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感謝の心を残したい

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中谷石材は、明治中期に創業した会社です。本社のある香川に加えて、岡山、広島、鳥取、福井の5県にグループ会社のネットワークを持っています。そのうち、岡山の「津山中谷」と広島の「メモリーアート中谷」の2社が、営業職の社員を募集します。

showroom 世の中の仕事は、さまざまなタイミングに関わるものがある。ひとりの人生の初めから終わりまで。さらに、そのあとにまで関わる仕事も。

お墓づくりは、本当に古くからある仕事だ。亡くなった人を弔うために「石」を建てる理由ってなんだろうか。そんなことがわかる取材になるといいと思っていた。

今回は広島と岡山の求人ですが、訪問したのは香川の高松市で創業したグループ本社の中谷石材。銘石のほまれ高い、庵治石(あじいし)の産地として有名な街にある。

約束の時間のちょっと前に着いたところ、グループ会社であるフクイ中谷石材の滝波宏治社長が、ちょうど福井へトラックで帰る支度をしていた。少し時間をいただき、普段のお仕事をうかがった。

takinami 滝波さんが、このお仕事を選んだ理由ってなんでしょうか?

「僕はものづくりが好きやったんで、当時の中谷石材・福井営業所に石工として入ったんです。」

なるほど、石のことには詳しくなれそうな職場ですよね。

「お金をいただいて、さらに感謝される仕事ってほとんどないと思ってたんですよ。でも、この仕事はまさにそういう仕事だから、働くうちにいいなぁって。」

ajiishi 中谷石材は近年、社員の自立性を支援するという社是にもとづいて、支社の独立経営を推進。従来の営業所だった拠点をすべて法人化し、それぞれ社員だった人が社長に就任している。

フクイ中谷石材は、中谷石材から独立して10期目だ。滝波さんは3年目に社長になった。

「石の値段はさまざまです。それでも、値段と関係のないところで、お客さんに心から『ありがとう』と声をかけられるときが、いちばんうれしい瞬間ですね。今は経営者になってしまったのでバランス感覚は少し違うけど、人に喜んでもらえる喜びは同じです。」

住宅資材の工事は、お客さんの要望があったらする程度。あくまでメインはお墓づくりだ。石材の仕入れは、週2回から月1回、高松から10トン車の定期便があるという。

お墓の石材を売る仕事は、どういうふうにやるんですか。

「地域によってJAさんの組織力や販路なども違うから、会社ごとに異なるとは思うんです。今、うちで力を入れているのが、OB客訪問。今までのお客さんのところを一軒一軒訪ねて、お客さんからお客さんを紹介してもらうんです。」

tsuyama いったん売ったら終わりではないんですね。

「10年間までは売った側の責任があるので、それ以内にヒビや欠けてないかをチェックしています。それ以降はかなりの年数が経っていたら、お墓を見て『まだ大丈夫で綺麗ですね』とか、『こういうのを直したらいかがでしょう』とお話しします。」

どんな人が向いていると思いますか。

「年配の方がお客さんになることが多いですね。まあ、いろんな注文をする方がいますよ。言っていることすべて真に受けると、実際の予算の何倍もする希望だったりとか。そのあたりのギャップを根気よく詰めるのが求められます。一軒ずつ、無限に時間をかけるわけにはいかないんですけども。」

要領をえたうえで、聞き上手になる必要がある。

「そうです。だからお年寄りに好かれるのがいちばんの資質かな。仕事ができなくてもいいと思うんですよ。私も笑顔でここまで来ただけで、どちらかと言えばそうですね(笑)。」

お墓の石を売るという、人類が代々やって来たお仕事ですよね。最近は集合墓地にするとか、買いたくても土地がないという話題があります。今後、この業界はどうなると思います?

「一般社会での流れでは、お葬式やお仏壇と同様、お墓も簡略化されてなくなっていくでしょう。それは仕方ないと思うけど、ある程度でとどめておきたい。『なぜお墓を建て、先祖を祀(まつ)るようになったのか』という大切な部分を伝承していくのが、うちのグループの務めやろうなと。」

福井に戻る滝波さんとバトンタッチして、ここからは中谷石材の中谷明生社長に、本社の施設を案内していただきます。

「まず、大丁場(おおちょうば)へ行ってみましょうか。私どものところは今、海抜85mのところで採掘しているんです。ふだんは重機が動いて賑やかですよ。黒色火薬で発破もしますしね。」

oochoba 大丁場とは、庵治石を採掘する山のことだ。

「昔はここから木のソリで石を下ろしていたんですよ。」

庵治石とは花崗岩、別名「御影石(みかげいし)」の一種。なんで高級石材とされているのですか?

