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メイド・イン・ベルリン

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「アートやデザインが最も熱い都市は、ベルリン」。2000年代半ばからそんな声を耳にしていました。ベルリンに本社を置くメガネメーカー「アイシー!ベルリン」も、そうしたトレンドの担い手。日本法人が業務委託をする、国内のセールススタッフを募集します!

冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が消えて20年あまり。価値観の崩壊を目撃した若者たちは、西側と東側の文化が行き交う年月を過ごした。今、彼らの多くは働き盛りを迎え、新しい社会の主役になっている。

1998年に28歳で「ic! Berlin(アイシー!ベルリン)」を興したラルフ・アンダールもその一人。起業の前年、コートの内ポケットにずらりと試作品をぶら下げ(まるで「のみの市」の時計売りのように)展示会に乗り込んだ。
彼が売り込もうとしたのは、「スクリューレスヒンジ(ネジなしバネ蝶番)」という、画期的なメガネの構造だった。これはネジや接着剤を用いず、フロントフレーム、テンプル(つる)、クリップの組み合わせで完成するシンプルな仕組み。

後に特許を取ったこの発明だが、最初は大手メーカーに採用してもらうべくプレゼンを重ねたものの、反応はイマイチ。まともに取り合ってもらえなかった。それならば!とオリジナルデザインの自由なメガネを生み出す会社を自らつくってしまった。

現在のベルリンの活気を感じる、若々しく尖ったデザイン。シンプルでいながら品質がしっかりしているのは、メイド・イン・ジャーマニーのお家芸だ。0.5mm厚のステンレススチールをカットした代表的なフレームのほかにも、アセテート素材のラインナップも充実している。

アメリカに次ぐ3社目として日本法人ができたのは、2010年5月。それまでも個人輸入などを通じてマーケットは存在したが、現在は「アイシー!ベルリン・ジャパン」が輸入販売を一手に担っている。青山にあるオフィスは、ざっくりとしたいい雰囲気。

国内に独自のショップはなく、販売ルートは全国の百貨店やメガネ店、セレクトショップなどだ。それら全国のお客さんのもとを営業担当が回って、製品を卸している。

アイシー!ベルリン・ジャパンの社長は榊原 郁さん、35歳。手前の彫像はもしかして創業者のラルフさん?

「そうです。彼はスキンヘッドで身長が2メートルほどあるので、実際に会うとインパクトありますよ。この彫刻は大学時代の友人に彫ってもらいました。」

榊原さんは、東京藝大の建築科出身。「バウハウス」があった旧東ドイツの都市、デッサウの大学院に進み、ロンドン滞在を経た後、ベルリンにある建築事務所で働いていた。

そのとき出会ったのがラルフさんだった。場所はなんと、ベルリンにあるラーメン屋! 日本でも世界でもユニークな都市では、こんな出会いが日々起こっているのかな。

「私、ずーっとメガネっ娘で、たくさんメガネを持ってたんですね。運命というか、学生時代に出会ったアイシー!ベルリンのフレームが大好きだったんです。」

榊原さんのバックグラウンドは、建築と芸術が融合している。秀逸な構造や品質だけでも、デザインや発想の面白さだけでもないプロダクトを送り出すメーカーへの転身には、なるほどと膝を打つ。

アイシー!ベルリンの製品カタログを見ると、100種類以上のモデルには、尖ったモデル、スタンダードなモデル、その中間にあたるモデルがあるようだ。割合でいうと、2:5:3といったところだろうか。

「シンプルで軽く機能的なのが、私たちの製品の売り。尖ったデザインも発信していますが、売り上げはスタンダードなモデルが上回ります。ものづくりに関心のある男性ユーザーが多いですね。」

スタンダードなシリーズの1つも、名称を見るとサムライシリーズとある。モデル名も「ryoma s.」「souji o.」といった具合。写真は「izou o.」のページ。

カタログの写真は全部ラルフさんが撮影している。「この写真は震災直後の渋谷駅で撮影された」とキャプションにある。人物モデルはすべて従業員や元スタッフやその友人たちだ。

「彼と仕事するのは面白いですよ。こんなにぶっ飛んでる人いないですから。断食もするし、哲学や精神世界にも造詣が深いし。」

驚くことに、全製品のテンプルにはラルフ社長の携帯電話の番号が入っている。質問やご意見はラルフへ直接、というわけだ。

…ん? ロゴの横にある、見えないくらいに小さな文字はなんだろう。

「シークレットメッセージですね。1本1本に異なるコメントが書いてあるんですよ。『我々はエールフランスを応援しています』とか『牛乳を応援しています』とか。」

彼はオペラ歌手でもある。最新シリーズはシューベルトの『冬の旅(ウィンターライゼ)』がテーマ。テンプルには、第1小節が刻まれている。メガネケースを開けるとオルゴールが鳴る仕組み。社長のCDも付いていて、やることが徹底している。

なお、こちらが通常製品のメガネケース。メガネにいっさいネジを使わない代わりに、ケースがネジのモチーフとなっているというジョーク。

社風と製品がユニークなので思わず長くなってしまいました。ここからはスタッフの池田一路さんにも加わってもらい、具体的な求人の話を。

池田さんが差し出した名刺、肩書きと思いきや、よく見るとその文字は「just married!(新婚です!)」

27歳の池田さん、どうして結婚…じゃなかった、この職場へ?

