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カフェ、バー、ショップにゲストハウス。くり返し訪れたくなる場には、顔とも言える人の存在があります。
今回の舞台は、東京芝浦のSHIBAURA HOUSEです。
2011年にはじまったこのワークショップスペースで、企画広報の募集をします。
色々な人がこの場を訪れます。
地元に暮らすおばあちゃん、ワークショップを企画する海外のデザイナー、メディアの記者さん。
人と出会い、繋げていく仕事です。
山手線の田町駅を降りる。
ここはかつて、東京湾の浅瀬に位置し、海苔の養殖や漁業が営まれてきたところ。
最近では埋め立て地の住宅化が進み、人口が増えているエリア。
駅から5分ほど歩くと、ガラス張り5階建てのSHIBAURA HOUSEが現れた。
通りに面した1階のラウンジは、お昼を迎えると、子連れのママさんたちが弁当を持ってランチをしたり、近くに勤める方が一息つきに来たり。席はいっぱいになるそう。
SHIBAURA HOUSEを運営するのは、株式会社広告製版社。代表の伊東さんに話をうかがいました。
「社名の通り、広告製版社は製版を手がける会社です。約60年前に、日本で新聞広告やグラフィックデザインがはじまりました。新聞社とデザイナーを繋げる仕事として生まれたのが製版です。」
時代はメディアの多様化に広告形態の変化と、大きく動きつつある。
既存の製版事業に加え、自分たちの手でゼロからつくりあげる仕事にも取り組みたかったと話す伊東さん。
そして2011年に誕生したのがSHIBAURA HOUSE。築40年が経ったオフィスの建て替えがきっかけだった。
設計者は、金沢21世紀美術館などで知られる妹島和世(せじまかずよ)さん。
ガラス一枚で仕切られた1階は、「リビング」。テーブルとイスが設置されており、公園のように誰でも利用ができる。
2階と3階は大きなテラスによって立体的に繋がる「ラウンジ」。2階も1階と同じく地域の方に開放しており、オフィスワーカーの方がPCを広げる姿も見える。
4階の「ワークスペース」は広告製版社のオフィス。
最上階はさまざまなワークショップが開かれる「バードルーム」だ。
ところで、製版と大きく業種も異なるスペース運営をどうしてはじめたのでしょう。
「このまちで日々過ごすなかで、ものすごい違和感があったんです。マンションがどんどん建ち住民は増えるけれど、コミュニティがなくて孤立している。17時になると、帰宅するサラリーマンがみんなうつむいて、駅まで黙々と歩く。たくさんの人がいるけれど、お互いを全然知らないんです。」
「今、人が集える場が求められているなという必要性を感じ、そこから場づくりをスタートしました。」
オープン直後は通りがかりの人も「ここは一体なんだろう?」と気にしつつ、なかなか入ってこなかった。
そこでデザインチームと連携してポスターを作成したり、住民が気軽に参加できるワークショップを企画したり。
次第に、人づてで話は広がるようになった。
地域との関係をよく表しているのが、2階テラスのコミュニティガーデンだ。
地域の方はマンション住まいが多く、自宅で野菜やハーブを育てることが難しかった。
そこで春にみんなでハーブや野菜を植え、当番制で水やりに来てもらった。夏の終わりには収穫祭を開き、みんなで食卓を囲んだ。
「ガーデンがきっかけで、お隣に長く住むおばあちゃんと引っ越したてのママさんが話すようになりました。2年半が経って、だんだん地域に浸透してきたかな。」
ここからは、企画広報を担当する岩中さんに話をうかがう。
これから入社する人にとって、先輩・同僚にあたる存在だ。
岩中さんはSHIBAURA HOUSEを生活と切り離せない場、と話す。
場への思いの裏側には、自分の手でつくりあげてきた責任感や厳しさを持ちあわせている方だと思う。
笑顔で話しつつも、きびきびとした対応が印象的だ。
体験・参加型プログラムを通して、社会とアート・デザインをつなげる仕事がしたかったと話す。
美術関係の出版社や美大就職課での企画職を経て、3年前にSHIBAURA HOUSEと出会った。
これから入社する人は広報に軸足を置きつつ、企画も一緒に考えてほしいという。
企画は、SHIBAURA HOUSE主催のプログラムと、公募によるフレンドシッププログラムの2つに分かれる。
2012年からSHIBAURA HOUSE主催で行ってきたのは、食べて習える「EATALK」。
ランチタイムを使い、イタリアンからエスニックまでプロの料理人がレッスンを行い、料理をランチとしていただく。
勤めの方は職場近くで人間関係を築きにくいもの。田町というまちにあった企画と言える。
また岩中さんが企画担当したものに、半年間に及ぶ長期的なワークショップもある。
「Critical Studio」は若手クリエイターや学生を対象としたトレーニングプログラムだ。
国内外のデザイナーやアーティストをチューターとして迎え、ワークショップを実施した。
プログラムの最後には参加者が作品を制作。東京での展示のあと、2012年度はロンドン、2013年度はアムステルダムに渡り、展示を行った。
Critical Studio 2012-13のテーマは「HUMAN PRACTICE」。
日々の視点をちょっと変えてみることで、新しい発見が生まれてくるというもの。
