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「お客さんや身内のスタッフと、お互いに何かを交換し合っているかな。商品や情報、それに気持ちも。日々交換し合って、互いに成長しているんだと思います。」商品を渡して、お金をいただく。どのお店でも当たり前に行われていることが、ここでは変わって見える。

お店のスタッフの方々が、自分たちが扱っているものを「商品」と呼ばないのが印象的でした。
一つひとつに背景や個性がある。ある人は商品を「この子」と言う。
そんなふうに、心をこめて働ける人を募集します。
東京から電車を乗り継ぎ約2時間半、東武伊勢崎線・足利市駅に到着した。
渡良瀬川を渡って、中心市街地へ10分ほど歩く。
日本最古の学校「足利学校」や国宝「鑁阿寺(ばんなじ)」など、このまちには歴史あるものが形として残っている。
その鑁阿寺へと続く石畳通りの一角に、「うさぎや」と「蘭と月」が佇んでいる。

「うさぎや」は、大竹さんのお父さんが経営するお店。ほかにも、古美術店「足利美術」や懐石料理店「足利伊萬里」など、さまざまな店舗を経営している。
「やっていることがバラバラに見えるようですけど、わたしたちにとってはそんなことないんです。足利に必要だと思うものとか、古き時代をつくってきた人たちが大切にしてきたものを伝えるために、いろんな形でやっていて。」
足利は1200年以上もまえから織物の産地として栄えてきた。
なかでも「銘仙」と呼ばれる絹織物で栄えた町として有名で、「うさぎや」ではその当時の銘仙を中心に古い着物や布を販売している。

「小さい頃から古美術を見ていたけど、その仕事に就きたいとは思っていませんでした。東京から帰ったときに人手が足りないと言われて。着物の知識はないので、お店番程度のつもりで1年間だけやることになって。」
小さいころから布と紙ものが大好きだったそう。高校では家政科へ、短大では服飾デザインを学ぶ。
はじめてみると、だんだんと面白さが見えてきた。
大竹さんたちが主に扱っているのは、大正・昭和初期の古着物。着物は『高価なもの』とか『特別な日に着るもの』という認識が広まっているけれど、昔は毎日普段着として身につけられていた。
「その時代の生活様式や女の子の想いが反映されていて、それが面白くて。どんな想いでこれがつくられて、時代を経ていままで渡ってきたのかなって思うと、その時代の人と会話しているかのような感覚になるんです。」

「毎年世の中に流行があって、そのなかで自分はこれが好きっていうのがありますよね。どの時代にも自分の好みがあるとすれば、その時代ごとの自分を探すような楽しみがあります。」
「わたしたちが仕入れているのは、その時代ごとで『これいいな』って思う自分の正直な気持ちを映したもの。だから、お客さまに商品を売っている感じがないんです。モノたちにも意志があって、それに合うお客さまと出会えたら嬉しいというか。」

「あっちの店では3000円だけど、こっちの店では3万円で売られている。そんなことがある商売なんです。値付けが難しくてずっと苦労してきたけど、ようやく分かってきました。」
だんだんと、扱うものに合うお客さんが増えてきた。銘仙を求めてやってくる人は、北海道から九州までいるそうだ。
大竹さんはどんなお店を目指しているのだろう。
「何十年も続くようなお店でありたいと思うんです。足利を訪れたら、ここへ寄って何かを得て、お家に帰ってもらえるような。足利にあってよかったと思ってもらえるお店になりたいですね。」
次に話を伺ったのは、「うさぎや」スタッフの金子さん。
素敵な着物を着ているけれど、自分が身につけることはあんまり得意ではないらしい。
金子さんの実家は、足利の隣まちにある織物屋。もともとは布に興味があったそうだ。

いくつかの銘仙を広げながら、説明をしてくれた。
戦後間もなく織られたもの、エッフェル塔が描かれたもの。意外とポップなデザインで、若い人でも楽しめそうなものもある。
「着物のコーディネートを考えるのは好きなんですよ。お客さまが可愛く仕上がったときはすごく楽しい。」
この取材の前には、ここで着物を買ったお客さまがやってきて、手持ちの着物に合う帯や小物を選んでほしいと依頼されたそうだ。
「お客さんの気持ちや、どんなふうに着たいかを探りながらコーディネートします。男の子と会うのか女の子と会うのか、シチュエーションによっても変わってくるんです。」

