※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
すべてはひとつの舞台を完成させるために。プロデューサー、演出家、舞台監督、音響、照明、ヘアメイク、役者たちとともに、ひとつの舞台を創り出していく。
いくつもの仕事が同時進行する。時間はいくらあっても足りない。
それでも誰かを想って手を動かす毎日が続いていく。
「彼女に似合いそうだと思わない?」
「すごくいい材料をみつけたのよ。」
「こうしたらもっとかわいくならない?」
演出に沿うことはもちろんだけれど、きっと、こういう想いがブリュッケの衣裳作りの根底を支えている。
嵐のような毎日。その中で、一緒に考え、創り、時に闘い、日常の中の小さな美しさやときめきを分かち合える、そんな仲間を募集しています。
渋谷駅から坂道を上っていく。旧山手通りを過ぎて、少しだけ坂を下ると、きれいな住宅が並ぶ一角にブリュッケの事務所がある。
ちょうど神泉駅や中目黒駅、代官山駅、池尻大橋駅などの中間にあると言えるかもしれない。とても静かな場所。
ぼくは取材を楽しみにしていてワクワクしながらドアに手をかける。なぜなら伊藤さんにお会いできるから。前回は少し緊張していたけれど。
ブリュッケの仕事はみなさんもご存知のものが多いかもしれない。たとえばNHKの『八重の桜』の八重さんやTOYOTAのドラえもんのCM、大塚製薬のイオンウォーターの人魚。ほかには映画『空気人形』だったり、ドラマ『白州次郎』、舞台『マクベス』など、CMのスタイリングから、映画、舞台の衣裳制作までを手がける。
どの衣裳もストーリーの中に自然におさまっているけれど、存在感があるのが印象的だった。
早速、伊藤さんに話を伺う。
どんな仕事の進め方なのか聞いてみると、必ずしも依頼されたとおりに形をつくるのではないという。
たとえば、ドラマ『白州次郎』での葬式のシーン。はじめに白州正子の喪服は「着物」という設定だった。
「でも白洲正子だったら着物よりも洋服だっただろうって。画が見えてしまうから。今考えている舞台『抜目のない未亡人』もそう。自分の中で画が浮かんでくるんです。」
画が浮かんでくるというのはどういうことなんですか?
「誰でもそうだと思うんですよ。若いっていうことは多分そうだと思うし。いろいろな情報の中から自然にキャッチできる能力があると思うんですよね。」
伊藤さんの中には引き出しがたくさんあるんでしょうね。
「長いこと生きているって、すごくいいなって思うんですね。歴史って繰り返すから。過去のことって、ものすごく参考になるんですよね。今の時代の空気を吸っていると『こういう風に変貌させたら面白い』と見えてくるというか。でも100%自分がやりたいようにはやっていませんよね。」
ある意味では言われたこと以上のことをしているから120%だとも思うんですけど。
「うんうん。何しろ悔いがないように、ってことですよね。出来るところまで絶対にやりきりたいっていう。そもそもクリエイティブってことは、時間を売る仕事じゃないんですよね。」
たしかにそうですね。納得できるまでやりたい。
「仕事が終わったときのイメージって、野球選手がベースをグワーッて踏むじゃない。あの感じなんですよね。しかもギリギリで踏んで、そのまま次の塁に進みはじめる感じ。」
たしかにスポーツをしているような感覚に近いかもしれない。
スポーツの練習のように、いろいろな素材やアート、色などの見聞を広めることはあるかもしれない。けれど、必ずしも準備していたとおりにはならない。
試合がはじまってしまえば、あとはひたすらボールを追って、より多くベースをまわりつづけるしかない。練習はいつ生きるかわからない。でも練習の積み重ねによって、画は浮かんでくる。
毎日ベースを踏んでいるような感じなんですか。
「ずっと仕事しているわけじゃないんです。でもよくオンオフって分けられるなあ、って思うんです。全部つながっている人生でしょ。」
そうですね。どういう人に来てほしいですか?
「明るい人がいいですね。基本的にポジティブな人。まあ、どの仕事もそうだと思いますけど。生きるってことは、そうなんですけどね。あと、スタイリストには本当に服が好きでたまらないっていうことがベースにある人。好きであればあとはついてくると思うんですよ。好きじゃないと乗り越えられない。」
「あとね、例えば編集者。編集者って、一つのことだけじゃできないから。全方位に目が回らないとだめだし。活きの良い人がいいな。スタイリストもマネージャーも。」
こんな伊藤さんと働くってどういうことなんだろう?
マネージャーの稲見さんと話してみると、なんとなくその輪郭みたいなものが感じられた。彼女は日本仕事百貨の記事を見て、ブリュッケを知ることになる。今回募集するのは彼女の後任。
はじめてブリュッケを知ったときの第1印象はどうでしたか?
