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家を通訳する

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家を買う。まだまだ先の話だと思って想像したこともないけれど、もしそんなときがきたら、相談したいと思える人に会いました。

家を売る人と買う人の間に通訳のように入り、家の状態を第三者として伝えるホームインスペクターを募集します。

渋谷駅から歩いて5分。にぎやかな駅前を通り過ぎて、静かな坂道を下っていく。するとマンションのように見える建物の窓に「さくら事務所」の看板が見えてきた。

中に入ると、廊下や打ち合わせスペースには動物や植物をあしらったステッカーがたくさん貼ってあって、なんだか子供部屋のようにワクワクする感じ。

SONY DSC いわゆる「不動産」「建築」という言葉から思い浮かべるオフィスとは、だいぶ印象が違った。

さくら事務所は”人と不動産のより幸せな関係を追求し、豊かで美しい社会を次世代に手渡すこと”を目的としてホームインスペクション(住宅診断)と不動産コンサルティング、マンション管理組合のコンサルティングなどを行っている会社。

売り手側の理論でなく、購入者の立場に立った調査報告・アドバイスを提供している。

実はホームインスペクションという言葉は、依頼を受けて初めて知った。

調べてみると、ホームインスペクターという仕事は、住宅の劣化状態や欠陥の有無を確認し、メンテナンスすべき箇所があったときには、そのタイミングや費用などを中立な立場でアドバイスする専門家のこと。

建物や建築に関する専門知識が求められるから、建築士の資格の資格を持っている必要がある。設計の仕事をしながら、ホームインスペクターとして活躍する人も多いそうだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 具体的にどのようなことをするのか、現在はコンサルタントとして、ホームインスペクターの指導にあたっている辻さんにお話をうかがってみる。

辻さんは、ここに勤めて9年になる。今は産休から復帰して1年が経ち、ようやく仕事と家事のバランスがとれるようになってきたそうだ。とてもハキハキしていて、なんでも相談できるお姉さん、という印象。

SONY DSC 「前は新築マンションの売買に関わる仕事をしていたんですよね。実はこの会社も、ホームインスペクターという仕事のことも、当時は知らなかったんです。」

「知ってます?さくら事務所って。」ある時、当時の同僚が嬉しそうに話しかけてきたそうだ。

その日、契約予定のお客さんに付き添ってきたのが、さくら事務所のコンサルタントだったのだそう。

新築マンションの売買に関わる人は、お客さんである購入者と販売者の2者しかいないと思い込んでいた。そこにお客さんがお金を出して、第3者を連れてくることにまず驚いた。

なにを指摘されるのかと思って構えていたけれど、丁寧に施工や仕上がりについて質問を投げかけてくれたりして、契約の話し合いをスムーズに進めることできたのだそうだ。

同僚の話を聞いて、辻さんも、そんな会社や職業があるんだ、と思った。

SONY DSC 当時辻さんがしていたのは、購入者に対して建築士という立場で、販売する分譲マンションのことを説明する仕事。そこではお客さんから、不安を相談されることが多かった。

「『マンションの耐震対策はどうなってるんですか?』とか、素直に疑問に感じていることを聞いていただけるんですよ。わたしは正直に答えていましたが、売り手側が説明をする際、どうしても販売するための制約やしがらみがでてきてしまい、正直に答えることができない場合もあるのでは?と思っていました。そんな相手に対してでも、買う人はきっと素直に聞いてしまう。」

そのときに、家を買う人たちには家に関してわからないことが多く、たくさんの不安があって、建築士に直接色々なことを聞いてみたいんだ、ということに気がついた。

「購入者に家について聞かれたら、しがらみや制約なく素直に事実が答えられる仕事がしたいなと思ったんです。その時ふと、さくら事務所のことを思い出して。今の私が思い描いている仕事に近いかもしれないって。」

