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地域に根ざして、顔が見える人とともにモノをつくり、少しずつ市場を開墾していく。そうした働きかたが以前よりも「ふつう」になってきたように感じるのは僕だけでしょうか。その「仕事」には、より幅広い要素が含まれていると思います。
お金を稼ぐこと、人と関係をつくっていくこと、地域の将来の姿を考えていくこと。言い換えれば、コミュニティや文化、藝術、教育…
不思議なのは、そうした働きかたをする人はみなさん「豊か」な表情をしているように見受けられること。
今回の舞台は奈良県。
株式会社地域活性局では、奈良市都祁(つげ)の「農林水産物処理加工施設」を拠点に、畑から地域ブランドを生み出し、奈良県を中心に産品を営業する人を募集します。
進む先には、豊かな地域経済が見えているようです。
近鉄奈良駅で電車を降り、アーケードの商店街を歩くこと10分。観光スポットの奈良町(ならまち)が見えてきた。
この一角にあるのが、地域活性局の運営する「奈良町情報館」。
2階の事務所に上がると、代表の藤丸正明(ふじまるただあき)さんが待っていた。
藤丸さんは現在30歳。奈良を代表する若手起業家の一人だ。
はじめに奈良町がどういうエリアか、たずねてみる。
「奈良町は日本で一番古い“まち”なんです。奈良町には古くから続く文化があります。生活を豊かにするために訪れる場所でした。」
「いまは観光スポットとして多くの人が訪れます。その人たちに対して、まちの情報を提供するのが奈良町情報館です。」
ここから車に乗り、つげへと向かう。
10分ほど進むと田畑の広がる景色に。ところどころ家や納屋が見えるけれど、どこかさびれた様子。
と、ここで藤丸さん。
「この辺りはもともと奈良町に農産物を納めてきた地域なんです。高度成長期に中央集権が進むなかで関係が切れました。地域活性局は、観光を軸にしてもう一度そういう地域経済をつくろうとしています。」
モノの流れがお金を生み、人の流れにつながっていく。
つげは、いわば農産物の供給地。モノの流れが、人の流れにつながっていく。農産物に恵まれた地域だという。
「目に見える範囲で、ていねいに農業を営む人が多いんですよ。寒暖の差が激しいので、いい作物ができます。お米なんかものすごくおいしいですよ。航空会社の機内食に用いられているんです。それから、お茶。奈良市長はここを“西日本の軽井沢”にしたいと話しているんですけども(笑)。見合うだけのものをつくっていると思いますね。」
その他にも木灰からつくられるこんにゃくに黄身の持ち上がる卵、原木椎茸… そうした農産物を加工して、奈良町へ供給したいと考えている。
ところで、「つげ」って少し変わった名前だけれど… どんな土地なんだろう。
「名前は、かつて神事として行われてきた“闘鶏”が訛ったようです。日本社会が縄文から弥生へうつったときに開かれたのがつげのような山あいの盆地なんです。水が豊かで、まとまった平地もある。かつて日本は、山間部のほうが人口が多かったんですよね。」
藤丸さんと話していて感じるのは、「その土地では、どんな人がどんな思いのもと暮らしてきたのか。」そうした経緯を大切にする、深みのある人だと思う。学ぶことは多いんじゃないかな。
もう10分ほど進むと、手前には田んぼ、そして瓦づくりの日本家屋の先には里山。日本らしいと言うか。なんだか心落ち着く景色が広がる。
その一角に「農林水産物処理加工施設(加工場)」が見えてきた。
加工場は2棟からなり、20〜30人は働けるであろう規模。
これから働く人は、この場所を拠点として産品づくり・営業を行うことになる。
この加工場がはじまったのは1992年。地域に産業を、ということで地域のお母さんたちが働いてきた。
行政主導のもと運営が行われてきたけれど、2013年の4月から地域活性局が指定管理者となった。
中ではベテランスタッフの山村さんが出迎えてくれた。
つげ出身で、施設がはじまった当初から働いてきたメンバーの1人。
加工場では、地場でとれた農産物を加工して出荷していると言う。
「地元で採れる食材から産品を考えてきました。つげは県内で3本指に入るトマトの生産地なんです。最初の商品が、添加物も、塩も一切使わないトマトジュースでした。はっきりとコンセプトを立てたわけじゃないですけど、添加物などは使わなくても、できるものを続けてきました。」
土地に合わせるからこそ、産品は季節ごとに異なってくる。
訪れた冬の時期は、秋に収穫したものを加工していく。年末年始は、米からもちを。2月に入ると大豆を味噌に加工する。
製造の様子を見せてもらうと、さつまいもを手切りして、干し芋にしているところ。部屋中、あまい香りに満たされている。
「いもも、この地方でとれる玉豊という種類なんですよ。」
これまで地場の人たちが営んできた加工場。地域活性局がやってきてどう変わったのだろう。
山村さんはこう話す。
「最初は若い人たちが入ってきてお互いに戸惑いもあったけれど、私たちになかった感覚ももらえて。以前よりも仕事に張り合いが出て。いい風に変わってきたな、と思います。」
