞいてみてください、という循環も生まれる。それでいまの姿になったんです。」

いろいろなことをやっているように見えたけれど、実はみんな関連性があるんですね。

「そうです。さらに、花を見に訪れるのは家族連れの方が多かったので、ゆっくり滞在して楽しんでほしいと思い、ドッグランと週末には乗馬体験をはじめました。」

3 そうした取組みは好評だという。この日も園内にはさまざまな年齢層のお客さんが見えていた。

事業が展開されていくなかで、現在は足元を振り返り、全体に共通する企業文化を築こうとしている。まさに第2創業期にあたると言える。

「花をいま一度、全体の中心に据え直そう。そう考えたんです。実は、売上げで見ると花はガーデニングブームも一段落し、下落傾向にあります。一方、伸びつつあるのが直売所です。」

「売上げで見るとそうなんですが、花については原点に立ち返ろうと。」

ここで、それまで話を聞いていた坂井さんが、堰を切ったように話はじめた。

「売上げありきで今後を考えるのではなく、花の楽しみを伝えていきたい。シーズンシーズンでもっとお客さんに花を植えてほしい。売上げが落ちているのは、切り花を消費することで終わってしまって。花業界が育てる楽しみを伝えなかったからなんです。」

売りっぱなしだった。

「わたしは花が好きです。訪れた人に魅力を伝えていきたいんです。以前ほど花が身の回りになくなってきたように思います。花が身近にあると、季節を感じることができて。それから『わたしはこういう花が好きなんだ』『自分にはこういう花が合っているみたい』と知ることで生活が和んだり。そのお手伝いをしていきたい。いまは日々の業務で手一杯ですけども。そのために時間をとっていきたいんです。」

もっと花を身近に感じてほしい。

そのためには、伝えることが必要だと感じている。

「たとえば、花の見せ方一つをとっても、ぎゅうぎゅうに陳列するのではなく、家に置くイメージを持ってもらうことが大事だと思うんです。そのためには、見本鉢を置くなどディスプレイにも工夫をしていきたいです。」

4. そうした見本鉢を前に、お茶を飲んで。訪れた人たちがゆっくり話していける。

まずは、来て、見て癒やされてほしい。そんな光景を増やしていけたらと考えている。

その他には、イベントを通してお客さんに伝えていくこともあるという。

ここで、実際の販売現場も見てみる。花コーナーでは、担当の植田さんに話を聞かせてもらう。

実家が兵庫のバラ農家ということもあり、自然と草木や花に興味を持った。

入社3年目になり、「また来たよ。」と声をかけてくれる常連さんも出てきたそうだ。

5 植田さんは現在、市場での花の仕入れにはじまり、水やりなどの管理、そして販売までを手がけている。

仕事の一連の流れを聞いてみる。

「仕入れではなるべく質のいいものを選ぶわけですね。『パンジーだったらこの人はいつもいいのを育てているな』『これならお客さんに育ててもらってもうまくいくだろうな』と考えながら商品を選び、仕入れています。」

また生産者と直接やりとりを行い、委託販売を行うものもある。

そうして仕入れた花を育てて販売していくわけだけれど、お客さんとはどのように関わるのだろう?

「本を読むことで学ぶことはあるんですが、実はお客さんから教えてもらうことの方が多いんですよ。」

お客さんから?

「本には標準的な生育について書かれています。地域によって具合も違ってくるわけです。だから『この間もらったペチュニアが軒下で冬越したよ』という声を聞かせてもらって、この地域だと育てられるのだなという勉強にもなるんです。」

もちろんこちらから伝えていくこともある。

たとえば、「病気が発生したけれど、どう対応したらよいの?」と相談を受けたり。

植田さんはこの仕事について変わったことがあるという。

「人の家の庭を見るようになったんです。この花はこんな見せ方もあるんだということがわかればお客さんにも新しい提案ができます。」

花を楽しんでもらうことを大事にしたいと聞いたけれど、なにか取り組んでいることはあるだろうか?