「ワークショップでは、パンづくりもしているデザイナーさんと一緒に、天然酵母を育て、パンをつくる回もありました。参加者の職業は、建築家、デザイナーに学芸員とさまざま。発見を自分の仕事にフィードバックしていきたい、と参加したんです。」
今年4月からは、卒業生たちの企画による半年間のプログラムがはじまったそう。
「繋がっていくのが嬉しいですね。今後のSHIBAURA HOUSEは、自立的なコミュニティがいくつも生まれていく場にしたいです。」
いま力を入れているのが、フレンドシッププログラム。
外部の団体がプログラムの企画運営を行い、SHIBAURA HOUSEは会場提供と広報協力をサポートする。
2012年度は3団体と実施した。
「ロサンゼルスにあるインデペンデントラジオ局dublab(ダブラブ)は、子ども向けの音楽ワークショップを開きました。iPadでまちの音を集めてきて、編集して1曲の音にしたんです。」
今年度はパフォーマンス系の活動から支援活動を行うNGOまで、8団体と企画を行う。
企画団体には一つだけお願いしていることがある。
それは、地域の人たちにも開かれたプログラムを心がけてほしいということ。
「たとえば社会貢献の活動をするNGOのトークイベントには、どうしても同じ顔ぶれが集まりやすいです。うちでは会社帰りのOLの方やご近所さん、普段は参加しないような層の人が参加します。地域と企画団体の出会いも生まれるんですね。」
SHIBAURA HOUSEを知ってもらうきっかけにもなる。
「お互いに関係の幅を広げ合うことができます。色々な繋がりが生まれるので、積極的に進めていきたいです。」
これらのプログラムを伝えるのが広報の仕事。
「ウェブやSNSといった自社メディアでの発信に、雑誌やウェブマガジン向けのリリースも行っていきます。」
「どういう人に向けて、どのように伝えるのか。その目的に合わせて手段を考えていきます。また、媒体に合わせて、テキストの書き方や写真の載せ方も工夫してほしいです。」
たとえば岩中さんは次のように考えている。
料理プログラムのEATALKは女性誌やライフスタイル誌、Critical Studioはデザイン誌にリリースを行う。そのほか、フライヤーを興味のもちそうな人が集まる場所に配布したり、プレイベントを開催したり、その都度内容に合わせて広報のやり方も変えていく。
Facebookでは親しみを感じてもらえるよう、自分の言葉で伝えていくという。
どんな人と一緒に働きたいだろう。
「SHIBAURA HOUSEの顔となるんですね。自分が楽しむ姿は、外の方にも伝わります。海外の方にとっても、地域の人にとっても窓口です。また、SHIBAURA HOUSEは将来的に国際的な人が行き来する、ハブのような存在をめざしています。なので、コミュニケーション力や文章力に加えて、英語は必須です。」
「まずはこの場に可能性を感じてもらえる人。そして、この場所を好きになって、より面白くつくりあげていきたい、そう思ってくれる人と働きたいです。」
つくることは、働く上で大切なことかもしれない。
ここで岩中さんは、今年度のアニュアルレポートの制作風景を案内してくれた。
昨年は冊子形式で、近所の小学生の子が描いた絵を用いたそうだ。
今年は一転、消しゴムハンコの作家さんによる“かるた”。「あ」はトークを行った南米の建築家アレハンドロさん、「い」はレンタルとして会場を利用した石川ドリンクスの紹介、といった風に1年間の活動を紹介していくそうだ。
聞けば、リビングのイスもユニフォームも、ワークショップを企画してつくってきたもの。
元々が製版の会社。経験のないことを、手探りでここまでやってきた。
「手間もかかるし、大変です。それでも、自分たちで一からつくろう!という雰囲気はスタッフに共通しています。」
SHIBAURA HOUSEを取り巻く環境も日々変化していく。
「いま求められていることを自分の頭で考えて、行動できる人じゃないと楽しめないと思います。『今までこうだったから』ではなく、その都度新しいことを考える、自分で『これでいいのかな』と問い直せる視点がとても大切になります。」
だからこそ企画広報の仕事に加えて、リビングを訪れる人と話して気づくことも大事だ。
慣れるまでは、大変さを感じるかもしれない。
岩中さんも、はじめのうちはお客さんの対応で一日が終わることもあったそうだ。
自分で自分のことを決めていくことが求められる。
「勤務形態も自由度が高いです。仕事をする場所も建物内で選べます。思ったことは、その場で伝えてほしいですね。言ってもらえたら、社内でフォローする環境もあります。」
新しい芽も生まれつつある。
「オフィスで根を詰めて仕事してリビングに降りると、いい息抜きになります。その場でフリースペースに来ている人たちに意見を聞くことで企画が生まれることもあるんですよ。」
SHIBAURA HOUSEは、コミュニティやまちづくりといった文脈も含んでいるけれど、それだけではないと思う。
話を聞くなかで感じたのは「この場所からは何が生まれてくるのだろう?」という期待感でした。
場をつくることと、自分をつくることが重なりやすい仕事だと思います。
最後に、伊東さんの言葉を紹介したいと思います。
「どれだけ綿密な事業計画を立てても、その通りに進まない。年々その度合いが高まっているように思います。だからこそ私たちは、自分が信じられることを思い切ってやりたい。メッセージを打ち出して人が集まり、つながり、形になっていく。一緒にこの場をつくる人を待っています。」
(2014/5/13 大越はじめ)