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NO 校正、NO BOOK!

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

鴎来堂(おうらいどう)は、出版における縁の下の力持ち。たくさんの校正・校閲スタッフが在籍する会社です。今回、プロの職人集団の仕事をサポートする社員たちを募集します。

00 東京・神楽坂の地下鉄駅の真上にあるビル、その1階と2階に鴎来堂はある。周囲には出版社もたくさんあり、喫茶店での打ち合わせ風景も多く見かける。古書店街とはまた違った、なんとなく「本」の世界を感じる香りが、街に漂っている。

本づくりの現場になじみがなくても、一度は校正や校閲という言葉を耳にしたことがあると思う。「ゲラ」と呼ばれる途中段階の原稿の束を出版社から受け取り、ミスや疑問点を指摘するのがその仕事だ。

鴎来堂の創業は2006年で、41名が在籍する社員の平均年齢は32歳。そのほか200人近くの校正・校閲スタッフを抱え、業務の9割近くは書籍を扱う。

社長の柳下(やなした)恭平さんは37歳。29歳のときに創業した。

01 「文字のまちがい、内容のまちがい、事実確認、方言のチェックなど、いろいろなまちがいを深く読んでいきます。文芸から実用書まで書籍を専門に扱っているという点で、弊社はユニークですね。」

いただいた名刺には「東京神楽坂 書籍校閲専門」とある。裏面も拝見。そこでは鴎来堂という社名の由来となった、俳人の三橋敏雄の俳句について解説されているのだけど……アレ、なにかが変だぞ?

02 そうか。この文章には、わざと数カ所のまちがいが含まれているんだ。

「校正とか校閲って、そもそも世の中に知られてないなぁ、とずっと思っていました。本になる前にまちがいを見つける仕事なので、本になってからは評価されないんです。『校正が頑張ったから、この本は良かった』というのが見えにくいんですね。こんなに面白くて、すごく大事な仕事だというのを名刺で伝えたいと思ったんです。」

校正、校閲とは具体的にどういったお仕事なのでしょう?

「まず1つは、まちがいを見つけることです。本当に盛り上がっている物語の最後のクライマックスのページに誤植があったら、読者はアレレ、と急に物語から現実に戻ってしまいますよね。だから、誤りを取り除くマイナス点をなくす仕事が大切です。」

それは興ざめですよね。

「もう1つはプラスをつくっていくことです。作家さんって、筆がのるという言葉もあるくらいで、頭の中にあるものをとにかく書き落としていくのも大切な仕事。そこに矛盾が出るのは当たり前なんですね。だから、登場人物が真夏にジャケットを着たり、タバコに2度火を点けたり、夕陽が2回落ちたりとか、割とあるんですよ。」

なるほど。

「単純な誤植ではないけれども、こうした作品の中の矛盾を校閲が見つけます。『主人公の話し言葉に“三河弁”と“尾張弁”が混ざっていますが、よろしいですか?』という細かいところも読みとりますから、編集さんとは異なる視線で読んでいます。」

編集者だと、著者の側に視点が近いかもしれないです。

「われわれは、どちらかというと読者に近い読み方をしていますね。」

003 こうしたプロフェッショナルの仕事を表や裏で支えるのが、今回の求人である制作管理や営業の役割だ。

「編集さんと〆切について交渉・調整したり、ゲラの進行を管理したりすることは、実際に校閲することとは違うスキルなんです。やっぱり校正者は職人なので、彼ら彼女らが安心して読む環境を整えてあげるのは、とても大事です。」

きっと、そうですね。

「職能を各部署で専門化して、チームとして機能させ、もっと余裕をつくっていきたいです。校正者って、映画を観に行ったり、好きな本を読んだり、音楽を聴いたり、うまいものを食ったりする時間がなくなってくると、良くないんですよ。まあ、読む量も若いうちは大事なんですけどね。」

04 会社に伺ったのは、平日の夕方。出版社からの電話が引っ切りなしに鳴るフロアには、ゲラが次々に届く。ホワイトボードには予定がびっしり。会社の勢いを感じるような、活気あふれる職場があった。

うって変わって、厚いガラスの向こう側には静寂に包まれた校閲室がある。

(シーン……)

05 集中力を要する仕事だから、照明や空調などの環境にもよく注意が払われている印象を受ける。

出版業界、校正・校閲者からの信頼を受けて、鴎来堂は創業7年で大きく成長を遂げた。

ここからは、制作管理部の若尾 梓さんにも加わっていただきます。入社2年目の30歳、前職では美容系の商社で国際部に所属していたそうだ。

06 仕事以外で文章を長く書いていて、自分たちで紀要や論集を出すときに、校正の作業に親しんでいたという。

「校正は専門性が高いお仕事なので、その程度の経験でなれるというものでもないと思いましたが、文章にかかわる仕事に就きたい思いはありました。」

入社して、どうでしたか。

「皆さん、私と同じぐらいの年齢ですよね。手がけている本はカタいものも結構多いのですが、何というか、柔らかい、フレキシブルな職場です。」

若尾さんの仕事は、営業担当が持ってきた案件を、社内の校閲担当に割り振り、納品までのスケジュールを内部で組むことだ。クライアントへのやりとりは、基本的には営業が担っている。

