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ログハウスってどんなイメージですか?なんだか値段も高そうだし、外国のものだから日本の風土に合うか不安だし。そんなふうに思っていたけれども、取材をしてだいぶ印象が変わりました。
高知のアイビーログ工房では、地域にある木を切り出すところから自分たちでログハウスをつくっています。想像以上にデザインにも自由度があり、住んでみても居心地がいい。
そんなログハウスを一緒につくる人を募集します。
すべて自分の手でつくりたい、そんな人に合っている仕事だと思いますよ。
高知空港を降りる。東京よりも暖かい。もうすっかり秋なのに、少し汗ばんでくる。
タクシー乗り場で住所と「ログハウスをつくっている会社です」と伝えると、「あ、あそこか」というようにすぐにわかった。
車窓からは田畑が広がり、その向こうに山々が連なっているのがよく見える。緑が豊かな場所だ。
空港から10分もかからないで、アイビーログ工房に到着した。
タクシーを降りて建物の裏手にまわると、ログハウスでできた小さな事務所が見える。その横にはバスを改装した道具置き場。たくさんの丸太も並んでいる。
事務所の中に入ると、代表である岡原拓彦さんが迎えてくれた。
「昔はログハウスの作り手を募集したら、たくさん来よったんですよ。でも最近はログハウスも珍しいものじゃなくなって、インパクトがなくなったのかな。」
そうですね。若い人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。もともと日本のものじゃないですよね?
「日本のものですよ。正倉院も。」
あ、そうか。校倉造り。
「基本はあったんですよ。ただ、日本では特別のものだった。最高のものを安全に保管できるのが校倉造り。大事なものをしまっている場所やから。」
ほとんど木材でできているから、温度や湿度の調整がしやすいんですね。
「そうです。冬暖かくて、夏涼しいですよ。私たちはハウスメーカーにできない家づくりをしていく。だから流通している建材は使わないで、すべて土地のもので家を建てようとやっていますけど、そうすると高いイメージがある。」
ありますね。
「ハウスメーカーで木の家をつくったら高いですよ。でもぼくらはそんなことはない。5坪くらいの小屋だったら300万円でつくれる。高知限定ですけどね。」
ほかに何かこだわっていることってありますか?
「今は秋から冬までの新月の前に伐採した木をつかっている。」
新月の前。
「新月の前だと虫がつきにくいようなんです。あとは秋から冬の間は木も乾燥している。だから割れにくいし、虫もつきにくいんです。あとは土の日っていうのもあって、土の日に切ると、虫がつきやすいからすぐに土に還る。でも大量生産の時代に家を建てても、どんな木がつかわれているなんてわからないですよね。」
たしかにいい木に当たるかもしれないし、そうじゃないかもしれません。
「こういう昔からのやり方もわかった上で、アイデアを活かす面白い仕事だよ。言われたとおりにすることも大切だけれども、提案をしないと日陰の存在になってしまうから。」
岡原さんはなぜこの仕事をはじめたのだろう。もともとは愛媛出身で、開拓者の家に生まれたそうだ。
「もう百姓がきらいやったんです。学校から帰ってくると、牛の世話、草刈り、みかんの消毒… みんな遊んでいるのに『こんなことやってられない!』と思っていました。金にもならないし、遊びたかった。」
それで海外に憧れて、商船の船乗りになった。
「はじめは3日で辞めようと思いましたよ。オイルタンカーに乗ってヨーロッパとペルシャ湾を行き来して。それで10ヶ月くらいしてから日本に帰ってきた。そのときに『ああ、日本っていい国だな』って思った。涙が出た。」
「なんせ緑が多い。日本って特別な国なんだな、って思いました。いやで飛び出したのにね。」
それからすぐに辞めたんですか?