すぐに連絡を取り、面接を経て採用。さくら事務所で、ホームインスペクターとして働くことになった。

「今から家を買おうかなって思っている人だったり、自分の家に不具合が起きてしまったけれど誰に相談していいかわからない人など、さまざまな方からご依頼をいただきます。主に、建築の知識がない方とお話することが多い仕事ですね。」

「例えば、床下ってどうなっているか分かりますか?」

言葉としては聞いたことがあったけれども、実際にどのようになっているのかは、想像できなかった。

「そうですよね。突然言われても、どんなものか絵が浮かばないですよね。みなさん、そうなんですよ。なんとなく心配ではあるのに、なにをどうやって調べていいのかがわからないんですよね。」

そんな購入者に代わって、家全体をくまなく、ときには床下に潜ったり小屋裏
にも登ったりして、そこがどういう状態になっているのか施工状況や劣化・コンディションについて調査する。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「調査のあと、その内容を依頼者に共有するんです。状況を知らせる前に、まずは床下ってどういうものなのか、構造からちゃんとお伝えしていきます。」

分からないから不安になる。その“分からない”をひとつひとつ解決していく。

「『手抜き工事じゃないか心配なの』とか『信頼してるんだけど、ちゃんとできているかどうか安心するために見て欲しい』という場合に出番がくるんです。納得して買いたい人のための、お医者さんでいうセカンドオピニオンみたいな感じかな。」

購入者には頼もしいけれど、不動産会社などに嫌がられたり、煙たがられたりすることはないのかな。

「多くの場合は、購入者と同様に、施工会社や不動産会社の方にも情報を共有します。どちらの肩を持つわけでもありません。売買について判断するのは2者間の問題なので、わたしたちはあくまでも中立の立場で、事実のみをお伝えしています。」

小屋裏 最近は反対に、不動産業界や建築業界から声がかかることも多くなったそう。既に建築の知識はあるはずなのに、どんな場合にホームインスペクターが必要になるんだろう。

「『お客さんと話がうまくいかない。』という話をよく聞きます。知識の差がありすぎて、購入者が何がわからないのかが見えなくなってきてしまうんですよね。」

例えば、購入者の『不安なんです』という相談に対して、施工会社が『この程度だったら大丈夫ですよ。』みたいなことを言うと、なにがどう大丈夫なのか分からず、更に不安が募ってしまうこともある。

家のことを考えているのは両者ともに同じなのに、話が平行線をたどる。そんなときには、間に入って両者の距離を縮める。

辻さんはこの仕事を、よく「通訳」という言葉を使って表現するそうだ。

言葉がうまく噛み合ない2者の間に入って、会話の橋渡しをする。それがホームインスペクターの仕事。

「家の声を通訳をする、というのも正しいかもしれません。『僕、このままだと雨漏りしちゃうかも』とか、家の状態を見れば、家が話してくれるんですよ。それを家の代わりに伝えるんです。」

依頼者へ説明 実際に、辻さんの話を聞いていると、建築の知識がない私でも、頭の中でイメージしながら理解していくことができる。まるで絵本を読んでいるかのように、現場の情景が浮かんでくる。

専門的なことを、分からない人に対して分かりやすく説明すること。実は、新米ホームインスペクターがいちばん苦労するのがこの部分らしい。

知識がある人が、分からない人の立場になって同じ目線で説明するのは、なかなか難しい。

「でもそんなときには、さくら事務所の先輩たちが長年培ってきた経験や知識が、マニュアルとしてまとまっていますし、研修制度やバックアップ体制も整っているので安心していただいて大丈夫です。」

sakurajimusyo1 辻さんは、今はコンサルタントとして、ホームインスペクターに「通訳する方法」を伝えていく立場。

どんな人に来てほしいか聞いてみた。

「現役で設計の仕事を続けている人におすすめしたいと思います。建築士のお小遣い稼ぎとか、勘違いする方がいるかもしれないけれども、そうじゃないんですよ。つくることからは撤退しない人がけっこう多い。」