金子さんや大竹さんにとって、ここにある着物は何かに生まれ変わる材料。
部屋の壁に飾ったり、衣装のアクセサリーにしたり。とくに銘仙はCDジャケットとして使われることもあったそうだ。
どの商品も一点もの。着物のサイズだってS・M・Lの規格じゃなくて、過去に着ていた人の体に合わせられている。
それぞれのものに背景やストーリーがあり、お客さまは自分に合う物語を選び取る。
「ご主人探しをしていて、やっとたどり着いたねって瞬間があるんです。変な話ですけど、わたしたちはものに対して『この子たち』って言い方をしていて。わたしたちと同じように大事にしてくれる人に渡れば、ずっと大事にしてくれるだろうなって。」
「ウソがあったりすると、よい出会いにならない。だから、お客さまのそのままの気持ちを伝えていただいて、わたしたちも正直に。似合わないなって思ったら、お客さんが気に入っていても勧められないんです。もちろん伝え方は柔らかくしますけど。」
すると、大竹さん。
「何においても常に、お互いに気持ちよいことをしていきたいと思っています。それは業務でも、日々の言葉のかけ方でも。」
「自分はこれ以上できないってことも、正直に言える店でありたい。いやと言うのには理由があると思いますから。自分に正直な気持ちを大切にすることを、新しい人にも受け継いでくれたらと思っています。」

「本当にさまざまです。お茶の席で着たい方、普段着のファッションとして着たい方、生地そのものが好きな人、小物に変えたい人、右も左も分からない人。」
「お客さまそれぞれの使い方があるので、その一つひとつに対応するのが大変ですね。」
金子さんは、お客さまの名前や顔、そして対応の仕方まで覚えているそう。
一個人としてお客さまと接するからこそ、個性ある商品を合わせる事ができる。
「お仕事もさまざまです。2階の喫茶でお抹茶を出したり、街着レンタルの着付けをしたり、ブログで発信したり。まだやりたいことはたくさんあるので、サポートしてくれる人に来てもらいたいです。」
どんな人がいいですか?
「着物は重なると意外と重いんです。体力あるというより、健康な人かな。この仕事に合う人っていうと、人に興味を持てる人。わたしたちが扱っているものは、もともとは人がつくっているものですからね。」
お香のお店「蘭と月」の様子も伺います。
まだ今年の4月にオープンしたばかり。
並べているのは栃木県内のメーカーから仕入れた商品や、「蘭と月」のオリジナル商品。また「足利美術」の委託品として、古い香道具などの骨董品も一部扱っている。

「入店されると、みなさん笑顔になるんですよ。『わあ、いい香り』って。気持ちがほぐれるから、お客さまとお話がしやすくて。お互い笑顔でいられるんです。」
「蘭と月」スタッフの篠田さんは足利出身。栃木を離れ、東京や沖縄で過ごしたあと、今年の2月に帰ってきた。

日本のお香はどうですか?
「奥が深いですね。日本のお香文化が古くからあったこと自体知らなくて。香道といって、昔の人は何の香りかを言い当てる遊びをしていたそうなんです。自分の着物に焚き染めて、外へ出かけたりもしていて。」
「接客に直接は必要ないかもしれないけど、そんな知識や意味合いの深さを知っていると愛着がわいて楽しいなって。」

おすすめのものを聞かれることも多いけど、篠田さんはなるべくお客さまに選んでもらうようにしている。
「好きな香りは個人によって違いますからね。お部屋をいい香りにしたいのか、自分が安らぎたいのか、目的によっても変わる。お話を聞いた上で、これですかねって提案することはあります。基本的には一つひとつ嗅いで、自分で選ぶ楽しみをしってもらいたいです。」
お香は生活必需品ではないけれど、毎日に潤いをもたらせてくれる。お客さまも篠田さんも、お香について楽しく会話する。
「お客さまとお互いに幸せになれるようなところで働きたいと思っていました。お香があることで、世の中がすこしでも幸せになれる。そう思いながら、わたしも幸せを感じて働いています。」

知識については、まったく分からなくても大丈夫とのこと。ものや人、場所に慣れてもらうために、まず1年間はじっくりと時間をかけて働いてもらうそうです。
最後に、大竹さん。
「人生を模索している人でもいいんです。自分のなかに秘めた魅力が、うちの子たちとリンクするかもしれない。その可能性はあると思うので。お手伝いをしてもらいながら、何か見つけていってほしいです。」
店先の石畳、お店のなか。心地よくて、ついつい長居してしまいそうになる。そんな場所です。
ぜひ1度、お店を訪ねてみてください。大竹さんたちが参加する地域イベントなどに足を運んでみるのもいいかもしれません。
(2014/11/28 森田曜光)