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島のシゴトをつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

この島で手に入らないものはありますか?

「うーん…なんだろう…。あ、電化製品くらいかな。」

みんな口々に「この島には何もない」というけれど、本当は満ち足りているのかもしれない。ほとんどのものがここにあるということを、知っているのかもしれない。

この島では、あまりにもそこにあって当たり前のもの。それが、他の場所から来た人にとっては、ありえないことだったりする。

たとえば、夜には天の川が見えること。水平線に太陽が反射して、海に光の筋が浮かびあがること。赤土と海風で育った野菜がとても美味しいこと。おかあさんたちが、夕食のおかずに魚を釣りにでかけること。おすそわけの文化。ひとつしかない信号。

車を使えば、外周を1時間で回れてしまうような小さな島のなかに、こんなにも美しいもの、面白いものたちがある。

それをわたしが、ひとつひとつ興奮しながら伝えていくと、「へぇ、こんなのが面白いの?」という顔をされる。この島の日常はなんてすごいんだろう。

外からの目を持って、できることが沢山あると感じました。島暮らしってなんだか現実的ではない感じがするけれど、意外と身近な選択肢なのかもしれない。ちょっとだけ、ここで暮らす可能性を考えながら、読んでほしいと思います。

今回は、長崎の離島、小値賀(おぢか)諸島で、6次産業化に向けた特産品の商品開発や販路拡大などに取り組みながら、島の雇用を生み出していく人を募集します。

小値賀諸島は、長崎県佐世保港から高速船で西へ60km。五島列島の北端にある。

人口は2800人ほど。火山の噴火によってできたこの島は、アジアとの交易の貿易港として、また鯨漁の舞台として、さまざまな人を受け入れながら栄えてきた。

潮の流れが速い近海からは、身の締まった魚が獲れる。粘土質の赤土からは、糖度の高い野菜ができる。その贅沢な風土から生まれたものを、産品として外へ売り出していこう!という取り組みが、今スタートしている。

進めているのは、小値賀町雇用創造協議会(事務局:小値賀町担い手公社)。ターミナルから笛吹本通りというお店街を抜け、15分ほど歩いたところにあるオフィスを訪ねると、係長の牧尾さんが迎えてくれた。

車で島を案内してもらいながら、話を伺う。

「担い手公社では、農業研修などを通して島の担い手を増やしていく取り組みをしています。やっぱり雇用をつくっていかなきゃあかん。島には人口減少と高齢化の問題があるけれど、なかには島に戻りたい、暮らしたいという若者もいる。そのとき何が問題かというと、仕事がないんですよ。」

ここで暮らしたいと思う人がいても、暮らすための仕事がない。

この島では、長いあいだ、地元でつくられたものを地元で消費するという自給自足の暮らしが営まれてきた。外貨を得なくても生活していける環境があったため、お金を生み出すしくみができてこなかった。

ただ、つくったものを外の人に届けることで、お金を生むことができる。それほど美味しいものを、小値賀の人たちはつくっている。そんな想いから、プロジェクトがはじまった。

今とりかかっているのは「豆プロジェクト」。落花生をパッケージして、試験的に販売をはじめている。販路を開拓するため、みんな営業に出たり催事に参加したりと大忙しだそうだ。

殻から取り出した実を鍋で丁寧に煎ってつくられる落花生。50年前に、島の人たちが家内工業のようなかたちで栽培しはじめたのがはじまりだった。わたしも食べてみたけれど、いつも食べているピーナッツとは比べ物にならないくらい美味しかった。

丘の上へ行き、そこから島の人たちが耕した畑を見下ろしてみる。落花生や大根など、色々な種類のものが綺麗に仕切られて、お行儀良く植わっているのが分かる。パッチワークの模様のようで美しい。

「小値賀はマメな方がいっぱいいらっしゃるんですよ。島の掃除も、みんなで班ごとに分かれてきちんとやっているの。だからこれは、マメな島の豆プロジェクト。」と牧尾さん。

落花生のほかにも、さつまいもを茹でて北風にさらし、餅・ショウガ・砂糖を混ぜてつくる「かんころ餅」や、甘みたっぷりのトマトなどがつくられているところを見せてもらった。

「落花生がうまくいけば、他のものにもとりかかれる。まだまだ小値賀には、とっておきの美味しいものがいっぱいありますから。」

牧尾さんは、この島で生まれ育った。昔から、小値賀を元気にしていく仕事をしたいと思っていたそうだ。

ロックスターになってやる!と東京を目指すような、そんな時期はなかったんですか?(笑)

「なかったねぇ。気付いたときには、小値賀で生きていきたいと思ってた。小値賀のことが好きなんだよな。」

牧尾さんの言葉はゆったりとしていて、話していると穏やかな気持ちになる。小値賀の空気がしみ込んでいるのかな。

まちを巡っていると、会う人会う人が牧尾さんの知り合いだった。

牛を放牧中のおとうさん、かんころ餅をつくるおかあさん、ターミナルで働く人たち。色々な人に会い、そのたびに立ち話をしていたら、1時間でまわれるところを2時間かかってしまった。

「小値賀のどこが好き?と聞かれたら、島の人と答えるかな。人間はよかね。みんな、会うと挨拶するけん。知らない人でも『どっからきたの?』ってすぐ聞かれる。わざとじゃなくて、なにげなく。そんな人が多いかな。」

