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続くスタンダード

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

買うことは、選択すること。

日々の生活は、自分で選んだものの積み重ねでできている。だから確かなものを、信頼できる場所で選びたい。

そんな人たちに向けてものづくりをしている「mederu jewelry(メデルジュエリー)」。店舗やウェブサイトでジュエリーを紹介し、受注生産をしています。ここで店舗・制作・開発など、それぞれの役割を担う人を募集します。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 浅草駅から徒歩15分ほど。靴の卸問屋が並ぶ通りから1本入ったところに、浅草本店がある。店舗スタッフに事務所の場所を訪ねると「裏から入れますよ」と、丁寧に教えてくれた。

mederu12 最初に話を伺ったのは、代表の黒川さん。私が勝手にイメージしていた「ジュエリー会社の社長」という感じが一切ない、とてもフランクな方です。

まずは店舗や4階建ての事務所を見せてもらう。気持ちのいい空間の中で、スタッフがそれぞれの仕事をしている。みんな黒川さんに気軽に話しかけているのが印象的だった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA みんなでお昼を食べているというキッチンのある部屋で、お話を伺う。

「ものづくりから販売まで、全て内部でおこなうようにしてます。」

お客さんからじっくり話をきくことはものづくりのヒントになるから、販売は直営店舗のみ。ウェブサイトやカタログを通じてものづくりの背景を伝えていくことも、いいものをつくり続けるために大切なことだと考えている。

「でも僕らは自分たちをジュエリー屋さんだとは思ってないんですよ。つくっているものがジュエリーなんです。」

mederu13 「もともと洋服の勉強をしていました。手でものをつくるのが好きで、自分でブランドをつくろうと思って。でも先輩たちがなかなか継続できていない状況を知りました。いいものなのに売れないという状況を垣間みて。もしかしたらいいものをつくるだけじゃブランドにならないんじゃないかと思い、魅力の伝え方に興味を持つようになりました。」

その後は職人手づくりの革鞄のブランドで、ブランディングの仕事に就いた。自分ではじめようと思い、最初にやってみたのがいろいろな職人さんに話を聞きにいくこと。

「自分でやるなら、ものづくりの近くで仕事がしたいと考えました。単純な話ですが、一生懸命にものづくりに向き合う人がすきだったんですね。」

あるジュエリー職人さんとの出会いが、大きなきっかけになった。

「それまではジュエリーそのものに興味がなかったんです。でも職人の話を聞いて、とってもおもしろかったんですよね。少ない構成要素のなかにさまざまな技巧が施された精密なものであること。たくさんの職人技によってささえられているということを知りました。一方で、ジュエリー産業が縮小していることも知って。本当に職人さんと仕事をしていこうと考えたら、2年、3年だけ売れるものではなく、継続的に成長していける環境をつくらないと技術継承が難しいだろうと思いました。」

そこでファッション好きの友人たちがどんなジュエリーをつけているか調べてみると、あまりつけていないことに気づく。聞いてみると「つけたいものがないから」という答えが返ってきた。

「彼女たちは暮らし全般に心地よさを求めているんです。ファッションでも、仕立ての良い白いシャツとか上質な革靴とか、素材感を大切にしたスタンダードなものを好みます。」

スタンダード。

「世の中がだんだん豊かになってくる中で、たくさん物を消費したいっていう流れから変わってきてると思うんですよね。いいものを選びたいっていう気持ちが深くなってる。個人的にも愛用できるようなものが欲しいと思っていました。」

「ジュエリーについて調べてみると、その頃は百貨店か個人の作家さんが売ってるものかのどちらかになっていて。そういったジュエリーももちろん素敵ですが、こだわりのある、よりいいものを愛用したいよねって思っている人たちの選択肢になっていけたら嬉しいと思いました。」

毎年買い替えるものではなくて、ずっと使い続けるお気に入りのもの。着飾るものでなく、日常で身につけるもの。そんな感覚が近い気がする。

「本質を求める人にとってのスタンダードなブランドを目指すことで、継続的にものづくりができるのではないかと考えました。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 最初に動き出したのは商品づくりと店舗探し。最初の拠点は浅草に決めた。

「僕たちが職人と一緒にものづくりをしていること、スタンダードなものをつくっていることを伝える場所にしたくて。職人文化の息づくまちがいいなと考えていました。」

店舗を構えてから6年。少しずつスタッフも増えてきた。いまは全体で19名。

「ものづくりが好きな子たちが集ってきています。」

「ジュエリー好きなんです」とか「デザインが好きで」というだけの人は、断ってきたこともあるそうだ。ジュエリーを形づくっていくのは職人の工房。実際のものづくりの現場には、ジュエリーというきらびやかなイメージとは違う厳しさや泥臭さがある。

「メデルという価値を、なかったものをみんなでつくりあげていくんです。その過程でやっぱり大事なのは、仲間にどれだけ信頼されるかということだと思うんですよね。どこで働くかより、だれと働くか。技術は学んで身につけていくことができますから。」

