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未来の水産

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水産業というと、みんなどういうイメージをもっているのだろう。それぞれにあるだろうけれど、ぼくはきつくて地道で大変な仕事なんだろうな、と思っていた。そして、革新的なことはほとんどない退屈なものなんじゃないかと。

でも尾鷲物産は未来を考え、ビジョンをもっている。限りある水産資源をどうしていくか考え、自由に意見が言える環境があり、新しいことに挑戦している。

斜陽産業である地方のワンマン企業が、先細りする事業を淡々と維持していくようなものではないし、単に売上を追求するだけでもない。日本の水産業の未来がここにはあるように感じた。

東京から新幹線に乗り、名古屋で特急に乗り換える。日本仕事百貨でも馴染み深い尾鷲は、なかなか遠い場所にある。名古屋を離れると次第に田んぼや畑が増えて、松坂を過ぎると山々を縫うように単線を進んでいく。しばらくして海が見えてくれば尾鷲はもうすぐだ。

駅前の小さなロータリーを出て、細い道が縦横に延びる市街をぬけて海のほうへ。振り返れば熊野古道のある山々がよく見える。

事務所は尾鷲港のすぐ横。中に入ると社長の小野さんが迎えてくれた。

尾鷲物産はもともと「主婦の店」という、全国にネットワークのあるスーパーマーケットの一つから生まれた会社だった。

小野さんはそのときのことを話してくれた。

「同じ主婦の店から、尾鷲は底引きの魚があるじゃないかと言われたんです。だから尾鷲の主婦の店は魚を仕入れてもってきてくれよと言われました。それがはじまりです。」

3年ほどで売上げが1億円になったこともあり、当時の主婦の店の方たちが出資して尾鷲物産が生まれることになった。

「かっこよく言えば、そのときのDNAは今も流れておるんですね。」

DNAですか。

「普通は漁師さんが魚を獲ってきた。それを岸壁に上げて、市場に持っていく。魚屋さんはそこで、さあ何が獲れたか、今日はなに売ろうか、という世界なんですよね。」

そうですね。穫れたもの次第なんでしょうね。

「ところが尾鷲物産というのは、ニーズが先にあって生まれた会社でしょ。さんまの開きが欲しい、サバが欲しい、そういった注文があってからできた会社。魚屋の要望に答える会社っていうのは、本当に少ないわけです。」

「販売計画をたてやすい養殖ですら、そういうもんですから。そろそろエサ代払わないといけないから売ってくるか、という。」

尾鷲物産ではブリや銀鮭の養殖や、サーモンなど輸入、さらに今はマグロ船を新造したり、いろいろな魚を扱っている。

スーパーマーケットの細かいニーズに合わせて魚を捌くこともできる機械も導入している。加工センターを見学したら、ラインに載せられた魚は機械を通り抜けると見事に三枚におろされていた。テクノロジーとともに、アイデアを共有しながら進化しているそうだ。

直営の小売店「おとと」も持っているし、全国の小売店や飲食店に直接卸しているのも特徴的だ。

たとえば某有名寿司チェーン店のブリは、すべて尾鷲物産のものだったりする。自分たちで養殖して加工して、あとは酢飯に載せるだけの状態で出荷している。

まさに「生産」「加工」「販売」「営業」など、水産業を川上から川下までおこなっている。だからといって、大きな会社ではないので、日々試行錯誤しているような、フレキシブルで自由な感じがするのだ。

小野さん曰く、会社に新しい風をいれたきっかけがもう一つあるそうだ。

「15、6年前かな。ノルウェーのサーモンを取引しだした。これが拍車をかけました。ノルウェーっていう国はですね、水産業が盛んな国なんですね。でも漁業を保護していた時代があって、ちょうど今の日本のような状態に陥っていたんですね。」

当時、ソ連の脅威に備えて、国策として漁師を増やす政策がとられた。結果として漁師は各地域に根ざして生活することにより、沿岸を監視できると考えたそうだ。

「当初は非常に儲かったらしいですわ。資源がたくさんあるから。でも繰り返していくから、資源がなくなるわけですよ。資源がないと、儲からないと、やっぱり所得補償が欲しいと。今の日本と同じようになったわけです。」

水産資源も減少し、政府の負担も増えていく。もはや持続可能なものではない。

そこでノルウェー政府は政策を大転換する。補助金の使い方を変えることにした。まずは資源保護、資源管理のために。そしてもう一つがマーケティングだった。

「漁師さんが、目の前にある資源を獲って獲って穫り尽くすと。それで獲ったものが大量であれば魚価が安くなる。だからもっと獲るという悪循環に陥ったわけですね。資源をしっかり管理しながら、安定的に出せる仕組みを作ろうじゃないかという考え方だったわけです。そして我々もそういうビジョンを持ってることに気づいたんです。」

政策を転換したノルウェーは、水産大国になっていった。若者も仕事に就くし、給与も悪くない。一方で日本は高齢化が進み、水産資源も減少してしまっている。

尾鷲物産では資源を管理しながら若い人も働いている。さらに日本の強みであるテクノロジーも融合させて、まったく新しい水産業をつくろうとしている。

小野さんの話を聞いてから、船に乗って尾鷲の沖合に連れて行ってもらった。尾鷲の湾内などにはいけすが160以上あるそうだ。さらに定置網ももっている。どんどん成り手が少なくなっている場所を譲り受けて増えていったそうだ。

