求人 NEW

山の上の歯医者さん

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

昨年、四国の山あいに新しい歯科医院が出来ました。ここ数年話題に上がることの多い、徳島・神山町。歯科衛生士さんを1名募集しています。「歯科衛生士ではないなあ(自分は)」と思った方も、ぜひご一読ください。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
この求人記事は日本仕事百貨のスタッフライターでなく、西村佳哲さん(『自分の仕事をつくる』著者)に書いていただきます。今年から始める、新しいコントリビューター・スキームの一環として。子細は後日。トップページのバナーからご覧ください。(日本仕事百貨 代表・ナカムラ ケンタ)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

神山町は、徳島から車で一時間ほどの中山間部にあります。吉野川の支流、鮎喰川に沿っていくつかの集落がつながった、ゆるやかな谷あいの地域。

IF よそと同じく過疎化の課題はあるものの、国内外のアーティストが滞在製作を行うレジデンス・プログラムを十数年重ね、最近は、民家を活かしたサテライト・オフィスの相次ぐ進出や、若い移住者の増加でも注目される機会が多い。

渦の中心は「グリーンバレー」という名の地域NPOで、その代表は「創造的過疎」という言葉で彼らの姿勢を表現しています。

人口は減ってゆくとしても、まずは面白い人・楽しい人・行動力や実現力のある人との出会いを楽しんで、結果として移住者が生じればいいし、それが将来的な人的資源にもつながれば。そんな民間のまちづくり活動が重ねられている場所。

その神山町の神領という地区に、大粟山という小山があります。

ふもとには温泉があり、週末にはすぐに売り切れてしまう石釜のパン屋さん、東京や大阪の小さなデザイン会社などのオフィスがいくつかあって。

山を上ってゆくと、木立の中に、小さな歯医者さんが姿をあらわします。

IF 初めての来訪時には「えっ、こんなところに(歯医者さんが)!?」と、ビックリするんじゃないかな。

IF オープンは2013年4月。始めたのは手島恭子さん。

みんなから「ココさん」と呼ばれている、姫路生まれの小柄な女性。この人が、一緒に働いてくれる歯科衛生士を求めています。

IF 開業前、お父さん(同じく歯科医)には「やめた方がいい」と言われたそうです。「そんなところで成り立つわけがない」と。

でも蓋をあけてみると、人は次々に訪れて、診療予約は常にいっぱいだという。

どんな人たちが来ているんだろう?

「町の普通の人たちです。これまでは、車で徳島市の歯医者さんまで通っていたとか、あるいは我慢していた人?(笑)」

「高齢者率は少し高いけれど、ご家族もおいでになるし、患者さんの年齢構成は市内とあまり変わりません。子どもたちも来ている。始める前は、知り合いや限られた人が来てくれるのかな…とも思っていたけれど甘かった。想像を越えて、いそがしいです。」

IF 診療日は、隣の自宅から朝8:30頃に出勤。カルテの確認などの準備をして、9:00から12:30までが午前の診療。

受付や助手をつとめるパートのスタッフや、パートナーのフミさんと一緒にお昼ご飯を食べて14:00まで休憩。昼休みのすごし方はそれぞれで、パートの女性は「野いちご食べて来ます」と散歩に出かけていました。

IF ココさんは短いお昼寝をとることも。

午後の診療は19時すぎまで。片付けや掃除をしていると、20時近くになることも多い。徒歩数歩の自宅に戻り、晩ごはんをいただいて。

「あらためてこう話すと大変そうですよね。でも自分で医院を開くというのはこういうことだ、と思ってやっています。」

歯医者さんといっても多種多様。すぐ削って埋めたがる人、抜きたがる人。僕の歯の上もいろんな歯科医が通り抜けてゆきました。

ココさんは、どんなことを大切にしているのか?

「歯だけが良くなればいいとは、思わないんです。」

「口の中や歯は、暮らしぶりにつながっている。その人の生活習慣や、向こうにいるご家族の様子とか、そんなところまで感じてしまう部分がある。」

IF 「だから、歯もだけれど、その人の生活がよくなることにかかわれたらと思う。もちろん実際に立ち入るわけではないけれど、そんな感覚で診療の時間を一緒にすごしているんですよね。」

人を患者や症状として診るのではなく、一緒に生きている存在として見るという、いわばあたり前の(でもルーティンワークの中で忘れてしまいがちな)ことを、基本的な姿勢として踏まえているんだな。

「田舎のお爺ちゃんお婆ちゃん。中でも親しみを込めて『おかあさん』と呼びたくなるような人たちは、まず手ぶらで来ることがなくて。家で採れた野菜やお花を、たくさん持って来てくれるんです。そういう、医療そのものとは直接関係しないことも、大事にしたいと思える人と働けたらいいな。」

ココさんは神山に来て13年。

同じ歯科医だった当時のパートナーと、仕事を一旦離れバックパッカーとして2年半世界を旅して。

その中で触れた「循環のある暮らし」「古いものを大事にする生き方」を大切にしながら歯科医院を営んでみたいと思い、日本に戻って場所を探して、友人を訪ねて神山と出会った。

