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ムラのオーケストラ

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グローバル経済が進む一方で、地域経済の大切さが見直されるようになったと思います。

畑や田んぼで作物を育て、その地の人の手で加工する。都市部では商品を手にとった人が、つくられた土地に興味を持つ。そしてあるとき訪れ、土地に魅せられていく。

1 そうして生計を立てることは決して簡単ではないけれど、かといって夢物語でもないように思います。

大切になるのは、地の生産者に寄り添いながら、まちの生活者の気持ちを想像する。地域経済をていねいに積み重ねていくことでしょう。

今回の舞台は、福岡県築上町の上城井(かみきい)地区です。すでに地元ではじまりつつある、さまざまな活動を組み合わせていく人を募集します。

福岡第2の都市、北九州市の小倉駅から電車で30分。

JR椎田(しいだ)駅で電車を降りると、そこはもう築上町だ。

はじめに訪ねたのは町役場の企画振興課の渡邊さん、江本さん。

2 写真右:渡邊さん 左:江本さん
「かつては豊の国(とよのくに)と呼ばれたところです。その後、豊前の国となりました。100万都市の北九州市からも30kmほど。北九州空港へも40分くらいでいけるアクセスにありながら、自然が豊か。農業もあれば、瀬戸内海に面しているエリアもあります。住みやすいところだと思いますよ。」

全国に漏れずゆるやかな人口減少が進んでいる。

「平成18年に2つの村が合併したんです。21,000人いた人口が8年で19,000人になりました。そのなかでも少子高齢化が著しいのが、山合いの上城井地区です。地元でも積極的に取り組みはしているものの、なかなか成果にはつながっていません。単発のプロジェクトはあるものの、全体としてうまく機能していないんですね。」

「地元の人だけでは限界がある。ぜひ外の若い人の力を取り入れて一緒にすすめていきたい。行政としても必要性を感じているところに、地元で活動している団体から地域おこし協力隊の希望がありました。」

上城井は約500戸、1,100人ほどが住む地域。6割が高齢者。

3 2007年に発足したのが、地元の有志による「上城井ふれあい協議会」だ。

その名前からも想像がつくかもしれないけれど、65歳以上の方が中心となっている。

これまで、文化面からの活性化に精力的に取り組んできた。

まず途絶えていた文化行事の流鏑馬(やぶさめ)を復活した。

その他にも、この地区で盛んな神楽ツアーに知恵の文殊大祭… 現在では月に一度はイベントが行われるまでになった。

4 集客は見込めるようになったけれど、打ち上げ花火のようにその場限りで終わってしまうことが多い。

「イベントはきっかけづくりにはいいんですが、個々のコンテンツが有機的に結びついたり、その先にどうつなげるかが課題でした。プランナーとしての事務局が必要だという話になったんです。」

地域づくりをはじめると、アイデアは色々と出てくる。ついついあれもこれもと、なることも少なくない。うまく組み合わせることが必要だ。

地域おこし協力隊の募集にあたっては、事前の準備を進めてきたそうだ。

「他の地域の事例を調べると、仕事のイメージが不明確で受入が難しかったという声が少なからず聞こえてきたんです。それではいけないだろう。住民が望むことを把握して、地域のビジョンを持たなければと思いました。」

そこで住民たちは集い、一年をかけて「築上町上城井地域づくりビジョン」をつくりあげた。

5 これから入る人にとっての道しるべになりうるものだろう。

どんなビジョンなんだろう。

話をたずねたのは、受入を行う上城井ふれあい協議会の山内会長、そして白川事務局長。一見こわもてだけれど、よくよく話してみると気さくな方たちでした。

6. 写真右:山内さん 左:白川さん
「6次産業と呼ばれるものです。特産品を開発しますよね。モノがキッカケで地域に興味を持ち訪れた人が、農家民泊で地域に触れていく流れを考えています。」

さらにくわしくたずねてみる。

はじめに特産品。

「ここにはきれいな空気においしい水、山もあります。献上米とされる米、それをもとにつくる味噌。それから竹林を整備して採れる筍に綱式天満宮の梅。地域の環境を守りながら、上城井ブランドの資源を活かして特産品を育んでいきたいんです。」

7 つぎに特産品をきっかけとして、地域に訪れてもらう。

「農家民泊を行っています。おいしい食事をしてゆっくり過ごしたり、農林業体験も考えられます。それから、黒田勘兵衛のライバルとされる宇都宮家の史蹟が数多くあるんですよ。巡るのもよいですね。訪れることから、移住にもつながるでしょう。そのために、トータルでのプランニングが必要だと感じています。」

どんな人に来てほしいのでしょう。

「自分から思ったことを提案したり、行動したり。活発な人がいい。これから進めていくこともたくさんある。一緒に走っていける、いや走りすぎて年寄りの足が上がらなくなるぐらいでちょうどいいかもしれない(笑)。もちろん最初の数ヶ月は色々見て体験してもらってね。」