「それだけの風格とか、色合い、目合いなど、他の墓石材に比べるとあるからですね。中目(ちゅうめ)と細目(こまめ)と呼ばれる2種類がありますが、細目が中目の3倍くらいの価格です。」

庵治石で独特なのは「斑(ふ)」という文様だ。

「夜、ぼたん雪が上から降って来るのを見ているような状態に浮くんです。ほら、水をかけるとこんなぐあいに。」

tourou 他にも県内の青木石のほか、福島県や愛媛県の石も扱っている。その中で、いちばん高価なのは庵治石。本社では全体の注文の3、4割を占める。岡山や広島の会社だと、2割弱の取り扱いになるという。

「源平の合戦で有名なこのあたりは、平安時代は京都の伏見の荘園だったんですね。石清水八幡宮を造営するとき基礎石などを持って行ったのが最初です。」

石材業というのは、本当に歴史があるんですね。

「さかんになったのは、明治期になってからです。その頃の主な用途は神社とか家の基礎石でしたが、どんどん人口も増え、戦争も経験し、お墓への需要が増えていったんです。」

先ほどOB客訪問のお話をうかがいましたが、グループ全体でどれくらいの顧客がいるんでしょうか。

「現在の会社として設立したのが昭和37年です。この時からの注文書はすべてあって、およそ5〜6万基分。さらに古い注文書もスキャナーで読み込んでとじているので、最終的に10万基に届くかというところでしょうか。」

center 配送センターにもお邪魔した。ここで墓石に字を彫って、各県に出荷する。そのほか、修繕が必要な古い墓石なども集まってくる。

「カーボンの粉をエアノズルから吹き付けて職人が彫ります。昔は鉄の砂を使っていたんですが、それだと石に立ちこんで、赤く錆びよるんですね。今は錆びません。書の先生が書いた字をスキャナーで読み込んでいます。その書体が7,000字くらいあります。」

font 彫り終わったら、ホコリがつかないよう丁寧にラップでくるむ。工場の中は本当にきれいだ。毎朝の掃除はかかさない。

中谷石材グループの経営のもう1つの柱は、こうした環境整備。きれい好きできちんと仕事をする人、見てないところでも仕事に手を抜かない人でないと、務まらないだろう。

「ちょっとだけですけどもね」という社長も、毎朝みずからお手洗いを掃除する。こうして、すみずみまで心が行きとどいた会社を目指している。

次に向かったのは、クルマで30分ほど山の方へ走った工場。広島や岡山に入社した人も、最初の何日間は研修として見学、石を磨く体験などをここでしてもらうという場所だ。

ishikiri どういう人がこの仕事に向いていますか。

「対話するのが好きな方にはあうでしょうね。あとは、真摯に仕事に打ち込める人でしょうか。実績は真面目さからついてくるんです。だから、口先だけで商売をすることは目指していません。会社がある限り、OBのお客さんとは別れられないですから。」

石を売るというのは、そういうことなんですね。じゃあ、この仕事に向いてない人というのは?

「右から左に流す商品ではないから、現場を見ながら、心からお客さまの立場になって商品を提案できない人は難しいです。工事を手伝ったりと、きれいな仕事ばかりではないですから。あとはその地域にある組織と仕事することになるわけで、県外の方が困難を感じる面も、場合によってはあるかもしれないです。」

地元へUターンする人が一番ピッタリくるかもしれませんね。宗教観をダイレクトに反映する仕事にも思えますが、実際はどうですか。

「僕らも不勉強だし、お客さんもそこまで詳しくないですよ。何宗のしきたりは、こうとか。仏壇屋さんの方が仏具が違うから、難しいかもしれませんね。戒名の字は違いますが、お墓の場合は主に神道と仏しかないですから。毎日関係してるので、自然と覚えますね。」

営業経験がなくても大丈夫。年齢もあまり関係はない仕事だが、落ち着いたタイプが向いていると思う、とのことだ。

工場からほど近いお寺に案内してもらう。そこには墓石から魂を抜いて供養する「お性根(おしょうね)抜き」の済んだ仏石が、静かに並んでいた。

kannnon 「お骨の代わりにシンボルになっているのが竿石、お参りしたときに手を合わせる石です。お客さんの既存のお墓を合祀(ごうし)するようなときは、字が彫られている竿石だけはお預かりさせていただいて、このお寺に納めています。捨てることは絶対にダメ、と代々言われていますからね。お客さまがその後どのように安置されているか、訪ねてこられることもあります。」

ここはのんびりした雰囲気で、ホッとするでしょうね。最後に、これからのお墓ってどうなるんでしょうか?

「お墓のうわべだけを見たら、新しいデザインとかになってしまうけれど、大事なのは、見えないところであって。納骨されている故人をどう思っていくのか、お客さんと対話しながら、お墓をつくっていきます。それは変わることはないでしょう。大事にしていくのは、その地下にあるところですよ。」

syachou2 人がいなくなっても残るもの、それがこの仕事で手わたす商品です。新しい仕事ではありませんが、ずっとなくならない仕事。ゆっくり、誠実に、地域で働きたい。そんな人が、大きな時の流れのなかに身をおいて働ける職場、そんなふうに感じました。

人生の先輩たちの体験談を聞きたい、地域にまつわる話を知りたいという人にも向くのではないでしょうか。悠久の時を感じるから、とにかく石が好き!という人もいいですね。

高松の本社近くには、庵治の石を愛した彫刻家のイサム・ノグチが、晩年をすごしたアトリエが「庭園美術館」として残されています(見学は要予約)。面接時や入社後に訪れる際はオススメです。

(2014/3/1 神吉弘邦)