「榊原社長と同じ藝大の建築科出身なんです。卒業してから半年間デンマークに留学した後、美術系の予備校で教えていました。一昨年に『誰かスタッフに向く人はいない?』とたずねられたとき、『僕がやりたいです』と手をあげたんです。」

今回の求人の背景として、これまで営業担当だった池田さんが、プレスなどの広報や企画業務に専念することがある。

「営業の仕事では売り場に立つこともあります。以前は青山のショップ『禿 KAMURO』さんと一緒に企画して、『ポップアップストア』を期間限定でやりました。これは数日間、アイシー!ベルリンの過去の製品やスペシャルモデル全商品を1つの店舗に並べてもらうキャンペーンです。」

ちなみにメガネづくりが体感できるワークショップも開催して好評だったという。こうした企画を池田さんが考案して、営業スタッフがお店への提案や会社へのフィードバックを行うことになりそうだ。

もう1つ、応募条件は運転免許の所持。メガネ業界では春秋に新作の発表があり、その時期に合わせて膨大なサンプルを持って全国を回るからだ。

「1つの箱に15個くらいのモデルを入れ、10〜11箱をキャスター付きケースに詰めます。それを最低2個(200種類以上)は顧客に見せるのが本社の方針です」(池田さん)

二人とも「体力が求められる仕事」と繰り返す。実際、そのケースはかなり大きくて重い。

これまでは人づてで信頼できる人をスタッフに迎えていたのに、今回あえて広く人材を募るのは?

「応募者の営業経験に期待しているからですね。業種は問いません。私たちもメガネ業界を未経験から始めて、互いに学び合って現場へ入りましたから。ただし、即戦力がほしいので、セールス経験者を優遇させてもらいます」(榊原さん)

昨今、低価格なメガネブランドの台頭は目を見張るものがある。アパレルや飲食業界が直面するデフレや不景気と、メガネ業界も無縁ではないだろう。

「とにかくお店を盛り上げるため、いろいろ仕掛けたい」と池田さんは言う。一方で榊原さんは「日本におけるブランディングを考える時期になった」と語る。

ブランドの認知度が定着した今、既存の顧客を大切にしつつ、どのような販路を考え、新しい展開を提案すべきか。

「アイシー!ベルリンの販売価格は約4万円から。だから、ユーザーの年齢は30代以上ですね。遠近両用レンズと組み合わせて60代、70代の方まで使っていただいています。シンプルなメタルフレームは知的に見えるためか、お医者さんや弁護士さんの購入が多いようです。時代に左右されないデザインですしね」と榊原さん。

名刺とブランドを託され、成果報酬を得る業務委託という今回の募集。生半可なスタンスでは臨めない、肩にズシリと重圧のかかる仕事と言えそうだ。

そうは言っても「ただモノを売り込むだけじゃない面白さがある」と池田さん。「そう。アイシー!ベルリンはカルチャー・カンパニーだから」と榊原さんが続ける。

「メガネを通して、どういうライフスタイルや価値観、生き方を提案できるんだろう。ベルリンにいるとき感じるすごくリラックスした空気、それでいて、文化的で哲学的な雰囲気。そうしたものを日本の人に知ってもらえたらな、と常に思っているんです。」

だからメガネ業界のブランドが一堂に集う展示会でも、アピールするポイントがひと味違う。

「自分たちでブースを手づくりして『オイシー!ベルリン』というスタイルでやるんですよ。シェフを呼んで、ケータリングで美味しい料理をつくり、お客さんや通行人に振る舞って、音楽も一杯かけて……そういう楽しさの中にメガネがあるというメッセージです。」

採用者には本社での研修がある。9月に入社した池田さんは、翌年の5月に1週間、ベルリンを訪れた。

本社は街の中心部、ミッテにほど近いローザ・ルクセンブルク広場そばにあり、およそ100名が働いている。オフィスはパン工場を改装したビルの5階。3階と4階が工房で、全ての製品をここで完成させて世界中に出荷する。

「ありのままの生活やライフスタイルを感じられました。現地では『ドイツ人とベルリナー(ベルリン市民)は違うから、同じと思わない方がいいよ』と言われたのが印象的です」と池田さん。

ニューヨークやパリのスノッブさとは違った大らかさ。ちょっとヤンチャな空気もありつつ、人生を楽しむ自由さ。でも、ものづくりには大真面目。そんなベルリンの人々の姿が浮かんできた。

応募に際してドイツ語はできなくてもOKで、英語力は優遇される。繰り返すと、最も要求されるのは、シビアなビジネスの実力。我こそは、という体力とガッツあふれる営業経験者の方には、絶好の機会ですよ!

(2013/12/29 神吉弘邦)