求人 NEW

ヒーローのいる田舎

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

せっかくの休日は、まぶしいくらいの緑に囲まれながら散歩をする。

涼みに川におりていくと、鮎が泳いでいる。夕日がきらきら反射する田んぼを抜けて山に向かっていくと、手作りロッジの小さなカフェが見えてきて、店主と世間話をしているうちに日が暮れていく。暗くなった帰り道には、蛍がとんでいた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA そんな「田舎暮らし」をいつかしてみたいな、と妄想を膨らませている人は多いと思う。けれど仕事のことや生活のことを考えると、なかなか現実的に考えられない。

今回は暮らしはじめてみるのに、ちょうどいい田舎をご紹介します。

訪れたのは福岡県那珂川町南畑(みなみはた)地区。ここで暮らす人を増やすために活動する、地域おこし協力隊を募集します。

地域おこし協力隊は、都市の人を地域へ派遣するしくみのこと。最長3年間、生活費や住居の補償を受けた上で活動を行います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 取材に行く前に「南畑の本」という冊子が送られてきた。南畑で暮らす人と、その生活がていねいに紹介されている。どの方にお会いできるのかをたのしみに、飛行機でながめていた。

到着すると、那珂川町役場の篠塚綾子さんと重富雄太さんが迎えに来てくれた。2人とも南畑のことはまだ勉強中とのこと。今日は1日、南畑を一緒に見て回る。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「高校生になると、駅やバス停までの送り迎えが大変で。そのタイミングで南畑を出てしまう家族が多いんです。」

そんな話を車の中で篠塚さんから聞いていると、住宅街だった風景がきゅうに田んぼに変わった。

30分ほどで南畑地区に到着。「南畑の本」では、山の豊かな自然が紹介されていたので、空港のある福岡市からはもっと離れた場所だと思っていた。

地区を通る国道を中心に家が建っている。1本路地を入ると、田んぼが広がり、山道に入っていく。天気のいい日だったので、緑の反射がとても心地いい。

休みの日には福岡市内からたくさんの人がやってくる中ノ島公園では、子どもたちが川遊びをしていて、気持ち良さそう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 公園のすぐ横にある「水と空気がいいから、ここに店を出した」と話してくれたうどん屋さんで昼食をとり、公民館に向かった。

待っていてくれたのは、添田繁昭さん、添田文男さん、内野さん。彼らは南畑にある6つの地区の区長さんや元区長さんたちだ。3人を紹介してくれたのは、ブンボ株式会社の江副(えぞえ)さん。九州を中心に地域活性化の仕事も手がけており、南畑地区にはプロデューサーとして1年ほど前から関わっている。

すぐ横を那珂川が流れるのを耳で感じながら、お話を伺った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 左から、江副さん、添田文男さん、添田繁昭さん、内野さん
「2年前に小学校の児童数が100人をきったんですね。このままだと廃校になるんじゃないかって危機感をもって。どげんかせないかんってところから、区長で集まったんです。」

まずは活性化をするのか、しないのか。そこから話し合いが始まった。やると決めてからは、町役場に声をかけ、江副さんを巻き込んだ。月1回集まって、地区のことを考えるこのチームは「南畑ぼうぶら会議」と名付けられた。ぼうぶらとは、南畑で昔よく食べていたかぼちゃの品種だそうだ。

みなさんに地域のことを聞いてみる。

「農家であったり、福岡市に勤めてる人が多いです。公共交通機関が基本的になくなっちゃったから、みんな車で移動します。」

「“かわせみ”っちゅうコミュニティバスが走ってるんですよ。1時間に1回かな。15分くらいでいける博多南駅の新幹線に時間を合わせて。そこからは博多に9分で行けます。」

「ある不動産屋にですね、なぜここに家を建てたりできんのかって聞くと、交通の便が悪かろうがって一言やったんです。」

「だから、交通の便をなんとかしなくてはいけない。よそに予約制のタクシーがあって、視察にいく予定です。でもそれを取り入れても、かわせみバスの乗客数が減った場合には、バス赤字が増えていきますからね。それも困る。」

「こんな感じで、なにか議題をふると盛り上がるんです。普通地域に入っていくと、いかに引き出すかっていうのが重要になるんですけど。ちょっと抑えなきゃいけないくらいで。」と江副さん。

とにかく元気。ガヤガヤと意見が飛び交う会議の様子が目に浮かんだ。

minamihata00 南畑の地元区長を中心に7人によって構成されるこのチーム、平均年齢は65歳くらい。なんと全員フェイスブックのアカウントを持っていて、南畑ぼうぶら会議のページも立ち上げた。じわじわと仲間も増えてきている。

「なにかできあがって知らせるとかじゃなくて、やってる途中も発信したらおもしろいなって思ったんです。南畑ぼうぶら会議のメンバーを、ヒーローにしたいなと思ってます。」

江副さんのこの作戦は功を奏し、テレビの取材も入ったりして福岡市内でも知っている人が増えてきた。そのタイミングで発行した「南畑の本」も地元での活動を知ってもらうには、効果は絶大だった。