「いろいろな家を通訳していると、設計する上でどんなことがトラブルにつながるのかを実際に見ることができるんです。逆に、いいつくり方をしている家に会って感動することもある。買う側からそれまで聞く機会のなかった本音を聞くこともある。そんな新しい経験を活かして、建築士としても成長できる。逆に、建築士の経験をホームインスペクターの仕事に生かすこともできる。両方の自分が成長していく機会になると思います。」

建築士とホームインスペクターは、別々の道ではなく、同じ道の上にあるのかもしれない。だから、今歩んでいる道の幅を太く広げていきたいと思う方には、おすすめできると思う。

辻さんからお話を聞いたあと、代表である大西さんにも時間をもらった。少し堅い方をイメージしていたのだけれど、とても華やかな方だったのでびっくりした。

sakurajimusyo3 大西さんは、もともとマーケティング会社に勤めていた。クライアントだったさくら事務所から、広報責任者として誘われたのがきっかけだった。

実は壁に貼られたステッカーは、大西さんが貼ったそうだ。

「ご依頼者の方に家族連れで、お子様とお越しいただくことも多いんです。親戚とかお友達の家に遊びに行くような、そんな雰囲気でくつろいでいただけるように、このようにしました。部屋ごとにデザインも違うんですよ。」

部屋の内装にしても、ウェブサイトの見せ方にしても、親しみやすさを出せるよう心がけている。それは、ホームインスペクションという存在を、必要としている相手わかりやすく届くようにするため。

「若いご夫婦や小さいお子さまをお連れの方や、シングルの女性、いろいろなラフスタイルを持つ人たちに、もっと住宅に対して自分たちが関与する余地があることを知って、楽しんでいただきたいと思っているんです。」

最近では、自宅をDIYやリノベーションする人も増えてきて、住宅に対する関心が高まってきている。そういう時代だからこそ、専門家が住宅の構造を知るお手伝いをすることで、自分でできることの幅が広がる。

住む家に関心を持てば、家という建物を大切にしようという想いが生まれるかもしれない。

そして、点検とメンテナンスのコツを知って維持管理していけば、建物の寿命は伸びていく。長持ちさせて大切に住めば、家は資産になる。その資産があることで、人生も豊かになる。そういう住宅の可能性を、もっと多くの人に感じて欲しい。

sakurajimusyo2 大西さんから話を聞いていると、家のことだけではなくて、そこに住む人の生活を想っているのが伝わってくる。

NPO法人を立ち上げ、ホームインスペクションのノウハウを全国に、積極的に広げていく活動も行っている。家の状態を伝えていく人を増やすことで、社会全体をよくしていきたいと考えているそうだ。

「さくら事務所では“五方良し”っていう掟を設けているんですね。近江商人の“三方良し”をもじったものなんです。まずは依頼者のためであること。それから業界、会社、自分、そして社会が全てよくなる仕事であることを大切にしています。」

みんながよくあるように。すごくいい掟だけれど、その理想を実行していくことは大変だと思う。

どんな人がこの仕事に向いてると思いますか?

「さくら事務所には、いろいろなタイプ、さまざまな才能の人間がいて、まるでにぎやかで楽しい動物園のようなんです(笑)。辻のようによく喋り、明るいムードメーカーな人間もいれば、無口だけれども、芯は強くて情熱的という人間もいます。多様性を重視しているので、理念と掟をしっかり大切にできる人なら、いろいろなタイプの人に、どんどん自由に自分の個性を活かしてもらえたら。」

ほかにも結婚や子育てをするという生活者の視点も、家の購入者へのアドバイスに役に立つかもしれません。

まずは家が好きなこと。そして人の気持ちを想像し、寄り添える人。そんな人だったら、この仕事が今の自分をさらに広げていくきっかけになると思います。(2013/9/2 中嶋きみup)