「よく、田舎はよそ者を簡単に受け入れないと言うけど、私が出会った人にはほとんどそれを感じたことがなくて。グリーンバレーのおじさんたちも、とにかく愉快な感じで(笑)。」

8 まちづくりの活動に加わりながら、その中で、ここならではの歯医者さんのイメージを練っていたけれど、彼はガンを患って先立ってしまう。

ひとり残されたココさん。

その身の上に、不思議な成り行きが生じてゆく。

世界旅行で滞在した、タイのゲストハウスを運営していた日本人の男性が、彼が亡くなっていることを知らずにある日ブラッと神山を訪ねてきて…。

この人が、いまのパートナーのフミさん。

再会した2人は、しばらくしてお付き合いを始め、追って再婚。

ココさんはこの4年間、週3日ほど徳島市の歯科医院に通っていたけれど、フミさんと暮らしながら次第に心の準備が進み、神山に来て12年目にあたる昨年、いよいよ開業に至ったわけです。

フミさんはいまCOCO歯科で、診療以外の裏方の仕事をすべて担っている。
受付、器具の清掃・片付け、会計等の事務仕事などなど。

IF 冬場の1日は薪をくべるところから始まる。COCO歯科は薪ボイラーで床暖房を回していて、患者さんが来る頃には全体が暖かい。小さな子どもたちは、待合室の床にぺたんと座る。

フミさんはどんなことを大切にしているか?

「コミュニケーションですよね。赤ちゃんを抱いているお母さんが待ち合いに腰を下ろしていたら、会計の用意が出来ても、受付には呼び出さずに自分からそっちへ行くというか。」

彼は、高齢の患者さんの送迎も行っていた。

IF 「いまは近くの、知っている方について。出来る範囲で。自力で来れない人は家族の方が連れて来てくれるのだけど、急な用事が入ると、それで来れなくなってしまうこともあるので。」

理学療法士の有資格者で、訪問リハビリの仕事をしていた時期もあるとか。相手の側に自然に軸を置いてかかわってゆく彼の姿勢には、そんな背景もつながっているんだろう。

いずれは中山間地の歯科医院として、訪問診療を始める日も来るのかも。

にしても、まずは人。

IF COCO歯科にはココ・フミさんの他、いま2名のスタッフが働いている。

受付と助手をつとめる女性。この人は5時までのパートタイマーで、5時からは別の女性が働きに来ている。

歯科衛生士については、開業前から心当たりをあたってきたものの、なかなか出会えずにいた。

徳島市の医院でココさんと一緒に働いていた歯科衛生士さんが、本人の時間を削りながら11月までは通ってくれた。もう1名、診療姿勢に共感して来てくれている衛生士さんもいるのだけど、次の仕事を始める予定があらかじめあって1月末がリミット。

一方ココさんは、4月の開業後も勤めていた市内の医院を辞めずに週に一度通っていたが、それをこの12月末で終えた。

「いよいよ、COCO歯科に集中してゆける!」

そのココさんは、どんな歯科医なのか?

最近まで一緒に働いていた歯科衛生士さんにうかがってみました。

「根強いファンが多いです。仕事が丁寧だし、本人にとって望ましいものにしよう、という意欲が強い。他の先生だったらあきらめてしまうようなことについても、一緒に考えてくれる。相手が大人であれ子どもであれ、本人が望まない治療は、最後の最後までしない人ですね。」

歯科衛生士のご自分にとっては?

「いつも全力だから、フォローしたい気持ちが自然に生まれてくる。仕事に対して欲張りですね(笑)。ずっと一緒にやってゆけたら、衛生士としても、人としても成長出来ると思う。」

「ココさんは自然派指向で、代替療法や身体のことにも詳しい。そういうことにも関心のある人だと、なおいいんじゃないかと思います。」

神山町は、徳島市内からは十分通える距離だけど、「この仕事を通じて、移り住んでみようかな」と思う人もいるかも。

その場合、住むところはどうなるんだろう?

「たぶん見つけられると思います(笑)。」(ココ・フミさん)

あてはある様子。というか、もし移り住んでみたければ仕事を先に決めてしまう方が良さそう。

アーティスト・イン・レジデンスの習慣もあってか、神山の人たちには本気度の高い人を集中的にサポートする傾向があるので、もし働くことが決まったら、まわりにいる地元の人たちが放っておかないだろうと僕も思う。

IF 歯科衛生士の働き口は、都市部にはいくらでもあると思います。

けど、中山間地のそれは希少。

かつ新しい歯科治療のあり方に積極的で、人間的なかかわりを大切にしていて、航海を始めたばかりのこれから育ってゆく船。

仕事は「なに」をするかということ以上に、「どこで」「誰と」するかが大事だと思います。

そこに個別性が生じ、ほかでもない本人の経験や人生になってゆきますよね。

関心の生じた歯科衛生士の方はもちろん、移住先を探しているカップルでその片方が募集条件に合う人たち、あるいは該当しそうなお知り合いが近くにいたら、ぜひ伝えてみてください。

(2014/1/9 西村佳哲)