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できあがった製品を、自分たちの思いとともに届ける企業が増えてきている。消費者も、本当にいいものにお金を使いたい。だからこそ、素材に真摯に向き合って本物をつくり続けている人や会社が、広がってきているように思う。
少しずつ大きな流れになっているように感じています。
『アライオリーブ』も、信念をもってオリーブオイルづくりをしている会社。
今回は、香川・三豊市(みとよし)で世界一のオリーブオイルをつくり、オリーブ産業を一緒に育てていく仲間を募集します。
瀬戸内海に面した香川は、オリーブを育てるのに適した地中海性気候の土地。
アライオリーブは、小豆島と三豊市に農園を持っている。その農園は日本で最大の広さ。そして、ここでつくられているオリーブオイルは世界一、酸度が低い。
オリーブオイルの酸度が低いってどういうことなんだろう。アライオリーブ代表の荒井信雅さんに伺う。
「酸度とは、オリーブの実からオイルを搾油するときに生じる遊離酸度のことです。この数値が、鮮度や、風味の豊さを示す基準となっているんです。」
家庭でよく使われているエクストラバージンオリーブオイル。この酸度の基準は0.8以下であるということ。要するに、100g中8gまで、酸化したオイルが入っていてもエクストラバージンオリーブオイルということ。アライオリーブの酸度は0.1。時期によっては、0.07にまで酸度が下がるそう。
ここまで酸度の低いオリーブオイルをつくっている農園は、世界でアライオリーブだけ。
詳しくお話を聞く前に、アライオリーブのオリーブオイルをいただいてみる。
お皿に出すと、その色の鮮やかさと透明感に驚く。さらさらとして透き通っていて宝石のようなオリーブオイル。
オリーブオイルのテイスティングの方法を教えてもらい、味を見る。
まずはスプーン一杯ほどのオリーブオイルを口の中に含む。そしてオイルを口の中に広げたら、少し口先をあけ、歯の隙間から喉の奥へと空気を吸い込む。これがオリーブオイルのテイスティングの方法。
口に含むと、油とは思えないくらいさらさらとしていた。そして果実のような甘い香りが鼻を抜ける。空気を含むのに手こずりながらも、空気を吸い込む。そうすると、喉を通ったあとに、思わず『苦いっ!』と言ってしまう程、ぴりぴりとした苦みを感じた。
「さらさらしていて、油っぽくないでしょう。僕はこのオリーブオイルを、“果実のジュース”と言っています。そして苦いということは、オリーブオイルに対しての褒め言葉なんです。本当のオリーブオイルは香りも豊かで、苦い。」
普段、料理につかうことはあっても、オリーブオイル自体を味わう機会はあまりなかった。
どうしてこのオイルは産まれたのだろう。このオイルをつくるまでの荒井さん自身の話を聞いてみる。
「大学で、造園学を専攻していました。日本庭園を専攻していて、大学で助手として勤めていました。もともと小豆島出身なのですが、造園の道を極めたいと思い、京都へ修行にいこうしていました。ちょうどその時、島の両親に帰ってきてくれないか、と言われたんです。」
島に帰るか迷い、大学の教授に相談したところ、こう言われたそう。
「『小豆島に帰るなら、オリーブやらないか?』と声をかけられました。けれど、その頃は、海外市場の輸入の緩和があり、日本のオリーブ産業が一番衰退していた時期だったんです。」
それでもオリーブの道に進もうと思ったのは、なぜなのだろう。
「やっぱり植物や木に関わる仕事がしたかったんですね。オリーブだったら、木を育てることができる。大きくみると自分で土地をデザインできますからね。」
そして小豆島に帰り、オリーブ園や、オリーブ財団に、あわせて30年間勤める。
そこではオリーブを育てることのみならず、工場の管理や、製品を科学的に研究すること、化粧品などの開発など、オリーブに関わるあらゆることを学んだそうだ。
独立することにしたのは、どうしてなのだろう。
「いつの間にか、勤めていた会社より、自分の農園の方が大きくなってしまったんです。それならもう独立しようと思って、2010年に独立しました。」
従来の日本でのオリーブの育て方と、造園学や植物のことを学んできた荒井さんのオリーブの育て方には、いくつか違いがあった。それを試すために自分で農園を購入し、オリーブを育てはじめていたそうだ。
「それに、オリーブオイルをもっと極めたかったんです。」
極める。それが世界一酸度の低いオリーブへとつながる。
「働いているときから、ずっと思っていたことがあったんです。日本はヨーロッパと同じオリーブオイルをつくっている、ということです。わたしが今まで培ってきた知識と技術をつかって、日本でしかつくれないオリーブオイルをつくりたいと思ったんです。」
ヨーロッパと同じオリーブオイルをつくるのであれば、ヨーロッパにまかせればいい。自分が日本でオリーブ農園をやるのであれば、世界最高の技術と鮮度でつくりたい。
そういう思いから、木の一本一本、搾油の方法など、すべて徹底的にこだわってオイルをつくった。そしてアライオリーブにしかつくれない、世界一酸度の低いオリーブオイルが産まれた。
つくり方のどんなところに違いがあるのでしょうか。