「うちの孫が載ってるって、わざわざ探しに行ったっていう話が、あちらこちらから入ってくるわけですよ。探しまくってるって。」

ヒーローと言っても、南畑ぼうぶら会議のみなさんは決して踊らされている、という雰囲気ではない。自分自身がたのしもうとしている。

今は向かっていく方向を探るためにも、地域の人たちに理解してもらいながら、いろいろ試している時期。本の編集をしたり、イベントを企画したり、情報発信をやってみている。いずれは活動の継続のためにも、収益事業も始めたい。最近では法人化に向けた動きもある。とにかく、みんな本気だ。

「『住みたくなる南畑』ってことで。たくさんは増えなくても、みんな元気で、笑い声が聞こえるようになればいいと思ってます。まずはたのしくやりたいですね。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 順調にスタートを切っているようにみえるけれど、これから地域おこし協力隊としてここに入ってくる人には、どんな役割が求められているんだろう。

内野さんに聞いてみる。

「これから何をしていけばいいのか、なにから始めればいいのか、私たちがまだはっきりせんわけですよ。農家のじいちゃん、ばあちゃんたちを元気にもしたいし。自然をもっと大事にするようなこともしたい。ここに住む若い人たちも増やしたい。いくらでもやることありますから。それをいっしょに考えていく、仲間が欲しいんです。」

仕事は南畑ぼうぶら会議のいちメンバーとして、一緒に考えることから始まる。より動きが活発になるように、動き回ってくれるような人がいい。役割の1つとして、月に1度しか来られない江副さんとうまく連携していくことも必要だ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 江副さんは「頼れる兄貴」という印象。こういう方が仲間であるということは、とても心強いと思う。

これからどんな人に仲間入りしてほしいですか。

「メンバーと、地域と。それぞれの言葉をうまく翻訳をして、外に発信していく力のある人がいいですね。グラフィックデザインや、ディレクションができるといいかもしれません。」

「あとは興味が合えば。陽気な人ならいいと思います。このみなさんと、笑いに満ちた会議を心がけているので。まあ、楽しいおじちゃんたちですよ。」

一緒になって、たのしみながら取り組んでいこうと思える人がいい。

帰り際、添田さんたちが集まって「『里山資本主義』って本読んだか。ちょっと後でやるからさ、読んでよ。」と情報交換している姿が見られた。さすが情報通。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 秋には、美術散歩という企画を予定している。南畑に多く暮らす作家さんのアトリエを巡るイベントを、ぼうぶら会議が中心となり絶賛計画中。

「芸術家のげの字もないですからね。わからんとです。」とみなさん大笑いしていたが、きっとわいわい言いながら話が進んでいくんだろう。

参加してくださる作家さんの1人、ガラス工芸家の後藤ゆみこさんにお話を伺いに、アトリエでもあるご自宅に向かった。

「この先に家があるのだろうか」と思うくらいの山道を登ったところに、作品のステンドグラスが並ぶ家が見えた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「ステンドグラス作家として独立して数年。ガラスのことをもっと深く知りたくて、シアトルに短期留学したんです。そこの自然がとても雄大で。季節の移り変わりを感じながらものがつくれたらと思って、物件を探したんです。最初連れてきてもらったときはうっそうとした杉林だったんですけど、ここだと思って、木を切って、家を建てました。」

引っ越してきたのは18年前。作家の知り合いで南畑に住んでいる人はいたけれど、とくに人の縁のある場所ではなかった。不安はなかったんだろうか。

「今思うとね。でもその当時はそんなこと考えなかった。それだけ惹かれるものがあったんですね。」

小学校でステンドグラスを教え始めたのをきっかけに、地域との関わりも生まれはじめた。けれど作品制作に集中していたから、積極的に地域に入っていく、という感じではなかったそうだ。それでも居心地がよかった。

「すごく理解してもらっているというか、応援してもらってるのがわかるんです。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 後藤さんの後にも、少しずつ作家が南畑に増えてきた。アトリエを構えられる広い場所があること。受け入れる雰囲気。そしてなにより自然があり、その中で暮らすからこそできるものがある。

「自然が好きですね。インスピレーションが湧くんです、この場所。丁寧に暮らしていく人には、こういうところはいいんじゃないですかね。早起きして、普通の暮らしをするというか。」

美術散歩のような、地域、そして南畑の外に向けたイベントに協力することもたのしみにしているそうだ。

「ここの良さを伝えていくのも役割かもしれない。街の人はいそがしいから、なにが自然だって思うかもしれない。けれどこうやって自然の中で健やかに生活ができる。選択肢があることを言い続けていかんと、と思って。」

その後も移住してきてパン屋さんを開いたご夫婦や、Uターンでカフェを始めた方など、たくさんの方にお会いした。みなさん、口を揃えて「地元の人は当たり前すぎて気づいていない、この場所の魅力がまだたくさんある」と話してくれた。

興味をもってやってくる若い人たちも多いそうだ。けれど、空き家の情報がうまく整理されていないので、なかなか移住に結びついていない。街に近いけれど、交通も便利とはいえない。これからは高齢化もさらに進んでいく。

ほがらかな場所だけれど、これから考えなくてはいけないこともたくさんある。

南畑ぼうぶら会議の一員として、田舎で暮らす、という選択肢を提案してみませんか。頼もしい仲間たちが待ってます。

(2014/6/26 中嶋希実)