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あの人がいるから

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設備は使うほどに老朽化し、価値を下げていくけれど、人はどんどん価値を高めていくもの。

横浜市にある「満天の湯」は、一見どこにでもあるようなスーパー銭湯です。

けれど、館内では日々面白い出来事が生まれています。

目指すのは、働くスタッフにお客さんが集まってくる温浴施設。

ここで女将候補を募集します。

多くの人でにぎわうJR横浜駅を降りて、相鉄線に乗る。10分ほどで上星川(かみほしかわ)の駅に到着した。

駅前にはショッピングセンターや、大きなマンションも見える。ここは古くから生活の町として、発展してきました。

1 駅から歩いて1分ほど。坂道を登りすぐ見えてくるのが、スーパー銭湯「満天の湯」です。

バックヤードで話をうかがったのは、支配人の久下沼(くげぬま)さん。

「かつて染め物の町だったんですよ。近くに流れる川では布を洗う光景も見えたそうです。」

満天の湯も前身は染め物を行っていたそう。

水洗いのためにひいていた井戸。その水質が温泉だったことがはじまり。

9年前にオープンした満天の湯。久下沼さんは開店直後に入社した。

「“食う”“寝る”“浸かる”が好きなんですよ。学生時代は1日に何軒回れるか。そんなことをやっているお風呂バカでした。」

2 満天の湯の特徴は、お客さんの来店頻度の高さ。月の平均来店数をアンケートしたところ、10回という結果が出た。

「それこそ毎日見える人もいるんですよ。」

多頻度で来る方向けにスタンプカードをつくったところ、月に十数人のパーフェクト賞が出るという。

「働く僕らよりも、来てくださるお客さんがいる。考えてみたらすごいことですよね。」

お客さんも、もちろん家にはお風呂がある。給湯器のボタン一つ押せば、お湯も湧かすことができるけれど。

わざわざ車を運転して訪ねるお客さんもいるそうだ。

「多頻度で見える方は、50代以上の方が中心です。なかでも独り身になったお年寄りにとって、満天の湯は一つの寄り場だと思うんですね。」

「毎年夏が終わると、見えなくなる方がいます。秋口になると、亡くなったと聞くんです。来店に間があくお客さんがいると『どうされました?』『ちょっと病院入っててね』そういう会話も生まれます。元気を確かめる意味もあるんです (笑)。」

3 お客さんと密に関わるなかで、満天の湯は、より多くの人にとっての「毎日行きたくなる、行くと元気になる温浴施設」を目指したいと思った。

「お客さんにとって日常の一部でありつつも、同時に毎日新鮮さを感じられる場でありたいんです。」

まずは挨拶一つからはじまるという。

「いらっしゃいませ」「今日もありがとうございます」「髪切りました?」

4 おもてなしをする上で大切になるのは“人”だという。

「ハードの流行り廃りに左右されることなく、『あの人がいるから行こう』お客さんがそう思って来てくれるモデルをつくりたいんです。目に見えるものではありません。わかりにくければ、伝わりにくい。難しいとも思います。でも、もしもハードがぼろぼろだとしても、ソフトを磨き上げることでお客さんは来てくれる。僕は信じているんですよ。」

ここで久下沼さんは、新しい社員に必ず伝えるという話を聞かせてくれた。

「風呂屋は、自らお風呂に入ってなんぼだと思うんです。そうじゃないと、料理人が、味見なしで料理を提供するようなものです。」

5 お客さんと同じ目線に立ち、見えてくることがある。

たとえば一人用の壺湯には、タオル掛けを設置してみる。

また、お客さんに言われて気づくこともある。

あるとき、小柄なお客さんがこう話しかけてきた。

「そのまま浴槽に座ると深すぎる。けれど石段に腰かけると浅すぎる。ちょうど中間くらいの段があったらいいね。」

「日々自分でも利用するから、わかる感覚があります。これから働く人も、お風呂に入ったり、お客さんの生の声を聞きながら、働いてほしいんです。」

今後はよりおもてなしに力を入れていくために、女将候補を募集することとなった。

人を好きな人がいいという。

「相手に興味を持ってほしいんです。この人に何ができるのかな。求めることにどう応えられるのかな。まずは“おせっかい”なアンテナを張ってほしいんです。」

6 キョロキョロするお客さんを見かけては、トイレを探しているのではと案内をする。

冬場には、お風呂でのぼせてしまう人も現れる。ふらふらしている人を見かけたら近寄って声をかけ、涼むようにすすめていく。

そうして先回りが大切になる一方、見守る場面も求められる。

「子どもが走り回っているときは、まずは親御さんの様子を見ます。注意は、親御さんにとっても気持ちのよいものではありませんよね。その場に即した対応は、働きながら身につけてもらえたらと思います。」