「小値賀の観光は今すごく人気があるけれど、みなさん何を見に来るわけでもなく、ただ過ごしにきているんだ。人に会いに来ているというかね。なかでも一般家庭に泊まれる『民泊』はとても人気があって、リピーターも多い。それもやっぱり、人の魅力があるからだと思うよ。」

外から島にやってきて暮らしている人の話も聞いてみたくて、小高さんを紹介してもらった。

小高さんは、4年前に奥さんとともに小値賀へ移住し、今は特産品の開発に携わっている。

「ここへ来る前は、人間関係が煩わしかったりするのかな、と想像していたのですが、そんなことはありませんでした。小値賀の人は、受け入れるのが上手だなと感じます。お世話を焼いてくれるけれど、けっして過干渉ではない。ひとの距離感が心地よいですね。」

「それは多分、多くの交易船、漁獲船を受け入れてきた小値賀の歴史も関係していると思います。独身の方は、結婚どうすんの?って言われて困ることもあるみたいですけど (笑)」

すっかり島の人のような雰囲気の小高さんに出身を聞いてみたら、大阪というのでびっくりした。ぜんぜんそんな感じがしない。どういうきっかけでこの島へやってきたんですか?

「大阪で会社員として働いていたときに、リーマンショックが起こったんです。多くの会社が自社の利益のことしか考えず解雇が進んでいきました。その時に働き方について改めて考え直しました。」

もともと海が大好きで、若いうちに働いてお金を貯め、いつかは島暮らしをしたいというライフプランがあった。だけど、いくらお金のためとはいえ、このまま何十年も働き続けるのは人生もったいないと思った。

そこで小高さんは、発想を転換する。

「働くのはなんのためかと言ったら、島暮らしをするため。だったら、今すぐ移住して夢を叶えてしまって、そこで仕事を見つけて暮らしていけばいいんじゃないか、と思ったんです。」

調べていくなかで、小値賀のまちづくりに関わる仕事を見つけ、最終日に滑り込みで応募した。その週末には面接が決まり小値賀に上陸。小値賀へ来たのはこのときが初めてだった。

採用が決まり、小高さんは小値賀へと引っ越してきた。家を借り、そこに奥さんと愛犬のムギとともに暮らしている。

「給料は以前の半分くらいになりましたが、全然生きていけるんです。家も、1万円もあれば一軒家が借りられてしまうし。それからこの島には、物々交換やおすそわけの文化があるんですよ。野菜や魚が食べきれないほどとれたときには、他の家へあげて、そうしてそのお返しに別のものをいただく。僕も、魚をどん!と一匹もらったときはびっくりしました。」

島の外からくるもの、例えばきのこや牛乳などは少し値が張るけれど、島のなかでつくられるものは、つくった人から直接手に入れることができる。いちばん美味しいのは、やっぱりお刺身。長崎の甘い醤油に唐辛子を混ぜて、それにつけて食べると最高なのだそうだ。

それにしても小高さん、島暮らしを満喫しているなぁ!

「よく、友人に遊ぶところないんじゃないの?って聞かれるんですね。ここには、みんなの想定するようなお金を払ってサービスを得るような遊びはありません。でも、たくさん楽しいことがありますよ。夜な夜なイカ釣りに行ったり、誰もいない浜辺で本を読んだり。そんな贅沢な遊びがあります。」

ただ、そんな楽しい日々の反面、暮らしていくうちに、島の深刻な問題にも突き当たった。

「人口の流失と高齢化。課題は満載ですね。日本はやっぱり、端っこから苦しくなってきているんです。」

小高さんが、役場でもらってきたという島の人口推移のグラフを見せてくれた。棒グラフを見ると、深刻さが一目で分かる。働き盛りの20〜40代の人口が、ごっそりもっていかれたように欠けている。

「島の人口が、年間100人ずつ減っているんです。今、2800人だから、このままだと28年後には一人もいなくなる計算です。そう考えると本当にリアルな問題ですよね。」

過疎地の問題は、過疎地だけの問題ではない。いずれは都市にも影響を及ぼす。

「人がいなくなれば、漁師さんが今まで積み上げてきた技術やノウハウも受け継がれていきません。魚が国内で生産されなくなり、輸入に頼ることになる。そうなってきたときに、対等な外交ができるでしょうか。生命線を押さえられたようなものですよね。」

漁師ひとりの話から、日本全体の話につながってくる。地域の問題は、国として考えていかなければいけないこと。

「ここは日本の端ですが、端から日本全体に影響するようなことをやっていかなければならないと思っています。雇用を生んで、暮らす場所として魅力的な島にしていきたい。小値賀は離島なので流通のデメリットあるけれど、小値賀でできるならうちでもできるかもしれないって、他の地域の希望になればいいですね。」

最後に、小高さん。

「ここは、挑戦しやすい環境だと思いますよ。よそからきたから黙っとけってことはないし、小値賀のためになるなら協力するよって人が多いです。ぼくはここへ来て、給料は半分になりましたが、やりがいは何倍にもなりました。決して条件からしたらよくないし、10人中10人に刺さるような求人ではないと思うけれど、1人でもピンとくる方に来てほしいと思います。」

なにもないけど満ち足りた島で、シゴトをつくる仕事をしてみませんか?

(2013/12/28 笠原ナナコ)