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「接客サービスって、お客さんと生涯付き合えるきっかけだと思うんですよ。限られた時間のなかで、生涯忘れられないような時間、空間、料理、おもてなしを思い出としてどれだけプレゼントすることができるのか。そうして、また遊びに来たよ、あの味が忘れられなくてきたよ、あなたに会いにきたよ、って言ってもらえたら嬉しいですよね。」
今回は、訪れる人をそんな気持ちにさせるような、宿のおもてなしをする人と、レストランで出す料理をつくり提供する人を募集します。
最初は、自らサービスや料理を届けるところからはじまるけれど、ゆくゆくは、もてなす心を伝え、人や場を育てていく立場になれるような人を求めています。
兵庫県の朝来(あさご)市に、日本のマチュピチュと呼ばれる天空の城がある。
標高353.7メートルの古城山の山頂に築かれ、現存する山城として日本屈指の規模の竹田城跡。
雲の上に城が浮かんでいるように見える現象は「雲海」と呼ばれ、秋から冬にかけての明け方によく見られる。この時期は、全国からの観光客で大変にぎわうそうだ。
今、その竹田城跡から下って1時間ほどの麓のまちが、朝来市と地域再生に取り組む社団法人ノオトの手によって生まれ変わろうとしている。

今は工事真っ最中のENの中を、案内していただく。
「ここでは、宿泊施設やレストラン、カフェを運営する予定です。広場では地元農家のグループの皆様に出店していただきマルシェや朝市を開きます。ENという名前には、人と人、自然、歴史、地域など、さまざまな『縁』を結ぶ場所にしたいという願いが込められているんです。ここを、朝来市の方と観光客の人が行き交う、人が集まる場所にしていきたいと思います。」
そう話してくれたのは、バリューマネジメント株式会社の趙(ちょう)さん。

主には商業施設の事業の再生コンサルティングをしているけれど、後継者がいなくなり廃業することになった施設を受け継ぎ、自ら経営する事業にも取り組んでいる。
今回、ENのプロジェクトを、経営の立場で実際に事業を運営していくのが、バリューマネジメントの役割になる。
「ここは昔、酒造場でした。山田錦を使ってお酒を造っていたんですよ。お酒をつくる行程で、酒米を一度蒸すんです。そのときに使っていた大竃(おおかまど)が残っているんですね。ENでは、その大竈で蒸し料理や燻製を楽しむイベントを開きたいなと考えています。蒸し鮨とかバーニャカウダとか特製ベーコンなど、色々なことができそうな気がするんですよね。」
「レストランでは、お昼はカジュアルイタリアン、夜はお箸で食べる本格フレンチを出す予定です。地元農家グループの皆さんが有機農法や完全無農薬で栽培されている野菜は、本当にめちゃめちゃ美味しいんですよ。そういった食材を生かしたメニューを考えています。」

この場所は、実際にスタッフを雇用しサービスを提供するところまで、全てバリューマネジメントが経営していくことになるそうだ。
「うちの会社は、もともとウェディング事業の再生コンサルティングからはじまったんです。当時は調理とサービスに関して、外部の会社にお願いしていました。でも、だんだんクライアントからの要望に応えるカタチで、調理、サービス、商品開発に至るまで、全て自分たちで内制化していくようになったんです。」
通常、ウェディング業界は、調理とサービスをアウトソースで賄う部門が多いそうだ。なぜなら、結婚式は土日がメインなので、人を雇用してケアしていくのが大変だから。
「だけど、外部にお願いしてしまうと、クオリティーの担保ができないんですよね。僕たちには、その場所ごとにコンセプトや目指すヴィジョン、目標、ゴールがあるんです。そして、そこで働く人にも、同じところを目指して成長してもらいたいと思っているんです。だから、全員直雇用にして内制化しちゃいました。」
今は、学生アルバイトを含め、200人近くのスタッフを直雇用しているそうだ。