仕事で気をつけていることがあれば、教えてください。

「なんといっても、スケジュールを管理して落とさないことですよね。わかっていたつもりでしたが、現場は思った以上にいろいろと動くんだなと思いました。慣れるまでに時間がかかりましたし。そのぶん、最初に本になったのを見たときには、いやぁ、とてもうれしかったです!」

若尾さんが最初に担当したのは『熱風』。スタジオジブリが発行しているフリーペーパーだ。

「内容が素晴らしくて、とても面白いんです。最初にそれをパッと担当することになって。現場に指示を出すときには、諸先輩方にアドバイスを聞いて、工程表とにらめっこしながらゲラをやり取りするという感じでした。」

07 1つの本に対して、担当する校閲さんは1人ですか。

「これはゲラによるんですね。文字を読むのと調べるのは分けたほうがいいっていう場合もありますし。たとえばドイツ語が入ってくるから、この部分だけドイツ語が読める人でなきゃできないという例もあります。」

逆のケースもある。

「辞書みたいに分量が多いから、作業を5分割してやるような例もありますし。私たちの制作管理という部署がそれをコーディネートしていきます。大変ですけど、やりがいはスゴいですね。それは保証したいです。」

08 神楽坂という落ち着いた街で、本の世界にかかわるチャンス。

再び、柳下さんにうかがいます。どんな人に来てほしいですか?

「やっぱり、本が好きだということは大事です。糧を得るためだけだったら、ほかにもいろんな仕事があると思うんですね。だから、なぜ今、本をつくりたいのか、自分の考えを持っている人がいいです。」

柳下さん自身、なぜこの会社をつくったのだろう。2006年の創業だと、もう出版業界は斜陽化していくというか、もうしている頃だと思う。

勝算のようなものはあったんですか?

「その当時、30代の校正者ってあまりいなかった気がするんです。40代や50代がメインになっていて、20代の校正者なんて見たことがない状況でした。もちろん昔からフリーランスの人はいたんですけれど、やはり人を育てる環境が出版の中になくなりつつありますし。」

そう思います。

「このまま10年、20年したら、校正者がいなくなる実感がありました。それは出版にとって良くないことです。人が育つ場をつくっておかないといけないと、ずっと思っていたのです。」

校正者を育てることも使命と考えている柳下さんは、教育を専門とする部署を設置し、校正・校閲の技能教室である「かもめクラス」や、プロの校正者に向けたレクチャー「かもめ校正塾」を開講している。

09 柳下さん自身、校正者になろうと思った理由はなんでしょう。

「昔から日本語に興味があったんです。たとえば、違う色を組みあわせて『かさね』というものをつくったり、『霧』と『靄(もや)』、『霞(かすみ)』は、それぞれ違う景色だったり。」

すると、文学部のご出身?

「いえ、僕は大学に進まず、19歳ぐらいで名古屋から東京に出て何もしていなかったんです。母が石川啄木が好きで、家には関連書籍がいっぱいあったんです。そこで啄木は昔、ローマ字で日記を書いていたというのを知りました。」

「だから、英語圏に行けば、自分の日本語が変わるかもしれないと思ったのが二十歳すぎ。オーストラリアや中国に1年ずつくらいいたり、20代前半の4年くらいは、働いたり、学んだりしながら、異なる言語に触れてすごしましたね。帰国後、友人に誘われるままIT企業に勤めた時期もあります。僕の履歴書は、一見文脈がないように見える、変な内容になりますね。」

だからこそ、送られてくる履歴書はじっくり読み、応募者と会う前に心構えをする。

「一次面接は僕がします。最近楽しかったこと、人生でどんなところに喜びを感じるか、どんなときに怒りを感じるか、といったことを聞きます。その後に現場担当者との面接です。」

普通とは、順番が逆ですね。

「最初に現場の人間が面接をすると、やっぱり即戦力性を重視するような気がするんですね。人材って『即戦力性』『ポテンシャル』『情熱』という、3つの足し算です。その人材が育って、3年後に別の人間と化学反応を起こす。だから、僕が最初に面接をして、即戦力性とは関係のないところで『うちの会社に来たら楽しいかもしれない』という人を通したいんですね」

10 人を育てる。鴎来堂の企業姿勢に一貫して感じるのは、このことだ。

「入社後、最初のうちはただ見るだけ、周りの状況を把握するだけでもいいんです。仕事を覚えるという意味で、自分の考えを持つための時間は与えてあげたいと思いますね。」

まさに「人は城」。

「本当にそうです。特にうちの会社は終身雇用を目指していますから。僕は人を財産だとずっと思っています。」

長い時間をかけて、じっくりと「本」の世界に向き合っていく。そんな自分を育てる環境とやりがいが、ここにあると思います。(2013/11/08 神吉弘邦 up)