「わかりやすい違いは、収穫のタイミングや、搾油までの時間です。」
普通はオリーブの実が赤くなってきた11月頃に収穫するところを、1ヶ月ほど早い10月、まだ実が青いうちに収穫する。そして、採ったら6時間以内に全てしぼってオイルにする。午前に収穫したものは、お昼に。午後に収穫したものは、夕方までには搾油して、すぐに光を通さない遮光瓶に詰められる。
「全ての農園でとは言いませんが、育てる人と、それをオイルへと加工する人がバラバラなことが多いんですね。せっかくいい実をつくっても、加工する人が手を抜いた瞬間にオイルはだめになってしまいます。なので、わたしたちは、オリーブを育てるだけではなく、加工や、出荷、お客さまの手に届く、全ての工程を自分たちでやっています。」
幾重にも手をかけられてできあがったオリーブオイル。現在は、通信販売がメインで、関東圏を中心に売り上げが伸びてきている。出来上がったオリーブオイルはあっという間に完売してしまうほどの人気ぶりだ。
「私たちのオイルは、一本1万2600円するんです。決して安くありません。けれど、実が小さいうちに収穫するので、一般的なオリーブオイルの3倍の実が必要なんです。日本最大の農園ではあるのですが、今は息子と二人ですべての作業をしています。オリーブを一緒に育てる仲間が欲しいんです。」
オリーブが育ち、それが製品になるまでのお話に耳を傾けていると、まさか、たった二人だけで運営しているとは思わなかった。
さっそく、息子の信貴さんにもお話を伺う。働きだして一年。お話を聞いているとオリーブづくりや、農業に対して、とても熱い思いを持っているのが感じられる。
日々どんなことをしていますか?
「基本的に朝は8時くらいから畑に出て作業をしています。今は農園を広げているので、新しい農園の草刈りや、土を耕したりしています。だいたい日が暮れるまで仕事をして、寝る。その繰り返しです。」
一年やってみて、なにか印象的だったことはありますか?
「収穫ですね。普段は地味な作業が多いのですが、そのときが一番嬉しかったです。そのオイルを飲んでみて、いいものがでてきたことを感じられました。つくり甲斐があります。それが幸せな瞬間です。」
信貴さんは現在23歳。企業に就職する選択肢もあったと思うのだけれど、農業の道にどうして進もうと思ったのだろうか。
「農業ってすごく大切だと思うんです。3食食べないと命に関わりますから。けれど、農業はお金にならないからって若い人は農業をやりたがりませんよね。自分がやることで、そういう若い人の意識も変えていけたらと思っています。」
働いてみて、どんなところが大変でしたか。
「最初はもっと楽だと思っていたんです。でもオリーブって生き物だから、人間にあわせてはくれません。毎日様子を見にいかないといけませんし、休みは正直、ほとんどありません。でも、手をかけただけそれが土地に現れるのが面白いです。」
体力も必要になってくる仕事。どういう人が向いているのだろう。代表の荒井さんに伺う。
「日本のオリーブ産業を広げていくためにも、わたしが30年かけて培ってきた技術を伝承していきたいと思っています。オリーブというのは、トレーニングに長い年月がかかるんです。今までの30年をぎゅっと凝縮しても、技術を身につけてもらうのに、15年はかかると見ています。」
自然相手の仕事。だからこそ天候や木の様子を見ながら、一つひとつ自分の手で覚えていく。知識や方法だけ知ってもつとまる仕事ではない。だからこそ一人前になるには時間がかかる。
「わたしは今55歳なんです。自分の年齢や体力のことを考えると、次の世代へオリーブづくりの技術をバトンタッチするには、ラストステージだと思っています。もちろん経験などは要りません。そこはしっかり時間をかけて教えていきます。なので、情熱を持って取り組める人がいいですね。本物をつくり続けたい人。そして、将来的には自分で農園をもって、独立してほしいと思っています。」
オリーブは、オイル以外にも、料理、化粧品、お茶、薬など、さまざまな製品をつくることができる。まずはオリーブづくりの基礎を学び、そこから、自分の興味の向いたものをつくっていって欲しいとのこと。
これからアライオリーブはどこに進んでいくのだろう。
「今はプレイヤーが2人なので、とれるオイルの量も限られています。需要に対して、オイルの量が足りていません。品質は絶対に落とさずにオイルをつくっていきたいです。そして、農園を広げている最中です。広げるだけで売り先がなかったら元も子もありません。なので、京都の老舗料亭さんと和食のコラボをしたり、海外の高級ホテルの料理人さんと話をしながら、日本のみならず、世界に向けて、売り先も開拓しています。」
いい素材を、いい状態で、責任をもって人に届ける。ゆくゆくは、日本のオリーブ産業を担っていく。
夏はきつい日差しの中の作業となる。日々、同じことを繰り返したり、地味なこともある。だけれど、しっかり向き合って、手をかければ、それは土地やオイルにすべてあらわれる。
土とともに暮らし、実を届ける仕事。
この丁寧さと技術の高さを受け継ぎ、日本でしかつくることのできないオリーブオイルを一緒につくっていける方。本物をつくり続けていける仲間に、ぜひ来てほしいと思います。
(2014/03/06 吉尾萌実)