※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
日本の地方を訪ねると農業、ものづくり、サービス… たくさんの小さな事業(スモールビジネス)があることを実感します。たとえば、農家が果物を加工したジャム。ていねいにつくられ、味もよいけれど、容量が大きすぎたり、パッケージがいま一つだったり。「おしいな」と思うことも少なくありません。
一方デザイナーの中には、デザインをより色々なことに役立てたいという声も耳にします。
地域とデザインを結ぶことで、小さなビジネスを生み出すことができないか。
そんな場が、東京・日本橋箱崎町にオープンします。
その名も「スモールデザインセンター(small design center)」。
今回は、この場を利用する人を募集します。
デザインによる課題解決を考えている事業者の方。
それに応えることで、仕事をつくりたいクリエイターの方。映像、ウェブ、デザイン、マーケティングと幅広く募集します。
「なんだか面白そうだな。」
そう思ったら、まずは読んでみてください。
日本橋箱崎町は東京駅から1㎞のところにあります。
最寄り駅は、半蔵門線の水天宮前駅。
駅から直結するのは、東京シティエアターミナル(T-CAT)。ここからは、羽田空港へ25分、成田空港へ55分で行くことのできるバスが毎日運行しています。まちなかには、外国人の方の姿も目立つ。
駅から2、3分ほど歩くと、スモールデザインセンターが見えてきました。
迎えてくれたのは、この場所を立ち上げる株式会社バウム代表の宇田川裕喜さん。
これまでに何度か日本仕事百貨に掲載をしてきたバウム。
クリエイティブ制作やPR戦略など、様々なコミュニケーション手段で場を生み出し、企業や社会の課題を解決している会社です。
「ここ、もともと印刷工場だったんですよ。今年の8月に24時間で物件の解体、DIYや場のつくり方を体験する“24H場生む”というイベントを開催して。場に興味のある人が集まり、天井を抜いたり、壁をつくっていきました。いまも日々、セルフリノベーションを進めているところなんです。」
スモールビジネスセンターのプロジェクトマネージャーとして、企画から場の運営方法まで、準備を進めるのが萩原菫(すみれ)さん。
学生時代は空間デザインを学びつつ、デザインやイラストの仕事にも取り組んできました。
代表宇田川さん曰く、「どんな難しいことも、諦めないで考え続ける姿勢の人。」
入社2年目ですが、様々なプロジェクトを任されてきました。
今年10月には、延べで12,000人以上が来場したイベント「小屋展示場」を実現したところ。
菫さんは、バウムで働きはじめたきっかけをこう話します。
「デザインは、色々な課題を解決する力だと思うんです。できることはたくさんある。でも社会を見渡すと、大きな企業の商品づくりや広告にばかり使われている。わたしは、自分がデザイナーとして活動するよりも、デザインと色々な人をつなげたいと思ったんです。」
仕事で地方に行く機会が増える中で、こう思ったという。
「『味はおいしいのに、パッケージがちょっと残念なお土産』や『インターネットで販売をしたら、もっと売れそうな特産品』。もうちょっとこうなればいいのにな。そう思うものをよく目にしたんです。」
「せっかく一生懸命作物を育てて、頑張って加工したのに、デザインがその魅力を伝えられていない。残念で。不作の年に備えようと、余った作物から加工品をつくったり、一家の生活がかかっているものもある。どうにかできないかな、と考えていました。」
そんなときに訪れたのが、アメリカ・オレゴン州のポートランド。
約60万人が暮らすこのまちは、全米一住みたい都市として注目を浴び、いまは週に500人が移住しているそうだ。
「アメリカは、車で大型モールに行き買い物するイメージでした。けれど、ポートランドは徒歩や自転車で回れるんです。まちにはかわいかったり、ヘンテコだったり。小さくて、質の高い店が多い。魅力的な商品が多く並ぶのも面白くて。」
たとえば、地元で手摘みされた果物をつかったアイスクリーム専門店。デザイナーや職人を招いたレクチャーも行う工具用品店。
さらに印象的だったことがある。
カード会社のアメリカン・エキスプレス(アメックス)が“Shop Small”(小さいお店で買い物をしよう)を合言葉に展開する「スモール・ビジネス・サタデー」というキャンペーン。
アメリカ国民の約1/3が参加して、小さなお店の売上げも増加。2012年にはじまった取組みは、毎年行われ、次第に文化として定着しつつあるという。
実はアメリカは小さい経済に支えられていることを、実感したという。
「すてきな取り組みだけど、そのままキャンペーンを日本に輸入したいわけではないんです。」
「小さいお店で買うのっていいことだよね。その価値観が支持されているのがいいなと思いました。買い物を通して、店が繁盛して、まちがにぎわっていく。結果として、自分の生活の豊かさにもつながると思います。」
日本を見ると市町村の数は約1,700、農家は約1,500,000軒、中小企業は約4,304,000社。