印象的だったのは、みなさん高齢だけれど積極的にあたらしいものを取り込もうという意欲が感じられること。

ここで車に乗り、上城井地区へ移動する。

右手には、石垣に白壁の旧家。左手はかつて山伏が修行をした山を拝みながら、田んぼに畑が広がる。道沿いには川が流れ、水も豊かな土地のようだ。

県道で車を止めて、支流の集落を歩くと、玄関先ではしいたけを干していた。

8 20分ほど車を走らせて到着したのは、上城井活性化センター。

廃校により活用されなくなった高校の分校を、地域づくりの拠点に転用している。

ここで、ふれあい協議会を中心に進めてきた上城井地域づくりの発表会が開かれる。

会場には上城井地区の住民に、行政職員、そして外からの若い人も数名見える。

一つめのプログラムは、九州産業大学の大学院生によるクリエイター集団“ノコノコ・デザイン・クラブ”から。

上城井ではすでに特産品の商品化をはじめているけれど、課題となっていたのがデザインだった。

たとえばいまは1kgのパックで販売している味噌。

一人暮らしの人には多過ぎるかもしれないし、持ち運びが少し面倒だ。

上城井に興味を持つキッカケとしては、もっと少量のパッケージがあってもいいし、もっと手にとりたくなるデザインがいい。

そこで、“ノコノコ”の2人は、ターゲットを20代の女性に絞り込み、試作品をつくってみせた。

「おいしい」ことは前提にある。もらってうれしいデザインや、食べ方の提案といった「日々の暮らしのなかで心がちょっと豊かになること」を届けたいと話す。

9 また、地域の産品は存在を知ってもらうことが大切。いずれはECサイトでの展開も視野に入れている。

とは言えふれあい協議会のみなさんの年齢は平均65歳。

「HPにFacebook、Twitter。都会に住む若い人へ向けた広報は明るくないので、ぜひこれからいらっしゃる方にやっていってほしいんです。」

地域のことは素直に教わりつつ、WEBや通販については自分からどんどん伝えていけたらよいのだろうな。

10. これからやってくる人と、この土地の人がお互いにできることを持ち寄る。そうして地域経済が循環していくのだと思う。

少しずつではあるけれど、成功事例も生まれつつある。

たとえば今年が2年目になる民泊。

はじめはまったく人が来なかったそうだ。というのも、福岡から日帰り圏にあるため、わざわざ泊まるキッカケがなかった。

そこでホタルの鑑賞に、夜神楽と組み合わせた宿泊ツアーを考えると参加者も現れはじめた。

上城井地区の一つの特徴に、男性が中心となって活動していることが挙げられる。

瞬発力はあると思うので、あとは地道に、継続的に積み重ねること。

最後に、地元における若い人の動きも紹介します。

会場内を動き回り、笑顔を見せていたのが、26歳の栗田さんだ。

11 高校までを築上町で過ごし、千葉で就職をした後にUターンした。

いずれは戻ると思っていたのでしょうか?

「全然思っていませんでした(笑)。千葉でホネを埋めるんだろうな、と。でも、離れてはじめてよさがわかりました。大きかったのは、人と人のつながり。僕はこっちだな、と思ったんです。」

現在は森林組合に勤め、山の所有者に間伐の提案をしている。

戦後に植えた木は伐採時期を迎えている。

けれど木材価格の低迷もあり、手入れされず荒れ果てているところも多い。

Uターンをした後に、誘いを受けてこの仕事に就いた。

それまでは、山のことも森林組合という団体も知らなかったとか。

「最初は特別やりたかったわけではなくて。空きがあったから、というのが正直なところでした。でも日々仕事をするなかで、気持ちが変わっていきました。山も一つひとつ条件が違います。所有者さんの意向を聞きつつ、間伐の計画を組んでいきます。手入れしたあとの山はすごくきれいなんですよ。結果が見えるし、所有者からも喜ばれる。やってみたから、気づけたことなんです。」

そしてもう一つ大事なことがある。

「山は地域の財産なんですよね。手入れがされないと、土砂崩れといった自然災害につながります。誇りに思っている仕事ですね。山を次につないでいきたいんです。」

そんな栗田さんは、林業の他にも、地域に関わるさまざまな活動を行っている。

一つが、寒田(さわだ)地区に400年続く神楽の継承。

寛文五年に彫られた面が残っており、県の指定無形文化財にも選ばれている。

けれど、子どもの数が減少し、進学や就職を機に外に出る人も増えるなかで存続の危機を迎えていた。

「このままではなくなる、と思って。同年代の仲間に声かけをしていきました。そうして次第に若い人も増えてきたんです。」

12.. なかには神楽がきっかけでUターンした人もいるそう。現在は23歳という若いメンバーも交えて活動中だ。

また、地域おこしに向けて青壮年会も立ち上げた。

「協議会のみなさんとも、世代を問わず気軽に話せますしね。上城井の環境が動きやすくてなじみますね。」

外から入ってくる人にとっては、どうでしょう?

「よそものだから、と壁をつくる人はいないと思います。地域のよさは僕らが伝えつつ、都会の人の新鮮な意見も受け入れていきたい。僕は地元だからこそ、問題が見えにくいのも事実です。来てくれるのなら、一緒に頑張らせてもらいたいです。」

どんな人に来てほしいだろう。

「ここを好きになってくれたらどんな人でも!」

会場を後にしようとすると「これ持ってって〜!」とお母さんがお土産片手に駆け寄ってくれた。

元気なみなさんがいる。これが上城井らしさなのだと思います。

一緒に奏でていく人を募集します。

(2014/3/3 大越はじめ)