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東京・日比谷線の入谷駅から小野照崎神社に向かう途中に、築90年の古民家を改装したゲストハウスtoco.がある。そこは、世界中日本中のバックパッカーから週末の息抜きに立ち寄る人まで、さまざまな人がやってくる。

このゲストハウスは、今から3年前、4人の創業者が手づくりのコンセプトでいちから立ち上げた場所。
4人はまず、たいやき屋さんをやりながらお金をためて、世界一周と日本一周の旅にでかけたそうだ。そして、宿とはどういうものか、旅とはどういうものかについてイメージを掴んで戻ってきた。
そこから生まれたのがtoco.であり、蔵前に昨年オープンした二号店のNui.。今は2つのゲストハウスを、株式会社Backpackers’ Japanが運営している。
今回は、一号店toco.で、女将をサポートしながら訪れたお客さんをもてなす人と、夜のバーカウンターに立つ人を募集します。

だから、新しく仲間になる人は、接客経験がなくてもいい。特別な旅好きじゃなくてもいい。ゲストハウスで働くなんて考えたことのなかったような人にも、知って欲しい仕事です。
さて、具体的に今回の募集の話を聞いていきます。
toco.には、宿を切り盛りする女将という存在がいます。今、2代目女将としてtoco.を切り盛りしているのが、華南子(かなこ)さん。

華南子さんがどうして今ここで働いているかというと、元々ここのお客さんだったのだそうだ。
「わたし、ここから5、6駅のところに住んでいたので、バーに週3くらいで飲みにきていましたね。家と会社の往復が『もういやだ!』というときには、今日部屋空いてますか?って泊まらせてもらったりとか。避難してたの、ここに(笑)」
「仕事で色々悩んでいたんだけど、ここで働く人や来るお客さん、色々な人と話すなかで、自分の人生なんだから自分で選んでいこうと思った。それで仕事を辞めようとしたところに、ちょうど誘おうと思ってた!って社長に言われて、ここで働くことになりました。」
もともと大手コーヒーチェーンに勤め店長職をしていたので、その経験を生かして最初はNui.でコーヒーを出すスタッフをする予定だった。
ところが、Nui.の立ち上げのためにスタッフが走り回るなか、華南子さんがtoco.の留守をまかされることがだんだん増えてきた。
「仮女将のような感じで働いていたのですが、去年の11月くらいにわたしがtoco.の女将やります!ということになりました。役割だけ振られて、あとは自由にやらせてもらっています。考える余地を与えてもらってるというかね。」

具体的には、日々どんなことをするんですか?
「スタッフの食事を準備したり、掃除、チェックイン、掃除…。うーん、もしかしたら仕事のほとんどが掃除かも!だって、綺麗じゃない宿にいい宿はないじゃないですか。でも、夏の掃除は大変です!冬は冬で、すっごく寒い。孤独な気分になる。そんなときは庭を眺めて癒されたり。それから、ここの床は磨けば磨くほど光るから、手をかける甲斐があるしね。」
お客さんに心地よい空間を提供することって、瞬発力のあるサービスのことではないんだと思う。心を込めた掃除とか、そういう日々の積み重ねなんだろうな。
「こうして欲しいってマニュアルはないです。でも、こういう風に私たちは考えているよ、っていうのは伝えていきたいと思ってる。それを理解した上でどう表現するのか。そこを自分で試行錯誤してほしいな。」

「一緒に前を向いていければいいな。たとえば、当たり前だけどスタッフ同士ですれ違ってしまったりすることもあるし、宿の仕事は24時間お客さんがいるから、時に宿に泊まらなければいけないこともあったり、大変なことは、ある。けど、自分たちがどっちに向かっているのかを見失わずに、一緒に前を向いていたいな。ここでお金を稼ぎたい、とかではなく、ここでいい仕事をしたい、という人と一緒に働きたい。」
「それから、人と出会うのが好き、話すのが楽しい、というところが入口だと大変かもしれない。ここで働くということは、もっと地味だし、もっと真摯に働くということに向き合っていかないと、やっていけないから。」
働くことに向き合う。
「淡々と、仕事と人生を割り切ってできるような仕事じゃないからね。だんだん、生きることと働くことが近づいてくる。働くこと、生きること、暮らすこと。わたしにとって、曖昧だったそういうものが、ここで働くことによってぎゅっとシャープになっていくというか、極められてきている感覚がある。わたしがこうやって生きていきたいな、と思い描くものの過程が、ここで得られると思っているんだよね。」
「ここは、マニュアルに帰結しないものがある。働く人たちがひとりひとり生きることを考えていて、その姿勢が空間に反映されている。きっとわたしは、そんなところに触れて、前の仕事を辞めてしまったんだと思う。」
他のスタッフたちはどうだろう?toco.で働いて8ヵ月の希生子(きょうこ)さんにも話を聞いてみた。