「いや、13年乗っていた。国内の内航船含めたら15年。」
15年も海の上だった。なにかログハウスをはじめるきっかけはあったのですか。
「雑誌で読んで知りました。これの創刊号がちょうど出たんですよ。」
すると色あせたログハウス専門誌を見せてくれた。
「そしたらカナダにログハウスビレッジをつくろう、というのが載っていて、応募したんですよ。ログハウスづくりの体験旅行みたいなものです。」
「参加者は20〜30人くらいかな。その中の40歳くらいの人が『帰国したら、おれはログハウスの会社つくる』って言うんですよ。ぼくはそのとき30歳。もし失敗しても40歳まであと10年もあるし、そのときはまた船乗りに戻ればいいと思ったら気楽になった。」
帰国した岡原さんは、まずは高知の会社でログハウスづくりをすることになった。そのときに見たのは、かっこよさを追求するばかりにすぐ痛んでしまった家の数々。
「ぼくらは泣く施主さんをつくりたくないと思った。だからメンテナンスのいらないログハウスをつくろうと独立したんです。もうそれから21年経った。」
クオリティをあげるために目指したのは、「設計士の目」をもつこと。正確さを追い求めた。
さらに新月の前など、旬をよく考えて山で伐り、葉をつけたまま山で3ヶ月乾燥させる。そしたら工房に木をもってきて皮をむく。そのあと組んでいく形に合わせて丸太に穴をあける。この加工が2ヶ月ほど。その間に木材はさらに乾燥していく。
最後に現場に持っていってクレーンを使って組み上げていき、一週間ほどで上棟する。内装工事をおこえば完成。木を切ってから早くて9ヶ月で竣工するそうだ。
またアイビーログ工房では、いわゆるログハウスのイメージである「丸太組工法」よりも「ポスト&ビーム工法」が多いそうだ。これはポスト=柱とビーム=梁によるもので、日本の在来軸組工法にも近く、間取りも自由度が高い。
さらにログハウスは雨に弱いこともあって、雨が当たる部分を焼杉で囲ったり、軒を長くするなど工夫もしている。
壁にはうっすら緑色がかった土佐漆喰を利用することで調湿効果もあり、美しく機能的にもなる。そのほかにもいろんな工夫があるそうだ。
岡原さんに話を聞いたあと、息子さんである玄八(げんや)さんにも話を聞く。真面目な好青年という印象。父親がつくった家を心底好きなことも伝わってくる。
もともと千葉大学で建築を学び、千葉の工務店で働いたあとに高知へ帰ってきた。
なぜこの会社で働くことにしたのだろう。
「大学に通っているときにアパートに住むじゃないですか。そうすると、すごく差を感じるわけです。」
「ログハウスには上京するまで10年ほど住んでいたんですけど、夏は扇風機だけでログハウスは涼しかったんです。田舎っていうのもあるでしょうけど。冬は暖炉があるのであたたかい。あとは土佐漆喰を塗っているので、調湿作用があるんでしょうね。快適さを実感していたんです。」
住むのは快適でしょうけど、仕事はどうですか?
「一番大変なのは段取りですかね。明日はこういう仕事があるから、材料を用意しないといけないとか。手伝いに来ている職人さんに、うまく仕事を流さないと仕事が止まってしまう。だから先を見てやっていく。『段取り八分の仕事二分』って言うじゃないですか。日頃から道具のメンテナンスも大切ですよ。」
うれしいことはなんですか?
「やっぱり完成したとき。やっているときって充実感はあるけど苦しいものです。でも引き渡しの前に、戸が入って電気も点いて掃除もすると、一気に家になる。それまではコツコツやるんですよ。そんなに大きな変化は感じられないくらい、小さく積み重ねていく。引き渡したときは喜んでもらえるし、達成感がある。何て言うかな、やみつきになるんですよ。」
そのあと玄八さんに丸太をチェーンソーでカットする様子を見せてもらった。慎重に水平に切っていく。出来上がったのは丸太のイスだった。座るととても安定感があった。
あらためて岡原さんに、どんな人がいいのか聞いてみた。
経験はあったほうがいいですか?
「経験はなくてもいいよ。あんまりできる人が来るとは思っていないし。真っ白なほうがいいかもしれない。ぼくも船乗っちょってこの世界入ったでしょ。はじめから楽しかったですよ。はじめの一年間は日給4千円ですよ。子ども二人もおって。でもそのころが一番楽しかった。」
なんでしょう、その楽しさって。
「やっぱりものをつくるのは楽しいですよ。湾岸戦争のときにオイルタンカーに乗ると、給料が普段の3倍になる。日本のためにもやっているんだけど、やった感じはしないのね。達成感がないというか。でもログハウスには達成感がものすごくある。」
たしかに最初から最後まで関わるものだから、「自分たちでつくっている」という実感がわきそうだ。
それにくらべて、岡原さんから見れば「住宅メーカーがつくる家は30年後にはゴミになるようなもの」なんだそうだ。
「私たちは50年の材で100年もつものを目指している。それにログハウスは曲がった木でも使えるし、丸太のままだからゴミも少ない。製材する手間もいらないから、運搬も少なくて済む。もし建ててから壊すとしても、自然素材だけなら安全に処分できる。」
「あとうちはすべて県産材をつかっている。もともと船乗りだったからわかるんだけど、輸入するときに何をするか知っている。だから砂漠の国に木材を輸出するのはいいかもしれないけど、日本には森があるのにおかしいじゃないですか。」
話を聞いたあとに、近くで営んでいるカフェに連れていってもらった。水辺にあって、風がきもちいい。何よりログハウスの中は、守られているような心地よさがあった。
さらに近所を車で走らせると、アイビーログ工房によって建てられたログハウスがたくさんあった。年月を経たものから、最近竣工したばかりのものまで。どれも大切に暮らしていることが伝わってくる。
ログハウスはデザインによって可能性がもっと広がる気もする。たとえば正倉院などの校倉造りは、とても現代的なデザインのように感じる。ログハウスというととてもワイルドな印象もあるけど、やり方次第なのかもしれない。
そうそう、高知は暮らすにも良さそうです。3万円出せば普通のワンルームに住めるそうだし、古い家を改修して住むことだってできそうだ。海の幸、山の幸にも恵まれている。
最初から最後まで、すべて自分の手でつくる家づくりです。気になる人はぜひ応募してください。
(2014/11/11 ナカムラケンタ)