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瀬戸内海に浮かぶ小豆島。二十四の瞳はじめ、さまざまなドラマや映画の舞台になっているから、名前を知っている人は多いかもしれない。
瀬戸内国際芸術祭の会場でもあり、年間を通じて多くの観光客が訪れる島です。

移住者は、家族連れを中心に年間150人ずつ増え、島の平均年齢は下がっている。これは、離島のなかでも珍しい現象だそうだ。
どうしてそんなに移住者が増えているのかというと、まず第一にアクセスがいいこと。点在する6つの港から放射状に航路が延び、四国と本土へダイレクトに行ける。
暮らしに必要な、病院、学校、スーパーマーケットもコンビニもある。それも、最低限揃っている、という感じではない。たとえば、病院は香川大学の医学部と提携したりなど先進事例になるような病院づくりを進めている。

もちろん不便なこともあるだろうけど、ここの暮らしには、美しい海と山がある。夜は星が浮かび上がる。”何もなくて静かな場所”がある。古来から脈々と伝えられてきた産業がある。
そんな小豆島に、まるで「小豆島そのもの」のような仕事があります。それは、島宿真里という一軒の宿での仕事です。
400年以上前から醤油の生産地として栄えてきた「醤の郷(ひしおのさと)」にひっそりとたたずむ、知る人ぞ知る人気宿です。

ここで働くと、1日があっという間に過ぎると思う。だから、いわゆる「のんびり島暮らし」というのを思い描いている人にとっては、ギャップがあるかもしれません。
だけど、もしも仕事そのものに誇りを持ちたい、とか、せっかくなら島ならではのことを仕事にしたい、と思う人がいたら、ここで働くことは本当におすすめです。
取材がはじまったのは、朝の7時。宿へ伺うと、店主の眞渡さんがちょうど車のエンジンをかけているところだった。
ここから一緒に、市場へ食材の買い出しへ行く。これは、25年間続く眞渡さんの日課だそうだ。

料理長から頼まれた食材のメモを見ながら、魚市場で、まだヒレが動いている新鮮な鯛や西貝などを、そして、地元の農協市場で野菜を選ぶ。
最後に、宿のそばの真里の畑で、チンゲンサイとイチジクを収穫した。
無事に調理場に食材を届けたあと、眞渡さんに話を伺う。
「お客さんには、できるだけこの島でとれたものを味わってほしいと思っているんです。綺麗なものは、都会にも溢れていますよね。小豆島まできて京会席のような料理が出てきてもしかたないし、わざわざ時間と費用を割いてこの島に来てくれるならば、この島ならではのものを提供したい。小豆島らしさ、真里らしさって何か?ってことを常に考えています。」

分かりやすく、素朴で大胆なほうが、小豆島らしいんじゃないか。小豆島で生まれ育った眞渡さんは、そう考えている。
料理人は、そういった「小豆島らしさ」を、実際に形にしてお客さんに届けていく。
「メニュー作りは料理長だけでなく、それぞれが技術や素材の価値観が違うなかで、他の料理スタッフも提案しながら新しいものをつくっていきたい。試作を繰り返して、より魅力ある料理を決めていきます。それは作り手の醍醐味ですよね。素材と素材を組み合わせて、味つけ、盛りつけ、器の選択まで。ものすごくクリエイティブな仕事だと思います。」

たとえば、オリーブの栽培は、今から100年以上前にサンフランシスコから持ち込まれ、唯一実がついたのが、ここ小豆島だったそうだ。島の人々は、失敗を繰り返しながら、土壌や品種改良を続けてきた。
そして、さらに歴史が古いのはお醤油。
小豆島醤油の起源は、 400年前の文禄年間にまで遡る。島には、創業何百年の醤油蔵が点在し、大きな桶のなかでは、醤油のもとになる”もろみ”が発酵熟成している。

醤油、オリーブをはじめ、小豆島は、外から持ち込まれたものを、長い歳月をかけて自分たちのものにしてきた。
だから、産業と島の生活が、強く結びついている気がする。きっと眞渡さんは、それを「濃い」と表現しているのだと思う。