まだ完成しているブランドというわけではない。人数も少ないからこそ、距離も近くなる。

「家族みたいっていう表現が、その通り。仲いいというよりも、言いたいことを全部言える感じです。気を使う人はいりません。駄目だと思ったら、ちゃんと全部言って、それを受け止められる関係でいたいよねって。」

次に話を伺ったのは、浅草本店の店長戸室さんと、企画室で開発をしている浜本さん。2人ともブログを見たことが働くきっかけになったそうだ。

戸室さんに詳しく聞いてみる。

「以前働いていたカフェがなくなってしまって。その後、ここで働いたらたのしそうだなと思えるお店がなかったんです。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA そんなときに思い出したのが、学生時代に少しだけ経験したアクセサリーづくり。いろいろ調べて出会ったのが、メデルジュエリーのブログだった。

「すごく感動と希望があって。ジュエリーだけではなくて、生活のこと、食べること、ものづくりのこと。何気ない日常を綴っているものだったんです。とても身近に感じられて。長い時間をすごす場所だから、ここで仕事をしたいと思いました。」

けれどまだ会社が小さい時期だったこともあり、募集していたのは経験者。戸室さんは不採用だった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「でも諦められなくて。ここ以外に働きたいと思える場所が、いくら探してもないんですよ。何度もアプローチして、ようやく入ることができました。」

粘り強いんですね。

「そうですね。みんなけっこう頑固なんです。仕事に対して情熱があるので、大切だと思うことは妥協せずに貫くところとか。けっこう似てますね。」と浜本さん。

スタッフ同士で意見がぶつかることもあるそうだ。

「けれど頑固の質が変わってきたと思ってます。自分のやりたいことだけを押し通すのではなくて、お客さまからの意見を販売スタッフから聞くとか、制作チームが発信しやすいコミュニケーションを職人ととるとか。会社全体がこう動いたらいいと思うようになりました。」

それでも自分の仕事に自信を持っているから、意見には芯がある。

「相手は自分と違う生活をしていて、同じ視点で話せるとは限らないから。受け取る側を考えて伝える、頑固さを受け入れてもらう工夫ができるようになったかもしれません。」

mederu15 店舗を任されている戸室さんは、どんなことを意識しているんだろう。

「私たちのファンをつくるのが仕事だと思っています。自分たちが最前線に立って、お客さまに伝える役割を担っている感じです。」

お客さんはウェブサイトやSNSを読み込んでくる人から、通りすがりの人まで。ふらっとやってきた人に対して、商品のエピソードや自分たちの想いを伝えて、びっくりされることはないんだろうか。

「もちろん距離感は大切にしますが、商品をただ見ていただくだけではもったいないという想いがあって。最初はデザインが気になってきてみたけど、それ以上にいいことがあった!って思ってもらいたいんです。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 想いを伝えたり商品をたのしんでもらうために、<BOOK>という小冊子もつくっている。担当しているのは、浜本さんのいる企画室のスタッフ。

「企画室は制作と開発にわかれています。制作はお客さまにしっかり伝えるコンテンツを考える役割。私は開発として、全国の職人や生産者に話を聞いたり、店舗スタッフからの意見を聞いて、ものづくりに活かしていきます。」

店舗のとなりにはアトリエがある。浜本さんたち開発はそこでイメージを膨らませながら、職人さんと一緒にものづくりを進めていく。

「思い描いているものを職人さんにちゃんと伝えて、かたちにしていくのは難しいですね。装飾品としてのジュエリーをつくってきた職人さんにとって、今までやったことのないことに挑戦する必要があったりします。思った通りに進まないことばかりですが、試行錯誤しながら、一緒にかたちにしていきます。」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 最後に、黒川さんが「これから」について話をしてくれました。

「型をつくる人、石をとめる人、金属を磨く人など、ジュエリーは専門家たちの集まりでつくられています。だから全国の職人や生産者といった立場の人たちと積極的に会ってお話を聞くことを大切にしています。」

本来職人さんは一通りの技術を持っていたけれど、バブルでつくれば売れる時代に分業化されてしまい、今の仕組みになったことがわかってきた。散り散りなった技術を持った職人さんたちも50代、60代になっていて後継者がいないという現実も知った。

「分業化されてしまい、刺激しあって新しいものをつくってきた職人的ものづくりが消えかかっている。だから僕たちは、自分たちの欲しいと思えるデザインを探求するとともに、技術をつなぐ存在になろうと決めたんです。愛用できるものをつくるためには、環境からつくらなきゃいけないというのが、自分たちの答えです。」

技術をまもることで、ものづくりの可能性を残す。分散された職人たちから技術を学び、理想としているジュエリーを模索しつづけること。自分たちのスタンダードをつくり続けるために、柔軟に、必要なことをしていく。

「常に職人たちの技術を学んで、そこから自分たちの答えを出していく。とにかく多様性を知らないと、いいものは生み出せないと思うんです。」

いいものをつくり続ける。この姿勢を貫いていくには、かなりの時間と根気が必要だと感じました。けれどものづくりと真剣に向き合える人には、ちゃんと役割がある場所だと思います。

(2014/9/20 中嶋希実)