具体的には、どんな仕事をしていくことになりますか?
「サービスセクションでは、4部屋限定での宿泊サービス。チェックイン、チェックアウト時のフロントでの受付業務や電話応対、それから部屋と浴場の清掃などですね。そして、レストランでのサービスもお願いしたいです。キッチンセクションでは、ランチとディナー、そしてランチボックス(弁当)を調理・提供する仕事をお願いしたいです。」
今までサービスやキッチンの経験がなくても、仕事はいちから教えてもらえる。ロールプレイングや心理学の手法も取り入れた研修を受けることもできるそうだ。
「まずはここで、サービス職とはキッチン職とは何か、というところを自分の体で覚えてほしいです。そして、もしもそのあと他の場所で働くことになっても、立ち上げから関わっていけるような力を鍛えていただけたらいいですね。」
ここで働くのは、どんな人がいいと思いますか?
「一番大事なのは、地元の方とのコミュニケーションがとれることです。きっとここで働いていると、挨拶しあったり、イベントのお誘いをうけたり、お酒を酌み交わすこともあると思います。地元の人に受け入れていただけるようなことを、自らしていける人がいいです。」

「というのも、ここは、本来は地元の方々が経営し、地元の方を雇用して、地元の方が活躍できる場であるべきだと思っているんです。そのための仕組みをつくるのが、今回募集するスタッフの役割になります。」
「地方に人がいなくなるのは、そこに雇用がないからだと思うんです。だから僕たちは、活用されていない建物を再生して、そこに人呼び込むコンテンツをつくって仕事を生み出していきたいと思っています。そうすることで、地域の方も、自分たちの住む場所や仕事に誇りを持てるようになると思うんです。」
わたしも聞くまで知らなかったのだけれど、ポルトガルには「ポサーダ(pousada)」といって、国営で修道院やお城を宿やレストランとして活用する取り組みがあるそうだ。
趙さんたちは今後、ENを皮切りに、ポサーダの日本版のようなことを展開していきたいと思っている。
例えば、限界集落の古民家だったり、地域のランドマーク的存在だったり、そういう建物を人が集う場に変えていく。

多分、この取り組みで難しいところは、企画をしておしまい!というわけにはいかないところ。その企画を実際に運営し、実現するところまで、自分たちで汗をかきながら動かないといけない。
サービス・キッチンの仕事というのは、まさにその最前線だと思う。
だけど、そういう仕事って、長時間の立ち仕事とか、お客さんからのクレームとか、飲食店だったらバックヤードの厳しさとか、そういったマイナスなイメージもあったりする。
もしも自分がやるとなったら、少し躊躇してしまうかもしれない。
そんなことを伝えてみると、趙さんがこんな話をしてくれた。
「僕は、あらゆる仕事のなかでこの仕事がいちばん楽しいと思います。だって、お客さんは、結果も見てくれますが、それ以上にプロセスを見てくれるじゃないですか。何か成果物を提出する仕事だったら、それを出すためにどれだけ頑張ったかは見えませんよね。でも、この仕事は、ときにお客さんに育ててもらうこともある。ほんとうに、その場その場で成長していく仕事なんですよ。そうして頑張っているところを見ていただいて、結果、感動したとかまた食べに来ますという言葉をかけていただけるんです。」

趙さんは、今のように新規事業の立ち上げに奔走する前は、ホスピタリティーマネジメント事業部というところで、現場に入って仕事をしていた。
この価値観は、そのときに体験したことからの実感だそうだ。
「面白いスタッフがいるんです。そのスタッフは、自分の通勤路を、毎朝軍手はめてゴミ拾いしながら通勤しているんですね。『えらいね』というと、『えっ!?当たり前じゃないですか。』と言うんです。自分が通る道はお客さんが通る道でもあるので、ゴミを拾うことでお客さんが気持ちよくお店まで来れるようになれば嬉しい、って。」
「僕は、この会社に入る前は、国内大手のコンサルティング会社で働いていました。だけど、こちらは提案するだけで、現場のオペレーションを実際にすることはできなかったんですね。もっと自分も動いて、クライアントスタッフと一緒に汗をかいて成果を出せるような仕事がしたいと思って今の会社に入りました。今は、自分の背中を見せることでついてきてくれる人がいる。そんな働き方ができているので、すごく楽しいです。」
話を聞いたあと、せっかくなので、工事中の施設のなかをぶらぶらしてみた。
休憩中の大工さんに話しかけると、嬉しそうに話してくれた。
「この土壁、よく見るとうっすらと模様がついているでしょ。当時の人って結構オシャレなんだよね。この壁も、石畳や庭石も、なるべくそのまま残すようにつくっていく予定だよ。いいところは残して必要のあるところだけ新しくする。完成を楽しみにね。」

ただ、どんなに素敵な空間でも、やっぱりその中で起こることが素敵じゃないともぬけの殻になってしまう気がする。
だからこそ、そこで働く人や、そこで起こるサービス、出される食事って大事なんだろうな。

(2013/10/2 笠原ナナコup)