「つくったものを認められたいとか、もっと大胆な料理展開がしたいとか、ちょっと他とは違う、憧れられるような宿で働きたいとか、そういう気持ちがある人に来てほしいかな。」と眞渡さん。
7年前に大阪から移住して真里に勤めはじめた、料理長の室田さんにも、どんな人にきてほしいか聞いてみた。

盛りつけの様子を見ていると、 ピタッ、ピタッと手を止めながら、ひとつひとつ丁寧に盛っていく。室田さんが言うには、お皿のなかに物語をつくっていくような感覚だそうだ。
真里の料理は、まず目で見て美しい。でも、食べてみると、さらにその美しさの意味が分かるような気がする。一皿ひとさらの中に、味と食感の調和、バランスが凝縮されている。

この島のものを、いちばん味わい尽くしてもらえる料理ってどんな料理だろう?と考え、形にしてお客さんの口まで運ぶこと。それが、ここで働く料理人の醍醐味なのだと思う。
接客スタッフは、どんな仕事なのだろう。
岡山から9年前に移住し、真里の接客と働くスタッフの環境を整えていく役目を担っている中野さんは、接客スタッフの仕事について、こう話してくれた。
「宿の仕事って、特殊技能ではなく、生活に役立つことばかりなんですよ。掃除とか、布団を敷くとか、ご飯をよそうとか。起きてから寝るまでの、生活のスペシャルバージョンなんです。だから、ここで働いていると、人として豊かになっていくような気がします。」

「ここでは、お客様に成長を求められるんです。だって、お客様は、沢山の行き先の選択肢があるなかで、またここへ来てくれるんです。それだけのなにかがここにあるんだと思うと、もっと頑張りたいと思えます。」
振り返れば、前には飛べなかった高さも越えられるようになっていた。失敗しても、くよくよするのではなく、じゃあ次はどうしよう?と考える姿勢ができてきた。
「一緒に働く人にとっても、生きる糧のためだけの仕事ではなくて、内面から成長していけるような、誇りのある場所にしていきたいと思っています。」

「自分のエネルギーを、何か自分が納得できることに還元したい、と思う人ならば、いい環境だと思います。まだ自分に足りないことがあって悔しいと思っていて、このままでは終らない、できるはず、と信じている人。もっとこうなりたいって欲を持ち続けている人。わたしもまだまだ成長したいので、お互い刺激になりながら、一緒に次の真里について考えていけるような人に来てほしいですね。」
最後に、もう1人紹介したい人がいます。1ヶ月前に愛媛から移住し真里で働きはじめた、今城さんです。
今城さんは、前回の仕事百貨の記事を読んで入社した方。どういう経緯で入社することになったのか伺ってみる。

実際に働いてみて、どうですか?
「想像以上に、覚えることが沢山あります。器も、いつの時代の何焼きとか、色々な種類があるし、建具や備品などもあるので、古美術の勉強もしています。それからやっぱり体力も必要なので、一日が終わるとぐっすり眠ってしまいます。」
選ぼうと思ったらもっと楽な仕事もあるんじゃないでしょうか。
「そうかもしれないですね。でも、わたし、この島に来る前に決めてきたことがあって。働くってなんなんだろう?と考えたときに、働くには、『傍(はた)の人を楽にする』という意味があると知って、それを大切にしていこう、と決めたんです。一緒に働く人を楽にしたいですし、そうすることで喜んでもらえると自分も嬉しいんです。」

「もしも、わたしと同じような考えの人がいたら、わたしはその人のために働きますし、その人もわたしのために働いてくれると思います。宿の仕事はチームワークが大事なので、周りが見えて気遣いができる人に来ていただけたらいいな、と思います。」
思い描く島暮らしは、十人十色だと思う。そして、この島にも色々な働き方がある。
そのなかで、仕事のなかにやりがいを見いだしたい、成長しながら働きたい、そう思う人がいるならば、小豆島の誇りが詰まったこの仕事はどうでしょうか。
中野さんが言っていたことで、印象的な言葉があります。

いきなりで不安だという方は、まずは小豆島を訪ねてみてください。行ってみて分かることもきっとあると思います。
(2013/11/21 up 笠原ナナコ)