20分ほど船に乗るといけすにエサをやっている船に辿り着いた。ひとりの若いスタッフがいけすを注意深く見ながら、慣れた手つきでエサをやっていた。

話を聞いてみると、まだ水産系の大学を卒業してから数年ほどとのこと。その日のコンディションによってエサの内容を変えているそうだ。ときには深さ6メートルほどもあるいけすの中に潜っていって魚の様子を探ることもある。日焼けした笑顔が印象的だった。

また船で事務所に戻ると、いけすなどを担当している飼料増養殖部の桑原さんの話を聞くことになった。

すると独自の理論をどんどんしゃべりだす。はじめは面食らったけれども、自由で面白い人だった。

たとえば、みんな社員が結婚して家族を養えるような給与水準にしていくべきだとか、ちゃんと適正な判断が下せるように取引先からビールなど換金できるようなものはもらわないとか。とにかくいろんな話がポンポン出てくる。

「今は漁業者が減っていると言うけれど、海の面積は変わらないでしょ。魚の量も減らないなら、それでいいじゃないですか。これから漁業をやれば絶対うまくいくわけですから。」

桑原さんはとても合理的な考え方の持ち主。ただ、これは個人だけの話ではなくて、会社全体としても言えることだと思う。

報酬がフェアなこと、そして自由に発言できることがよくわかったのだけれども、桑原さんになぜこの会社で働き続けるのか、もう少し聞いてみる。

「魚が好きだからこの仕事してます、ってことはまったく言ったことありませんし。まあ、魚は好きですよ。美味しいです。でも公務員になれって言われてもなりませんね。だって面白くない。」

面白くない。

「そうです。だって、これからマグロ船つくるような会社ですよ。びっくりしました。すごく前向きに新しいことを進めていく会社ですから。」

「社内ではちゃんと評価してもらえるし、いいアイデアならば、前向きに進めて行く社風です。自由度が高いのもあるし、社員も準備ができている。その準備をさせてる経営者も偉いなと思いますね。」

「でもこれからの時代は部下の方がかしこいんですよ。優秀な人材の考えを理解できない上司がつくほど、悲劇はないですよね。ぼくもたくさん勉強していますよ。」

いろいろな人に話を聞いたけれども、もう一人紹介したいのが、営業の伊藤さん。

伊藤さんは尾鷲物産で働きはじめて26年。はじめは官公庁のようなところで働いていたそうだ。

「自分の性格上、9時に始まって5時に終わるというところがどうも合うてないんじゃないかっていうのがありましてね。それで田舎がこっちのほうだったので戻ってきたんです。」

実際に入ってみてどうでしたか?

「いろいろなことにチャレンジさせていただけるっていうところがありました。まずはスーパーに営業するところからはじめて、お店ごとにブリ一本とかさんまの開きが2パックとか、そういうところからはじめて。」

しばらく働いていて印象的だったのが、アフリカから仕入れたモンゴウイカを売ることだった。

「当時は薄皮をむいて卸すことはなかったんですね。店のバックヤードでむいてるのがほとんどだったんですよ。それをできないかっていう相談があって。」

仕入れから加工、そして営業、販売まで。自分で考えて提案してみたところ、見事に受け入れてもらえたそうだ。ところがしばらくすると、在庫も需要もあるけれど、加工が間に合わなくなってきた。

「意地がありましたから。営業の仕事を終えてから、まわりの人にも手伝ってもらって薄皮むきましたね。それでなんとか年末に納品を終えることができました。本当にチャンスをもらえる会社だと思います。」

最後に、あらためてこの会社の良いところを聞いてみる。

「そうですね。これから魚は穫れなくなっていくと思います。漁師さんも減ってくる。そういう中で、自分たちで魚を育てて、自分たちのところで加工して、自分たちで販売する。ダイレクトにできるからこそ、その分安く提供できるでしょうし、直接ニーズを聞くことができます。」

「あとは養殖って四国九州などが盛んですけど、尾鷲なら関西や東京のほうにも鮮度のいい状態で出荷できるんですよ。」

たしかに尾鷲は日本の中心に位置していると言えるかもしれない。日本中に出荷するには最適な場所。

さらに小野社長は世界に目を向けている。今後、漁師さんが高齢化し、漁獲量が減っていく中で、しっかりと水産資源を守りながら、最新のテクノロジーと自由なアイデアで魚を売っていく会社にしようとしている。

尾鷲はあまり便利なお店が多いわけじゃないし、会社も一見したら普通の会社かもしれない。けれども裏を返せば、自然が豊な場所で海も山もあるし、まだまだこれからの会社だから優秀な人が入ればものすごいチャンスがある場所だと思います。誰でも社長になれる予感がある。

今回はしっかり紹介できなかったけれども、魚を加工する現場も最新の設備だし、直営店で働くことも面白そうです。

もし興味があれば、ぜひ一度尾鷲を訪れてみてください。(2014/1/5 ナカムラケンタup)