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「春秋」というレストランがある。旬の素材の味を素直に引き出す、というコンセプトを持ち、創業当時から親しまれてきた。厨房とカウンター越しに会話しながら料理を味わうことができる、ダイニングバーの先駆けでもある。
今は東京都内でさまざまな業態で事業を展開している。ここでお客さんに料理を提供していく料理スタッフとホールスタッフを募集します。
正直、お伺いするまで、レストランのキッチンにはあまりいいイメージがなかった。長時間の立ち仕事に、厳しい上下関係。
とくに、春秋は伝統のあるお店だから心配だったのだけれど、行ってみたらとても柔軟な空気のあるお店だった。
まず、お客さんとしてお店に行ってみたい!という気になる人もいると思うので、ぜひ読んでみてほしいです。
地下鉄溜池山王駅より直結の山王パークタワー。このビルの27階に「春秋」溜池山王店がある。
午後3時。お店に入ると、キッチンもホールも、ディナーの準備の真っ最中だった。
一面ガラス張りになっていて、右は皇居、左は六本木のビル群までが見渡せる。ここは土地柄、ビジネスでいらっしゃるお客さんが多い。夜は夜景が素敵だから、デートや記念日に利用されるカップルも多いそうだ。
といっても、お客さんの層は店舗によって全然違う。共通のコンセプトは、信頼できる旬の食材を使って、その味を素直に引き出すこと。それ以外は、その店によって自由な解釈ですすめられる。
溜池山王店の料理長は、安田さん。(現在は、昨夏オープンの新店「麻布春秋」の料理長)。スラッとしていてメガネが似合う。想像していたよりもお若いし、親しみやすい印象がある。
18歳のときに東京へ出てきて、飲食の仕事をはじめたからキャリアは長い。まず洋食のお店に7年勤め、その後知り合いの紹介で春秋に入ったそうだ。
入ってみてどうでしたか?
「当時、春秋はビアハウスをやっていて、最初はそこに配属されました。次にダイニングバー形式のお店に配属されて、そこからどんどん面白くなっていきました。お客さんと話しながら料理を提供することができたので、楽しかったですね。料理長も良い方で、色々教えてもらいました。」
個人的には、キッチンの仕事にあまりいいイメージがないんです。少し前に「バンビーノ」というドラマがあって、それを観ていたら上司に殴られるシーンなんかもあったりして。
「そういう世界もあります。口をきいてもらえなかったり、止まっていたら殴られたり。完全な縦社会ですね。酷いところは傷害事件として警察が入ることもあるみたいです。でも、自分たちはそういうことはしません。だからやりやすいと思いますよ。」
「とてもフランクだと思います。僕も料理長だから偉いとか思ってないので。下の子とも付き合うし、教えるし。なぜかみんな、物腰が柔らかいんですよね。」
物腰が柔らかい。
「自分もここに入って17年になりますが、先輩はみんなそんな感じでした。なんの偉ぶる感じもなく、聞いたことは教えてもらえるし。それがすごく楽しかったんです。そのときの料理長には頭が上がらないですね。自分もそうなりたいと思います。」
マニュアルとかルールとかではなく、自然に”いい雰囲気”が引き継がれている感じなのかもしれない。
「それに、うちの調理場は、大きいホテルに比べて普通では経験できないことができる。チャンスがあると思いますよ。」
「魚とか肉は、入って1、2年ではなかなか触れるものではないんですね。自分らの時代はそうでした。でもここは、そういうものも『これやってみろ』ってやらせてくれるんです。こんな雰囲気は、他ではなかなかないと思いますね。ホテルに入った人の1年とうちでの1年は、全然内容が違うと思います。」
春秋では、前菜、焼きもの、蒸しもの、揚げもの、お刺身など、料理の種類によってポジションが分かれている。基本は、1ポジションを1人が責任を持って対応するかたちをとっているそうだ。
「任せてやった方が覚えも早い。それに、責任があるからよく考えるようになるんです。どうやってこの人数で仕事を回していくか考える。そうすることで仕事の段取りも生まれてきます。」
「それに、毎日単純にサラダを盛りつけるだけではつまらないですよね。色々経験させてあげたいのでローテーションもします。これはすごくいいことだと思います。同じポジションでも、違う人間が担当すると全然違うものができるので、見ていて面白いですね。」
調理経験があまりない場合は、いきなりポジションにつくことはない。まずは全てのポジションを補助する役目として、学ぶことになるそうだ。そうして経験を積んだスタッフは、ポジションを任されることになる。
そのなかで、安田さんは総監督のような立場ですか?
「自分もポジションにつきますよ。やっぱり料理つくりたいんです。見ているだけではつまらない。自分の手でつくらないと、熱がお客さままで届かないし、感覚も鈍くなってしまうと思うんです。」
ここで働くことになるかもしれない人に伝えておきたいのは、外の景色の見晴らしも素晴らしいけれど、キッチンの見晴らしもとても良いということ。他のスタッフがどんな動きをしているのかも見えるし、お客さんの席からもキッチンが見える。壁の無い開放的なつくりになっている。
「丸見えですよね。外国のお客さんなんかは、立ち止まって見たりします。でも、普通のお客さまは大抵夜景に目がいくみたいですね。本当はもっと見てほしいですけどね。」
見てほしいんですか?