「日本もスモールビジネスに支えられていると思うんです。小さいビジネスが魅力を活かしつつ、どう強くなっていくか。そんな社会のほうが楽しいし、実現していける仕組みがあったらと思ったんです。」
そこでキーワードとして浮かんだのが、“デザイン”。
「ポートランドでにぎわっている店は、ポスターなどのグラフィックはもちろん。コンセプト、見て楽しませる内装、手に取りたくなる商品パッケージに、販売価格まで。“デザイン”がしっかり組み込まれていたんです。」
その背景には、スモールビジネスとデザイナーが身近なことがあった。
「自分が仕事してまちがよくなるなんてサイコーじゃん?」そんなふうに話すデザイナーたち。加えて、スモールビジネスからデザイナーへ発注する手段も様々ある。
「日本のスモールビジネスとデザインをつなぐ仕組みがあったらいいんじゃないか。そう思って立ち上げるのが、スモールデザインセンターです。」
プロジェクトをはじめるにあたり、ウェブでのサービス展開も考えたけれど、実際に場を持ちたいと考えた。
「お互いにわからないことがあるからこそ、事業者とクリエイターの間をきちんとつなぎたいと思いました。」
「特に事業者の方にとって、クリエイターは遠い存在だと思います。デザインが必要だと思っても、誰にどうやって頼めばよいのか。どのくらいお金がかかるのか。わからないことだらけだと思います。」
もし事業者の方が登録をすると、どのように仕事がはじまるのでしょう。
「まずはクリエイターとの仕事の進め方を説明します。次に、会員登録をしているクリエイターから、好みの人を見つけていきます。わたしたちから、相性の良さそうなデザイナーの提案もすると思います。そうして事業者とクリエイターが出会い、仕事がはじまります。」
事業者の方には、気軽に登録してほしいという。
たとえば農家の方で、直販や加工品をはじめようと思い、デザインを取り入れたい方。また、中小企業でものづくりをしている方。地方自治体や観光協会の方にも気軽に連絡してほしい。
一方クリエイターにも、まずは応募をしてほしいという。ウェブで応募をした後に、ポートフォリオのチェックや面談を経て、登録となる。
ここで代表の宇田川さん。
このプロジェクトは自分のフリーランス時代の思いが原点にあるそう。
「当時よりも、フリーランスになる人は増えました。けれど、仕事のつくり方がわからず、会社員時代の関係から大きな仕事の一部を孫請けすることも少なくない。食べていくことはできても、自分で挑戦できる機会が少ないんです。」
結果として、約9割が3年以内に廃業したり、ふたたび就職する現状がある。
そこで、クリエイターが仕事に出会う機会をつくりたいと考えた。
「短期的に見れば、大企業の仕事に比べて単価が低かったり、中には現金払いが難しくて、報酬が『お米3年分』ということもあるかもしれません。でも、一つの仕事をコンセプトから店頭に並ぶところまで、より幅広く、相手の反応が見える形でデザインしていく。目の前の人の暮らしに自分の仕事が直結する環境で、たしかな実績が生まれることが、自分の未来につながると思います。」
「僕自身、フリーランスで活動していた頃に、金銭的な対価を第一に考えずにやってきたような小さな仕事がたくさんあります。その仕事の一つひとつがかけがえのない経験でした。色々な人に出会い、直接話して、一緒に答えを探して仕事をつくっていく。うまくいけばとっても喜んでもらえるし、相手の状況がみるみる変わってく。その手応えから仕事がどんどん楽しくなりました。」
仕事を形にしていくため、地域で事業をつくっている人や、クリエイターによるメンター制度も導入予定。
幅広いクリエイターが集う場にしたいと考えている。
こんな可能性もあるという。
「たとえば週末を利用して故郷の人たちとプロジェクトをつくりたい人の拠点として使ってみる。平日は会社員の方が、週末にできることを探してみる。そういう人たちにも使ってもらいたいですね。」
スモールデザインセンターは、主にシェアオフィスとして機能する予定。
ふたたび菫さんが、箱崎という土地について話してくれた。
「東京で地方に一番近いまちの一つだと思います。国内線のLCCを利用する人が増える中で、成田空港からバスで一時間足らず。東京駅から電車で10分の立地にありながら、都内有数のエコノミーホテルのメッカ。穴場です。まずは出張のついでに、遊びに来てほしいです。」
成田が近いということは海外にも近い。
「バスターミナルとホテルのおかげか、外国人の方もとても多い。これから世界はどんどん近く、小さくなっていくと思います。その中で、アメリカの人にデザインをお願いしたり、ベトナムでのデザインの仕事を受けることもあるかもしれません。」
最後に菫さんから、事業者の方、そしてクリエイターの方に伝えたいことがあるという。
「挑戦的な試みです。どんな方に来ていただけるか楽しみな一方で、動きはじめると、思いがけないことが次々起きると思っています。」
「でも、大変なことって楽しい。地域の事業者さんもクリエイターさんも。一緒にはじめていけたらうれしいです。」
(2014/11/14 大越はじめ)