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地域を編集する

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

未来にはどういう仕事が求められているのだろう。ふとそんなことを考える。

どんなにテクノロジーが発達しても、人が人であれば、情報やコンテンツを求めるものだし、人と人をつなぐコミュニケーションはなくならないもの。

さらに、それらは一部の限られたプロだけのものではなくなって、当事者が編集し、発信し、コミュニケーションしていくようになっていくと思うのです。

今回、募集するのはまさにそんな仕事。一言で言えば「地域コンテンツクリエイター」。

awae01 徳島県にある、海も山も美しい美波町で1年を過ごしながら、写真・動画の撮影やインタビュー・ライティング技術などをプロから学び、地域を編集していく人の募集です。

そのまま正社員として働くこともできるようだし、自分の地元に戻って経験を活かすのもいいかもしれない。

これ、正直に言って、いい機会だなあ、と思います。

東京から1時間ちょっと。徳島空港に降り立つと、株式会社あわえの山下さんが迎えに来てくれた。ここから車で美波町に向かいます。1時間半ほどの行程。

街中を抜け、田んぼが広がる風景を過ぎていく。猿の群れとも遭遇しつつ、濃い緑の山道を抜けると目的地はもうすぐ。天気もよく、気分は上々。

なんといっても砂浜が美しい。年配の方にもサーファーがいらっしゃったり、ウミガメも産卵に訪れる場所なんだそうだ。

事務所に向かう前に、新しい事務所の予定地を見学させていただいた。

もともと銭湯だった場所。色とりどりのステンドグラス。意匠も凝っていて、ここで働けるなんて素敵。

awae02 そのまま少し海岸沿いに車を走らせると、株式会社あわえの仮事務所がある美波Labに到着した。ここにはほかにもデザイン事務所なども入居している。

中に入ると、代表の吉田さんが迎えてくれた。まずは吉田さんと山下さんと一緒に近所を散歩してみる。防波堤からキラキラした海を眺めた。

awae03 ポツリと言った山下さんの言葉が印象的だった。

「昨日は雨だったから、うなぎがよく釣れるだろうな。」

すっかりリラックスした気持ちになって、事務所で話を伺った。

吉田さんはもともとこちらのご出身の方。大学から神戸に行って、東京で働き、デジタルコンテンツのセキュリティシステムを開発・販売する会社、サイファーテックを立ち上げた。

2012年に美波町へサテライトオフィスを開設し、昨年には本社を美波町へ移転。現在は美波町と東京のオフィスを自由に選べるフリーオフィス制度を導入している。

なぜ地元に戻ってきたんですか?

「趣味で稲作をはじめたんです。田んぼを開墾するところからはじめて。すると、これこそ仕事の原点であるように思ったんです。それで自然豊かな地元に帰ってこようと考えた。」

awae04 やっぱり都会とでは働き方や生き方は変わってきますか?

「そうですね。田舎の人って、何歳になっても遊び心があって。それに『つとめ』というものも持っていて。こっちの言葉で言うと『出役(でやく)』というんですけど。みんなで汗を流して草刈りをやるとか、まちの運動会を盛り上げるとか。つとめをちゃんと背負っている大人がいる。そういったことを仕事と同じように大切にしたいと考えていて。」

「それに農業をしていると、努力しても報われるかどうかって、何の約束もないんだな、ということを実感します。今の都会の生き方って、すごく欲張りというか。努力したら一気に報われたい。出来れば人より報われたい。すごく欲張りな時代になっちゃってる。」

たしかに見返りなしに行動する人がいなくなればなるほど、社会は停滞してしまう。少ない努力でいかに成果をあげるか。そういうことばかりみんなが考えていけば、いきつくところは「働いたら負け」になってしまう。

でもそれで本当に幸せなのか。ちゃんと気づいている人たちはいる。

「『朝、波乗りしてから働きませんか』というように求人募集したら、おかげさまですごい応募があるんです。地域の人も喜んでくれるわけです。それならこれをもっと広げていこうと思いました。それがぼくの『つとめ』なんです。」

あわえをはじめて、何か変化はありましたか。

「まだ1年なので答えを出すには早いのですが、想像以上に期待してくれている人たちがいることを実感します。あと、実はこれ、はじめは地方活性化っていう軸でやっていたけど、都会の悩みも解決しうるんだなと思ったんです。」

たとえば、インターンシップの学生を集めると、優秀な人たちが集まってくる。しかも、長期間滞在したり、休みの間にまた来てくれたり。ウミガメじゃないけど、1回ここに来た人はまた戻ってきてくれる。

それくらい都会で生きてきた人にとって、美波町で過ごす時間は大きな影響を与えるものなんだと思う。

awae05 今回募集するコンテンツクリエイター候補も、まさに自ら美波町で暮らし、いろいろな人と関わっていくことになる。そして、それを伝えていくのが大きな役割。

「漁師さんとか目の前と向き合って生きている人たちなので。笑いも深いし、可笑しみを知っている。強いし、したたかでもある。コントロールできないものと日々向き合う中で、しっかり生きて、稼いで、かつ地域の役目まで果たしている。都会の人間よりよっぽどかっこいい。」