「見てほしいです。見てもらった方が、綺麗な仕事をしようって心がけられるじゃないですか。いつでも見られてもいいように、作業台の上や包丁、まな板は常に綺麗にしています。ぐちゃぐちゃなところでつくって美味しいものができるかっていったら、できませんから。」
冷蔵庫の中も綺麗に整頓しているから、どこに何があるのか扉を開けなくても分かるのだそうだ。見た目も綺麗だけれど、結果として時間の短縮にもなる。環境を整えることで、仕事としても美しくなる。
「お客さまを意識することは本当に大事です。厨房にいる目の前のことしか見えなくなって、そうするとお客さまの顔が見えなくなってしまう。性別や年齢も分からない。」
調理中は忙しいと思うのですが、お客さんのことは見えますか?
「見えます。調理場から一番見えます。自分たちは客席に向いて仕事をしているので、誰が何を食べているのか分かります。あのお客さまはこれを飲んでいるからこういうものをつくった方がいいのかな、とか考えることもあるし、男性か女性かによって盛りつけを変えたりもします。」
お客さんからもよく見えるし、お客さんのこともよく見える。このお店の構造自体が、お客さんとキッチンのコミュニケーションを生み出しているのだと思う。
どんな人に来てほしいですか?
「飲食店に勤めた経験があるに越したことはないですが、若い世代を育てたいという想いもあるので、若い人にも来てほしいと思います。」
「うちの会社は、福利厚生がしっかりしているぶん、手取りがそこまで高いわけではないんですね。飲食店でのアルバイトの経験がある子は、その都度貰える現金が多いから、そっちの方がいいと思ってしまう。若いときはそれでもいいと思うけれど、長い目でみたら福利厚生がしっかりしている方がいいんじゃないかな。」
「うちはしっかりした人材でしっかりしたものをやっていきたいという会社だから、いいと思いますよ。それは伝えておきたいですね。」
安田さんに話を聞いたあと、キッチンを見学させてもらった。みなさん、話しかけると食材について説明してくれる。
前菜は、春野菜を使った色鮮やかなサラダ。使う具材や時期に合わせて、毎日変えるそうだ。変に凝っているわけではなく、あくまでも素材を生かしたシンプルなもの。だけど、とても丁寧な仕事だということが伝わる。
安田さんは、メインで出す牡蠣の殻を剥いていたので、隣にいって話しかけてみた。
この牡蠣は、安田さんが直接産地へ出向き、生産者と話し、自分の舌で味を確かめてから選んだのだそうだ。食材を選ぶところからが、シェフの仕事になる。
手際よく殻を剥きながら、安田さんがこんな話をしてくれた。
「うちで取引させてもらっている生産者の方が、山を持っているんですよ。その山では山菜が沢山とれるそうなんです。今度の休みに、みんなでそこに行って山菜を摘もうという話をしているんですよ。バスを貸し切って。良い山菜がとれたら、それをメニューで出そうと思っています。お客さまに『自分たちで摘んできたんです』って話せるじゃないですか。楽しみですね。」
安田さんと話していて、本当に料理が好きなんだなということが伝わってきた。こんな人の下で料理を学べるのは幸せだと思う。
ただオーダー表が流れてきて、マニュアル通りにつくる仕事とは違う。自分で考えなければいけないから、大変なこともあるとは思うけれど。
キッチンを見せてもらったあと、取材に立ち会っていただいた取締役の杉本さんにも話を伺った。
杉本さんは、物件を探したり、採用を考えたり、お皿や食材を考えたり、経営全体のことを考える役割を担っている。
「うちは大きい会社ではないですが、だからこそパっと反応できる会社だと思いますね。色々試していこうという気持ちがある。それが面白いと思います。」
「さっき安田が、調理場の雰囲気がいいという話をしていたと思うのですが、それもうちの元々の気質だと思います。うちの会社ができたとき、基本の和食のスタイルとは違う方向性の新しいものをやりたい、という考えがあったんです。古いしきたりや上下関係にとらわれない人たちが集まった。そのエネルギーで突っ走ってきて、だんだんサービスや料理も円熟してきて、今は人を育てる余裕ができてきたのだと思います。」
杉本さんは、この仕事にはどんな人が向いていると思いますか?
「やる気次第で育ててくれる場所なので。好奇心があり、新しいことに抵抗がない人がいいですね。今までやってきたことと違う!と思ってしまうともったいないと思います。」
素直な方なら、新しいものをどんどん吸収できて楽しいかもしれない。料理にも、素材の味を素直に引き出す、というコンセプトがあるけれど、「素直」がひとつのキーワードかもしれないですね。
「そうかもしれないですね。うちの伝統の人気メニューに、鶏を丸ごと藁で卷いて塩釜にした『比内地鶏の塩釜焼き』があるんです。作り方はシンプルで、素材の旨味を最大限に生かしている。これはとても春秋らしいメニューだと思っています。」
素材の味を引き出すにも、料理の技術を磨くのにも、素直が一番かもしれない。時給や効率ももちろん大切だけれど、味と人に素直に向き合っていきたいと思う人に、来てほしいと思います。
(2014/1/2 ナナコup)