「伊藤佐智子っていう、本当にプロフェッショナルな人物に対して、女性としても興味がありましたし。とにかく面白そうだなって思ったことが一つ。あとはコンサルをやっていたので、マネージャーという立場だったら、私にも出来ることがあるんじゃないかなと思ったっていう、その2点ですね。」
「すごく嬉しかったのは、伊藤と会って、すごく好きになれそうだって思ったことで。」
どんな仕事をしているんですか?基本的には社内のマネジメントと、外の人たちとのコミュニケーションみたいなことですか。
「そうですね。対外的には、スケジュール管理から広報の対応まで、予算の交渉もします。相手は何十年もやってきたプロデューサーだったり。スケジュールも予算もいろいろな関係者がいるのでギリギリまで決まらないことが多いです。対内的には、社内の整理、ミーティングの設定、スケジュール周知。タクシー手配からアシスタントの教育まで。衣裳イメージを探すこともあれば、プリントデータの作成もします。誰がどこまで、というスタイルではなく、できること、得意なことをどんどんやる、という感じ。」
ブリュッケが船だとしたら、伊藤が目的地を決めて、そこに船が時間通りに到着できるよう、船員たちのリーダーとなるのがマネージャー。
どんな悪条件であっても、目的地をかえたり、推進力を落としたりすることは許されないこと。時には思わぬ寄り道もあるかもしれない。
「あまり気にしすぎない人のほうがいいですね。くよくよしないこと。私も社長によく言われました。マネージャーが社内の空気を左右する部分もあるので。」
仕事百貨の記事を読んでから働きはじめて、何かギャップはありませんでしたか?
「なかったです。一番印象的だったのは、記事の中に前任の前田さんが『伊藤のつくるものに絶対変なものはできない』っていう一言があって。」
ありましたね。
「それは本当なんだなって思いました。伊藤にはきちんと見えているんです。どんなに時間がないとか周りの環境が許さないことであっても、方向が違ってくるとやっぱりきちんと修正が入ってきますし。」
「ただ、ギャップと言うか、記事の中に描ききれない日常というものはあって、この小さな空間に、ものも情報もアイディアもあふれていて。何がどこにあるかわからないし、探すことで精一杯。でも探す過程で出会うものからインスピレーションが得られたりもして、今はものがあふれているのも結構いいんじゃないかって思います。ある程度は、ですけれど(笑)。」
稲見さんは新しいマネージャーに仕事に引き継いでからブリュッケを離れることになる。
前任者の前田さんもそうだし、この仕事はこの先どんなふうに生きていこうとも、次につながっていくものだと思う。
次にお話したのはアシスタントをしている江森さん。
ちょうど三谷幸喜さんの舞台『抜目のない未亡人』の打合せをしているところだった。伊藤さんのまわりでそれぞれがイメージに近い写真や資料を見せながら打合せしている。
打合せも一段落したようなので、江森さんに話を聞いた。
「私はブリュッケに入ってから初めてファッションに関わるという感じで。美容の勉強をしたり絵の学校にも入りました。つくるのが好きなんです。」
「正社員として働いたこともなかったので、しっかり働きたいと思って求人を探していたときに、日本仕事百貨で見つけました。」
そのときどう思いましたか?
「世の中にはこんな求人もあるんだな、って思いました。スタイリストだけれど、スタイリングだけじゃない。制作もしているし、生地の画像もいっぱい載っていて。ものづくりに対する姿勢とかもすごく魅力的だと思って応募しました。」
そうして面接に来たんですね。
「そうですね。まず建物にびっくりしました。変わった椅子があったり、つくりもすごく変わっているので。アーティスティックな印象。」
さらに江森さんを驚かせたのは、面接のあとに「言葉で説明するよりもいたほうがわかるわよ」ということで、そのまま1日いたこと。
「洋服のスチームがけという、蒸気でシワを取るのをすぐやってと言われて。やったんですけど。自分がのろすぎてびっくりされたっていうのがあって。」
「でも結構な年代物の洋服だったんです。『これはこういう時代の洋服で、そういう風にカテゴリ分けしてあるから、そういうことも覚えていってほしい』と言われて。そういうことまで教えてくれるのも魅力的だと思いました。」
そこから1年半。どうでしたか。
「生活すべてが新しく変わった感じです。もともとのんびり屋ということもありますし、自分だとかなりゆったりとしたペースでいろんな事が進んでいくんですけど。とにかく急がなくちゃいけない。」
無我夢中で働いて、あっという間に時間が過ぎていくような仕事だと思う。
それでいて、オンオフというわけではなく、働いている間も自分の時間が続いている。それはなんとなく想像だけれども、心地よい疲労感があとに残るような。
なぜ自分の時間なのかといえば、まずこの仕事がみんな好きなんだと思う。だから自分のこととして働ける。
そして、それぞれをみんなが受け入れているからなんだろうな。
こんな職場です。ここで働く毎日を想像できたら、ぜひ連絡してみてください。
(2014/7/8 ナカムラケンタ)