「イベントですね。僕であればバラの剪定教室を開いたり、坂井さんは蘭祭りを企画したこともあります。」

6 「蘭って生産量が減少しているんですね。そこには、贈答品とか、育てるのが難しそうというイメージが大きいんです。」

そこで20名ほどの生産者を招いて、また花を咲かせられること、水やりをきちんとすれば育つことを知ってもらう。

「そうして、伝え広めることで花を楽しむきっかけづくりを提供していけたらと思います。」

仕事の幅は直接花に触れる仕事から、人とのやりとりまでと広いようだ。

これからやってくる人も、花が好きでその魅力を伝えたいという気持ちが大事だと思う。

花の知識は働きながらでも学んでいくことができる。

そして今回は農産物直売所、施設の運営管理も募集を行う。

農産物直売所は、岡山県では一番の規模・売上げを持つまでになった。

7 再び西濱さんに話を聞いてみる。

「日本の直売所は、市場に出すことのできない不揃いな農産物を販売することからはじまったものが少なくありません。でも、安かろう悪かろうではないと思うんですよ。ほんとうは、自らこだわりを持ってつくった野菜を、自ら価値をつけて提案・販売する。そうした価値を問いかける場であるはずです。」

直売所=安いというイメージで見えたお客さんからは「高いね。」と言われることもあるそう。

「安さを求めるならスーパーに行ってください、と言うんです。たとえば我々は県産のアスパラガスを500円で販売しています。スーパーに行けば外国産のものが198円で販売されている。お客さんには、だまされたと思って食べてみてくださいと言うんです。」

するとお客さんは再び買いに来るのだと言う。

「違うんですよ。インドネシア語をしゃべるアスパラガスと、岡山弁をしゃべるもの。繊維質の歯触りが全然違えば、糖度で見ても2度変わってくるんです。」

生産者と直接やりとりをしていること。そしてお客さんとも対面で販売をしていること。そうした顔を合わせての関係があるからこそ、今後は一つの商品の背景を伝えて、付加価値を提供していきたいという。

僕自身、実際に買い物をしてみた。

ちょうどシーズンだった桃を購入したくて、店員さんにもいろいろと相談に乗ってもらった。

すると、いま一番旬の品種を選んだのちに、生産者を見ておすすめのものをとても丁寧に選んでくれた。その姿が印象的だった。

直売所でもう一つ力を入れているのが、ローカルブランドの加工品。

8 西濱さんは、江戸を見ないで、岡山で売っていこうと話す。

「みんなすぐに東京のデパートの物産展に出したがるんですな。でも、自分たちがメジャーブランドになりたいのか。それともこだわりを大切にしつつ着実にブランドを築いていきたいのか。どちらを見て仕事するのか、はっきり決める必要があると思います。」

「僕らが扱いたいのは、後者で。岡山に行ったらおいしいものがある。そうやって、お客さんにここに来てもらうことが大事なんです。」

最後に、施設管理をする人について聞いてみる。

イチゴ狩りから、食堂、農産物直売所まで手がける幅広い敷地内を見て回る縁の下の力持ち、といった仕事。

「仕事としては、多岐にわたります。棚をつくることもあれば。水道のパッキン修理に電気工事。お客さんが快適に過ごせるよう食堂の天井部分に、ミストを設置したり。」

9 実はこの日、インタビュー中にゲリラ豪雨となったのだけれど、テントの水漏れした部分の補修にかけまわっていた。

どんな人がいいのだろう?

「気づける人ですね。お客さんの目線で施設を回って『ここは滑るから補修が必要』とか、『ここの空調を整えることでよりお客さんにも花を楽しんでもらえるのでは』とか。訪れたお客さんがどうしたら農園を楽しんでくれるか。その環境づくりをしていく仕事なんです。」

「いろいろな部門からオーダーが来るので、うまく自分でマネジメントしていってほしいですね。いまの時点ですべてできなくても、働きながら覚えていってもらえたら。DIYが好きで、自分でいろいろやっていきたい人にはきっと楽しいと思います。」

この日は途中の豪雨もあって、オープンから閉園までいました。

そして駅へと向かう道中で坂井さんがこう話してくれました。

「会社ができて9年が経ちます。まだまだ発展途上だけれど、最低限裸足で立ってもらえる土壌はできたかな。向かおうとしているところは、きちんとやっていけばたどりつけると思うんです。訪れる人に花を、安らぎを届けられる場を一緒につくっていきたいです。」(2013/9/17 大越はじめup)