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小中学生の頃に行った野外学習を覚えていますか。ワクワクして眠れなかった前日の夜。ジャージ姿で乗り込んだバス。好きな人とおなじチームになれてドキドキした飯ごう炊飯。感動したキャンプファイヤー。こっそり覗きにいった他のテント。とにかく辛かった山登り。
思い出すと、たくさんのできごとが詰まった数日間でした。

古い町並みが残る郡上八幡へは、名古屋から高速バスに乗って1時間ほどで行くことができる。けれど時間があれば、長良川鉄道で行くことをおすすめします。
電車にゆられ、いつの間にかうとうと。目を覚ますと飛び込んできたのは、少しずつ色づきはじめた緑と、陽の光を反射しながら流れる真っ青な長良川。川がこんな青いなんて知らなかった。思わず深呼吸をしてしまう、とても気持ちのいい景色が広がっていた。

はじめにお話を伺ったのは蚊爪(かがつめ)さん。3年前にここにやってきた。

民間のキャンプ場だけれど、個人客が利用できるのは夏休みなど一部の期間のみ。基本的には野外学習でやってくる小中学校を年間100校以上受け入れており、延べ28,000人ほどの生徒がやってくる。
1日目は炊事やキャンプファイヤー。2日目、3日目はさまざまなプログラムを体験することが多いそうだ。「超不便生活体験」や「スプラッシュ・ウォーキング」など、たのしそうなタイトルが並んでいた。
「人気なのはリバーラフティングです。保護者の方も心配するといけないので、どの体験をしたいかは事前に選んでいただいています。」
めいっぱい自然を体験できるものが並んでいるけれど、安全は第一に考えている。目の前の長良川で実施するプログラムも、学校や保護者との相談で「安全のためにプールでやってください」となることも。
規則正しい学校もあれば、やんちゃな子が多いところもある。それぞれの学校に合わせて、よい時間をすごしてもらえるように対応していくことが求められる。
「今日の学校様は、森と人との関係についてちゃんと勉強したいという趣旨できているので、そのあたりを重点的に説明しながらやっています。」
そんな話をしていると代表の三浦さんがいらしたので、園内を一緒に歩きながらお話を伺うことにした。お話をしていくうちにとても情熱のある方だということがわかった。

園内のところどころに大きなメタセコイアの木が生きていて、まるで自然園を守っているよう。根元に落ちているのは、みたことのある懐かしい実だった。

環境について学び、環境コンサルタントという職種についた。けれどそこでの仕事では、大企業の利益を優先しているように思えることばかり。組織のやり方や社会のシステムに疑問を感じるようになったそうだ。
元々継ぐつもりでいたこと、そして当時自然園を守っていた、現会長であるお父さんが体調を崩していたことから、違和感を抱えつつ郡上に戻ってきた。
「当時は学校側が実施するプログラムを考えていて、自然体験活動というより、集団訓練のような団体登山でした。非常に厳しい体験をさせられて、自然ぎらい、郡上ぎらいの子どもが増えていくに違いないと思ったんです。」
そこで自分自身が小さいころに体験したように、自然が好きになる場所にしようと考えた。それが今ある多くのプログラムを生み出すきっかけになった。
「多感な小中学生の時期に自然体験活動をすることで、自然をみる目とか、価値観から世界観まで、その片鱗を感じとってくれると思うんです。それが将来の社会づくりに変化を与えていけるのではないか。そういう願いを抱いたんです。」
今は新たにマウンテンバイクで山を駆け巡るプログラムを検討中。施設部のスタッフ自らがショベルカーに乗り、自分たちで道をつくっている姿をみかけた。
園内には食堂があるというので、みせてもらった。キャンプ場に食堂ですか?
「もちろん外で自炊もします。けれど1回だけであとは食堂で、という学校様も少なくないんです。1度も自炊をしない場合もあります。」
毎回自炊させるのは先生もスタッフも大変。電子調理器を使う家では、家の中で火をみることがないので「火を触ると熱い」という感覚もしらない子もいるそうだ。
今食堂ではホットプレートで食材を焼いて食べたりと、ある程度自分たちでつくる行程のあるメニューを提供している。