「今回、募集する人たちが向き合っていくのは、小さな畑をやっているおばあちゃんかもしれない。すごくやんちゃな漁師かもしれない。もしかするとお祭りかもしれないし。それらにはきっといいところがあるはず。そういうことを見つけて、世の中に発信させていくことが大切だと思っています。」

awae06 山下さんにも話を聞いてみる。

聞けば、山下さんは神奈川県秦野市で生まれ育った方。吉田さんと違って、もともと美波町に縁があったわけではない。

「デザインの仕事をしていたんですけど、言われたものをかっこよくつくるということではなく、言葉にできないものを形にするのがデザインだと思っていたんです。だから世の中の仕組みみたいなものにも興味が生まれるんですね。それで会社にNPO法人をやりたいと提案させてもらって。」

awae07 伊豆高原でカヌーとフライフィッシングを教えるNPO法人を立ち上げる。

NPOと言う団体の性質上、地域の方との交流は密になる一方、人付き合いで苦労する事も多かったと言う。ところが、ようやく活動も軌道に乗り始めた頃、東日本大震災が起きてしまう。

「中小企業の寄付で成り立っているNPOだったので。どうせ、そんなことしているんだったら、被災地にお金を送ったほうがいい、ということになると思って。車に全部道具を積んで、被災地に持って行きました。それで本社に戻って普通に仕事をしていたんです。」

ところがそのちょっと前に、徳島との縁は生まれていた。

あるとき、徳島の方が伊豆高原まで遊びに来てくれることがあった。

山下さんがNPOの仕事を終えて、東京の本社とインターネットを利用した遠隔地業務システムで仕事をしているのを見て驚いたそうだ。

「ぼくは26歳のときにアトピーで仕事ができなくなってしまったんですよ。それで自宅でも仕事ができる仕組みを構築してもらって。NPOがはじまってからも、ちょうどよかったので伊豆に持っていって仕事をしていたんです。」

すると徳島の方曰く、「徳島は日本で一番ブロードバンド環境が整っている県」とのこと。それで興味を持つことになった。

そうして徳島を訪れて、日本仕事百貨でもおなじみの神山でサテライトオフィス事業をはじめることになる。

「神山にはグリーンバレーがあったんです。伊豆高原の経験があったので、いきなり地域に認められるのは難しいと思っていました。でもグリーンバレーの力を借りられたら、汗をかかなきゃいけない期間を無担保で保証してくれるんじゃないかと思ったんです。」

そこであらためて実感したのは、どこで働こうとやっている仕事は一緒だということ。

「伊豆高原でしていたように、場所にとらわれず仕事ができるじゃん、と思いました。日本全国にそれができる技術と職種を持った人は、少なくとも数%はいると思うんです。場所に捕われない業種や、仕事の仕組みを作る事が出来たらその人たちを故郷に返す事が出来る。」

そのあとに吉田さんと出会うことになる。そして美波町の美しさを知る。

「フライフィッシングをやっている人間なら最高だと思う場所もある。サーフィンができる場所も山ほどあるのに、誰も波に乗っていない。『なんだここ!』と思って。」

awae08 二人が出会って、株式会社あわえがスタートする。

地域のポータルサイトをつくったり、地域産品のブランディングをしたり、地域に眠る古い写真をデジタルアーカイブ化する事業などを行っている。

今回募集する人はどんな仕事をするのだろう。

山下さんに聞いてみる。

「まずは美波町に来てもらって、今オフィスがある美波Labに住んでもらいます。ここには宿泊設備があるので。そのあとに古民家に移ってもらう。できれば、家をトンカンしてるところも記事にしてもらいたいですね。」

たしかに自分の経験したことを、自分の言葉で表現した文章は心地いい。

awae09 「ところでなぜ地域から若者がいなくなるかわかりますか。」

「それって、流れている情報の数だと思うんです。たとえば湘南。あそこは成功していると思いますが、みんな湘南に行けば、甘酸っぱい出来事がある、って思っている。必ずしもそんなことはないけれど。」

情報を発信する。さらに発信するだけではなく、センスよく編集する。それが仕事になる。

とはいえ、経験がなければ、いきなりそんなことは難しいと思うかもしれない。でも大丈夫。

今回は美波町出身の映画監督や、テレビやラジオ番組のディレクターなど、豪華な講師陣とともに、座学もまじえながら進めるそうだ。機材も空撮のラジコンヘリコプターがあったり充実しているとのこと。

お給料をいただきながら、1年間勉強するようなものだと思う。インタビューから映像制作まで、ひとりで情報発信できるスキルが手に入る。

できたコンテンツは、地元の方にはフリー素材として提供される予定。この仕組みも面白い。

吉田さんにどういう人が適任か聞いてみる。

「好奇心は大切だと思いますよ。あと瑞々しく伝えてもらいたいんですよね。技術は学べばいいけど、センスや好奇心をもっている人に来てもらいたい。それに遊びも仕事もつとめも大切にできる人かな。それって忙しいですよ。だから田舎でまったりしたい人ではないですね。」

awae10 取材を終えて、帰りは自転車で帰ることにした。美しい海の横を走り、山道も気持ちいい。すれ違う人とは挨拶をする。

こうやって体験できる一つひとつのものの中に、誰かに伝えたいことがあふれている。

美波町を編集してください。きっと素晴らしい1年になると思います。

(2014/6/17 ナカムラケンタ)