今回新たに人を募集するけれど、どんなことが期待されるのだろう。
まず、商品開発の人について。
専門的な知識や経験は必ずしも求められないけれど、食が好きな人がいい。主な仕事は、製造を山村さんたちと一緒に行っていくこと。
加えて、いま足りないと感じる次のことにも積極的に取り組んでいってほしい。
「まずは、いまある産品の改良です。売り方がヘタだな、と思うんですよ。パッケージのデザイン一つ見ても、もっとよくできると思います。」
その点は僕も感じたところだった。素材、そして産品の味はいい。けれど、デザイン次第でもっと手にとる人は増えるだろうし、ストーリーも伝えてほしいと思う。
ちなみに、自分でデザインができる人は大歓迎。まずはコンセプトだけを一緒に考えて、外部のデザイナーと連携することも可能だ。
パッケージデザインが好きな人は、普段感じていることを活かせると思う。たとえば地方のアンテナショップを見るとついつい立ち寄ったり、ときには思わずジャケ買いしたり。
広く言えば、求められてくるのはブランディングの力なのかもしれない。
地域産品には、価格にロットなどが生産者側の考えありきで進められているものが少なくないと思う。
「誰に、何を届けたいのか。」そうした視点も加わるとより魅力が生まれてくるのではないか。
それから、この加工場の特徴として、地域に根ざしている点が挙げられる。
たとえばこの夏は、台風で売り物にならなくなったトマトが持ち込まれ「買い取ってほしい。」と頼まれた。そこで新たな商品を考えることもある。
今後は自分から農家を訪ねて農産物を分けてもらったり。長い目で見れば、生産物の提案から関わることも考えられるようだ。
一方で大変なこともあるだろう。山村さんはこう話す。
「仕事ってけっこうしんどいですよ。重いものを運ぶことだってある。それに冬はとっても寒いです。商品を考えると、暖房を効かせられないこともあります。わたしはそれが一年の流れと思っているけれど、最初は大変かも知れませんね。」
「でも、みんな楽しんでやってますね。明るい人が多いと思います。」
それから営業について。藤丸さんはこう話す。
「加工場と同時期に、つげの道の駅『針テラス』内にある農産物直売所『つげの畑高原屋』の指定管理をはじめたんです。実は、西日本最大級の道の駅なんですね。今後は販路開拓がカギを握ります。県内の道の駅や直売所を中心にセレクトショップ、大阪や京都にも足を運んでほしいです。」
そこで大事にしてほしいことがあると言う。
「モノを売ることは、情報の回流につながります。足を使って全国を駆け回ることも大事ですが、ポイントは情報をいかに集めるか。たとえば東京・有楽町の交通会館に集まるアンテナショップを見て、トレンドをつかむことも大事です。」
「それから、いまは全国的に地域での産品づくりが増えていますよね。多くは国の事業で行っています。地域ブランドの動向も意識してほしいですね。」
たしかに地域ブランドは全国的なブームの印象がある。そのなかで、“地域活性局らしさ”をどこに見出すのだろう。
「指定管理に選ばれた一つの理由が、多くの東京の一流料亭に卸していることです。一方、そうしたプロのニーズに応えられる加工場は少ない。“銀座の料亭で出てくるトマトジュース”も目指していきたいんです。」
地域活性局はこれまで、料亭に吉野杉の箸などを卸している。いままで培ってきたつながりを活かすことができると思う。
また、こうした展望もある。
「加工場と高原屋・奈良町情報館でキャラバンを組み、奈良の文化(ストーリー)と商品を届ける計画もしているんです。活性局がはじまって7年。ようやくその体制も整ってきました。」
ちなみにこれからやってくる人の住まいにも触れておく。
奈良町からの通いも、つげに住むこともできる。
ちなみに最近つげでは、空き家への移住者が出はじめたり、地域おこし協力隊も2名入っていたり。また加工場を協働管理する伊川健一さんは、若手のお茶生産農家として、注目を集めている方。訪れてから考えるのもアリだと思います。
最後にもう1人、紹介したい。
総務として奈良町情報館を拠点に、会社を支える城谷さんです。
昼になると、情報館にはランチのお店を訪ねるお客さんも見える。そこで卸先である飲食店を紹介すると言う。
そうしたお客さんとは、後でこんなやりとりが生まれるそうだ。
「帰り際に立ち寄って『おいしかったよ、ありがとう。』そう言ってくださるんですね。」
旅で思い出に残るのは、人に親切にしてもらったことだと思う。
「お礼状が届くこともあります。『また奈良町に行きます。』って。うれしい。すごくうれしいですね。」
地域活性局の目指す地域経済は、そうした緩やかなつながりの先にあると思う。
「藤丸さんがよく言うんです。人の心が豊かになる経済をつくっていきたい、って。」
「人の縁を大事にするスタッフが多いです。応募も縁だと思います。他で迷っていた人も、うちの会社でなにか見つけてほしい。全力でサポートしていきます。自信はありますよ(笑)。」
ここで、ともに地域に根ざした仕事を育む人をお待ちしています。
(2013/12/26 大越はじめ)