これが今回募集する人の役割。食事の時間にできる体験を、新たに考えていってほしい。具体的なメニューを考えて実際につくるので、調理の経験があるほうがいいと思う。
例えばここでパーティーを開いてもいいかもしれない。なにか食に関して学ぶことができる時間にしてもいい。とにかく根本的なところから考えていきたい。そのために調理器具から食堂部のスタッフまで、すべてを一新してプロジェクトをはじめることになる。
「どの時間をとっても、どの空間をとっても、思い出に残るものにしたいですね。子ども達の感性というか、開かれていくチャンネルがいっぱいあるので。」
もちろん1人ですべてを考えるわけではない。コンセプトは三浦さんが。そして体験プログラムを担当している部門「ワンダースクール」の校長も勤める今園さんもこのプロジェクトに一緒に取り組むことになる。

「満員電車の中で『これでいいのか』と思っていたんです。休みになると自然を求めて出かけていました。」
移住することに不安はありませんでしたか。
「僕は結婚しているし、東京の生活が悪いというわけでもなかった。けれどここでは子どもたちがみせる顔、それに動物や虫など、都会にはない出会いがありました。自然に生かされてることが感じられた。魂の寂しさがないというか。今後を考えたときに、人間らしい生活をして最期を送りたいな、と思ったんですよね。都会にいるよりお金も使わないし、最高の生活ですよ。」

ファスティングとは、酵素ジュースなどで栄養を補いながら、短期間断食をする健康法のこと。
「ここにはなにもないんです。その環境を活かして2泊3日の断食体験を提供できないかと考えています。バンガローで1人で寝泊まりする。自分とゆっくり向き合う時間になると思うんです。」
今園さんは実験台となり、先日断食体験をしたそうだ。
「おなかがすごく空いて。星をみてぼーっとしながら火を焚くんですよ。なにもできないのでそれだけで十分なんです。悩み事は1つに絞られていく。空腹です。笑」
ターゲットは都会で働く女性。テレビもパソコンもない中で、ゆっくり時間をすごす。
「男性社会に価値観を合わせようとして自分のリズムを崩し、疲れている人が多いように感じます。この時間を通して、本来の自分を取り戻して欲しい。いい意味で女性のパワーを発揮していただきたいんです。」
三浦さんは、女性が自分らしくいることを強く応援している。それはご自身が、女性として生きることを選び、健やかに生きられるようになった経験があるからこそ。
「女性らしくあることの価値について、よく考えました。自分らしさに強みがあることに気づいていただきたいんです。女性が元気な社会は明るい。子育てと未来育ては一緒ですから、環境や社会を変えることにもつながっていくと思っています。」
このプロジェクトには「食」も大きく関わってくる。オーガニック食材やマクロビオティックの要素を取り入れた食事なども、企画の一部になるかもしれない。そんなことも一緒に考えていきたい。郡上市内にはマクロビオティックの食事を提供するカフェなどもあるから、今は知識がなくても、協力できる相手は見つかりそうだ。

「自然の中で子どもたちと過ごすって、ゆるそうに聞こえるのかもしれません。厳しいことをいってお断りしていることもあります。仕事に対しては誠心誠意、正面から向き合う覚悟がある方がここで幸せになってもらえればいいので。」と三浦さん。学校が相手になるので、気を使うところも多いそう。
野外学習は4月から秋までの間に集中する。いそがしい時期とそうでない時期の波ははげしく、300人分の食事を用意するような日もある。相当な体力が必要だ。
「チームですから。みんなで頑張ろうって。そう考えられる人は耐えられると思います。」

「薪を割るときは、こうやって足を使って割ってくださいね」と蚊爪さんが中心になり、各班の支度が進む。注意点を丁寧に説明しながら、細やかなケアをしていく。
たのしそうに食材をきったり、おいしく炊けたご飯を自慢げにみせてくれる生徒たちを見ていると、なんだか私までワクワクしてきた。まさに今体験していることが、この生徒たちの一部になっていく。

ただ食事を提供するだけではありません。大切な体験、そして未来をつくる仕事です。なにか感じることがあれば、まずは自然園に足を運んでみてください。
(2014/11/20 中嶋希実)