ここからは、満天の湯で一緒に働く人にも話をうかがっていきます。

お客さんが毎日来たくなるような場づくりを追求するのが、おもてなし主任の吉田さんです。

7 前職はスポーツクラブのスタッフ。

体を動かすこと、そして接客が好きだという。

「みんなで風呂に入りながら、話し合いながら。日々試行錯誤しています。」

ここで吉田さんは、ロウリュウというパフォーマンスについて話してくれた。

「フィンランドの伝統的なサウナ入浴法なんです。サウナで、石にアロマ水をかけることで、蒸気を発生させます。まずは香りを楽しみます。次に、うちわでお客さんに向けてばーっと蒸気を扇ぎます。一気に体感温度が5〜10度上がることで、ドッと発汗します。この爽快感、癖になるんですよ。」

8 はじめたのは1年前のこと。当初は週に2回だけ行っていたが、この夏からは1日2回に増えた。

実はこのパフォーマンス、お客さんとスタッフの距離を縮めるきっかけでもあるという。

「お客さんはもちろん、スタッフも汗だくになるので、変な一体感が生まれるんです(笑)。お互いに話をすることで、お客さんがスタッフ一人ひとりを覚えてくれるんですね。」

「体力的にはハードですよ。でも、『またやってよー』『がんばってよー』。近い距離で声を掛けてくれるお客さんがたくさんいることで、僕らも頑張れるんです。」

吉田さんは、働きはじめる前は、お風呂の仕事にけっしてよいイメージを持っていたわけではないそうだ。

「ロウリュウはもちろん、シャンプーの交換も風呂場なので汗はかきますしね。びちょびちょに濡れたマットの洗濯や、トイレ掃除から鏡磨き。地味な作業が多いです。臭いのあることもあります。でも、そこが僕らの舞台で。一つひとつがお客さんの喜んでくれることなんですよ。」

お客さんを元気にするため、様々なイベントを企画することもある。

たとえば日替風呂。

酒風呂の日は、スタッフが日本酒を浴槽へと入れにくる。お客さんは、お酒を飲むこともできるそうだ。

漢方薬湯では、毎日3回、満天の湯で煮出した漢方を入れていく。

「なかには入り続けてひざがよくなったと言うお客さんもいるんですよ(笑)。元気になるお風呂って、些細なことからはじまります。そういう体験をどんどん提供していきたいんです。」

またホールではライブに、マジックショー、ビンゴにじゃんけん大会。さらには、サンバカーニバルをやったこともある。

「ネタづくりが大変で(笑)。でも、反応を見るとよかったなと思いますね。」

9 「もう何屋で働いているのかわからなくなります(笑)。でも、結構盛り上がりますよ。意外と年配の方も嫌いじゃなくて。おじいちゃんおばあちゃんがピンクの棒を振る隣で、はじめて訪れたお客さんも飲みながら楽しんでいたり。妙な一体感が生まれるんですね。」

今後は、スポーツをすることも考えられるという。

「ホールをつかってエクササイズしても、お風呂場で体操しても、サウナ室でヨガをやってもいいわけです。可能性は色々あると思います。」

吉田さんには、もう一つ大切な仕事がある。

それがスタッフへの教育だ。

教育の先にはどんな姿を描いているのだろう。

「スタッフ一人ひとりが、フロントや事務の運営スタッフであると同時に、ロウリュウやバルーンアートをするパフォーマーでもある。一人ひとりに、ここの顔になってほしいんです。」

ここで話をうかがったのは、スタッフの中でもファンが多いという、長谷部さん。

10 仕事の大変なことをたずねると、こんな返事が返ってきた。

「楽しいことしか浮かんで出てこなくて(笑)。ごめんなさい。お客さんは、とにかくよい人ばかりです。すごく話しかけてくれますし、わたしたちが笑わせてもらうこともあるんですよ。」

お客さんが笑わせてくれるんですか?

「そうなんですよ!それに、仕事中も嬉しい場面が多いです。パウダールームを掃除していると、お客さんも自分が使ったところをきれいにして、帰ってくださるんです。」

そんな長谷部さんは、実は現役のアイドルでもある。

OFR(オーエフアール)48は、風呂屋で働く女性がアイドルになるというもの。

より多くのお客さんにお風呂を利用してもらうため、温浴業界がはじめたプロジェクト。

同時に、温泉業界における研修制度の役割も担うという。

11 OFR48のみなさんは、日本全国の温浴施設を巡り、お客さんの前でパフォーマンスを行う。

そのなかで自分が輝き、人を惹きつけるために努力をしたり。お客さんを意識することで、細かい配慮も身につけていく。

アイドルに求められる資質と、いまのお風呂屋さんが求めるスタッフ像は重なるそうだ。

OFR48に入って一年。長谷部さんは、大きく変わったことがある。

「表情が豊かになりました。それから、前以上にお客さんに声を掛けるようになったと思います。」

12 「他店と交流することで、満天の湯の足りないところ、そしてよいところも見えてきます。他のスタッフとも共有してやっていきたいんです。」

最後に支配人の久下沼さんはこう話してくれました。

「『うちのスタッフに会いに来てください』お客さんにそう言えるようになりたい。まだまだこれから、みんなで一緒につくっていきたいです。」

あの人がいるから行こう。

満天の湯は、あらたな温浴施設のモデルをつくろうとしています。

(2014/8/31 大越はじめ)