「ゲストハウスって本当に不思議なところ。働く人にとっては日常だけど、泊まりに来るお客さんにとっては非日常な場所なんですよね。だから、今日初めて会うのにこんなこと聞いていいの?っていう悩みを相談されちゃうこともある。」
「でも、その感覚すごく良く分かるんです。わたしも泊まりにいくときは、そこで出会った人に色々話しちゃう。自分がそういう特別な日の相手になれるのは嬉しいなって思います。ビジネスホテルとかだと、ぜんぜん距離感は違うんだろうな。きっとこれは、ゲストハウスならではのことですよね。」
「どんなにわたしの仕事が毎日一緒でも、ゲストにとっては特別な日。それを忘れないで、目の前のゲストには全力で応えようと思って働いています。」

だけどなんだか、2人とももっと年上に見える。落ち着きがあるというか、何があっても動じないような雰囲気がある。
「入ったときはけっこう、実年齢より年下に見られていたんですけど、今は年上に見られることが多いです。やっぱりこちらが堂々としていないとお客さんは不安になっちゃうし、自然と腹が据わってくるというか。」
「わたし、ここに来るまで、人に怒るとか注意するとか、本当に苦手だったんです。でも、みんなが心地よく過ごすためにはそういうことも必要なんだって学びました。英語も喋れるようになってきたし、できないこともだんだんできるようになると思います。だから大丈夫。」
慣れない地に滞在するお客さんを温かく迎えること。毎日世界中からお客さんがくるから、カルチャーショックの連続だと思う。そんな日々のなかで心と頭が鍛えられていくんだろうな。
toco.はたくましい女性たちに支えられているんだなぁと思いました。
だけど、toco.を支えているのは女性たちだけじゃありません。
toco.になくてはならないのがバーの存在。そして、そのバーを担当しているのが、桐村さんです。

わたしも一度お客さんとして行ったことがあるのだけど、色々な国の人が会話しながらくつろいでいて居心地のいい空間だった。
チェックインのゲストを迎えながら、バー全体の雰囲気を見ながら、訪れる人々とコミュニケーションをとっていく。そして、経営理念でもある「あらゆる境界線を越えて人々が集える場所」をつくる。
高い集中力が求められるこのバーテンダーの仕事が、今回のもうひとつの募集職種。
「toco.のバーというのは、他のゲストハウスとかなり違う特色だと思います。ここには、ゲストだけじゃなくて、地元の人や英語を勉強したい人、色々な人がやってきます。そして色々な文化に触れて色々な経験ができる。こんな場所はなかなかないんじゃないかな。」

毎晩、なかなか見ることのできない光景が生まれている。
バーテンダーは、ときに潤滑油としてお客さん同士の間に立ち、聞き役が必要なときは話を聞く。求められる役割に感覚を澄ませる。
「嬉しい話、悲しい話、生まれや育ちを聞くこともあるし、ときには宗教や政治の話をすることもあります。人に興味があるっていうのは、ここで楽しく働けるポイントかな。そうすると毎日、新鮮な気持ちでカウンターに立てるので。」
まずは前提として、お酒が好きで、お酒で人を喜ばせることをきちんと続けられる人。その上で、人に興味があるとさらに日々の仕事が楽しくなると思う。
「ここにいると、年間5、6千人の人に出会うことができるんです。そこで自分がどれだけ一歩踏み出して人の話を聞いたり関係を築くことができるか。たんなるルーティンワークになるかそうじゃないかは、自分次第だと思います。」

「うち、スタッフがブログを書いているのね。社長もマネージャーもみんなけっこう、ちょこちょこ書いてる。わたしは、ブログを読むことでみんなの向かっているところを確認している気がする。だから、ぜひ応募を考える人にも読んでみてほしいな。それを読んだ上で、なにか心に触れるものがあるのなら、その人に来て欲しい。その方が、ゆくゆくズレがないような気がする。」
いわゆるゲストハウスの仕事です、という紹介だとちょっと違う気がした。たぶん、こういう生き方をしている人たちが集まっているのが、ゲストハウスという形で現れているんだと思う。
もしもここで働いている人たちの今とっている姿勢や、これから向かっていく方向に共感した人は、ぜひ応募してください。
そしてもしも働くことになったら、toco.のバーで一緒にお酒を飲みたいです。
(2013/9/25 笠原ナナコup)